第四十八話 予想外
文章力を磨くと言う名目で離れたいやした。
あっはっは、非常に申し訳ございませんでしたァ!!!
「―――――――――――がっ。」
そんな素っ頓狂な声をあげて、ヴォルクは血を吐き散らしながら、紙の様に吹き飛んでいった。
ドガガッ!!!
轟音を鳴らして、壁が崩れ落ちる。
『星旅』を喰らった奴の身体は、壁まで吹き飛びめり込んだ。……あれでは死んでるだろう。生きていたとしても、抜け出るのは難しい。
「ふん……馬鹿が。」
全く。自分が優位に立てているなどと、そう思い上がるからこうなるのだ。
とまぁ、考え事はここまでにしなければな。
「……さっさと上に戻るか。」
確実に仕留める為に、魔力をかなり使ってしまった。残量を考えるに……あと一分三十秒。
片道分で、恐らく三十秒分は使う。ディアドラに治して貰う事も考えると、この辺りで上に上がるべきだ。
「さてと……」
そう思って、脚に魔力を溜めようとして。
ドサッ……
「…………………え?」
力が抜けて倒れてしまった。
それどころか、全然力が入らない。水を入れようとして、すぐに煙になって消えていく様に。
「なっ………んで……??」
脚だけじゃない。
指先にすら力が入らない。視界がまた、灰色になっていく。意識も朦朧としていく。
……おかしい。心臓は動いているのになんで?
「……たりめぇだ…………動いてる方がおかしい……」
ふと、聞こえない筈の声が聞こえた。
「――――――――――――」
確かに仕留めた。
心臓を捉えた。潰れているはずだ。
そう思って、顔を上げた。
「ぶっ!ゲホッ!……本当、最悪だ……!!!」
……奴が。ヴォルクが、目を開けていた。
…………なんで?
あの時、確かに心臓に当てたはずだ。
俺の時の様に潰れる筈だ。
……なのになんで生きてる!!?
「…………どうせだから言うか。……俺の身体は、他人と違ってるらしい。」
「………………??」
「なんでも……『全内臓逆位症』ってのに近いらしくてな。………………でも俺の場合、余計に酷いらしくて、肉体全てが反転してるんだと。」
―――――――――――――
言っている事はなんとなく分かるが、何を言いたいのだコイツは…?
内蔵逆位……それより酷い…………全部が反転……?
……………………!?
まさかコイツ!??
「内臓は勿論…血管、神経。……急所までもが、人とは正反対…………鏡みたいらしい。」
……だからか。
鳩尾の一撃が想定より響いてなかったのも。
あるべき場所に肝臓が無かったのも。
……潰れてるはずなのに、心臓が無事である事も。
「最初、右腹をやられた時に察したよ……多分、俺の身体には気付いては無いなって。だから心臓を狙って来た時、少しだけ安心したよ………………痛みさえ覚悟すれば、テメェは自滅してくれるって分かったからな。」
やられた…!
多分、その時から考えてたんだろう。この展開を。
それにまんまと引っかかってしまったと言う訳か……!!
