第四十話 本性
人の本性ってのは、見ただけじゃ分からない物。
「.......はぁ。」
気が滅入る。
理由は簡単。本来の目的と全く違う事になってるから。
「.........なぁんでこうなった?」
ここでいい所を見せて、ほんのちょぴっとだけでもいいから気に入られたらいいなと思ってたのに。なんか怒って別行動にしやがって。
「ガキンチョめぇ......」
.....まさか、あの子の事好きなのか?だったら悪い事したとは思うけど.....幾ら何でも横暴過ぎじゃね?
「.......ネイの言った通りになっちまったか。」
『あの子は性格が悪い訳ではありませんが、ちょっと正直過ぎる所があるので、怒らないでくださいよ?』って言ってたけど.......あれは『自分は特級だから』とかでそう言う態度を取ってる訳じゃない。.........絶対、元からああだな。
じゃなけりゃあんな強気に出ない。
「............こりゃ、前途多難だな〜。」
他人に対しての興味が限りなく薄いってのは知ってたから、興味を持たれた事はいい事になるだろう。.......マイナスの方向だけど。
........本当にますます分からん。
「何をどうしたらあんな気に」
「あの.....先程からどうされましたか?」
「..............」
しまった。いつもの癖で独り言してた。
「独り言は聞くもんじゃ無いですぞ〜?」
「あ.....申し訳ございません。」
危ない危ない.....言ったらマズい事まで口に出す所だった。
ここから先を言っちまうのは、流石にマズいからな。
「まぁさて置いてだ!.......あそこかい?」
「はい。.....巡回が少なくて助かった。」
前方に洞窟.....と言うより、洞穴を掘り進めて無理矢理居住できる様にした物がある。
十中八九、盗賊どものアジトだろう。
「.....まぁ巡回が少なかったのは、なんとなく分かると言うか......」
「.....まぁ、そう言うお方ですから。」
ここに来るまでに見つけた巡回は、目に見えている者で十人程度だった。普通だったら、人質を取ったら警戒して、巡回を増やすものだ。
それをしなかったのは、多分フェトカが絶対に逃げれない様に、中の警備の方を多くしたからだろう。なんたってあの子は、強い上に手の付けられないお転婆姫だからな。.....そうでもしないといけない暴れん坊をなんで人質にしようとした?と言いたくなるが、そこは置いておいて。
「.....どう攻めますか?」
「ん〜、そうさなぁ。」
いつもならサクッと全滅させる所だが、これは救出作戦。あまり敵を追い詰めると、フェトカをダシに使われるだろう。.....それはあまり面白くない。それに、ティーザ達が中に入りきれてもない状況でそれが起こるのが一番ダメな奴だ。
.....となると、相手に希望を見せておいた方がいいな。
「........最初は俺だけでやる。フェトカ.....さんの救出が済んだら、騎士部隊は俺が戦ってる反対側から攻めてくれ。」
まぁ、やる事ぁいつもと変わらん。敵をめちゃくちゃな状況にして叩きのめす。.....いつもと全く変わらん単調な作業だ。
「................イェデンさん。コイツ正気ですか?」
ムッ。取り巻きの騎士にその様なことを言われるとは。
「そりゃどう言う事ですかな?騎士殿ぉ??」
「一人であの人数を捌ける訳ないだろ。.....猪武者も躊躇う程の戦力差だぞ。」
まぁ、要約しちゃえば『千人全員、俺が倒してやらァ!』って言ってる様なもんだし。無茶な事だとは思われるだろうな。
「そうだな!.....だが、その戦力差を物ともしないのが特級なんだぜ?」
実際、盗賊相手に苦戦はしない。.......まぁ、ただの殲滅作戦の場合だけど。
「よせ。.....この人を怪しむのは分かるが、今は後にしろ。」
「.......まぁ、戦ってくれるんだったら良いですが。」
ん〜、こっちにも信頼されてねぇのかな?.......流石に泣きたい。
だが、ここで泣くわけにはいかない。泣くのは全部終わった後にしよう。
「最初はそこまで戦わない。んであんたらは、盗賊どもが俺に気を取られてる隙に.....なんかこう.......食糧庫に火をつけてくれ。そんで、あの子達がフェトカさんを救出してから、盗賊どもを徹底的に叩き潰す。」
「「「...................」」」
なんだ?妙なこと言うなコイツみたいな空気じゃねぇか。
「.....これは戦争じゃないんですよ?」
「.......そりゃどう言う意味で?」
別の騎士がまた何か言い出した。.....なんだよ、俺は普通に盗賊相手に有効な手段を出してるだけなのに。
「長期戦になるんだったら、兵糧攻めは効果的ですよ?それはこっちだって分かってます。...でもこれは短期戦。相手も兵糧を食う時間がない。なんなら一日で終わるかもしれない戦いです。.....そんな戦いなのに兵糧攻めして、何の意味があるんですか。」
そう言う意味か。
.....確かに、短期戦で兵糧攻めする理由はない。さっさと叩き潰さないといけないんだから。.......だが。
「意味ならある。....アンタらが思ってる様な意味ではないけどね。」
「.....そうですか?」
「あぁ。これに関しては、『気にしてくれたらいいなぁ』ぐらいのもんと考えてくれ。」
こんな所で説明なんぞしてられない。だから、短く言っておく。
「んじゃあここは俺だけで行くんで、アンタらは反対側で待機。もしくは食糧庫ファイヤー。オッケェ?」
「「「...................」」」
「.....聞こえなかった訳ではないだろう。早く行け。」
「「「...........了解。」」」
ザッザッザッ.....
