第九話 "世界の剣"
...聞いてない!!!こんな話...!!!
「マーラ様、ザナルカンドを誘き寄せました。」
...この作戦は、相当な被害を受ける事が目に見えていた。側から見たら無駄な行為だろう。
それでもこの作戦を行う理由は...
成功すれば、ザナルカンドを滅ぼせる。
と言うものだ。
我等にとって、ザナルカンドの一族は、目の上のたんこぶなどではない。
暴れ狂う暴風。全てを消し去る稲妻。全てを焼き払う地獄の業火。...力を失ってなお、我等を裁く光龍。
......そんな物なんぞよりも恐ろしい、全てを連れて行く聖剣
己を必要とする者を"護る"為の聖剣...いや
"世剣" エクスカリバー
...奪えるものならば、奪いたいほど恐ろしい物だ。...この剣の前では、どの様な魔術も効果を成さない。ただ所有するだけで、持つ者を護る。...もし使用出来れば、あらゆる"魔"を祓い、あらゆる敵を消し去る。
...正しく、"最強"の剣である。
...奪った所で、我等に使用できるはずもない。それでも奪う事が出来れば、奴らの力はかなり落ちる。
そのぐらい、エクスカリバーは強いのだ。
...しかし奪う事ができない。...理由は......
世剣は、魂と結びついている。
...もはや、魂そのものと言っても良いほど、世剣は魂と強固に結ばれている。無理矢理引き剥がすことはできない。...仮に引き剥がせたとて、所有者の元にすぐ戻る。
...故に、世剣を消し去るには...所有者を殺すしかない
「...うむ。よくやった...ふふふ....」
...マーラ様はやっとこの時が来たと言わんばかりに喜んでいらっしゃる。かく言う私も、顔がほくそ笑むのを抑えている。
......あのティーバであれば気づいていたであろう。
しかし、クガルは全く気づいていないだろう...いや、気づいていてもきっとティーバを派遣させていた。
......敵ではあるがティーバに同情もしたくなる。我等が"ヘマ"を演じている事はやつも気づいている。...我等も奴も、お互いのことは嫌と言うほど知っている。...しかし愚かな男のせいで、無駄な仕事をする羽目になっている。全く、哀れな者だ...
たった二万人しかいない仮拠点を、ザナルカンド全勢力で、攻めなければならないのだから。
「......はっ.....ふはは......!」
思わず笑いが込み上げてしまう。それ程までに滑稽で哀れだったからだ。
「...嬉しい様だな?」
「......申し訳有りません」
いや良い、とおっしゃってマーラ様はザナルカンドの軍を観ている。
「......そういえば、貴様はティーバと殺し合った事は無かったな?」
「えぇ......恥ずかしながら。」
そう...ここまで言っているが、私はティーバと対峙した事が一度もない。
...強いと言うことだけは話で聞いていたが、実際はどうなのかは知らない。
「そうか...何度か殺し合ったワシから...一つ助言をしよう。」
「はっ......」
「こだわるな、目をつけられたら逃げろ。」
「........はっ???」
「......ぁあ!かったりぃ!!!」
全く...クガルのクソ野郎には本当に呆れている...。自分で行けば良いものを、人に押し付けやがって...!
「うっ撃て!!早」
「おせぇ!」
大砲の様に突っ込んで、魔力をぶつけてやった。
ぶつけられた魔力は、爆発して、拡散して、その場に居た教団の連中に襲いかかった。
ドカァァ!!!
...舞う。子供が花びらを空に散らかしたかの様に、連中の肉体が、赤黒い汁を撒き散らしながら、散り散りになって行く。
いつまで経っても慣れない気持ち悪い感覚。...臓物の中に腕を突っ込んでいるかの様な感覚。
「...喧しいぞ...猿かよお前らは...」
...魔術なんて意味がねえって、何でこいつらは分からないんだか...撃つ前に仕留められるのに。
「......アイツか...?」
逃げている、髭の生えた老いている男が。
本来竜人は、肉体が老いる事はない。竜神達の血には妙な力がある。...その力に、歳を取らないと言うものがある。
...竜神達はバルド・ザナルカンドによって、不死ではないが不老ではある。
その血を引いている竜人達にも、それは適応される。
しかし、例外として歳を取る方法...と言うか強制的に取らされる方法がある。
...それは、メビウスの使う魔術を使うこと。
メビウスの魔術は全て、殺す為の術式だ。
敵も味方も関係なく、ただ鏖殺する為だけの魔術だ。仲間の生存どころか、自分の生命を考慮しない。自らの寿命を犠牲にする事で魔術の威力をめちゃくちゃに底上げすると言う等価交換。
簡単な言い方をすれば"縛り"と言うものだ。
人間が使用すれば、ただ一度だけで寿命を全て使い切ってしまうほどの、"消費量"
そんな物を使用し続ければ、いくら不老の竜人であろうと、"負債"を受けてしまう。
だから教団の連中は、老人どもばかりだ。
「......ちっ...!」
少し面倒ではあるが、逃がす訳にはいかない。
...というか、元はといえばコイツが厄介なことをしでかしてくれたおかげで、俺はこんな所で戦わされている。
......そう考えるとムカついてきたな...!
コイツのせいでエリーテを一人にしなくちゃいけなくなったんだからな....!!
「...........責任取らせねぇと気に食わねぇな。」
其は続きを望むもの
「.....集まれ」
理不尽に反抗するもの
「.......固まれ」
"石"の衝突すら拒むもの
「............放つ」
無垢なる者を護る、その剣は
「..............エクスカリバー」
転生教団との戦いは、ティーバ・ザナルカンドの"世剣の解放"により、開戦後僅か一時間で...終結した。