鶯亭にて
読んでくださってありがとうございます。
今回から第二章に入ります。
伝書蝶を貰った翌日、私は『宿屋鶯亭』に来た。
ここは以前、藤の花を卸した宿屋だ。
裏口に周り声を掛ける。
「おはようございます。蓬莱堂の桜花です。」
「桜花さん、お待ちしておりました。」
迎えてくれたのは宿屋の従業員だ。
「旦那様から話は聞いております。旦那様のお部屋に案内させていただきます。」
「分かりました。お願いします。」
従業員の方に案内され、旦那様に会いに行く。
暫く歩いていると部屋の前に着いた。
「旦那様。桜花さんをお連れしました。」
「ありがとう。君は下がっていいよ。桜花さん、どうぞ部屋の中へ。」
「畏まりました。桜花さん、どうぞ」
従業員の方に促されて部屋の中に入る。
「おはようございます。蓬莱堂の桜花です。本日はどの様な用件でしょうか。」
部屋に入り挨拶をし、本題をぶつける。
鶯亭の旦那様は宿屋の名前の通り鶯のあやかしだ。
「以前、桜花さんに卸してもらった藤の花を上客様が気に入りましてね。あれで練り香水を作って欲しいとお願いされまして…私どもでは無理な依頼だったので、桜花さんをお呼びしたんです。」
「練り香水ですか…私の専門は薬作りなので、調香師に頼むのは駄目なのですか?」
「上客様は人ではなく、あやかしなんです。そして、人では藤の花から練り香水は作れないと聞きました。この町にはあやかしの調香師がいないのは桜花さんもご存知ですよね?」
「そうですね…確かにこの町にあやかしの調香師はいませんね。」
あやかしの作る練り香水は、人が作る練り香水とは効果が違う。
あやかしが作る練り香水は魔除けや妖力回復、結界にもなる香水だ。
それを所望されているということは、人の調香師の出番ではない。
「そこで、薬師である桜花さんに文を飛ばしたんです。」
「そういう事ですか…確かに私でも練り香水は作れますが、材料が特殊なので時間は掛かります。それでも宜しければお受け致します。」
「ありがとうございます。お時間は掛かっても良いと伺ってはいますので、よろしくお願いします。」
「ご依頼承りました。なるべく早くお届けできるように努力いたします。」
こうして薬師以外の依頼を受けた。
あやかしが作る練り香水…
まずは作り方と材料を確認しなければならない。
専門は薬師だが、父様が趣味で練り香水を作っていた時期があるから、家に帰れば書物があるはずだ。
そう考えながら宿を後にした。
練り香水にしたのは私の趣味です