疑問を抱きながら、騎士達は反対側に向かっていった。ここに居るのは俺と...
「.......あっち行かねぇの?」
「私が貴方を見てないと、彼等は素直に命令を聞きませんから。」
......この、イェデンとか言う騎士だけだ。
「.....まぁ、だよなぁ。」
「仕方ありませんよ。今の若者で貴方の事を知ってる人の方が少ないんですから。.....昔の様に、誰もが貴方達を知ってて、頼りにしてた世界じゃないんですから。」
「そんくらい知っとるわい!」
あれだな。.....えっと......盛者必衰ってやつかな。衰えたつもりは一切ないがね!
ただ.....やっぱ、少し寂しいな。
「.....さてと、じゃあ行きますかな!」
さっさと攻めて、敵を混乱させなきゃな。.............あの子も居るんだ、もう潜入してるだろうし、少しでも負担を軽くしてやらなきゃいけない。
「私も行きましょうか?」
「いや、アンタも俺が出たら反対側で待機しててくれ。指揮官が突っ込むのはマズいだろ?」
「.....では、特等席で貴方の戦いを見ておきますよ。」
微笑みながらそんな事を言った。.....全く。
「..........あん時と同じ事言うぞ、ガキンチョ。.....俺の戦いは惨いもんだ。決して格好のいいもんじゃない。」
「―――――――――――――――」
騎士の顔が固まる。.....驚愕と喜びの混じった表情で。
「.....何故覚えて......!」
「あん時と全く変わってなかったからな.......っ!!!」
ダバッ!!!
草むらから飛び出して、アジトに一直線に駆け出す。
「......!?誰だテメェ!!!」
巡回に見つかった。...だがそれで良い。
俺の仕事は囮だ。もっと目立って、もっと引き寄せなくてはいけない。
「すゥゥ.....!!」
空気を肺に取り込む。
腹から声を出す様に、何処にいても聞こえるぐらいの馬鹿でかい声で叫ぶ。
「特級傭兵、シュランゲ・フェストケルパー!!!手前らの首、頂きに参ったァァァァ!!!!!!」
シュランゲ突入 十三分前
「なぁ、噂聞いたか?」
「.....ひょっとして、白蛇殺しが決闘したって噂か?」
「お?流石に知ってたか!.....あぁ、街中で売ろうとしてた時に小耳に挟んでな。」
「はぁ.....足がつくから薬はよせっつったろ。」
「まぁまぁ!金にはなるんだから良いじゃねぇか!.....んでな?ちょうどそん時に、決闘するとか言ってたから見にいったんだよ!」
「子供が戦うところ見て何が楽しいんだか......大体、真剣じゃないんだろ?そんなおままごとを見て楽しんで恥ずかしくねぇのか、元傭兵として?」
「うるせぇな、ちょっと黙って話聞け!.....そこで、白蛇殺しと戦ってた子なんだけどなぁ?!」
「どうせ負けたんだろ。.....あんなバケモン殺せる奴に勝てる奴、居ないだろうしな。」
「それが残念!なんと引き分けた奴が居たんだよ!!」
「.....へぇ。お情けでももらったのかな?」
「ちげぇよデコ助。確かにあの女の子可愛かったけどさぁ?」
「?.....女が戦って引き分けたのか?」
「まぁな?.....それも多分、多く見積もっても十四歳ぐらいの女の子がな。」
「...............へぇ?」
「しかもなぁ?!白蛇殺しと同じぐらい強かったんだよその子!!魔術師かってぐらい魔術を使うし、槍捌きとかも綺麗でなぁ!.....空振ったり、鍔迫り合いになる度に風がこっちに来るぐらいだ。力だってとんでもねぇ!」
「.................ふ〜ん。」
「おまけにまぁ綺麗なんだよ!!いや、白蛇殺しも噂以上に綺麗だったけど、あの子はまた別格だ!まだケツも青そうなガキンチョなのに、町一番とか言われてる勘違い女も恥ずかしがって顔を俯かせてしまいそうなほど可愛くってなぁ!!」
「..............いいなその子。」
「だろ?!俺、あの子のファンになっちゃいそうで」
