第四十七話 秒読み
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「......................」
視界が起動する。
色彩が少し欠けた世界が脳に入り込む。
指先の動きが少し鈍い。意識が遠い場所にある様な感覚がある。
「.......っ!?」
目線を少し上げた先には、拳を突き出そうとしている男が居た。
目を開けるとは思わなかったのか、驚愕の表情を張り付けていた。
「....................ぁ。」
その男の動きがゆっくりに見える。
男はそのまま、拳を僕の心臓に突き出そうとしている。多分潰そうとしているのだろう。
その動きを見ても、動揺する事は無かった。
『あぁ、まぁ止めを刺すのは当たり前だからな。』なんて、他人事の様に考えてしまう。
極めて冷静に、その動きを見極めていた。
ドバンッ!!
壁から全力で飛び、そこから回避する。
身体がふわりと浮かび上がり、上下が反転する。目が回りそうになりながら、男から離れた位置に着地する。
「..............ぶっ!!?」
途端に血が口から噴き出した。
気持ち悪くなって吐いた時の不快感ではなく、体の内側をズタズタにされた様な痛みが、僕の身体に込み上げる。
そこで思い出す。
今、僕は内臓をやられた上に心臓まで潰されている事を。
「がっ.......ぁあ゛!!」
激痛が身体の内側から湧き出てくる。
だが痛みに負けてはいけない。負けたらそこから死んでしまう。
彼の助言を思い出せ。
「ふうっ......ゔゔっ!!!」
他の内臓の応急処置は現状不可能。ならば、心臓部分の応急処置のみを魔力でする。
彼の言った通り、心臓を魔力でカバーする。血が溢れない様に、隙間が一切ない様に覆う。そして、一度だけ無理矢理動かす。
グンッ!
「づあ゛っ!!?」
全身に血が巡ると同時に、身体の内側が刺される。血が湧き出ていき、口から出ていく。
.....だが、こうでもしなければ術式が使えない。
「ゔゔぅ...!!」
キンッ...!
「コイツッ.....!??」
落ち着け.....ぶっつけ本番ではない。一度見た事だ。
「.....魔力、自動術式付与。
内容、心臓の代理
現魔力量に対する魔力消費量、一分につき二割。
戦闘中は鼓動速度を遅め、消費量を一割に抑える。
動作、先程の縮小行動の模倣。
破損部分からの出血を抑えつつ、鼓動を魔力で行う。」
余計な魔力を減らす為に、ぶつぶつと小声で詠唱をする。
戦闘中に別の事をする程の器用さなんて、僕は持っていない。そんな事すれば、三分どころか一分も持たない。
......あの家で、いろんな物を見てて良かった。でなきゃ、こんな事を思いつきもしなかった。
キンッ!!
心臓に張った魔力に術式が宿る。
止まりかけだった心臓が、魔力で無理矢理動き出される。
全身に満遍なく、血が巡り出す。
視界に色彩が足されていく。
「はぁ゛.....!!」
痛い。死ぬほど痛い。さっきまでとは段違いに。
だが、これですぐ死ぬ心配はない。取り敢えずは。
「......マジかよ...?!!」
遠く、小さな声が聞こえた。
顔を見上げ、声の主を見る。
...あぁ、そうだった。今彼の事を思い出した。
......僕を痛めつけてくれたのはアイツだ。
「............ぁぁ゛。」
倒れかけの身体を起こし、彼の眼を見て、声が届く様に話す。
「.............痛いんだけど...!」
心の底から思ってる恨み言を、怒りを込めて言い放つ。
さっきから本当に痛くて堪らないのだ。胸辺りは刃物で刺され続けられてる様だし、血も込み上げてくる物だから息もまともに出来ない。
......こんな風にしてくれやがって。ただじゃ済まさない。
「......痛いだけかよ...!!」
驚愕を顔に張り付けたまま、ヴォルクは悪態を吐く。
................痛いだけだと?
