第四十六話 楽園
「............................マジで?死んだの?!」
「「「死んだ死んだ〜」」」
「ーーーーーーーーーーーーー」
「あ、茫然自失〜」
「まぁ、しょうがなし〜」
「私達も驚いてるし〜」
「で、ど〜する〜?」
「迎えに行こうか〜」
「そうしよそうしよ〜」
サァァ.........サァァ..........
何処からか、草の擦れる音が聞こえる。
そよ風が吹いているのだろう。身体が冷めない程度の心地よい風だ。
その風に、目を覚まされる。
「――――――――――ん.....」
目を開けると、陽を遮っている木の葉が視界を覆った。
どうやら、木陰で眠っていた様だ。
葉っぱの隙間に入り込んでくる陽の光に、ほんの少しだけ心地良さを感じる。
.....だと言うのに、何故だか寒い。暖かい筈の陽の光を浴びているのに、身体が暖まらない。
指先がずっと凍えたままだ。
これではいけない。何処かで火を起こそう。
そう思って顔を上げた。
「...........?」
視界に飛び込んできたのは、一面に花を咲かす野原だった。
もし天国がこの世にあるのだったらこういうものの事を言うのでは無いかと思うぐらい、美しい場所だ。
「............何ここ?」
だがそこは、僕が全く知らない場所だった。
.....いや、本当に知らないのだろうか?なんだか見覚えがある様な、でも来るのは初めてな様な.....そんな感じがする場所だ。
サァァ.........サァァ..........
風が吹き抜ける。
野原に生えた花は揺れ、降り注ぐ光を浴びる。
.....見たことのない花が咲き乱れている。翠色の花、向日葵が小さくなった様な花、花弁が七色に分たれている花。そんな見たことのない花が、その野原には生えていた。
..........それは本当に、この世のものではない様な美しい光景だった。
「.........................」
ここは何処だろう。
と言うか、僕はなんでここにいるのだろう。
さっきまで何をしていたのか、全く思い出せない。........と言うか、僕はここにいるべきなのだろうか?
考え、悩み、答えを出す。
.....なんだかそれは違う様な気がする。ここに居たらいけない、それだけは分かる。
.....でもなんで違うのかが分からない。
「..................でも。」
行かなきゃいけない。戻らなきゃいけない。
...............理由はあるのかどうなのかも分からない。だが、誰かを置いて来てしまっている事はなんとなくわかる。
.....その人が、とんでもない寂しがり屋だと言うのも。
だから戻らなくては。
なんとかしてでも戻らなくては。
「.......................え?」
そう思って立ち上がったら。
「「「じぃ〜〜。」」」
白い髪をした小さな女の子達が、音もなくそこに現れていた。
見た感じは、世間を知らなさそうな、無邪気で好奇心旺盛そうな女の子達。
........でもその子達には、竜の様な尻尾と角があった。
「――――――――――――」
普通なら驚くのだろう。いや、おかしな事だと笑い飛ばすのだろう。
いくら竜人だからって、本当に竜の一部を持った人がいる訳がないのだから。
..........でも何故だろう。
別に不自然でも無い様な気がする。
と言うか........これが本来の竜人なのではないのかとすら思う。そのぐらい、僕から見て彼女達は自然だった。
「........こんにちは。君らは誰だい?」
警戒することもなく、話しかけてみた。
まるで、久しぶりに友人と話す様に。
「何者でもないと言うか〜。」
「名乗る程の者でもないと言うか〜。」
「ここに住んでいる者としか言えないと言うか〜。」
まるで三つ子かと思う様な喋り方をする少女達。.....いや、三つ子かもしれない。
角や尻尾の形、髪色は違うが、顔がそっくりだ。
「....................ここは君らの住んでる場所?」
少し考えて聞いてみる。
「ん〜、ど〜だろ〜?」
「そうとも言えるし〜?」
「違うとも言える様な〜?」
仲が良いのか、まるで事前に打ち合わせでもしたかの様な連携で、こっちの質問を返して来た。
その反応が何故だか.......懐かしい様な.........変な感覚だ。
「...............持ち主は別の人って事?」
この言い方だと、そう聞こえたので思い切って言ってみる。
「そんな感じだね〜。」
「持ち主って訳じゃないけどね〜。」
「本人は『皆のもん』って言ってるしね〜。」
.....なんだか、警戒してるのが馬鹿馬鹿しくなる程呑気な雰囲気だ。