「高く売れそうじゃないか。」
「........お前、またそれか?」
「それかってなんだよ?これも立派な売りだ、テメェよかマシのな。」
「いや、お前のほうが酷い。俺はクズにしか売らせねぇが、お前は子供にも売らせるじゃねぇか。」
「はん!金がねぇっつうんだから、手っ取り早く稼げる手段を身体で教えてやってるだけだよ!ありがたく思って欲しいね!!.....まぁ、その後の事は知らねぇが。」
「ほぼ詐欺みたいな事して監禁、おまけにヤク漬けまでして社会復帰不可能にした挙句、貧乏娼館に利子つけて売り付ける奴の何処にありがたく思う要素がある?」
「うるせぇ。よく言うだろ?騙される方が悪いって。」
「お前の場合、逆だ悪党。」
「テメェにとっての美人の基準はな?ビックリするほど高いんだよ。.....そのテメェがそこまでベタ褒めするんだったら、相当な美人だろ?絶対高く売れる。.......下手したら、百万ゴーネぐらいで売り付けれるんじゃねぇか?」
「ざけんな、あの子に身体売らせるぐらいだったらテメェを先に殺してやる!」
「まぁまぁ話を聞けよ。あのフェトカ姫だって、とんでもない暴れん坊の癖に美人だろ?そう言うもんなんだよ。」
「何が?」
「あのガキがそうなんだから、テメェの言ってるそいつはもっと美人に決まってる!」
「気性が荒いからって、美人とは限らんだろ。.....それにその女の子、白蛇殺しにはベタベタしてるらしいけど、他の男には極端に冷たいらしいぞ。.....なんなら殺そうとしたぐらいらしいし。そんな女の子絶対売れないぞ?」
「だから調教するんだよ!.....こっちも役得ってやつだからな。」
「テメェさてはそっちが目的だな?!やっぱテメェクズだ!クズ以外の何者でもねぇ!!」
「.......僕らからすれば、どっちもクズだよ。」
「...........え?」
「................な!?」
カッ!!!
「―――――――――――――」
ドサッ.....
顎を素早く叩いて、片方の男を気絶させる。.....麻薬売ってお金を稼いでる時点で、もうクズなんだよ。
「白蛇殺し...!?」
「君にちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
もう片方の男の前に立つ。.....さっきからずぅっと、聞き捨てならない言葉が聞こえてたからな。
「女の人を大事にしない時点で、もう君を許せないんだけどね。.......聞き間違いじゃなければさ?君さっき、ディアドラを売っぱらってお金を手に入れたいとか、ディアドラの身体を好き勝手したいみたいな事言ってなかったか?」
「........................いや........あの............」
「黙ってんじゃねえよ、殺すぞ。」
この蟲が。テメェごときが犯していい女じゃねぇんだよ。
「ひぃ!?」
「ディアドラはな。誰よりも綺麗で、可憐で、日向の様に暖かい魂を持った子だ。......それも、まだ十歳の幼女だ。......テメェの様な蟲には理解できんだろうがな、ガキってのは飽きる程遊んで、疲れ果てて友達と笑って、ぐうぐういびきをかいて眠らなきゃいけないんだよ。」
そんな、大人の連中に心配しか掛けない.....この世で最も愛おしいもんに手を出そうとするなんてな。
「..........俺と僕が大っ嫌いな事なんだよ。」
それを俺達の目の前で意気揚々と話すとはな。......余程死にたいんだろうな。
「あ.............ぁぁ.........!」
「もう一度だけ................お前、ディアドラに手を出そうとしたか?...............無理矢理?」
もう、コイツの処遇は決まってるが、一応聞いておく。...一切の迷いなく殺せる様に。
「.......が..........ガキが調子に」
無駄な事を口走りそうだな。
「『折れろ』」
ゴギャ、メギャ!!!