「ぐっ……………ぁぁ゛……!!」
駄目だ、全く力が入らない。
今すぐ上に行かなければならないと言うのに。
魔力だけは心臓に流れているのに。
……血が流れてくれないから動けない。
「心臓からの出血は止めてても、内臓は怠ったんだろ。……内出血は大分してるはずだ。
おまけに、心臓を潰された時にかなり血を流してたからな。元々血が足りなかった状態で、しかも内臓の応急処置もせずに戦闘したんだ。失血状態にもなるだろ。」
「…………………ゔぅ…!!」
「いくら魔力で心臓を補強したとて、肝心の燃料が――りゃどう―――もない。......―――――縁がなくって―――――――か?」
……駄目だ。
耳が聞こえなくなってきた。視界はより白くなって、吹雪が目に入り込む様に何も見えなくなっていく。
もう分かってしまった。一歩も動けない。
このまま、ここで死ぬしかなくなった。
「――――――ってやる―――――――で終わりだ。」
その声が、最後の一押しになるかの様に。
「……っ………………………ぅ…」
段々と意識が遠のいていく。
暗闇が近づいて来る。
何か大事な物が、身体の中から出て行こうとしていく。段々と、自分の身体の制御権が無くなっていく。
自我そのものが、闇の中に葬られていく。
そのまま、目を瞑って……
『駄目だろ。』
「――――――――――――」
不意に、そんな声が聞こえてきた。
ここに居ない場所から聞こえてきた、聞こえない筈の声が。
『……ディアドラの泣き顔。見たくないんだろ?』
―――――――――――――ディアドラ。
その名を聞いて思い出した。
あの......太陽の様に美しい笑顔を。
「――――――――――――ぁ……」
そうだ。肝心な事を思い出した。
何のために戻って来たのか。死の苦しみを味わうためじゃない。
…………ディアドラに会いたいからだ。
「………………めだ……!」
失いかけた意識を引き摺り戻す。
意地でも立ちあがろうとする。
「…………はぁ…!??」
動揺の声が聞こえる。
くたばるもんだと思ってたのだろう。
「……ねない………………まだ死ねない……!!」
死ねない......いや違うな。
死にたくないんだ、僕は。
今、きっと......生まれて初めて、死にたくないって本気で思えてる。
彼女の笑顔を思い出すだけで、そう思えた。
「…諦めろ……それ以上、エリンの身体を」
「勘違いも甚だしい。……最初から.僕は僕だ。変な勘違いで追い詰めるな……!!」
「......はっ...?」
呆然とした様な顔を、ヴォルクは浮かべる。
全く......この期に及んで、まだ勘違いに気付かないか。
だが、今はそんな事どうでもいい。
「まだ死ねない……死にたくない………………まだ、生き足りないんだよ…!!!」
そう思えば、力が入っていく。
激痛が走る。とても苦しい。今すぐ楽になりたい。
だがそれ以上に、ディアドラに会いたい。
「だから……戻るんだ…………!」
……計算しろ。
あと五秒しか時間が無い。
それを過ぎれば、僕はまた死体に逆戻りだ。
どうすれば、五秒以内に上に上がれる?
考えろ。……回転出来ない頭で考えるんだ。
そう思って、空を見上げた。
「―――――――――――――」
最初、天使が来たのかと思った。
そのぐらい美しい光が、空から真っ逆さまに落ちて来ていた。
……その光は、とても見覚えのあるものだった。
白く輝く美しい白髪。
肉付きが良くすらっとしている、服に隠れている手足。
幼いのに、大人すら見惚れさせてしまう様な可愛らしくも美しい顔立ち。
……どの様な宝石よりも綺麗で清廉な、空色の瞳。
「ティーザァァ!!!!」
どの様な楽器も勝ることの出来ない、優しく美しい響きを持つ声。
その全てが見覚えがあって……見るだけで泣きたくなってしまう。
「………………ディア……ドラ…………」
その光の名を、思わず呼んでしまう。
…………そうだよ。
君に会いたかったんだ。
――――――――――――――――
「やばいやばいやばいッ!!!」
全力で走る。
もうこれでもかと言うぐらいまで、速度を出して。
完全にやらかした。
まぁ、ティーザならどんな奴でもぶっ飛ばせるだろうな。そう思って、放置するんじゃなかった。
決闘でなんとなく分かってた筈なのに。
ティーザは、自分が勝ったと思った時に一番油断すると。
「『心配は不信じゃない』って言われてたのに!!」
ヴォルクとか言う奴がどんな奴かは知らない。だけど、ティーザの事は観たから分かる。
……ソイツと一緒に落ちたのは、そうした方が絶対に勝てると思ったからだ。
ティーザの事だ。相手の能力を大体分かった状態でやったんだろう。……ティーザが分かったのは多分、衝撃が無効化されていると言う所だけ。だからその策を使った。
……潜入と救出で張り詰めていた心が、その瞬間に緩んだとしたら。
そして、その男が本当に『操れる』のだとしたら。
……一番最悪の事態になってるかもしれない。
「ティーザ……待っててよ…!!」
大穴の近くまで来れた。
ここからリフトを使って降りたら、手遅れになるかも知れない。
そのまま、大穴に向かって飛び降りる。
「『光の船は人を乗せ、新たな地へ連れていくだろう』!」
魔術を使って、落下速度を速める。
私の身体に光が纏う。その光は形を成して、真下に向かって高速で進んで行く。
「うぐっ……っ!」
グオンと言って、私の身体に空気が押しかかる。
景色が一瞬で過ぎ去っていく。
目が回ってしまいそうだけど、周りを見ずにただ下だけを見て耐える。
「………………もうっ!!」
後悔する。
あの男を追撃しなかった事ではなく、ティーザの心配を途中でやめてしまった事を。
最初の時に追撃しておけば、こんな事にはならなかったのに。ティーザなら大丈夫だろう。そう思って対策を怠った。……分かっていたはずなのに。
ティーザは…………自分の感情を二の次にして、危険な事を平気でしてしまう様な奴だって…!!
