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あやかしの薬屋へようこそ  作者: 相楽未音
第四章 薫衣草とカミツレ(ラベンダーとカモミール)
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深窓の姫君と呼ばれて―桜花視点―

今日の礼儀作法と御祖父様の講義を終えて書庫に向かう途中、知らない人の声が聞こえた。


「案外、何も出来ないのかもしれないわよ?だから隠されているんじゃないのかしら?」


これは私の話だと分かった瞬間足がくすんでしまった。ここから離れなければならないのに足が言うことを聞かない…

そんな時侍女頭さんの声が聞こえてきた。


「孫姫様は何も出来ない訳では無いですよ?薬師として人界で1人で暮らしているんです。確かに里の事は疎いかもしれませんが、根も葉もない噂をするもんじゃありません。」


侍女頭さんの声で我に返った。

早く、早くここから離れないと…


「孫姫様…」


侍女頭さんの声が後ろからした。振り返ると侍女頭さんがそこに立っていた。


「孫姫様。どうか気にしないでください。」


「いいえ。私が里の事に疎い事は事実です。言われても仕方ない事です…」


そう。私が何も出来ないのは事実だ。薬を作ること以外は何も出来ない…

そんな事を考えていたら


「そんな事ありません。孫姫様は柊真様の為に書庫に行っているのを私は知っております。そんなに自分を悪く言わないでください。孫姫様が努力してる事を私は知っております。私だけではありません。長様も鋼牙様も桃花様も分かっていらっしゃいます。」


そんな事を言われたのは初めてだった…

ほんの少ししか話した事のない侍女頭さんが分かってくれていた…それが嬉しかった。

努力している事を御祖父様や父様、母様以外の人が知っている事を驚いたが、それ以上に嬉しかった。


「ありがとうございます。」


これを言うのが精一杯だった。

侍女頭さんに離れの入り口まで送ってもらって部屋に入る。持っていた書物を文机に置いた。

侍女頭さんはああ言ってくれたけど、里の事について何も知らないのは事実だ。もっと勉強しないと…そう思っても頭に入ってこない…歴史も礼儀作法も復習しないといけないのに…


「桜花ちゃん。今いいかしら?」


母様の声がした。


「どうぞ。」


「お義父様に聞いたわ。気にしなくていいわよって言いたいけど、桜花ちゃんは気にしちゃうわよね。お茶を持ってきたから少しお茶にしましょう。」


母様はそう言ってお茶の準備をし始めた。


「私も嫁いできた時は言われたものよ~」


「母様がですか?」


「ええ。落ち込んだ時もあったわ。今の桜花ちゃんみたいにね。そんな時はお義母様がこうやってお茶をいれてくれたわ。」


「そうなのですか?」


私は会ったことのない御祖母様。御祖母様は里にはいない。遠いところに行ってしまったとは聞いている。


「そうよ。こうやって慰めてくれたものよ。桜花ちゃん。貴女が頑張っている事は知っているわ。でもね、周りに言われたからって無茶をしても良い成果は出ないわよ。」


確かにそうだ。今日は予習も復習も出来ていない。


「辛かったら泣いてもいいのよ。泣き顔を見られたくなかったら湯浴みをすればいいわ。今日は部屋に夕餉を持ってきてあげるわ。」


「はい…母様…」


今日はこの部屋で1人で過ごしても良いと言われてホッとした。今は誰にも会いたくない。

母様が部屋から出ていってから直ぐに湯浴みをする。今日は蓮の花の入浴剤にしよう。

そして湯の中で泣いてしまおう。

そう決めて湯浴みを始める。


溶けていく蓮の花を眺めながら静かに涙を流した。

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