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お店でのお仕事 2
新規のお客さんが帰って暫く経つと、予想通りヨモギと葛を求める客がちらほらと来て行った。
「桜花ちゃん、ヨモギと葛はまだあるかい?」
「まだありますよ。千代さんところも熱出したの?」
「そうなのよ。弥七が熱出しちゃってね。」
千代さんは人間だが弥七は犬のあやかしだ。
この世界、人間とあやかしの夫婦は珍しくは無い。
「弥七さんが…珍しい事もありますね。」
「最近、こん詰めて仕事してたからかもね。無理しないように言ってたんだけどね。」
「それは心配だね。去年漬けた梅干しもオマケしておくよ。早く良くなるといいね。」
「ありがとう。治ったら弥七にお礼させるわ。」
「気にしないで、お大事にね。」
千代さんは足早に帰って行った。余程心配なのだろう。
弥七は腕の良い組紐職人だ。
千代さんの実家は小間物問屋。
そんな縁で恋仲になり夫婦になったのでいつまでも仲のいい夫婦だ。
日が傾いてきた頃には持ってきたヨモギと葛は売り切れた。
店の在庫を確認して今日は店じまいしてしまおう。
明日はもう少し多めにヨモギと葛を持って来ていいかもしれないと考えながら家路についた。