そんなのをあの時観てしまったから、一緒に居ようと決めたのに!!
「っ!!」
いや、よそう。
後悔してても何にもならない。
今はただ、速くティーザの元に。
「……っ!??」
その時、見えてしまった。
……胸に大きな穴を開けて、血をたくさん流しているティーザを。
もがき苦しんで、それでも立ちあがろうとしている……とても痛々しい姿のティーザを。
「――――――――――」
呆然としてしまう。
そんな訳ない。私を負かしかけたティーザがあんな状態になる筈がない。そう思ってしまう。
……そんな思い込みを、私の眼は否定する。
………アレは紛れもなくティーザだと、容赦なく頭に叩き込んでくる。
「ぁ............ぁ......!!」
泣きたくなる。
目を背けたくなる。
……自分を殺したくなる。
私があの時、あの男を落とせていたら。
あの時、ティーザを心配し続けて下に降りていたら。
…………そもそも、離れていなければ。
「…………っ…!!」
駄目だ。
今、泣いても意味はない。
泣けば泣く程、ティーザを苦しめてしまう。
だから、今はティーザを救え。
ティーザを助ける事だけに集中しろ。
自罰も自責も、自己嫌悪もその後。……自分のエゴを後回しにしろ。
「………………よし」
まず、あの状態のティーザに意識があるのか。そこから確かめなければいけない。
もし肉体の方が勝っていたら、私の言う事を聞いてくれない可能性がある。
着地した後、ティーザかどうかの確認をして……
「―――――――――――――」
ふと、彼がこっちを見上げた。
黄金の様に輝く金髪はバサバサになって。
女体の様にふっくらとした柔らかさを持った手足は、血に塗れてしまって。
男とは思えない程可愛らしい、不思議で綺麗な顔立ちは口から出ている血で痛々しいものになってしまって。
……だがそれでも、夜空の空を駆ける流星の様な瞳は一切曇っていなかった。
「―――――――――――」
その眼が訴えかけてきた。
……天使が来たのかな…と。
それが分かって、悲しくなってしまった。
……そう思ってしまう程、死にかけてしまっているんだと。
「ティーザァァ!!!!」
声を上げられずにはいられなかった。
天使じゃない。私だと。
本当ならそう言いたかった。
……でも、何故かそう言えなくて。
それを言おうとしたら泣いてしまいそうで。
そんな短い言葉しか出せなかった。
その言葉が聞こえたのか、目を少しだけ見開いて。
少し泣きそうな顔になって微笑んで。
「………………ディア……ドラ…………」
今にも消えてしまいそうな声で、私の名前を呼んだ。
「っ!!」
それだけで分かった。
今、あそこで立っているのはティーザ本人だと。
ならばもう、やる事は決まっている。
……ただ全力でティーザを救う!!
