2,絶望と再出発
凪は思い出した。
あの日、家族みんなが寝静まった深夜に計画を実行した。
大量の錠剤を一気に口に押し込め嗚咽しそうになるのを堪えて飲み込んだ。
それを何度も何度も繰り返しているうちに頭の中が空っぽになるような不思議な感覚に襲われ気がつけばそのまま眠りについていた。
あれから意識を失い2週間が経っていた。
(___ああ、死ねなかったんだ…)
今はもうすべてがどうでも良く思えた。大量に飲んだ薬の副作用だろうか、頭と体がすごく重い。虚無感だけが残っていた。
しばらく横たわっていると母親がお見舞いに来た。
「___…凪!!」
慌てた様子で私の名前を呼んだ。私の意識が正常に戻ったと聞いてすぐに駆けつけてきたようだ。
私は多少の罪悪感で何を喋れば良いのか分からず中々口を開けないでいた。
母と2人だけで面と向かって話す事は久しぶりで、そのせいもあるだろう。 母は座ってしばらく黙っているので気まずい時間が流れていった。
「____ママすごく心配したんだからね」
母が私にそう言った。
それはそうだろう。娘が死にそうになって心配しない親などいない。
母:「…もうこんな事しないで。」
凪:「___ごめんね。もう絶対しない。大丈夫だから」
平気そうなふりをしてそう答えた。
母:「良かった。これ凪が欲しいって言ってた漫画、ここに置いておくからね。」
凪:「やった!これ読みたかったやつ!!」
元気が出たふりをして喜んだ。
母:「じゃあね、また来るから。他に欲しいものあったら言ってね。」
母は漫画を置いて病室を後にした。
来た時よりも母の表情は柔らかく、安堵していた。
(___はぁぁ…)
私の苦しみは消えなかった。
いつもこうだ。
自分の感情に蓋をして相手が喜ぶ言葉を喋り、相手の求める選択をとってしまう。
その方が楽だからだろうか。違う、本当は自分の心の内を知られるのが怖かったんだ。
いつしか自分というものを見失っていた。
自分に嘘をついた分、見える景色全てから色が失われて行く。暗くて苦しい息のできない世界だった。
早くこの苦しい世界から抜け出したかった。
___死に損ない…
小さくそう呟くと涙が出てきた。
死んでもどうにもならない事など分かっている。
情けない気持ちと言葉に表せない感情が渦を巻き、自分の非力さを噛み締めた。
あれから、色んな検査を受けた。
「……どこにも異常はないですね。奇跡的です。」
先生が不思議そうに言った。無理もないだろう。
致死量の薬を飲んで普通なら死んでいたのにも関わらず、どこにも後遺症が残らなかったのだ。
先生が言うには一生動けない体になってもおかしくなかった。それなのに今ここにいる私はぴんぴんしている。
私の体が丈夫すぎるのだろうか、それとも神に生かされたのか。 私は神など信じていないがもしも神様がいるとしたら皮肉にも『生きろ』そう言われているように感じた。
____自分はこれからも当たり前に生きて行くんだな。
私の中で覚悟のようなものが生まれた。