「あぁ痛いさ。内臓と心臓を潰された上に、骨もまとめて何本か折られる。肺か何かに刺さってるせいか息をする度、血が噴き出す。それで痛くない訳ないだろ。
おまけに気分も悪い。口の奥から血が込み上げる物だからずっと吐いてる様な気分だし、鉄の匂いとかベトベトした気持ち悪い感触がずっと口に残ってる。......本当に最低な気分だよ。」
自分でも、瀕死なのかと思うぐらいの饒舌ぶりである。
そうでもしないと止まらないぐらい、僕は怒っていた。
「それをまぁ.....................他人事の様に!!!」
お前がやった事なのに、なんでそれを認めようとしないのか。
それに苛立ってしまい、つい怒鳴ってしまう。
「っ!!!」
それを受けて、ヴォルクがたじろいだ。
まるで、目の前に化け物が現れた様な反応だ。
その反応を見る事でさえ、僕は苛立ってしまう。
......どう考えても、お前の方が人ではない。
「何が『痛いだけ』だ.................痛がって何が悪い!!
本当に痛いんだよ!!なんならここで泣き叫びたい程痛い!!!それに怖かったんだ!!!死ぬんだなって本気で思ったんだからな!!!
それをまるで.......................『正しい事をやった』みたいな面して言ってんじゃないッ!!!」
苛立って、自分が何言ってるのか分からない。
そのぐらい、僕は激昂しているんだろう。
痛みがだんだんと薄れてきた。怒れば怒るほど、身体が楽になっていく。
「―――――――――――」
呆然とした様な顔をして、ヴォルクはこちらを見つめてくる。僕が何を言ってるのか理解出来てない様だ。
「だから、むかつくんだよその顔。.........殺そうとした癖に被害者みたいな顔しやがって。喰い殺すぞ。」
頭が沸いてくる。
腹の底が熱くなって、思考が鈍っていく。
その割には冷静で、アイツの行動の全てを観察している。
「.........オメェさん、本当にエリンか...?!」
(コイツ、まるで人が変わった様に!?)
「なんだよ?俺がどう言う奴か分かったつもりだったのか?......随分と傲慢だな。」
本当に癪に障る奴だ。......その態度が気に入らないと言う事にまだ気付かないか。
「......っ。」
ヴォルクの顔には、恐れが付いていた。突然、目の前に理解出来ない事が起こった様な顔だ。.....だが。
「.........オメェさんは何者だ!!」
次の瞬間には、表情が変わっていた。
まるで宿命を持って宿敵に立ち向かう様な、何処かで見た事のある顔になって、俺の正体を聞いてきた。
誰だと?......奇妙な事を。
「ティーザだよ。お前に心臓を潰されて、現在進行形で死んで行っている、ただのクソガキだ。」
もっと分かりやすく言った方がいいか?
どうやらコイツには、考えると言う機能が無さそうだからな。
「......................エリンじゃねぇな...!!」
「......はぁ..........」
呆れてため息を吐いてしまう。
全く......人が激痛に耐えて説明してやったのに、それを無碍にするとは。......本当に喰い殺してやろうか?
「だから言ってるだろ。俺は」
「アンタ、竜神だろ。それもかなり高位の。」
?
それがどうしたと言うのか。俺が竜人で何が悪い。
「関係のある事では無い。」
「いやあるな。......ソイツに取り憑いて、一体何する気だ!」
取り憑く?まるで人を悪霊扱いする。
つくづく癪に障る奴だ。
「何をしでかすつもりなのかは知らんが、お前らのやり口は知ってるんだよ。......子供にまで取り憑くとは、本当に腐ってやがるなッ!!!」
「――――――――――――――」
.........コイツ、今なんて言った?
腐っている?俺が?
