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5 , 奪還

Class H201 feel Communication log{


 [緊急動作用システムを起動しました。]


 「...起きて、ここにいてはいずれ奴等に分解される。」


 自身を呼ぶ声が聞こえて、ゆっくりと目を覚ます。そうだ、確か、私はシレネジュイの魔法使いとの戦いに敗れて、ここに連れてこられた。辺りは暗く、湿っている。どうやらここは、独房のような場所のようだ。


 「君のメンテナンスはこちらで済ませておいた。奴等に気付かれる前に早くここから出よう。」


 先ほど自身を呼ぶ声と同じ声がして、声の方向を向くと、腰に刀を携えた女性機体の魔法使いが、自身に向けて、立ち上がるように手を伸ばしている。


 「...貴方は、誰?」


 「...私は君を助けるように依頼を受けた。ただ、それだけのことだよ。それよりも急ごう、君の情報が抜かれる前に。」


 彼女はそう言うと、私の武器をこちらに投げ、携えた刀に手をやり、居合のポーズのまま部屋の外へ足を進める。


 確かに彼女の言うとおりだ。現在私は、シレネジュイに捕まっていることを鑑みるに、解体されるのは時間の問題だろう。ここは大人しく、彼女についていくこのにしたほうが、懸命だ。私はそれに付いていく。








 「向こうから侵入者の反応があった!総員、迎えッ!!」


 廊下の奥から、シレネジュイ軍の部隊と思しき声が聞こえる。


 「...流石に脱走がバレちゃったか。仕方がない、足早に事を進めようか。」


 そう落ち着いた声で彼女は言うと、少し急ぎ足で廊下を走る。


 「ねえ、貴方は誰?」


 「答える義務はないよ。」


 「もし、私がここから動かなくなったとしても?」


 「...いいかい、フィール君。少なくとも、私は君の味方でもないし、敵でもない。依頼という形式で君を助け出した以上、君がどうなろうが私にとってはどうだっていいんだ。君がここに残り続けるのであれば、それも選択だ。ただ、もしその選択をしたのであれば、君は再度シレネジュイに捕まるだろう。君の戦闘データは抜かれ、結果的にシレネジュイは圧倒的な力を横取りする形になる。するとどうなる?まず言えることは、ホリメアが負け戦を強いられることは目に見えているよね?そりゃあ、君ほどの物を作れる技術を持っているんだから。それを考えると、ここは互いを知らずとも、協力関係を貫いた方がいい。君もそう思わないかい?」


 「...分かった。」


 すると、廊下の奥から、こちらに向かって大きな声が鳴り響く。


 「いたぞッ!!脱走者だッ!!」


 超えの方角を見ると、魔法使いの一小隊がこちらに向かって走ってきていた。


 「そりゃあ、こんだけ長話をしていれば見つかるのも当然かぁ。致し方なしだ。いくよ、フィール君。」


 確かにここは協力関係のほうが良い。それに、少なくともシレネジュイ軍基地に侵入できるほどの腕前の持ち主だ。ここは彼女と一緒に、襲ってくる敵を撃退することに集中しよう。


 私は、突撃してきた魔法使いの攻撃をはらりと躱し、背後から致命の一突きを与える。


 「おぉ~。身軽な動きだね!これは背中を任せても大丈夫そうだ!」


 彼女はそう言うと、残りの魔法使いたちに向かって走りながら、鞘から刀身を抜き、卓越した剣裁きを披露する。


 「紫電一閃ッ!宵闇斬りッ!!」


 敵の魔法使いたちを過ぎ去り、その場に静寂が訪れる。彼女が刀身を鞘に納めると、魔法使いたちが集まっている空間に無数の斬撃が遅れて斬り乱れていた。


 圧巻していると、彼女がトテトテと小走り気味に笑顔でこちらに来る。


 「ねぇねぇ、どうだった?私の技名。昨日から頑張って考えてみたんだけど、カッコ良かったでしょ?」


 どう返答するべきか焦っていると、先ほど切った魔法使いの一人が起き上がり、後ろから彼女目掛けて切りかかってきた。


 「ッッ危ない!」


 私は、咄嗟に声を上げたが、彼女はいたって平然な顔をして、くるっと一回転する。すると、切りかかってきた魔法使いの周りに、遅れて斬撃が発生し、その場で動かなくなった。


