鋼牙と柊真
桜花にお願いされて、柊真を湯浴みに向かわせる。
「柊真、湯浴みをしようか。」
「…(コクリ)」
頷いたということは、湯浴みがしたかったのだろう。桜花が気が付いてくれなければ僕は分からなかったかもしれない。
柊真を湯殿に連れて行く。この離れには温泉がついているから、何時でも湯浴みが出来るのだ。
「今日は変わった入浴剤を使うよ。」
「…?」
柊真が不思議そうにこちらを見た。
「桜花が作った入浴剤ですよ。見ていてください。」
そう話して桜花が作った睡蓮の入浴剤を湯船に沈める。
徐々に花が咲き始め溶けていく様は何度見ても楽しい。
「…!」
柊真も驚いている。
入浴剤は花が咲くと香りが湯殿全体に広がっていく。香りに気が付いた柊真が目を瞑る。
「香りに気が付きましたか?この入浴剤の楽しみの一つですよ。目で楽しみ、香りも楽しめる。桜花の作る入浴剤はこういうのが多いですよ。」
そう説明しながら柊真の身体を洗っていく。傷はすっかり癒えていた。痕も残っていないので、本当に良かった。全身を洗い流し、湯船に浸かるよう勧める。
「柊真、湯に浸かってみて。」
柊真はゆっくりと湯に浸かる。気持ち良さそうに目を細めているのを見ると、年相応に見えてくる。
柊真は桜花よりすこし年上だが、父親と姉を一気に亡くし、幼く見えていた。
まだまだ先代から学ぶ事をあったはずなのに…先代も心半ばで息子を置いて逝ってしまったのは辛かったろう。もし、僕が哉牙や桜花、桃花さんを置いて逝く事があったら無念しか残らない。物思いにふけっていると、柊真がこちらを見た。
「そろそろ上がるかい?」
「…(コクリ)」
頷くのを見て、湯船から上がる。相当気持ちよかったのだろう。言葉にしなくても雰囲気で分かる。
「この入浴剤気に入ったかい?」
「…(コクリ)」
「まだまだあるから、また楽しもうか。」
「…(コクリ)」
久しぶりの湯浴みが相当気持ち良かったのか、湯上りの冷茶を飲んでもまだ余韻に浸っている柊真を見て、もっと早く湯浴みをさせてあげれば良かったなと後悔してしまった。
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