第六話 "全員"
...落ち着け、後悔に呑まれるな...
思い出せ...俺は騎士だ...
周りの騎士達は準備をしている
/俺の耳には入ってこない
...姫を攫った奴は二人組。
対するこちらは全員。見つけるのは朝飯前。
騎士達の気合いは高まっていく
/俺は冷静になってくる
...そういえば、今日の朝飯は何だったか?
...あぁそうだ、食おうとしたら報告を受けて結局食っていないんだったな。無理矢理にでも詰め込むべきだったな...
...じゃないんだ、集中しろ...!
騎士達は緊張で固まっている
/俺は逆に余裕になってくる
...ここにティーバ様はいない。俺達がエリーテ様を救うんだ。...でなきゃあの子は、殺される。
飄々とした騎士が近づいてくる
/俺の準備は終わっている
「...腹括ったか?シュイノ?」
「...変な事言い出したら、頼むぞ?アイン」
「あぁ...!拳骨喰らわせてやるぜ!」
全く...普段は厄介者の癖に、こう言う時だけは、頼りになる男だ。
ザナルカンド城広場
いつもは国民も受け入れるこの場所に、騎士達が集っていた。
"いつも"とは違う状態に国民達は困惑していた。
二人の騎士が出て来た。一人は橙色の甲冑に身を包んだ騎士。その騎士は、常に姫の護衛をしている騎士であった。...生真面目な男であることから、騎士からの信頼は厚かった。
もう一人は紫の甲冑に身を包んだ騎士。その騎士は騎士にあるまじき問題を起こし続ける為、騎士からは全くと言って良いほど信頼されていなかった。
...しかし騎士とは思えないほど、庶民的で、主であるティーバ卿を、街に連れて、そのまま国民達と酒を交わすなどをする。
その為、国民からの信頼は厚かった。
「......騎士達には伝わっているが、今この場で改めて言わせてもらう。」
橙色の騎士が口を開く。
「......エリーテ様が、盗賊に連れ去られた。」
!?!???!!?!
その場にいた国民達全員が動揺した。ザナルカンドの騎士達は、アヴァロンの中でも二番目に強いと言われている。その理由は、絶対にミスをしないから。
流石に言い過ぎかも知れないが、そのぐらいこの騎士達はミスを起こさない。...ましてや、姫を連れ攫われるというミスなど、決して。
そんな騎士の口から出た、"姫の誘拐"
「...我々は驕っていたのかも知れない。大丈夫だと勝手に思い込んでいた...その結果がこれだ...」
ぽつり、ぽつりと神父に懺悔をする罪人のように騎士は話す。
「......この国が平和になったのは、あの方が約束を果たしに、この国に来てくださったからだ。」
かつてのザナルカンドは、今のように平和な国ではなかった。盗賊は我が物顔で街を歩き、それを捕らえるべき騎士達は汚職などを平然と行い、王は自分達が良ければ良いと言うかのように、圧政を繰り返していた。
25年前のザナルカンドの、呼び名は...
堕ちた竜神の末裔の国
...そんな国に来た少年が、ティーバ・ザナルカンドであった。
彼の来た理由は、簡単であった。
...父と母のした、千年前の約束を果たす為。
ザナルカンドに嫁いだ姉を祝う為
「......我々騎士達は、国民は、あの人に返すことの出来ないほどの恩義がある。」
もしあの少年が、来てくれなかったら...この国は何も変わらなかったと。
...自分達はずっと、地獄のなかで暮らさなければならなかったと。
...それは、あの少年を王にしてしまった国民達が一番理解していた。
「...あの方が今も笑顔でいられているのは、家族ができたからだ。...エリーテ様がいるからだ。」
皆知っていた。一人でいる時の王のとても暗い表情を。
皆知っていた。家族といる時の王の、少年のような表情を
「...もうこうなったら、騎士の誇りなど知ったことか。」
「シュイノ...少し良いか?」
紫色の騎士が口を挟む
「...なんだ、アイン?」
「......話がなげぇよっ!!」
「った!?」
...殴った。大事な話を中断させてまでしたことが、"話が長い"と言う不満で殴るという行為だった。
「っ...!お前なぁ...!!」
「あのなぁ、講習じゃないんだぜ?お願いしなきゃいけねぇっつうのに話を伸ばしてどうする?そんなんだからお前、嫁さん見つかんねぇんだよ!」
「んなっ?!!」
痛い所を突かれた騎士をおいて紫の騎士が話し出す。
「あぁ、皆聞いてくれ!要は俺達の言いたいことは絶対にエリーテちゃんを助けなきゃいけないって事だ!...でも俺達だけじゃ、ひょっとしたらしくじっちまうかもしれねえ。」
そして突然、紫色の騎士は頭を下げた。
「頼む...皆の力を貸してくれ!」
...騎士達も、その場にいた国民達も、思っている意味合いは違うが、同じことを思っていた。
あのアインが頭を下げている。
「...正直な話、恩義とかそんなのどうだって良いんだ。...俺は余所者だからな。でも、だからってエリーテちゃんを見捨てたい訳じゃない!」
それは、初めて見た、アインという騎士の本心だった。
「だから頼む...力を貸し」
うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
「??!!?!」
それは同意の雄叫び。
...エリーテ・ザナルカンドの人柄を見て、励まされて来た、皆の叫び。
貸すに決まってんだろぉ!!!
お前が頭を下げるなんてなぁ!!!
あの子には励まされてるんです!!!
貸さない人なんている訳ないよぉぉ!!!
「...あぁ。」
(エリーテちゃん?凄いぜ?)
騎士は心の中で想う。
(アンタ、皆に好かれてる)
「アイン、まさかあんな事を言い出すなんてな。」
顔を覆い隠している同僚に向かって話す。
...全く、今更思い出して恥ずかしがるなんて...アホか?
「頼む....シュイノ......言わないで......はっずい...!!!」
「いや、私は良かったと思うぞ?
頼む!!皆の力を貸してくれ!!!」
「お前バカにしてんだろ!!!!」
いつものお返しだよ、バーカ。
「......だか、ありがとな。...私じゃこうはならなかった。」
「そりゃまぁ、お前無駄に話長いし」
「張り倒すぞ?」
「サーセン!勘弁してくっさい!!」
...何で、褒めてようとすると照れ隠しのようにいらん事を言うのだろうか...この男は。
「...なぁ、アイン。」
「何だよぉ、シュイノ?」
「...ここまですれば、大丈夫だよな?」
「あぁ?そりゃそうだろ!」
「なんたって、国民全員だからな!」