 「今フィール君の返答待ちをしているんだから、茶々を入れてこないでよ、もう。...まぁ、とりあえずはこの部隊の殲滅完了かな。一応粉砕までしておこうっか。」


 そう言い、彼女は敵の魔法使いたちを、原型が分からなくなるくらいぐしゃぐしゃに粉砕する。


 「それをすると、発信源の消失から私たちの場所が特定されるんじゃ...」


 「されるかもね。けれど、後のことを考えて今から戦力を削ぐことは大切だよ。」


 そう言いながら、細切れにした敵の遺体からパーツを抜き取る。


 「この部品からして、シレネジュイ第三小隊か。まあ、使えそうなものは一応拾っといたほうが希実さんも喜ぶかな。」


 そういうと、抜き取ったパーツを懐にしまう。そんなことをしている中、奥から走ってくる音が近づいてくる。


 「おっと、そう迂闊にはしてられないね。逃げるよ、フィール君。」


 私たちは先ほどのように、急ぎ足で出口へと向かう。








「そっちから反応があった!迎えッ!」


 奥から追手の声が聞こえてくる。


 「うーん、そろそろ隠れながら進むのも、厳しくなってきたかな。そろそろ出口も近いし、この辺で一戦交えるのも戦力を削ぎ落すすためと考えると、良いかもしれないね。」


 後ろの方からくる追手の影が見え始める。


 「さて、第二ラウンドの準備はいいかい?行くよ!」


 今度は自身たちから身を乗り出し、攻撃を仕掛ける。相手は少し動揺した様子でこちらに気付いた。


 「先制は、頂くよ。」


 彼女はそう言うと、手際よく敵を倒していく。私も、それに続く形で、サポートに徹する。


 先ほどの戦いで温まっていたおかげか、ものの数分でケリがついた。


 「一段落、いや、二段落と言ったほうが正しいのかな?」


 彼女は戦闘によって付着した汚れを手で振り払い、同様に粉砕した魔法使いの残骸からパーツを拾う。


 「このパーツに付いた名前から察するに、今回は第二小隊だったみたいだね。となるとシレネジュイの戦力は第一小隊だけとなったわけだ。良かったね、これでしばらくの間は、君たちシレネジュイが有利に働くだろう。」


 「ハハッ、それはどうかな?僕たちを甘く見積もってると痛い目を見るよ?」


 背後から見知った声が聞こえた。振り返ると、そこには前回対峙した三人がいた。


 「状況から察するに、彼らは第一小隊かな。となると連戦で相手が第一小隊を踏まえるに、これでは少々分が悪いね。フィール君、隙ができたらすぐに逃げれるよう、準備をしといてね。」


 そう言うと、彼女は鞘に手をかける。


 「君は...その鞘を見るに、万日国の魔法使いか。ホリメアはいつ万日国と仲良くなったんだい?...まあいいさ、君たち二人は、私たちシレネジュイの戦力を大きく削いだ。その借りは返してもらうよ。」