物凄くのんびりしている。
「それじゃあ、その人の所を教えてくれないかな?簡単な説明で良いから。」
場所を聞いてみる。
「「「なんで〜?」」」
「..................ここから出たいから。」
感覚だけど.....自分の意思ではここから出られない様な気がする。ここはそう言う、結界じみた場所の気配がしたから。
「別に良いけど〜?」
「ホントに良いの〜?」
「もちょっといてもいんじゃない〜?」
彼女達は、純粋な眼を向けながら質問をしてくる。
.....まるで妖精の様な、少し危うさを感じるその質問に。
「.........本当は居たいけど、置いて来ちゃった人が居るから。」
そう言って、居る事を拒絶した。
「「「.....覚えてないのに?」」」
同じ顔をして、光を呑み込んでしまったのかと思うぐらいの真っ暗な瞳をして、彼女達は核心を突いてきた。.....その豹変ぶりは、身体が勝手に逃げようとするぐらい恐ろしい物だった。
「覚えてないなら知らないも同然。」
「知らない奴に何かしてやる義理なんて無い。」
「それでアンタが苦労してるんだったら、わざわざ気にする必要は無い。」
「................」
まるで、子供を諭す様な口調で彼女達は話す。.....きっと善意で言ってくれてるのだろう。
.....確かに覚えていない。その人が誰なのかを。
「.........でもね。.........それは、ここに居ていい理由にはならない。」
だから行かなきゃいけない。
その人を一人にしちゃいけない。
それは.....何故だか強く思えた。
「「「どうしても?」」」
「うん。.....どうしてもだ。」
彼女達の眼を見据えながら断言する。
君らの言う通りには出来ないと。
観念した様な感じを出しながら、彼女達は揃って肩をすくめた。
「..........そっか〜。」
「説得は無理か〜。」
「んじゃあ諦めようか〜。」
相変わらずのんびりしているが、納得してくれた様だ。
彼女達は尻尾を少しだけ左右に振りながら、僕の眼を見て言った。
「「「後ろにいるよ〜。」」」
「......................後ろ?」
その言葉を聞いて、ゆっくりと振り向く。
「..........ふぁ...........ん。」
........確かに何かが居る。
木に隠れてて顔は分からないが、白髪の少年がいる。
年齢は十七歳と言った所だろうか。手を頭の後ろに置いて枕にし、欠伸をしながら足を組んで、木陰で寝そべっている。
だが、妙な服.....の様な物を着ている。
まるで、竜の鱗を鎧にした様な服だ。
そして.........彼は彼女達と違って、角も尻尾も生えていなかった。
「...........ねぇ、あの人が...」
聞こうとして彼女達の方を振り向くと。
そこにはもう何も居なかった。
「―――――――――――何なんだ...?」
さっきから意味の分からない事が起きている。
.....これは現実の事なのか?まるで夢でも観ている気分だ。
「...............妙な話だ。」
「.....え?」
今、僕は口を開いていたのだろうか?
何も喋っていない筈なのに、僕の声が聞こえて来た。
「ティーザ・ザナルカンド。........今までの転生体の中でも、生き写しと言わしめる程の力を持つ少年。」
「――――――――――――」
違う、僕じゃない。
僕の声ではあるが、僕ではない。
ゆっくりと振り返って見る。
「..............レイがそう言ってたんだけどなぁ。」
その声は。
木陰に居る青年から発せられた声だった。
「意味不明なんだけど?なんでこんな事になってんの?」
「――――――――――――」
おかしい?
.....それはこっちのセリフだ。
声はまだ良い。
何で君から...........僕の魔力を感じる?
「........まさか覚えてない?何でここに来てしまったのか。」
「.......貴方は知っている様に聞こえるな。.........どう言う意味だ?」
妙な感覚だ。
他人と話しているのに、まるで鏡に話しかけてる様な気持ち悪さを感じる。
「死んだんだよ。」
「............は?」
呆気なく、さりげなく言ったその発言に思考が止まった。
「ティーザ・ザナルカンドは、なんか変な奴に心臓を潰されて死んだ。ただそれだけさ。」
「――――――――――――――」
僕が......死んだ?
「そう、死んだ。.........いや、本来なら死んでいるって言い方が正しいかな。」
.....思考を観られたのか?今。
それに、本来なら死んでいるって.........
