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3:大好きなお姉さまに新しい出会いがありました(2)

 セシリアがベルを鳴らせば、アニーがやってきた。


「おはようございます、セシリア様」

「おはよう、アニー。顔を洗いたいのだけれど……でも、怖い夢をみて汗もかいちゃったの」

「では、身体をお拭きしてから着替えましょう」


 アニーの言葉で気持ちが凪ぎ、怖い夢はどこかに飛んでいった。


 身体を拭いてもらい、エプロンワンピースに着替える。ここに来てからは動きやすいこのワンピースがお気に入りなのだ。エレノアも同じように動きやすい格好をしており、たまに腕まくりなんてしているときもある。


 以前のエレノアは凜としていて美しかったが、フェルトンの代表代理として動く彼女は逞しくてかっこいい。


「アニー。朝のお散歩に行きます。お姉さまは?」

「はい、エントランスお待ちです」


 セシリアは朝食前にエレノアと散歩をする。それはさとうきびの様子を見に行くというのも兼ねて。


 散歩ついでに今日の天気だったり、土の状態だったりを確認し、さらに精霊からの報告によって総合的に判断したうえで、どこのさとうきびを刈り取るか、エレノアがみんなに指示を出す。


「今日は天気がよいわね。ずっと曇りが続いていたから、気持ちがいいわ」


 エレノアが言ったように、ここ数日、暗い空が続いていた。雨が降ったりやんだりを繰り返し、さとうきびの刈り取りもなかなかできなかった。さとうきびは、刈り取ってから十日ほどは冷暗所で保管しておけるため、刈り取りができないときは、さとうきびを絞ったり煮詰めたりと、他の作業に従事してもらう。


「今日は、さとうきびがとれそうですか?」


 セシリアが尋ねると、エレノアは少し遠くを見つめる。そしてくすりと笑って頷いた。


「えぇ、今日はたくさんさとうきびをとっても問題ないそうよ。また、いつ天気が悪くなるかわからないから、とれるだけとっておきましょう。加工は雨の日でもできるから」


 さとうきびから砂糖への加工作業は教会で行っているが、そろそろそちらも手狭になりつつあった。そのためオリバーが教会近くの他の場所に、専用の工場を作るために動いている。領地に戻ってすぐに職人を手配してくれたため、あと一か月もすれば、砂糖作り専用の工場ができあがる予定だ。


 それがセシリアの今の楽しみでもあった。


 さらに職人たちは、砂糖作りをもっと楽にする魔法具の制作にもとりかかっている。早ければ工場ができあがる頃、魔法具も完成しているだろう。


「……あっ。お姉さま!」


 セシリアが急に大きな声をあげた。


「道の上に何かが落ちてます」


 さとうきび畑へと続く道の上に、何やら黒っぽい塊を見つけた。それは、セシリアよりも大きいものかもしれない。


「あら、本当。何かしら……あれ。大きいわよね?」


 大きさから推測するに、誰かがぽろっと荷物を落としたとか、そういったものではない。


「道のど真ん中に落ちていたら、危険ね。これからさとうきびを運ぶための荷車だって行き来するのだから」


 エレノアの言うとおりだ。あれでは通行の妨げとなってしまう。


「とりあえず荷物を確認して……誰かに頼んで荷車を持ってきてもらいましょう」


 エレノアとセシリアは、恐る恐る大きな荷物に近づいた。


「あ、お姉さま」


 近づいてわかった。大きな黒い塊は荷物なんかではない。黒い服を身につけている人間。


「お姉さま。人です、人が倒れています」

「えぇ……そうね……」


 どうしたものかと、エレノアも悩んでいる様子。だが、すぐに散歩に付き添っていたアニーに声をかける。


「アニー。悪いけれど、急いで屋敷に戻って人を呼んできてちょうだい。それから荷車も」

「はい」


 ビシッと返事をしたアニーは、今来た道を領主館に向かって走って戻っていく。


「お姉さま……この人、生きていますよね?」


 それが心配だったし、万が一のことを想像したら怖かった。


「ええ、生きているわ。呼吸もしっかりとしているし、脈もあるもの」


 いつの間にかエレノアは、倒れている人の手首に触れ、脈を確認していた。


「男の人ですか? 女の人ですか?」


 セシリアはつい、そう尋ねていた。なぜそんなことを確認したかもわからない。


「見た感じ……女の人ね。髪も長いし、体付きも全体的に丸みを帯びているし……」


 女性と思われる人間は、うつ伏せになって倒れている。まさしく行き倒れと表現したくなるような、そんな倒れ方だ。腰までの長い髪は結わえることなく広がっていた。


「あの~、大丈夫ですか?」


 頭を打っていたら大変だ。むやみに身体を揺するのは危険。だから、セシリアは声をかけた。


「どこか、体調が悪いですか? 起きていますか?」


 セシリアの言葉に反応して、指がピクッと動いた。


「あ、お姉さま。動きました。この人、動きましたよ」


 するとまた、その言葉に返事をするかのように、ピクピクっと身体が動いた。


「どうされましたか? どこか身体の具合が悪いのでしょうか? 身体をぶつけているところはありませんか?」


 エレノアも声をかけると、うつ伏せに倒れていた女性が、むくりと起きた。長い黒髪が顔を覆ってしまい、その表情はよくわからない。


「……お嬢さんたちは、この街の人?」


 はっきりとした口調で、女性はそう尋ねてきた。


「はい、そうです。どうされました?」


 女性の顔をのぞき込むようにして尋ねるエレノアの手を、彼女はがしっと両手で掴んだ。


「お腹……空いた……。何か、食べ物を……」


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