「ま……て………!!」
不意な声が聞こえて、ハッとした。
まだ敵がいるのかもしれない。そう思って、声がした方を向いた。
……ティーザの向かい側に、壁にめり込んで動けなくなっている男がいた。
その男を見た瞬間、殺意が湧いた。
確かに、コイツを逃してしまった私も悪い。
放置したのは私。だからティーザがこんな目にあったのは全部私のせいだと、そう理解はしているつもり。
私がきちんとしていれば良かった話なのだ。そんな事は分かりきってる。
………………それでも。やっぱりお前が悪い。
「………………」
そう思うと、意識が殺意に満たされる。
コイツはこの場で殺さなくては。私の友に手を出すのならば、生きている価値は私以上に無い。
今ならコイツは抵抗出来ない。そんな体力はコイツには無い筈だ。だから、殺してやる。
術式を構築して、奴の喉を締めようとした。
……でも、そうする前に思い浮かんだのは。
………あの時、泣きそうになって私を止めたティーザの顔だった。
「ぅ………………っ。」
……その顔を記憶の中で見て、殺気が萎んでしまった。そんな事をやる暇があるんだったら、さっさとティーザを救わなければならない。そう思った。
「…………今は後だ。」
その男から目を離し、ティーザの元に落ちる。
ドンッと音が鳴って、土埃が起こる。
「ティーザ!!」
すぐにティーザに近寄る。
真正面から見て、状態の酷さが分かった。
胸に大穴が空いてしまっている。恐らく、内臓が幾つか潰れてる。心臓も潰れているのが見えてしまった。
いや、何故か心臓を魔力で覆っているから、まだそこは良い。動いているのなら、頭が死んでしまう事は無い。
それ以上にマズいのは、死人の様に真っ白になったティーザの顔だ。
大量の血を失ったからだろう。失血状態になっている。いくら心臓を動かせても、肝心の燃料が無かったら話にならない。
「ぁ……」
限界が来てしまったからか、ティーザの身体が横に倒れていく。力が抜けて、ではなくバランスを崩してだ。……余計にマズい。
平衡感覚が無くなるほど、今のティーザの身体には血が無い。つまり、いつ死んでもおかしくない状態だと言う事。
「っ!!」
倒れる寸前で受け止める。
……明らかに軽くなっている。
血が流れ出過ぎて、体重にまで影響している!
人の身体に流れてる血は二割出てしまうと危険な状態に。三割で危篤に片足突っ込むと言う。
ティーザの体重を考えても、これは明らかに二割を超えてる。つまり、三途の川に片足突っ込んでしまっている。
「しっかりティーザ!!今治すッ!!!」
落ち着け……母ちゃんに教えられた通りにやるんだ……
私なら出来る。……いや、私しか出来ないんだから。
「……能力、起動。」
鞘から槍を抜く。
そのイメージで、能力は始動する。
……まずは血。とにかく血が無ければ、ティーザが死ぬ。
「ごめんね。」
そう言って、ティーザに口付けする。
「ん…………」
私の血をベースにした物では、ひょっとしたら拒絶反応が起きるかもしれない。そうなったら、間違いなく死んでしまう。だから、ティーザの血をベースにした血液を、今ここで作る。
ティーザから出てくる新鮮な血を、口から吸い取る。血を作るのならば、出来る限り新しい物が良い。
口から血が漏れ出てしまう。
頰を伝って血が流れ落ちる。
能力がティーザの血を理解していく。
………………………完了。
「っ……よし、次だ。」
魔力が解けて、鼓動が弱まり始めてる心臓に手を当てる。そして、生命力を変換して作った血液を直接送る。それと同時に、心臓も治す。
「ぅ…………っ…………」
段々と、ティーザの血色が良くなる。
心臓の方も、仮ではあるけど自律で動ける程には回復した。
取り敢えず、これで血と心臓の問題は解決。
次は内臓の方だけど、ここで治すにはデリケート過ぎる。能力を使って、止血だけで済ませておく。
「……これで、なんとか持つって所か…!」
応急処置はこれで終了。
後はここから出て、安静にできる場所で治療が出来ればいい。
「フィーリウス!聞こえるッ?!」
あらかじめ付けておいた盗聴魔術。それには、こちらの音声が向こうにも盗聴される特性をつけている。
盗聴する者にとっては、何一つメリットのない物だ。……でも、私にとっては連絡手段に変わりない。
『!?……本当にできたんだな……?!』
コアから聞こえてきたフィーリウスの声には、驚きが混じっていた。……出来るって言ったのに信じてなかったんかい!!