「まだ生きてるんだよ、お前は。.......死にかけではあるけど。」
「.......................死にかけ.......」
.......待て、落ち着こう。まず整理するんだ。
僕がここに居るのは、僕が心臓を潰されたから。そして、その心臓を潰したのはヴォルクという者。
そいつのせいで、僕は今ここに居るって事なのか?
..........それじゃ、ここは三途の川の様な場所?
「大体合ってっけど、二つ違うぞ。」
「....................やっぱり、観てるんだな。」
今ハッキリ分かった。
.....コイツも僕と同じ、心に干渉できる者か。
「観てない、聴いてるだけだ。」
「..........同じ事を。」
ヘッと、僕の言葉を鼻で笑って、彼は話を始める。
「一つ目は、ここは死んだ後に来る所じゃあない。........俺が作った世界だ。」
「...........世界?」
妙な言い方をする。
結界ではなく、世界と彼は言った。
「二つ目は...........心臓が潰されたからここに来た訳でもない。」
「............と言うと?」
誰かに連れてこられたと言う訳か?
「アー.................いや、さっきのガキンチョが居たろ?アイツらがお前を連れて来たんだ。」
「..........あの子達が?」
「あぁ。本当なら俺の方から行ってやろうとしたんだが、先を越されてな。」
来ようとした?何処にだ?
「.............何で彼女達は僕を?」
何故連れて来たのだろう。それをする意味があったのだろうか?
「..............さぁて?」
.....どうやら、そこまでは教えてはくれない様だ。
「....................どうすれば、元の世界に戻れる?」
思い切って聞いてみる。そうしなければ何も始まらないから。
「戻ってどうする?お前の心臓は潰れたまま。戻った所ですぐに死ぬぞ。」
「.....................」
「そんな事やった所で意味は無い。........だったらアイツらの言った様に、ここでゆっくりして良いんじゃあない?.....ここは良い場所だ。お前の敵は誰も居ないんだからな。」
.........試されているのだろうか。
悪意も何もなく、ただ単純に答えを聞いて来ている。
.........空を仰ぎ見る。
綺麗な晴天だ。雲こそあるが、綺麗な青空だ。
「.....................このままでも同じだよ。」
ここに居る事は、死んでいるも同然の事。
だったらせめて足掻いてみたい。足掻いて、なんとか生きてみたい。
........死んだらそこまでだ。
「................本当はなんだよ?」
「何って?」
「.............死ぬと思ったら死のうとする奴の言葉じゃあない。お前の様な奴はな、最後まで足掻くなんて事言わないよ。」
心を聴かれ、核心をつかれる。
........本当の所か。
「.............思い出したい。それだけだよ。」
自分が置いて来てしまった人が誰なのか。.....何故だか、それを今すぐにでも思い出したい。
だから帰りたい。死んでも良いから帰りたい。
........納得できないまま死ぬのは嫌だ。
「.........たったそれだけで死にに行くのかよ。.....バカだろお前。」
そんな言葉を言われた。
でも罵倒ではない。.....まるで褒めているかのような、そんな優しい言葉だった。
「バカでも良いさ。........本当に良いんだ。」
本来なら嫌だと言う筈なのに、不思議とそれでも良いと思えた。
「..............そっか。」
そう言って、彼は立ち上がった。
「.....現世への道案内をしよう。ついてきな。」
立ち上がった彼は、花が咲き乱れる野原に足を踏み出して行った。
その彼の後ろをついて行く。
..........木陰で隠れていた姿は、少し華奢な身体つきで.......女装しても違和感が全く無い程、筋肉の少ない身体をしていた。
真っ白な髪は首元まで伸びていて、風に靡かれている。それだけでも、女性に見られてしまうかもしれない。........そのくらいの雰囲気だった。
「アイツら.........って言い方は違うか。女に見られるのはお前もだろ?」
「............心を聴くのが趣味なの?」
「聴かれたくなけりゃ、工夫するこったな。」
バカにした様な声色で、一切振り向かずに話しかけて来た。
.......そう言えばさっきから、彼はコチラに顔を向けない。........何か理由でもあるのだろうか?
「理由なんざ無い。向ける理由がな。」
「あぁ、そう言う.....」
.....人に興味がないんだろうな。本来は。
そう思えるぐらい、反応が薄かった。
「.................そう言えば、爪は持ってんの?」
「爪って?」
「え〜っと............森にあった剣だ。持ってない?」
爪.........爪って、森で拾ったあの剣の事かな。
.......森?森で剣って何で?森でそんな物拾った覚えは無いんだけどな...