 そう、シレネジュイ軍第一小隊隊長であるプリンスは、武器であるレイピアの構えた。


 「先制は頂くよッ。」


 彼女はそう言い、瞬時に近づき切りかかるも、プリンスのレイピアと鍔ぜり合った。


 「中々の速さ...。良い剣裁きをしているね、君。ただ、こちらにはもう二人いることを忘れてあげないでほしいかな。」


 プリンスがそう言うと、もう二人の魔法使いが一斉に彼女への攻撃を仕掛ける。それを私は咄嗟に銃撃と斬撃で防ぐように徹する。


 「君、前戦った時よりも成長してるね!もしかして、牢獄の中で筋トレでもしてた?それなら出てくるのはいいけれど、消臭はしといてね?」


 「アンタはアホか。筋トレしたとしても機械なんだから、筋肉すら碌に付きやしないだろ。」


 「そんなことくらい知ってるよ?ていうか、消臭の方にツッコミを入れて欲しかったかな。臭いの話題を女性に振るのはタブーだ!って感じでね!」


 「...アンタねぇ。ほら、オマエもなんかコイツに言ってやってくれよ。まあ、口を開く隙も与えないけど。」


 標的をこちらにシフトした二人は、会話を嗜みながらも、重い一撃一撃を交互に振ってくるため、防御に徹するので精一杯だ。


 ちょっとした隙に、彼女とプリンスのほうをみると、彼女はかなり押している様子だった。


 「君、なかなかやるね。ここまで苦戦を強いられたのは久々だよ。」


 「おかげさまでね、私もマーリンG.O.S服用魔法使いとの戦闘経験は久しぶりだよ。」


 「ハハッ、僕が君と戦闘したことなんてあったかな?全く、僕の周りには冗談が好きな方がたくさんいるなぁ___


 突然、大きい衝突音が鳴り響く。


 音の方角を向くと、壁が破壊された。


 「フィール!無事か!?」


 破壊された壁の砂埃の中から現れたのは、ライエンだった。後ろにはデタールネもいる。


 「りーだー、たすけにきた。」


 突然サポートシステムに連絡が入る。それは司令官だった。


 『やっとつながった!フィール、無事か!?現状を見てもらえばわかる通り、君を救助すべく第一小隊隊長のライエンと、デタールネを派遣させた!相手を倒すことはしなくていい。今は逃げることだけを考えるんだ!』


 連絡が途切れる。ふと辺りを見回すと、先ほどまで同行していた彼女の姿はどこにもなかった。


 「救援が来たようだね。しかし、それと同時に万日国からの援軍から見放されもしたようだ。これで数はイーブンになったね。さあ、下地は整ったようだし、再開と行こうじゃないか。」


 ライエンに手を借りて体勢を立て直し、再度武器を構える。









 戦いが始まって数十分後、両隊共に、疲弊を醸し出したその時だった。


 プリンスが攻撃を振り終わり、回避のため一度後退した時ライエンが声を上げる。


 「今だッ!デタールネッ!煙幕を炊けッ!」


 その瞬間、デタールネは隠していた煙幕を炊き、辺りは一面白色になった。


 「フィールッ!引くのは今しかないッ!行くぞッ!」


 そうライエンが声がいうと、私の体はライエンに担がれる。何が何だかわからないまま、気が付くと、輸送ヘリに乗っていた。


 「何とか撒けたようだな。間一髪だった。」


 「りーだー、おかえり。」


 デタールネはそう言い、安堵からか頬を綻ばせる。


 ふと窓の外を見ると、空は夕焼け色に染まっていた。


}


 * * *


Class S104 Prince Communication log{


 「...どうやら、逃げられてしまったようだね。これに関してはこちらの完敗かな。」


 「完敗かな?じゃないよ、うちの戦力は今回の騒動で大幅に削られた。これ、どういう意味か分かっているの?」


 ローズは怒りを滲ませながら詰め寄ってくる。


 「ああ、これは最悪の状況だ。今後、この国が前の状態まで再起することは、恐らく到底の時間がないと不可能だろう。」


 「...じゃあどうすんのよ?アンタが招いた事態なんだから、考えるくらいはしなさいよ。」


 「分かってはいるよ。けれど、僕の考えからは、1つしか案が思い浮かばない。君も、おおよその予想はついているはずだ。」


 ふとダルヴァのほうをみると、横たわって拗ねた様に目を逸らしていた。


 もし次の作戦が失敗すれば、もう終わりだ。そうしたらこの国は、彼女はどうなるのか粗方検討はつく。


 「ホリメア国との友好条約を結ぶよう、国に取り合ってみる。勿論、駄目元だが、これ以上の解決策はどこにある。プライドなんか言ってられない。負けることは、最上級の罵倒なんだ。最後に立っていたものが勝者、それが戦争というものだろう?」


}

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