「.............へ?」
不快な音がその場に響いた。.....あまりに生々しく、こちらまで痛くなってしまいそうな音。
男はゆっくりと........メチャクチャに折れ曲がった両腕を見た。
「――――――――――――――」
不思議そうに見ている。......そりゃそうだ。折る前にわざと痛覚を切った。ただ言葉を発しただけで自分の腕が折れていると言うのも、信じられない所だろう。
........だが現実だ。
「.........ウワァァァァ!!!!?」
本人も分かってるだろう。乱雑に折れたせいで、外側に出てしまった骨の部分から自分の生命が流れ出てるのが。
.....だと言うのに、その痛みを感じられない恐怖が。
「最後だ。............犯そうとしたか。」
少しだけ、怒気を込めて発した。
「早く答えろ、俺の気は長くない。今度は頚椎だ。」
「ひっ.............ぁぁ........!!!」
大の大人が、子供に怯え散らかして.....情け無い。
「.........はぁ.....」
そんな姿を見たら.........段々、この男に対する怒りが無くなってきた。
「.....もう良い。飽きた。」
これ以上やっても意味が無い。.....こんな不快な奴、さっさと殺してしまおうか。
「.........『死」
「カムバック、ティーザァァ!!」
ドゴォッ!!!
「ヌェッタァ!!??」
殺そうとした瞬間、後頭部に衝撃が走った。
殴られたのだろう。.....だが、痛みの無い不思議な拳だ。
「全く.....ちょっと目を離すだけで殺しかけるとは!そんなに怒っちゃダメでしょうが、このアホちん!!」
「んなっ!?.......俺は馬鹿な事してないぞディアドラ!!」
ただお前に不埒な事をしようとしてた蟲を駆除しようとしただけじゃないか!.....これでもまだ温情がある方だぞ!?
「あぁ!?まだバルドが混じってんなぁ!」
「さっきから何言ってる!?俺は俺だぞ!!」
「ティーザはオレとか言わん!オラァァァ!!」
ドギュオッ!!!
「ブッ!!!」
また殴られた。.....痛みはないけど、心が痛い。
「.......戻ったかな?」
「.....あのさぁ!バカスカ人を殴らないで欲しいな!!僕だって痛くない訳じゃないんだからさぁ!!!」
第一、君だって怒って人を殺しかけてんじゃん!人の事言えないじゃん!!
「それはそれ!これはこれじゃい!!.....てか、ちゃんと戻ったか。いや〜良かった良かった!」
「何が!?」
さっきから変なこと言って.....ちゃんと自分の意思で怒ってるんですけど!実際許せないし!!
「.........自覚無しか......ヤッバイかもなぁ。」
「.....だから何が?」
「何でもない!気にすんな!」
.....さっきからおかしな事を言って.....僕おかしな事やったか?
.....いや、やってない筈だ。違和感だってなかったし......
ガサッ.....
「..................喧嘩したのか..........?」
フィーリウスが、のそのそと出てきた。......と言うか、ディアドラの方が先に辿り着いただけだろう。
「え.....えっと」
「いや、喧嘩じゃない!」
ディアドラがそんな事を言った。........まぁ、どちらかと言うと、叱られた様な感じだからそうなんだろう。
「そうか................そいつは..........?」
あ、忘れてた。
「ひっ.........!!」
「.....あのさティーザ。.....これはやり過ぎって。」
ディアドラが、グチャグチャに折れた男の両腕を見て痛々しそうに呟いた。
「女の人を弄ぶ様なカスは死んだ方が世の中の為だと思うけど。」
「おぉう。バルド混じり初めてっから気をつけろぉ?」
.....だから何を言ってるんだ?
