表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/57

3:大好きなお姉さまに新しい出会いがありました(1)

『こどいや』の世界は、近世ヨーロッパのようであって、正確にはそうではない。


 電気はない。明かりはろうそくやオイルランプを用いるのが一般的。しかし、そこに魔石を用いた魔法具と呼ばれるものが追加されるため、魔法ランプも使われる。


 魔法具の開発や製造が許可されているのも魔法貴族だけだが、魔法貴族が責任者となれば、そうでない者も開発や製造にも関われる。


 また、水は井戸水を用いるか、川の水を引いてきて使用するが、その川の水も魔石によって浄化される。

 排水については垂れ流しだ。一部、配管を使用しているところもあるが、基本的には下水は整備されていない。だから、貧しいところでは不衛生であり悪臭が漂う場所もある。


 フェルトンの街も下水は整備されていないが、前任の代表がそういったところには敏感だったようで、魔石によってにおいを抑えていた。


 なお食生活において、主に使われている調味料は塩や胡椒など。味付けはそれらを用いて、魚介類や野菜、肉などのうま味を引き出す。そしてもちろん、味噌や醤油はない。

 紅茶がよく飲まれており、コーヒーという名前は知られていないが、知らぬうちに口に入れている。だからコーヒー豆は存在する。お酒は果物を用いたものが多い。


 他にもいろいろあるが、とにかくそれが『こどいや』の基本的な世界観である。


 そして、その世界をよりよくするために、聖女イライザと王太子ジェラルドが愛を育みながら、国を変えていこうとする。それがこの物語なのだ。


 ――わたくしも、イライザ様にはお声がけをしたのよ? だけど、話しかけてほしくないような雰囲気を醸し出されたら、ねぇ?


 エレノアがそんなことを言っていた。


 ――他の方もイライザ様を気にされていたわ。やはり、後期課程からの入学でしょう? みんな、気にはしていたの。その気持ちがうまく伝わらなかったのかもしれないわね。もう話しかけないで、と言われた子もいるらしいのよ。


 さすがにエレノアがそう言われたわけではないようだが、そんな話を耳にしたら、誰だってイライザから離れていくだろう。


 ――ジェラルド殿下は生徒会長だったでしょう? それでイライザ様を気にされていたみたいで。わたくしも相談されたの。でも、当の本人がわたくしたちと関わりたくないような態度だったら、歩み寄れないわよね?


 エレノアが寄り添えば、相手が逃げる。また一歩近づけば、一歩退く。となれば、お互いの距離は縮まらない。


 ――だからジェラルド殿下が直接声をかけられたみたいなの。まぁ、その後は……。


 思い出したくもないとでも言うかのようにエレノアは首を振った。


(え? これって、ジェラルド様がまんまとイライザ様の思惑にはまってしまったのでは――?)


 はっとしてセシリアは目を開ける。室内はだいぶ明るく、チュチュチュと小鳥のさえずりが聞こえる。


 変な夢をみたような気がする。喉はからからに渇いていて、寝間着が肌に張り付いて気持ち悪い。


 セシリアがフェルトンの街にやってきて二か月が過ぎた。


 教会の子どもたちと一緒に砂糖作りをした後、その砂糖をボリスに食べてもらったら、蕩けるような顔をして喜んだ。そしてすぐに商会のメンバーたちと顔を合わせる日が決まった。


 フェルトンの街の代表になったのがケアード公爵のオリバー。しかし、代表代理としてエレノアがこの街をまとめる。だから今後はエレノアに従うようにと公爵が説明した。


 だが、いくら公爵からの指示であったとしても、エレノアは十八歳の成人を迎えたばかりの女性だ。彼らは「こんな小娘に」という不躾な視線を投げてきた。


 そこでエレノアが街のはじっこに生えていた草のような植物「さとうきび」を使った事業について説明し、さらにそれから作った砂糖を食べてもらったところ、手のひらをころっと返してきた。


 いや、商会長のボリスやドイル神父の後押しもあったのだ。


 そこからさとうきびを使った事業について踏み込んだ計画を説明すると、仕事を探している者を紹介したいと、誰かが言った。


 もちろんエレノアはそれを受け入れる。ただし条件をつけるのだ。

 本人がどれだけ稼ぎたいのか、どれだけ働けるのか。これが明確になっている者を雇うと。


 目的がはっきりとしている者は、途中で仕事を投げ出さない。辞めるときはその目標が達成されたとき、もしくは生活が大きく変化したとき。


 エレノアの話を聞いて、彼らはさらに彼女を信頼する。


 それでもいきなり大量の砂糖作りはできない。その準備期間が必要であり、それまでの間は作業に慣れるために手作業で行い、砂糖そのものをフェルトンの街に広める協力をしてもらいたい。


 むしろ商会の彼らのほうが「砂糖が欲しい」と言い出す状況。それだけ砂糖の甘さは衝撃的だった。


 こうやって「さとうきび」を使った事業は、フェルトンの商会にも認められた。

 それからしばらくして、ケアード公爵夫妻は領地にある本邸へと戻った。それは、砂糖作りに必要な道具を職人に作らせるためでもある。


 そしてこの街に残されたのは、代表代理のエレノアと幼いセシリア。さらに彼女らを守る使用人たち。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