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1. 堅物硬派な騎士団長は、ゆるふわ癒し系薬師に癒やされたい

 俺達の住んでいる国の境界では、必ずと言っていいほど、黒い魔物がやって来る。

 それらを毎回倒して、国全体を平和にしているのが、我ら騎士団の務めである。


「おい、そこの二人!いつまで休憩してるんだ!もう休憩時間五分過ぎたぞ!そんなんで、すぐに溢れ出る魔物を倒せると思ってるのか!」

「「は、はいぃ!も、申し訳ありません!今すぐ対面訓練再開しますぅ!」」

「ああ。終わったら、回復ポーションのご褒美があるからな。気を引き締めて行え!」

「「はい、ガイアス騎士団長!」」


 …はぁ、本当に軟弱な騎士団メンバーだ。

 でも、あいつらも本番となると強いからな。決して腕は悪くはないが、今以上に強くなって、素早く魔物を倒して貰わないと、手遅れになる可能性も考えられる。


 とにかく、この国の騎士団長である俺、ガイアス・ハルトマンは、短く切り過ぎた紺色の前髪を上に掻き上げて、対面訓練を行う騎士団メンバーを順々に見た。

 時には厳しく、正義とは何かを説き、訓練や討伐を完遂したメンバーにはご褒美も欠かさない。

 そうやって、俺はこの騎士団をより強くし、尚且つ俺も自主練や対面演出を行なって自分自身をも高めてきた。


 そんな俺につけられた肩書きは、『堅物硬派な騎士団長』

 うむ。悪口のようなあだ名をつけられるより、遥かにこの肩書きは悪くない。


 けれど、そんな堅物硬派な俺でも、癒しは欲しい。

 だから今日も俺は、訓練後に空のポーション瓶をかき集めて、縦横にしきりのついた白い箱に詰め、王都に出向く。

 向かう先は、王都の片隅にひっそりと店を構える薬屋『メゾン・ド・レプリーズ』。

 そこの店主、マリアナ・レプリーズと逢うのが、今の俺の癒しとなっている。


「すみません。マリアナさん、いらっしゃいますか?」


 俺は薬屋の扉を開けて、マリアナさんの名前を呼びながら、ゆっくりと中に入る。

 すると、店の奥からクラシックメイドの格好をしたマリアナさんが、「はいは〜い」と言いながら、パタパタと走ってやってきた。


「あら〜。こんにちは〜、騎士団長さん。今日もポーションの補充ですか〜」

「はい。こちらがポーションの空瓶四十本です。今日も同じく四十本おねがいします」

「は〜い。今日来るだろうなって思って、既に作ってありますよ〜。ちょ〜っと待っててくださいね〜」


 そう言いながら、マリアナさんはニコニコ笑顔のまま店の奥に消えていった。


 あぁ、本当にマリアナさんはゆるふわで可愛い。そして、いい身体をしているなぁ。

 豊満な胸に、綺麗なくびれ、そして、ボリュームのある臀部。

 男のロマンが詰まった魅力的なボディに、俺はつい見惚れたが、ハッと我に帰って顔を横に振った。

 いかんいかん!俺は堅物硬派な騎士団長だ!色気に当てられている所を部下に見られたら、きっと『色ボケ変態騎士団長』と呼ばれかねない!


 そして、待つ事数分。ようやく現れたマリアナさんは、俺が持っている箱と同じものを持って、目の前にやって来た。


「は〜い、これがポーション四十本です〜。お会計は、まとめて月末でいいですよね〜?」

「はい。請求書をまとめて騎士団に送って頂ければ、すぐに対応しますので」

「ふふっ。さすが、しっかりとした騎士団長さんですね〜。毎回ありがとうございます〜。あ、そうですそうです〜!そういえば、騎士団長さんに渡したいものがありまして〜」

「ほう?渡したいものとは?」

「はい〜。ちょっと待ってて下さいね〜?」


 マリアナさんは、明るい笑顔を浮かべながら店の奥に向かい、そしてすぐに帰って来て、俺にあるものを渡した。


「実はこれを、騎士団長さんに渡したくって〜。試薬ではあるんですけど、全ての身体能力を上げるポーションです〜」

「へー。で、ですがこれ、なんだか不気味なんですが…」


 そう。マリアナさんから渡されたものは、気味の悪い紫の液体が入ったポーションの瓶だったのだ。

 彼女の作った回復ポーションが、痛み以外の全ての傷を治す透明な液体であるのは知ってはいるが、流石にこれは飲むのに抵抗があるなぁ。


 俺は冷や汗をかきながら、その気味が悪いポーションを見つめる。

 すると、マリアナさんは優しい声でこのポーションの事を話し始めた。


「このポーション、実はまだ一つしか作ってないんです〜。そして騎士団長さんのためにと、作ったものでもあるんですよ〜?なので、このポーションは、誰にも気付かれないよう肌身離さず、そしてピンチになった時に飲んで下さいね〜」

「お、俺のため…そして、ピンチになった時に飲むもの、か」


 そう言われると、なんだか俺がマリアナさんの特別になったかのような錯覚を覚えてしまう。

 本当はこのまま彼女に告白して、俺の恋人になって欲しい。けれど、もっと強くなって魔物が完全に消えるまでは告白なんて出来ない。

 だから、俺は首を横に軽く振ってから、紫の液体が入ったポーションをしっかり懐に入れ、新しい回復ポーションが入った箱を持ち上げた。


「では、俺はこの回復ポーションを持って騎士団に戻りますね。また次回も来ます」

「はい〜。いつまでもずっと、お待ちしております〜」


 そして、俺は回復ポーションを運びながら薬屋を出て、騎士団の駐屯地に歩いて向かったのだった。


 だが、まさかこの日が王都でマリアナさんと出逢う最後の日になるとは、全く思ってもいなかったのであった。


 ー数日後ー

「な、なんだこりゃああああ!マリアナさんの薬屋が一軒丸ごと無くなってる!しかも、なんでその土地に大木が植えてあるんだ!?」

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