「えっと、何話してたのかは.............まぁそんな事はどうでも良い。おたく、アジトの裏口みたいなもん知らない?」
.....あぁそうか、コイツから聞き出せば良いか。
「.........アンタなのか............白蛇殺しと戦ったってのは........」
「?.....まぁ、そうだけど?」
.....コイツ、この状況でも言うつもりか。
「........女神みたいじゃねぇか........最高だな........」
「.............ごめん、なんかキショいから黙って。」
男の顔から固まる。.....ほんわかしてて、優しそうな顔から出るとは思わなかった言葉だからだろう。
「質問に答えて。.....アジトの裏口とかあったりする?」
雰囲気だけは柔らかく、しかし絶対に否と言わせない威圧感を放って、その言葉を発した。
「.......それを言うとでも?........タダで?」
「もちろんタダじゃない。言ってくれたら怪我してる所を治してあげよう。ちゃんと本当のことを言えばね?」
そうだな。ディアドラにわざわざ治して貰えるのだ、これ以上に無い対価だろう。コイツの様な糞には勿体無いぐらいのな。
「ティーザ.....気付かないのはしゃあないけど、後で後悔するからそこまでにしときな?」
「.....おかしな事は思ってないと思うんだけど。」
アインさんの時の様な状態でも無いし、ディアドラと初めて会った時の様な状態でも無い。.....至ってまともな状態だぞ?
「んで?.....そう言うのある?」
「...........ある訳ないだろ。(言うかよ.....!)」
はぁ.....とため息が出てしまった。.......コイツ、ディアドラが女だから完全に舐め切ってる。
「................今度は足をへし折ろうか?」
笑顔で、ディアドラがそんな事を放った。......しかも、男とは違って、嘘偽りない言葉だった。
「え........」
「だ か ら 。そんなに嘘つくならへし折るぞって言ってんの。」
男の顔から希望が消えていく。.....多分、悪魔に殺されようとしてたら、天使が自分を助けてくれた様に見えたんだろう。
だが残念。ここに居るのは天使ではなくディアドラだ。ただ優しいだけの女の子じゃないんだよ。
「女だからって調子乗ってんじゃないよ。」
天使の様に見える閻魔大王だ。
「んじゃもう一回。.....裏口は何処だ、さっさと答えろ!!!」
「!!??」
怒鳴られると思ってなかったのか、それとも唐突な殺気に驚いたのか、男は身体をビクリと震わせた。
「だ........だから知ら」
「しらばっくれてんじゃないよ、こちとら嘘分かるんだからさぁ!!さっさとホントのことをゲロれ!!!」
不快感を露わにしながら、怒鳴り続ける。こんなに大声を出したら敵にも気付かれるかもしれないが、問題は無い。
「ひっ!?.....誰か」
「念の為言っとくけど誰も来ないからね!アンタら以外の見回りは全員ぶちのめしてるし!!」
「はっ!??」
見回りが少なかったから、脱出の時を考えて全滅させておいて良かった。.......と言うか、なんで少なかったんだろう?
王国に喧嘩を売ってるんだから、騎士の襲撃に気を付けなければいけないのに。.....それはないだろうと言う慢心か?だとしたらとんでもないマヌケだな。
「分かったらさっさと情報を吐け!!!」
「あ...............ぁぁ............」
「吐かないのなら、このままティーザに尋問をやらせても良いんだぞ!!!」
......あれ?僕、脅し文句にされてる?
「こっ.....ここから右に回った所にあるっ!!」
「............................あっそ。」
思った以上に、簡単に吐いた。.....余程、ディアドラが怖かったんだろう。............多分僕じゃない。絶対僕じゃない!
「..........んじゃ、それで良いとして.........ティーザ、好きにやっちゃって良いよ。」
「....なっ!?待て、話が違うぞ!!今助けるんじゃないのか!?」
突然、ディアドラが僕に委ねた。
もちろん男は動揺する。僕に殺されるのが嫌だから吐いたのだから。........だが、もう一つ勘違いしている。
「あのさぁ.........治すとは言ったけど、助けてあげるなんて一言も言ってない。」
「............騙したのか!?」
そう思ってもおかしくない。あの言い方じゃ、言ったら助けてくれると勘違いしたくもなるだろう。
「いや。どうせティーザに半殺しにされるんなら、半殺しにあった後に治してやるって意味で言っただけだよ。......まぁ、それまでに生きてたらの話だけど。」
「そ...............そんな...........!!」
あぁ、可哀想に。
コイツにとって、女は食い物に他ならなかったんだろう。そんな物に一回救われた挙句、脅されて完全に見捨てられてしまった。この男のしょうもないカスの様なプライドは粉々に砕け散った事だろう。
「あ、一つだけ言ってなかった。.....話は聞こえなかったけど、何の話をしてたのかだけは分かってるからな、このロリコンが。」
「ひっ.................!!」
こちら側としては心底どうでも良いが、男にとっては自分のしてきた行いが死という形で返ってくるかもしれないと言う恐怖があるんだろう。だからここまで怯えているんだろう。
あぁ、なんて哀れで..............
