深窓の姫君―侍女頭視点―
数日前に長様の孫娘様が里に帰ってきた。
生まれも育ちも人界という異質の孫姫様。
初日にしかお会いしたことは無いが、里の事に一切触れずに育ってきた事は分かった。
御屋敷でも一番厳重な離れに滞在されているので、私達は中々お会いする機会もない。
お会い出来るのは、書庫に行かれる時か夕餉の時のみ。朝餉は桃花様ご自身でご用意するので、私達に出番はない。
「孫姫様って何してるんだろうねぇ」
「御屋敷でも限られた場所でしか見られないもんね。」
「初日の宴でもあまり話さなかったもんねぇ」
侍女や女中達が噂をしている。
「勉強が出来ないから隠されているのかしら?」
「勉強が出来なければ書庫には行かないでしょ」
「それもそうか。じゃあ我儘なのかしらね?」
「我儘だったら私達が暇してる事もないでしょ」
「孫姫様って本当に謎よね。」
「案外、何も出来ないのかもしれないわよ?だから隠されているんじゃないのかしら?」
そろそろ止めないと…と思っていたら、人影が見えた。孫姫様だ…
「貴女達。そろそろやめなさい!聞かれて困るのは貴女達よ?」
「侍女頭様…!」
「孫姫様は何も出来ない訳では無いですよ?薬師として人界で1人で暮らしているんです。確かに里の事は疎いかもしれませんが、根も葉もない噂をするもんじゃありません。」
「す…すみません」
「孫姫様のお心を傷付けた事は長様に話しておきます。」
私は侍女や女中にそう言って孫姫様の後を追う。
「孫姫様。どうか気にしないでください。」
「いいえ。私が里の事に疎い事は事実です。言われても仕方ない事です…」
孫姫様は毅然とした態度だが、声は震えていた。
「そんな事ありません。孫姫様は柊真様の為に書庫に行っているのを私は知っております。そんなに自分を悪く言わないでください。孫姫様が努力してる事を私は知っております。私だけではありません。長様も鋼牙様も桃花様も分かっていらっしゃいます。」
私は精一杯孫姫様が頑張っている事、それを理解している人がいる事を話した。
「ありがとうございます…」
深窓の姫君と呼ばれている孫姫様。
勉強が出来ないわけでも礼儀作法が出来ない訳ではなく、純粋に里の事を知らないだけなのだ。長様や鋼牙様、桃花様以外にも理解している者がいる事を孫姫様に知って欲しかった。
そう思ったらあの者たちの処遇を長様に報告しないと。孫姫様を離れの前に送ってから私は長様の部屋に向かった。
―――――――長様の部屋にて――――――
「こんな事がございました。」
「報告ご苦労。その者達には暇をだそう。」
「仰せのままに。」
「うむ。孫娘を侮辱した事は我が一族を侮辱したに等しいからの。それにしてもそなたは桜花が努力しているのを見抜いていたか。」
「何年ここに務めていると思っているんですか。全てに気を巡らせるのが侍女頭の勤めでございます。」
「そうだったな。これからもそなたの力を存分に発揮してくれ。」
「この御屋敷を護るのが私の勤めでございますから。」
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