「.........死にかけなのが影響してんのか、記憶が曖昧になってんな。.......だがまぁ、持ってんなら良いさ。」
「................曖昧....か。」
今の僕は、走馬灯を観ている様な状態なのだろうな。だから、記憶が曖昧なのだろうか。
「.....こっちに来るのは意識だけだ。その時の身体状況によって、意識の状態も変わる。
お前は多分、頭に血が回ってない状態でこっちに来た。だから記憶とか、そう言うのがよく思い出せないんだろうな。」
.....そう言うものか。
彼の作った世界とやらも、万能では無い様だな。
「...........爪だけじゃ足りないぞ。」
「.........足りない?」
少しだけ不満そうに、彼は言葉を吐いた。
「良いか?お前が持たなけりゃいけないもんはまだある。.....いや、本来なら最初から持ってる筈の物なんだが..............」
(てか、本当は爪だけの筈だったんだよなぁ。それ以外は揃ってる筈だったのになぁ。)
.....どう言う事だ?
最初から持っている筈の物が、僕には無い?.......一体何の事だ?
「.........まぁ、ブラブラしてたらそのうち見つけるだろ。この話は頭の隅にでも置いて、ふとした時に思い出してくれ。」
「..............分かった。」
多少の疑問はあるが、これ以上聞いた所で答えなさそうに感じたから、聞くのはやめた。
.....それ以上に気になる事もある。
「.........ところで、貴方は誰なんだ?」
僕と同じ声がする。
これはそこまで違和感がする訳じゃない。声が似てる人なんて割といる。
.........だがこの人から感じる魔力は、明らかに僕のものだ。.....何故感じるのだろう。
「今は後回しにさせてもらうよ。」
そう言って、はぐらかされた。
「それじゃあ、あの子達は?」
「アイツか?.....俺のダチさ。」
笑顔で言っているのだろうか。
声色が、とても優しい物になった。
「お前らで言う所の........騎士って所だな。」
「...............あの子達が?」
「あの状態だとあんなんだが、やる時ゃやる奴なんだぜ?」
別に何も言ってないのに、急に自慢してきた。.....そのぐらい、あの子が自慢なのだろうか?
「.....でも、少しのんびりし過ぎじゃないの?.....一応、部外者であろう僕に全く警戒しても無かったし。」
「アイツにとって、お前に警戒する理由はねぇ。.....それはここにいる連中もだ。」
「何で?」
「何でだろうな?」
...........物事を詳しく言わない人だな。
「...............そうだ、勘違いのない様にしたいから言うが、今までのは俺は全く関与してないからな。全部お前の身体が勝手にやった事だからな。」
「..........何の事?」
分からなくて良い、恥ずいから。
そう言って、彼は口を閉ざした。
「.......................ん?」
ちらりと、視界の端に花ではない何かが横たわっていた。
顔を横に向けると、そこにはさっきの少女達が..........
「くぅ.........んにゃ...........かぁぁ.........」
「..............いや誰?」
さっきの少女達にそっくりな、裸の女性がうつ向けのまま寝転がっていた。
........その人も何故か、さっきの少女達と同じ魔力をしている。
「ん?...........あぁ、戻ったのか。」
「戻った?」
「気にすんな、ここじゃいつも通りの光景だ。」
そう言って、彼は足を止める事なく歩を進める。
「.......いくら平和でも、あんな格好じゃ危ないでしょ。」
「アイツを襲おうと考える奴なんか居ないよ、ここには。.....てか、それをするのは雄共だろ?だったら襲われるこたぁない。」
「..........貴方は男では?」
「ダチに欲情するバカがいるか。........第一そんな事する程、俺は恩知らずじゃない。」
........何なんだろうか、一体。
ここじゃ不思議な事じゃないのだろうか、あの状態は。
それに、"恩知らずじゃない"って.....