「.......................ふ......!」
滑稽な姿だ。......思わず笑ってしまう程に。
ポンッ.......
男の肩に手を置く。安心させる様に、寄り添う様に.....顔を笑顔で歪ませながら。
「.......まぁ、ただ一回死ぬだけだからさ。........薬漬けにされて奴隷になるよりマシだと思えよ、盗賊!」
明るく、呪いの言葉を放った。
「ひっ..........!!!」
「おいおい、怯えた顔するなよ。今のうちに楽に死なせてやるって言ってるんだよ?それに、お前好みであろう女の子に死に際を見て貰えるんだ。...........それこそ、"最高"だろ?」
あぁ、全くもって最高だね。コイツはとても運が良い。
「じゃ、もう興味無いし。」
キィィン.....!
拳に魔力を込める。.......確実に殺せる様に。
「や..........やめ」
「じゃあな、精々恨め。」
拳を振りかぶる。.....男にとっては、死神の鎌にしか見えてないんだろう。そんな怯えた心の声が聴こえてくる。
ボヒュウッ!!!
そして、拳を男の顔に向けて放った。
「ァ......アアアァァ!!!??」
酷い面だ。涙どころか鼻水まで出してる。.......こんな汚い顔で死ぬんだろうなコイツは。そう思いながら....
ブバァンッ!!!
「.................殺さないのか.........?」
男の目の前で拳を止めた。
「............言ったでしょフィーリウス。コイツにはもう興味がない。.......ディアドラの目の前で殺す必要性も一切無いしね。」
男は、糸の切れた操り人形の様に、ガクンと脱力して気絶した。........多分、三途の川とか言う物でも見てるだろう。
「...............そうか。」
「いや、本当にコイツは運が良いと思うよ。........ディアドラが来なかったら、間違いなく死んでただろうから。」
逆に言えば、ディアドラが来たから殺せなかったって事だけどな。
「........さてと、右か。」
もうここに用事は無い。さっさと潜入しないと、囮部隊に遅れてしまう。
「ディアドラ、行こうか。」
サクッ、サクッ...........
「..................ディアドラ?」
歩き出したのにディアドラが着いてこなかった。
何かあったのだろうかと思って後ろを振り向いたら、ディアドラは男に近付いていた。.....とても冷たい表情で。
「..........................ホントは嫌だけど、約束だし。」
そう呟いて。
ピィィン......
男の肉体を、白いモヤで覆った。
「.............これでよしと。」
「........何やったの?」
殺すつもりなのかと思って警戒してたけど、そんなんでもなかったみたいだ。.....と言うか、そのモヤはなんだ?
「ん?別に気にしなくて良いよ!」
「..........そっか。」
心配し過ぎたみたいだな。.......なんだか、ディアドラの事になるとどうも......
「と言うかティーザ!!いくら怒ってたからと言ってもねぇ?!」
あ、ヤバい。なんか分かんないけどすっごく怒ってる。
こうなると、女の子はとても恐ろしい。.........無茶苦茶説教が長いからなぁ。
「フィーリウス!!右だったよね?!早いとこ行こっか!!」
「?..........あぁ.........」
「おいこのヤロ!!!」
説教は後で聞くとして、早く本題に戻らないとな。
「ディアドラ、ここから先に見回り居る?!」
「........絶対後で説教してやるからな..............居ないよ!!」
ホントにディアドラは凄いな。何故だか分からないけど、人がどこにいるのかを分かってる。........探知してる訳でも無いのに、どうやってるんだか。
「よし...........じゃあここから右に行こう。さっきまでと同じ様に、僕が一応先行しとく。」
念の為に警戒しつつ、潜入しようか。
「さっきの様な事すんじゃないよ?」
「...........................相手によるかな。」
「嘘でもしないと言えぇ!!!」
.....どんなに恐ろしい物でも。