「―――――はっ。........ハハハハハァ!!!」
今更、何を心配をしてるのかコイツは。
呆れるな。呆れて笑ってしまう。
「その子供を殺そうとした痴れ者が、言える事なのか?!全く、馬鹿げてるな!!!」
怒りを通り越して、馬鹿馬鹿しくなってきた。何か変な勘違いをして、腐りもの扱いしてくるとは。
......どんな道化もしないだろう事をする、愚かな男だ。
「っ!!!」
ダンッ。と、地面にヒビが入る程の踏み込みで、ヴォルクが突っ込んできた。殴りかかろうとしているのだろう。
......かなりの速度だ。初速だけで言えば、矢にも匹敵する。俺は見切れているが、他の者ならば反応仕切れないだろう。
まぁ、良い判断だと思う。先手必勝と言う言葉があるぐらいだ。恐ろしい物はさっさと潰しておくに限る。そう言う事だろうな。
それには賛成だ。......俺もそのつもりだからな。
「いいだろう。」
こちらも飛び出す。
だが、速度を出してやる必要は無い。アイツが自ら突っ込んできているのなら、それに合わせてやるだけだ。
「ちぃッ!!」
拳が目前に迫る。
この速度だ。当たれば、気を失いかねない威力だろう。
だが見切れている以上、わざわざ当たってやる必要は無い。それに、当たればマズいのは相手も一緒。ならば敢えて利用させてもらおう。
「..............ッ」
拳を寸前で躱す/拳が顔の横を掠る
そしてこちらは、右手を握って上げてやるだけで良い。
ドゴォォッ!!!
「ブッ!?」
奴の顔面に拳が突き刺さる。
だが、まだだ。これではまだ気は済まない。
「オラァァッ!!!」
突き刺さった拳を、突っ込んだ速度のままで振り抜く。
殴られたヴォルクは吹っ飛ぶのでは無く、その場で一回転した。
「ッあ゛!!」
倒れるかと思ったが、受け身をとって距離を取られた。
だが相当響いた様だ。
鼻がへし折れ血が流れている。それに、倒れはしていないものの立つのは必死と言った所だろう。足が酔っ払いの様に震えている。
「ッ.........でぇ゛!!」
「......タフだな!今ので沈むと思ったが......能力でも使ったか?」
だとしたら小賢しい事を。
大人しく殺されておけば、苦しませる事も無いんだがな。
「......テメェこそ。胸に穴開けながらよく喋るッ!!!」
「誰かさんのお陰でな。ピアスをする予定など無かったと言うのに。」
耳なら分かるが、胸に穴を開ける馬鹿は居ない。......勿論、俺にそんな悪趣味は無い。
「......胸ピアスならぬ、心臓ピアスか。ハハハッ。
......全く笑えんな。」
洒落の為にそこまでするものか。
「......っ!!」
心臓に痛みが走る。
そうだ。魔力を心臓の代わりにしているとは言え、潰れている事に変わりはない。
早い所、決着をつけなければ。
「......『止まれ』!!!」
本当はまだ殴り足りないが、こちらの魔力が持たないかもしれない。
能力を使ってでも、こいつを今すぐ殺す!
ガギッ!!
「っ!?なっ!!!?」
身体が硬直した事に驚いている隙に、奴に急接近する。
「ふんッ!!」
上半身を反転させ、背中からの体当たりで壁に吹き飛ばす。
「がッ!??」
ドガッ、と鈍い音が鳴る。
だが、まだ終わらない。
能力の効力はそこまで長くない。大分魔力を絞ったからな。恐らく、あと一・五秒程度しか持たない。
「...充分ッ!!!」
一雫が落ちる前に奴を始末する!
「くそっ...!!」
世剣を出せば一撃で決着がつく。
だが世剣は出すまで、一秒のタイムラグが発生する。今はその時間すら惜しい。
だから、素手で仕留める。
ダンッ!!
残り半秒で奴の目前に立つ。
狙うは眉間、人中、喉元、鳩尾、肝臓。
奴の身体は少し上にめり込んでいる。
眉間と人中は諦める。その代わり、顎を叩く!
「ラァァァァッ!!!!!」
身体を浮かばせて、拳を振り上げる。
鈍い音が鳴りながら、顎が突き上げられる。
無防備になった喉に、平拳を突っ込む。
「ゴッ!!?」
まだ意識を保っている。だが、ここから仕留める。
浮いた身体を反転させ、その勢いのまま後ろ蹴りを鳩尾に向かって放つ。
ゴリュ、と。気持ちの悪い感触が靴越しから伝わってくる。
「〜〜!!!!!」
ヴォルクの口から、声にならない苦痛が聞こえる。
口から血を吐いて、意識を失いかけている。
だがまだだ。これではまだ足りない。
自身の能力を開示したとは言え、高所から落ちて無事だった様な男だ。常人にとっては致命傷だが、この蓮撃もたいして効いてないかもしれない。
だから、ツメは怠らない。
「ッ!!!」
最後に肝臓だ。
ここを潰せば、いくらタフだろうと死ぬ。
地に降り立ち右手を握り締る。全身を回転させて、奴の肝臓があるであろう場所に、正拳を放つ。
「カァッ!!!」
正拳は奴の右腹にめり込んで、奴の肝臓を破壊......