「.................着いたぞ。」
足を止め、彼が話す。
その言葉を聞いて、彼が見ている先を見ると。
........胸に大穴を開けた僕が横たわってた。
「―――――――――――――」
.....見て、少しだけ思い出した。
胸を砕かれ、血を吐き出し、心臓を潰されたあの不快感を。
「どんな気分だい?」
「.......................わざわざ聞く?」
「そんなんじゃ先が思いやられんな。あれはただのイメージだ。.......現実はもっと酷いぞ。」
今、この状況で聞きたくなかった言葉だった。
.....想像でこれなんだ。現実の方はもっと痛々しい事になってるんだろう。
「後悔したか?.......戻るなら今のうちだぞ?」
戻れば地獄の様な苦しみを味わいながら死ぬ事になる。そんな目に遭いたくないなら、今のうちに決断しろ。
.....そんな心の声が聴こえる。
「........アレを見て、少しだけ思い出した。」
「おぉそうかい、だったら戻る理由は無くなったな。........んで、どうすんの?」
「余計に戻れない。」
「...............なんでだ?」
思い出したからだ。置いて来てしまった人を。
名前は思い出せない。その子の言った言葉も思い出せない。
.........だが確かに、僕に向かって笑ってくれた少女の顔が、頭によぎった。
その顔を見て............とても綺麗なものだと思えた。そんな物を穢したくないと思った。
.....もう一度で良いから、またその顔を見たいと思ってしまった。
.........だから。
「..............割とキショイぜ?それ。」
「悪いかい?」
そう言うと、彼は口を閉ざし。
「..........全然。むしろ良い...!」
楽しそうに笑った。
「やっぱりそうこなきゃ、生きてても楽しくないもんな。.....何かにバカになれるなら、それはとても良い事だろうよ。」
「..........バカに、ねぇ........」
本当に楽しそうに、嬉しそうに語る。
.....僕がその言葉を言ったのが、本当に嬉しかったかの様に。
その雰囲気に、釣られて僕も笑ってしまった。
「......................心臓は破損しただけだ。だったらまだなんとかなる。」
彼は、突然話を変えてきた。
だがどうでも良い話ではなく、コチラがその意思を見せたから話す内容の様だ。
「.....と言うと?」
「ギリギリ動いてはいる。.....魔力で心臓を覆えば、多少の無茶はきく。」
「........魔力で覆う...」
.....言ってる事の想像は分かる。
潰れてしまった事で破損した部分を、魔力で再現して血液を無理矢理送り出せと言っているのだろう。
「そうだ。............だが、生命線である心臓を潰されてる以上、魔力を作り出す事は現状無理だ。」
.....その言い方だとまるで、心臓が潰れてなければ大体は致命傷ではないように聞こえるけど......
「案外そうだぞ。人間となると話は変わるが、竜人は心臓で魔力を作る。無理矢理でも良いから動かせば、竜人の蘇生はそこまで難しい事じゃない。」
まぁ、頭とか魂が無くなってたら無理だけど。と付け足して、彼は説明をしてくれた。
「心臓を再生する程の技量をお前は持ってない。.....だが延命処置ぐらいならできる筈だ。」
「...........だろうね。でもそう簡単じゃないんでしょ?」
「あぁ。心臓が普段している動きを、魔力で再現しないといけないからな。魔力消費は馬鹿げた量になるし、心臓を擬似的に動かす様に魔力操作をする必要もある。.......安静にして五分って所だろう。」
つまり、もし戦闘を行えば時間は減っていくって事か。.......いや、傷口からの出血も考えたら時間はもっと少ない。
........下手したら、三分しか無いのかもしれない。
「.........それでも行くかい?」
最終確認と言わんばかりに、挑発してるかの様に聞いてくる。
「.............行くよ。」
笑いながら言い返す。
確実に死ぬ訳では無いのなら、やってやるとも。
サクッ。
横たわってってる僕に向かって歩き出す。
「っ...」
僕と言う存在が、その身体に吸い込まれていく様な感覚がする。
「良い答えを返すな。........ついでに良い助言もしてやろう!」
歩き出している僕の背中に向かって、彼は言葉を投げ掛ける。
「ディアドラと言ったっけな?厄ネタ同然のヤベー奴だが、良い女だ。せいぜい大切にしてやれよ。」
.....ディアドラ。
その名前を僕は知っている。
........でも何で。
「...........何でその名前を」
知っている。そう聞こうと振り向いた。
........振り向いて、混乱と納得が僕を襲った。
何で彼から感じる魔力が僕の物なのか。何で僕と同じ声をしているのか。.....何で、僕が忘れた事を僕以上に知っているのか。
全てに混乱して。
.....理由も無く、全てに納得した。
「........言えねぇな。」
意識が薄れていく中で、振り向いて見えた彼の顔は。
「...................それを知るにゃ、お前は幼い。」
.................僕と同じ顔だった。
「......あ、帰っちゃった?あの子。」
「帰ったよ。残念だったな。」
「まぁ、別に良いさ!好きな時に休みゃいいしさ!......んじゃ寝る!またね!」
「.........自由人め!」




