兄様と私と翡翠。
大人達が話しをしていた頃、桜花と哉牙と翡翠で楽しく話していた。
「桜花様はいつもは人界に居るのですか?」
「はい。人界で薬師として働いてます。翡翠ちゃんはいつからこの里に?」
「つい最近です。鋼牙様に連れられてここで哉牙様のお世話をさせてもらってます。」
「翡翠は訳ありでね。僕の身の回りの世話をしながら今は色々学んでいるんだよ。」
「そうなのですね。」
「だからまだ不慣れな部分もあるけど頑張っているんだよ。」
「哉牙様にそう言われるともっと頑張りたくなります。」
何気に2人はいい感じなのかもしれない。
桜花はそう感じた。
今は家族みたいな感じかもしれないが、それでも良いのではと思う。
「桜花は母様と父様が居ない間も店を開いていたのかい?」
「はい。いつも利用してくださる方が居るので、あまり休まずに店を開けてました。今回は多めに渡して来たので暫くは大丈夫かと思います。それに何かあったら文を飛ばしてもらう約束もしてきました。」
「あやかしが身近にいる人達なんだね。」
「はい。なので何時でも戻れる様にしてあります。」
「来たばかりで帰る話は悲しいよ。」
「兄様…大丈夫です。ひと月分は渡してきたので。」
私がそう言うと、兄様は笑顔になった。
「じゃあ秋祭りまではいるんだね?」
「勿論です。秋祭りに参加するために帰ってきたんです。」
2人で話していると翡翠が疑問を投げかけてきた。
「秋祭りとは何ですか?」
「翡翠はこの里に来たばかりだから知らなくて当然だね。秋祭りとはね、五穀豊穣の感謝を伝える為に行われる祭りなんだよ。毎年巫女役を各家で決めて舞を踊るんだ。今年は桜花かな?」
「巫女役の話しは聞いてないので私では無いと思います。翡翠ちゃんになるんじゃないですか?」
「翡翠にはまだ早いよ。何せまだ尻尾が隠せないんだから。」
「はい…私はまだ上手く尻尾が隠せないんです…」
しょんぼりとして話す翡翠。私は慌てて話しを逸らす。
「秋祭りはまだ先ですからね。それに舞だけではなく、美味しい食べ物も出ますよ。」
美味しい食べ物という単語に翡翠の耳がピンとなった。
「美味しい食べ物ですか!?」
「ええ。美味しい甘味がいっぱい並びますよ。」
「甘味!楽しみです!!!!!」
翡翠の笑顔が戻ってホッとした。
確かにこの笑顔を守りたいと兄様が言ったのも頷ける。
ふと、兄様が真面目な顔をした。
「桜花、僕から頼みがあるんだ。」
「兄様、どうしましたか?」
「土砂崩れがあったと話したろ?実は今、離れに調香師の次代が保護されているんだ。」
「調香師の次代…?」
「あぁ。土砂崩れがあったのは調香師の里だったんだ。当代の調香師は誰だか知っているかい?」
「いいえ…」
「そうか。それなら当代の調香師の事は僕から話せない。だが、次代の調香師の事なら話せる。」
「はい…その…次代の調香師が何故離れに?」
「先代の調香師。次代の父君が土砂崩れに巻き込まれて儚くなってしまったんだ。それで今は離れに保護されている。保護された時は全身怪我を負っていたしね。」
「なるほど…」
「次代はこの屋敷でも1番奥の離れに保護されているんだ。桜花。彼を見舞いに行ってきてはくれないか?」
「事情は分かりましたが、理由が…」
「多分だけど、桜花なら彼の心の傷を癒せるんじゃないかと思うんだ。彼は今、土砂崩れの光景のせいで言葉が話せなくなってしまっているんだ。香りにも効能があると気が付いた桜花なら…」
兄様はそれだけを言うと口を噤んだ。
兄様も無茶な事を言っているのは理解しているのだろう。
「父様と母様に相談してから決めます。」
私はこう返事する事しか出来なかった。
読んでくださってありがとうございます。