「......ッ!??」
したと思った。
普通であれば、これで終わりの筈だった。......だが、予想外の事が起こった。
......ない。
肝臓が無い。
(なっ!?何故だッ!??)
いや、ダメージはある。ここまでやって何も無かったら、そりゃ本物の化け物だ。たかが肝臓を撃ち抜けなかっただけで、状況が悪化する事は無い。
......だが、俺が想定していたダメージでは無かった。
人体の弱点を的確に突いた筈なのに、まるで見当違いな場所に向かって攻撃していた様なダメージだ。
ダメージは受けてはいるが、致命傷では無い。
......何故だ?
「〜!シャァッ!!!」
「!!」
動揺しているうちに、能力が解けてしまった。
ヴォルクの反撃を避け、後ろに飛び退く。
「ガッ......ぐぞッ......!!!」
血反吐を吐きながら、フラフラの足でヴォルクはこちらを睨みつけてくる。
それはそうだろう。ただでさえ脳を揺らされていたのに、そこからダメ押しと言わんばかりに顎を叩いたのだ。
喉元にも攻撃を加え、鳩尾の攻撃で内臓が潰れたはずだ。立っている事自体が不思議な状態だ。
「......やはり妙だな。」
だと言うのに、何故立てている?まともに攻撃を受けて何故?
......急所を外された?
本来なら、そんな事は無い筈だ。だが、この男が立っていると言う事は、俺がしくじったと言う事だ。
......でも、あんな絶好の好機にそんなヘマをする俺では無い。そこだけは絶対だ。
......だが能力だけでも無いだろう。
無効化の許容量は明らかに超えていた。顎まではまだ良いとして、その後はまともに喰らっている筈だ。
となると............肉体か?
「テメェ......本当になんなんだよ!!!」
「随分と怒るな。......さっきから言ってるだろ、ティーザだ。」
逆ギレと言うものか、これは。
勝手に冷静で無くなってくれるのはありがたい事だ。
「ッ......舐めてくれる...!!」
(落ち着け......逆上はコイツら相手には悪手だ。
......竜神に能力持ちはいない筈......持っていたのがバルドとナーガの二人だけ、それだけは知ってる。有名だ。
......んじゃあ、なんでコイツは能力を使えた?エリンの肉体から使ったのか?......いや、それは無い。そんな手間をふむ必要は竜神共には無いし、そもそも使い方すら分からない筈だ。
それじゃあ、コイツ自身の能力?......それだと、俺が戦ってんのは創世神の片割れって事になるぞ!!あり得るわきゃねぇ!!......それを考えると、やっぱり肉体から使ったって線か......
......だったらなんで使えた?能力を扱えるのはあくまで『人』だけだ。『神』が扱う事なんて出来るものなのか...?
第一、なんでエリンに取り憑く?いくら強いからと言ってもまだ子供。不完全な肉体じゃ受肉は成功しないだろうに.........)
「......ふぁ......」
思考が長い。欠伸が出てしまった。
(......いや、詮索は後だ。今はとにかくこの場を切り抜けねぇと。
とりあえず、能力が拘束系の物なのはさっきので分かった。多分、言葉を聞く事で発動するんだろう。......強い奴が持つ程嫌な能力だ。隙を見せたら一瞬で殺されるってのに......
だがやりようはある。要は喋らせる余裕を作らせなければ......)
「.........................随分、考え事をするんだな。」
奴の目の前で、その言葉を吐く。
「!?おわっ!!??」
あまりにもぼぉ〜っとしていたもので、ついつい脅かしてやるつもりになってしまった。
余程驚いたのか、後ろに飛び退いてしまった。
「おいおい、反応が遅いんじゃないか?今ので頭を叩き潰せたぞ?」
挑発する。
やはり怒りが収まらない。少しでも馬鹿にしてやりたい。
「.........テメェ、何で使わない。」
「.........?」
使わない?
