2:大好きなお姉さまとひきこもります(11)
次の日は予定どおりに教会へと向かった。教会の建物も雨風しのげる程度といった感じで、年配の神父とその妻、ドイル夫婦が管理しているようだ。この夫婦も、昔から教会の管理を行っていたわけではなく、前任がいなくなったから当時の街の代表から「どうだ?」と言われて継いだだけとのこと。二人は子どもに恵まれなかったため、それも引き受けた理由だったとドイルは言った。
当時は寄付金やらなんやらと手をかけてくれたものの、代表が代わればそういった援助も少なくされ、今ではなんとか必要最小限といった形だ。
他の人からの善意による寄付などもあるが、街全体として豊かではないため、その寄付にも限度はある。
教会の現状をドイル夫妻から話を聞いたケアード公爵は、今後はフェルトンの街もケアード領となったため、他と同じように援助をすると約束する。
そうやってケアード公爵が神父夫妻と話をしている間、エレノアとセシリアは子どもたちを集めていた。
姉妹は今日もおそろいの町娘風ファッション。落ち着いたキャラメル色のエプロンワンピース姿である。
教会で暮らしている子どもたちは二十人ほどいるようだ。まだ歩くこともできない赤ん坊から、上は成人を目前とした十七歳まで。
この部屋は子どもたちが食事をするときに使う場所。食事をしないときは、勉強したり本を読んだり繕い物をしたりと、とにかく子どもたちが集まる部屋らしい。
エレノアが子どもたちにわかりやすく、フェルトンの街がケアード公爵領になったことを伝える。そのため、教会の運営に、これからはケアード公爵家で援助していく。
だけど、働かざる者食うべからず。援助があるからといって、怠けてはならない。
そこで、ケアード公爵領の事業の一つを手伝ってもらいたいと口にする。
「みなさんには、砂糖を作ってもらいたいと思います」
エレノアの言葉に子どもたちも「さとう?」と首をひねる。
「砂糖はとっても甘い調味料です。この砂糖があれば、みんなが食べているお菓子も、もっともっと甘くなります」
お菓子と聞いただけで子どもたちは「わ~」と嬉しそうに声をあげる。
「それでは砂糖の作り方と、みんなに手伝ってもらいたいお仕事を説明します」
エレノアの言葉に、教会の子どもたちも興味津々。きっと「甘い」「お菓子」という言葉が彼らの心を掴んでいるのだろう。話を聞き終えた子どもたちに、エレノアはさとうきびを子どもたちに渡す。つまり、味見だ。
「さっきも言ったように、さとうきびの汁は甘いです。甘いからって白いところを噛みちぎって食べてはダメですよ。噛んで甘い汁を吸うだけです」
セシリアもケビンと一緒に子どもたちにさとうきびを手渡した。これほどの子どもたちを目にするのは、新鮮だった。特に同じような年頃の子は、仲良くできるかなと気になってしまう。
エレノアがさとうきびを食べてみせると、子どもたちも真似をする。そしてすぐに「あま~い」「おいしい」と言った声があがる。
「この状態では料理には使えませんから。汁を取り出してぐつぐつと煮詰めて固めます。それがみなさんにやってもらいたいことです」
早速、刃物を使える子どもたちは、エレノアの教えに従って外皮を剥きはじめた。今日は、さとうきびの外皮を剥いてから細かく切り、それをぎゅっと絞って汁を集める。刃物がまだ使えない子どもたちは、汁を絞る役で、皮が剥かれて白い繊維が出てくる様子を興味深く見つめている。
そうやってみんなでわいわいと作業をしていると、手持ち無沙汰になった男の子がセシリアのところに近づいてきた。
「おい」
見たところ、同じくらいの年だろう。
「おまえ、年はいくつだ?」
「こら。マイク。お嬢様になんて言葉を!」
慌てて駆けつけてきたのは、この中では一番年上の女性のキャシーだ。まだ歩くことのできないエミリーをおんぶしている。
「す、すみません。お嬢様。マイクが失礼な態度を……」
教会で暮らす子どもたちとセシリアたちの間には見えない壁が存在している。気にしないでと言いたいところだが、それはその壁を壊すような行為となる。
「目上の人に対する言葉遣い、きちんと学んだほうがいいですよ」
「う、うるせ~」
顔を真っ赤にしたマイクは、セシリアのスカートをべろんとめくって逃げていった。
「あ、マイク。待ちなさい」
逃げたマイクをキャシーが追いかける。
あまりにも一瞬の出来事で、セシリアが呆けていたら「気にしてはいけないわ」とエレノアが声をかけてきた。
「だけど、セシリアの言うとおりね。あの子たちに必要なのは仕事もそうだけど、教養もだわ。だから三食昼寝付きは撤回。三食昼寝、勉強付きにしてもらうわね」
楽しみね、とエレノアは子どもたちの将来に期待を寄せているようだが、それよりもセシリアはスカートをめくられたことがショックだった。
(スカートめくりだなんて、ガキんちょのすること)
謎の記憶が励ましてくれたような気がする。