「今どうなってる?!」
『フェトカを連れて外に居る。』
「?……随分と早い!」
『…………小火が起こったそうだ。おかげさまだな。』
小火騒ぎ?……まぁいい。
救出が完了してんのなら、ここにある理由はない。
「分かった!そのままお姫さんを連れてって!!」
『待て、エリンは?』
「重傷!今から外に飛び出る!!」
『飛び出る??どう言』
ブチッと、コアを千切る。
目的は達した。外にいるのなら、出方はこちらの自由だ。
地面に手をつけ、能力で木を作ろうとする。……だが、あの時の様なカタパルト発射は出来ない。すれば、ティーザにやった処置の意味が無くなる。
……ならば、別の手段。
生命力を土に与え、生命を創る。……あまり好きでは無い手段だが、今は仕方ない。
イメージした形を、その土に投影していく。
土は形を成し、色を付けていく。段々とフォルムがハッキリしていく。土が盛り上がり、私達を乗せて生命が出来ていく。……その姿は、森でよく見るカブトムシだ。
だが、人の知っているカブトムシよりも百倍デカい、人を乗せて飛べる程の大きさだ。これで行く。
「まて……て…………そいつと話を……!」
飛ばそうとした時に、男が止めてきた。
……時間は無い。
「お前と話す事は無い!!!」
そう突き放し、カブトムシを飛ばした。
バンッと、私達を乗せたカブトムシは飛び立った。……かなりえげつない速度で。
「ぐえっ!………自分のヤッタ物とは言え…!」
あまりに速度が早過ぎて、首が持っていかれる所だった。
ほぼ垂直に上がるカブトムシ。そのまま速度を上げて、天井に向かっていく。
あまりのスピード。これだったら問題は無さそうだ。
「ティーザ……ちょびっと待ってて……!」
ティーザの身体を抱き抱えて、庇う様にする。
そしてカブトムシは、そのまま天井に突撃した。
「っ!!!」
衝撃が身体を襲う。
魔術で飛び散る石から身は守っているが、衝撃だけはどうしようもない。
轟音を鳴らして、カブトムシは壁を砕き進む。かなり分厚いだろうが、このまま押し進める。
「ゔ……!」
衝撃がティーザに伝わってしまったのか、顔を歪めて痛んでいる。
ごめんよ。もう少しだけ我慢して。
「……来たっ!!」
感覚で分かった。もうすぐ外だと。
その瞬間、外からの光が見えた。
ドガァァッ!!!!!
「ヨシッ!!!」
上手く行った。なんとか壁をぶち壊せた。
あとは戦線から離脱すれば良い。
フワッ……
役目を果たしたカブトムシは、霧の様に消えていった。元々、壁をぶち壊すまでと限定して創り出した生命だ。消えて当然だろう。
ここからは私自身が飛んで……
「……え!??」
ふと、前を向いて驚愕した。話と違うと。
敵の数は千人。対するこちらはたった百人。まず勝てるとは思ってはない。あくまで時間稼ぎ。そういう話だった。
だが今目の前で起こっている事は、そんな話なんて無かったと言わんばかりの状態だった。
……騎士側が圧倒している。
千人の盗賊の過半数が倒されていた。
「な…….何が……?!!」
あの声がしてから十分ぐらいしか経ってない。なのにここまで戦況が傾いているなんて……一体何があった?!
「おぉぉい!!!こっちだぁぁ!!!!」
「うぇっ!?」
こちらに向けられた、馬鹿でかい声が聞こえた。
それは、潜入してから聞こえて来たあの声にそっくりだった。
声がした方を向くと。
「こっちに飛び込めぇっ!!!!!」
……返り血に塗れている、無傷のシュランゲが居た。