まるで、こちらの切り札を知っているかの様な口ぶりだ。......何の事を言っている?
「.........使う必要が無いからな。」
敢えて、言わないでおこう。
何の事なのかは分からないが、もしそれが俺の使えない物だったら、それだけでコイツを調子づかせるかもしれない。......そうなるとまた苛立ってしまう。
「っ......」
「そも、お前こそいいのか?あの娘を追わなくて。一応、友とやらに頼まれたのだろう?」
「..................この場で、テメェを逃すよかマシだ。」
なんと、これは予想外だ。
思い出して上に向かってくれれば、背後から突き殺そうと考えていたのだが......どうやら、思った以上に恐れられてる様だ。
「まぁ、それはそれでいい。......俺も、お前にはまだ腹が立っているからな。」
「随分と人らしい事を言うんだな。......反吐が出るッ!」
これはまぁ嫌われている。ここまで嫌われる様な事をした覚えなど全く無いのだがな。
......むしろ、コイツの方が嫌われる事をしていると思う。
(落ち着け......平静を保っていても、致命傷を負っている事に変わりはねぇ。脳汁のせいで感覚が麻痺ってるだけで、その内ぶっ倒れる。
......まともにやり合えば、間違いなく殺される。今のコイツには後がねぇ。......逆に言えば、放っておけば勝手に死ぬ状態でもある。ここは......)
......コイツ、やり過ごす気だな。
まぁ、それが最善手だろう。わざわざ死に掛けの獣に止めを刺す必要は無い。面倒ならば、そのまま放置すれば良い。
魔力が切れれば、俺は死ぬ。だから、それまで待てば良い。そういう魂胆だろう。
「さ せ る か よ 。」
世剣を出し、『星旅』の構えを取る。
「......そうくるかッ!!」
一度見せた動きだ。何をしようとしているのか分かったんだろう。受け止める構えをして、能力を使おうとしている。
「やりたきゃやれッ!!!」
コイツは能力を使わない。これ以上使えば、俺を仕留めるより先に魔力が切れる。
だから、剣による一撃で仕留めに来る。
ならば、能力を使ってダメージを逃す。攻撃後の隙を狙って、お前に跳ね返す。
......そう思ってんだろ?
「『使うな』!!!」
能力で奴の能力を封じた。
「っ!?嘘だろッ!??」
だから言ったろ。させないと。
魔力切れを恐れて、お前を殺せるなんて思っちゃいないさ。
万全のヴォルクと瀕死の俺。その俺が奴の喉元に食いつくには、相応の危険を犯さないといけない。
今ので、残り二分三十秒分の魔力になった。
そこまであれば充分。ここで仕留める。
(コイツッ、この状況でやるか!?下手したら死ぬぞ!??)
「畜生ッ!!」
ヴォルクは回避をしようとしているが、もう遅い。
射出寸前だった肉体の狙いをヴォルクに定め、この眼で奴の胸を捉える。
脚の皮膚、筋肉、血管全てに魔力を漲らせる。
そして、世剣を全力で前に突き出す。
肉体が前に引っ張り出される。それと同時に、脚に溜めた魔力を解き放つ。
「ルォォォ!!!」
轟音が鳴り、俺の身体は矢の様に飛び出す。
前方から、身体を押しのける様な圧が襲いかかる。それのせいか、頭の汁が身体の下に流れていく様な感覚を味わう。足が重くなる様な、気持ちの悪い感覚だ。
世界が一気に通り過ぎる。先程の落下とは段違いで、流星群の中に誤って入り込んでしまった様な程に、景色の入れ替わりが速い。目が回るほどの速度で世界が通り過ぎてゆき、俺の意識まで引っ張られていってしまいそうだった。
......だが、そんな状態でも。いや、そんな状態だからこそ。
真正面に居るヴォルクの、焦った顔だけはハッキリと見えた。
「――――――――――」
「――――――――――――」
お互いの目線がぶつかる。
その刹那に、奴が何を考えたのか分からない。
何も考えなかったかもしれないし、考えない様にしたのかもしれない。......だが、もはやどうでもいい事だ。
そのまま俺は。
「.....................殺した。」
『星旅』を奴に当てた。




