1:大好きなお姉さまが婚約破棄されました(2)
そんななかイライザは、十六歳になる年に魔法学園の後期課程一年として入学してきた。後期課程からという中途半端な時期に入学してきたイライザに、最初に声をかけたのはエレノアだ。
だが、イライザからみればエレノアは恐れ多い存在。威圧的に話しかけられれば、怯えたように唇を震わせただけで何も言葉は出てこなかった。
エレノアが話しかけても無視をしたという噂が学園内を駆け巡り、自然と誰もが声をかけなくなって、イライザがいてもいぬ者として扱うようになる。
ところが、一人でぽつんとしているイライザの姿にジェラルドが興味を示す。一国の王子かつ学園の生徒会長という立場もあり、正義感も働いたのだろう。
ジェラルドが声をかけると、彼の優しさに心打たれたイライザは堰を切ったように話し始めた。中途半端な時期からの入学で勉強が大変だ、ほかの生徒からは相手にされない、など。
ジェラルドは婚約者のエレノアに相談するも、エレノアが話しかけてもイライザが無視するためどうしようもないと、ぶっきらぼうに答える。
そんなエレノアが、ジェラルドにはイライザを仲間はずれにしているように見えたようだ。
だからジェラルド本人がイライザの面倒をみ始め、それによってジェラルドの側にいた生徒会役員である男子生徒らも、イライザとの距離を縮めていく。
エレノアはイライザの存在に頭を悩ませていた。なにより、ジェラルドはエレノアの婚約者なのだ。それにも関わらずイライザはジェラルドと二人並んで学園内を歩いている。そこに他の生徒会役員も集まるようになり、イライザは生徒会メンバーを引き連れるようになる。もちろん、イライザの周りに集まるのは男子生徒ばかり。
また不満を募らせるのはエレノアだけではない。生徒会役員を婚約者とする令嬢たちも。
そんな不満はすべてイライザへと向かい、余計にジェラルドたちはイライザをかばうようになる。
そして学園の卒業パーティーでジェラルドはエレノアよりもイライザを選び、エレノアに婚約破棄を突きつけた。さらに追い打ちをかけるように、エレノアがイライザに対してどれだけ酷い仕打ちをしたかを並べ立てていく。
エレノアに助けを求めた令嬢たちはそれを聞き、自分たちも巻き込まれたらたまったものではないとでも思ったのか、エレノアから距離を取った。
エレノアの味方は誰もいなくなった。困ったときはエレノアに救いの手を求め、エレノアが困っているときにはその手を放す。それがエレノアの周りにいた友と思っていた者たち。
卒業パーティーで、エレノアは婚約者と友人を一気に失った。
パーティーの場では現実を受け入れたように見えたエレノアだが、屋敷に戻ってきてからは家族が心配するほど気落ちし、泣き続けた。
しかし、二人の婚約解消に待ったをかけたのは国王だった。それは、言葉ではなく慰謝料に表れたのだ。
国王が提示した婚約解消における慰謝料。すなわち、婚約解消をするのであれば、王家から出せる慰謝料はこれくらいだと。
それを見てケアード公爵は驚愕する。慰謝料は最低金額、さらに与えられる領地は王家でも大した収入にならずもてあましている場所。
ただでさえ婚約解消を突きつけられ、気持ちが沈んでいるケアード公爵家にとってはひどい仕打ちだ。
ケアード公爵は、すぐさま国王に謁見を申し入れた。むしろこれが国王の狙いであった。
直接、ケアード公爵と交渉する場を持つこと。
その交渉の結果、ジェラルドとエレノアの婚約は解消されず、続くこととなった。
国王と王妃はエレノアの味方だった。エレノアであればジェラルドを支える堅妃となるだろう。
それに国王と王妃はイライザを認めてはいなかった。ただの男爵家の娘。元をたどれば商家の娘で、由緒ある魔法貴族の者ではないと、どこか蔑んでもいた。
エレノアは自分を信じてくれた国王と王妃の期待に応えるように王太子妃教育に励み、いつかはジェラルドの気持ちが戻ってくるものだと信じていた。信じていたのに――。
ある日、突然、イライザに聖属性の力が認められた。
そうなれば国王も王妃もころっと手のひらを返して、イライザを王太子妃にと望むようになった。エレノアとジェラルドの婚約はあっけなく解消され、エレノアは公爵邸へと戻る。
ジェラルドだけでなく、国王と王妃にも裏切られた。
心の傷を深く負ったエレノアは、イライザの聖属性の魔法に対抗するため、禁忌と言われている暗黒魔法に手を出してしまう。暗黒魔法は使い手の精神を糧として、発動するもの。
日に日に暗黒魔法に呑まれていくエレノアは、その魔法を使ってイライザがいる王太子宮に侵入し、彼女の殺害を企む。
しかし、すんでのところでジェラルドが現れ、イライザを助け出しエレノアを捕らえる。
王太子妃、まして聖女を殺そうとしたエレノアは斬首刑によってその首をはねられ、生涯を閉じるのだった。