第四十七話
異世界融合 ……龍脈の暴走
その日、世界は静かに、しかし確実に変わった。
誰も気づかぬうちに、地球の理が“もうひとつの世界”と交わり始めていたのだ。
異世界の大地を循環するエネルギー……「龍脈」。それは生命と魔力を司る流れであり、世界の根幹を支える存在とされていた。だが、ある時その龍脈が暴走を起こした。暴走の原因は今も不明。それはかつて英雄が封印した龍王の怒りとも言われている。
そしてその“暴走”が、時空の壁を越えた。
結果として、異世界と現実世界の一部が入れ替わる……いわゆる「世界置換現象」が発生したのである。
最初に異変が確認されたのは日本の富士山麓。地質学的に存在しないはずの巨大な地下空洞が突如として現れた。探査チームが潜入したところ、そこには見たこともない鉱石、そして未知の生物が蠢いていた。後にそれは「魔物」と呼ばれるようになる。
その出現は日本だけに留まらず、アマゾン、サハラ、ヒマラヤなど、世界各地で同様の“入れ替わり”が発生。地球のあらゆる場所に“異世界の断片”が落とされたかのようだった。
当初、人々はそれを自然現象や地盤変動と信じた。だがやがて、観光客や調査隊が行方不明になる事件が続発する。中には救助隊までも消息を絶った。捜索にあたった自衛隊員の報告には、牙を持つ人や豚の化け物の姿が記されている。
――それが「ダンジョン」の始まりだった。
混乱の最中、世界を震撼させるニュースが流れる。
先日、突如行方不明となり世間を賑わせた高校生たちが、富士の樹海ダンジョン入口付近で無傷のまま発見されたのだ。彼らは驚くほど健康で、異様に冷静だった。そして語った――「自分たちは異世界に召喚されていた」と。
最初、誰も信じなかった。
だが、彼らが語る“魔法”“モンスター”“スキル”といった概念は、ダンジョン内部で観測された現象と一致していた。さらに彼らが持ち帰った武具や素材は、地球上のどの元素にも該当しない構造を示した。
こうして、異世界と現実世界が確かに“繋がってしまった”という事実が明らかとなる。
やがて、さらなる発見がなされた。
十五歳以上の人間がダンジョンに足を踏み入れると、“職業”と“固有スキル”が自動的に付与されるというのだ。覚醒者と呼ばれる人々は、身体能力や知覚力を飛躍的に向上させ、まるで異世界の住人のような力を得た。
この現象は「覚醒」と呼ばれ、人々の興味と恐怖を一気に掻き立てた。
最初にダンジョンに挑んだのは、軍や研究機関ではなく……民間人だった。
財宝、名誉、未知への好奇心。動画配信やSNSには、命知らずな“ダンジョン探索者”たちの映像が溢れた。だがその多くは消息を絶ち、映像は途中で途切れる。そこに映るのは、暗闇の中から迫る何かの咆哮。
やがて各国は一斉に警告を発した。「無許可でのダンジョン侵入を禁ず」。
しかし、時すでに遅かった。世界中で覚醒者が生まれ、ダンジョン資源を巡る争奪が始まっていたのだ。
戦争ではなく、冒険と災厄が混在する新たな時代……“ダンジョン時代”の幕開けである。
各国政府は国際連合のもとに「世界共通ダンジョン管理機構(WDA:World Dungeon Agency)」を設立。
その目的は、ダンジョンの監視と封鎖、覚醒者の登録、そして異世界由来の技術の解析であった。
世界はすでに、ひとつではない。
現実と異世界、二つの世界は同じ座標で重なり合い、ゆっくりと境界を失いつつある。
地球の地下深くを走る龍脈は、今も微かに脈動を続けている。
それが再び暴走すれば、どちらの世界が“現実”であるかさえ、誰にも分からなくなるだろう。
だが……この混乱と変革の時代にこそ、ひとりの“異端”が現れる。
運命に選ばれたわけではない。ただ、生き延びようとしただけの人間。
けれど彼の一歩が、やがて二つの世界の均衡を揺るがすことになる。
これは、その者がまだ知らぬ物語。
誰もが恐れ、誰もが望んだ新しい時代の夜明けに――
彼が目を覚ます、その瞬間を、世界は静かに待っている。




