里での夕餉
母様に呼ばれて、部屋を移動する。
「今日は宴になるわ。鋼牙さんと桜花ちゃんの帰省を祝うってお義父様張り切ってましたから。」
クスクス笑いながら話す母様。宴なんて聞いてないんですが?
「長様の孫娘と息子が帰ってきたのですから、お祭り騒ぎになるのは当然でしょ?だからといって桜花ちゃんは最後まで居なくて大丈夫よ?」
「はい…」
御祖父様はこの里の長様なんだよね。私もここではそこそこの地位に居るのをすっかり忘れていた。なんせ、人界での生活が長いから里での立場とか忘れちゃうんだよね。宴のご飯は気になるけど立場があるからゆっくり食べられるかな…
そんな事を思いながら広間まで母様と一緒に行った。
「遅くなりました。桃花、桜花、ただいま戻りました。」
「うむ。入れ。」
「失礼致します。」
そう言って広間に入る。広間には親族縁者の方々がいっぱいいた。
私と母様が席に着くと御祖父様が発言する。
「皆集まってくれて感謝する。息子の鋼牙、嫁の桃花、そして孫娘の桜花が秋祭りの為に帰省してきた。今日は宴じゃ。遠慮なく食べて呑んでくれ。」
御祖父様の言葉で宴が始まった。次々に運ばれてくる料理。どれもこれも父様や母様、私の好物ばかりだ。
「桜花よ。遠慮なく食べるのじゃよ。」
「はい御祖父様。」
そう言われて少しずつ食べる。なんせ親族縁者に見られながら食べるのだ。箸の上げ下げにすら神経を使う。これ程疲れる食事はない。それに一部の男性陣の目付きが怖い。
早くこの場から離れたい…ご飯は美味しいけど居心地が悪い…主役が早々に退室する事は許されない。ご飯だけに集中して、視線は無視することにしよう。
鮎の塩焼きに甘露煮。桃などが並んでいた。
ご飯は麦飯で、これも私の好きな物だ。ご飯があるのは私のお膳のみで、父様や母様、御祖父様のお膳にはお酒があった。お酒の飲めない私にはご飯を用意してくれたのだろう。
粗方食べ終わると、侍女が桃を剥いてくれた。お酒の代わりに冷茶と桃で食後の余韻を楽しむ。
「この桃美味しいです。御祖父様、この桃は兄様や柊真様にも出されていますか?」
「うむ。2人とも桃が好きだからの。桜花はあの2人の事が心配かい?」
「はい。宴に参加出来ないほど兄様の怪我は酷いのですか?」
「病み上がりで宴に参加させるのは酷な事させんよ。ただ食事だけは同じ物にしておるよ。」
「ありがとうございます。御祖父様。」
「そろそろ部屋に戻るか?」
「そうですね…湯浴みがしたいのでそろそろ部屋に戻ります。」
「それなら最後の挨拶をして退室すると良い。」
「はい、御祖父様。」
「皆様、私は先に退室致しますが、どうぞごゆるりとお過ごしください。」
私はそう言って侍女頭に頼んで、離れに案内してもらう。この離れは兄様や柊真様も使っている離れと同じで湯殿が付いている特別な棟になっている。それ故に御祖父様の許可を得ている侍女頭でないと案内出来ない場所となっている。
それ以外だと、御祖父様、父様、母様だけがこの離れに入れる。
「桜花様、こちらが入口です。ここから先は私は入れませんゆえ、案内はここまでになります。」
「ありがとうございます。お礼にこのお菓子を持って行って食べて。」
「桜花様…ありがとうございます!それでは失礼致します。」
お礼にお菓子を渡して離れに入る。
離れには父様が張った結界があった。これなら安心して湯浴みが出来る。
この離れも温泉があるので湯浴みの準備をする為に着物を脱ぎ、簪をとる。正装すると頭が重くなるのが困ったものだ。石鹸も持ってきて正解だった。湯浴みの準備をして湯殿に向かう。まずは身体を洗い流し、持ってきていた薄荷を湯に溶かしてから湯に浸かる。
「ふぅ~」
ついつい声が出てしまった。今まで気を張っていたから一気に緊張がとけたのだ。
薄荷を持ってきて正解だった。気持ちがほぐれていく。兄様や柊真様の事を思い出す。
兄様には滋養強壮に効くものを差し入れした方が良いかな。柊真様には何が良いかなと考えながら湯に浸かっていた。
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