第三十九話 親愛なる君へ
後日 カイル噴水場
ツィイー、ツィイー。
二羽の小鳥が、仲良く空を飛び回る。戯れあったり、嘴でお互いを突きあったりして。
そんな、仲睦まじい小鳥達のそばを通る僕は.....
「―――――――――――ねむっ...........」
絶賛寝不足気味だった。
「いや〜良い朝ですなぁ!」
「.......キミニトッテハネ。」
対するディアドラは、僕の生気でも吸い取ったのか物凄く艶っつやな肌で隣にいた。
......油断してた。同じ轍は踏まんと思ってたのに。
カイルで泊まるとなったら宿屋になる。野宿する場所なんて無いからな。だから、『今日はディアドラと寝る事にはならなそうだな!』と安心していたのに.....
まさか、僕が用を足しに行った隙に受付を済ませるなんて.......しかもちゃっかり『ワンルーム ダブルベット』の部屋にしてたし。
その上、僕を抱き枕にして寝る始末........勿論僕は眠れる筈も無く.........
.....どんだけ一人が駄目なんだよ!!!
「人は暗闇に放り出されると怖いだろぉ?私にとっての暗闇がそれって事さ!」
「.....本当にご機嫌だね!」
こっちの思考にまで口を出すぐらいだ。.....余程嬉しかったんだろう。.........本来なら僕も嬉しがらないといけないんだろうけど。
「だって〜!ティーザが顔真っ赤にしながら隣に居るんだよ〜?そんなの可愛すぎて.....ふふふふふ....!!」
こんな事言うんだもん。.....素直に喜べない。
「やめてディアドラ怖い!!」
恥ずかしいのもあるけど、君が言うと何故か怖いぞ!?なんか.....男として捨ててはいけない物が奪われそうで!
「正直な事を言うと......その...下品なんだけど....フフッ..........やっぱ下品だから良い!」
「ナニを言うつもりだった!?」
あの殺人鬼並みの下品な発言をするつもりだったろこの子!?.....正直、アイツの言ってる意味も分かんないけど。
「え?アレの意味分かってないの?!」
「え?食い付くとこ?」
妙な所で食い付いてきたんだけど.....
「.................イチャつきか?」
背後から声を掛けられた。振り向くと、そこにフィーリウスがいた。
「違います!」
「その通り!」
「違うから!!!」
これ絶対聞かれてたやつじゃんか、も〜!!!
「あぁそれより!フィーリウスさん、依頼受けてくださってありがとうございますね!」
「.............................ん。」
..........初めて見た時からそうだったけど、口数が少ないなこの人。
「.............敬語はいい..........慣れない.........」
「そっか!じゃあ宜しく、フィーリウス!」
「..................ん。」
ん〜会話が苦手なタイプかな?.....それとも、あまり話したく無いのか?
「...そんなに喉痛めるんだったら、あの声やんなきゃ良いじゃん?」
「......あ、喉痛めてるの?!」
それで話したく無いのか!?.....まぁ、あんな声出せばそりゃ喉も痛めるか。
「?..........................あのやり方しか知らん。」
「ほ〜。分からん話だな〜。」
「以外とあるあるな事だよ、ディアドラ。」
それ一本でやってる人は、逆にそれ以外が出来ない人が多い。.....それ一本だったらすこぶる強いけど。
「..............依頼は救出だけで........良いんだな.......?」
「うん!.....と言うか、割と重要。」
これをしくじったらえらい事になるぐらい重要。だから、この人にはそれだけをやってもらう。
こっちが殲滅に集中できる様に。
「.................まぁ............あの子は大丈夫だろうが............」
「......フェトカ様?」
「..................見た事は?」
いや?と答える。.....そう言えば、名前でしか聞いたことがないからなぁ。どう言う人柄なのかは全く知らない。
「ひょっとして、フェトカって奴......問題児?」
「..........................近いな。」
ディアドラの質問にこう答えるか.......お転婆な女の子って所かなぁ。
「..............そのうち..........暴れ出すと思う.......」
「あ〜.......時間はないってことね。」
速く救出しないと、一人で大暴れし始めて逆に危険になるか。.....イェデンさん達も大変だな、そのお姫様の相手。
「えっと......じゃあ、そろそろ行く?」
「.............そうしよう......」
待ち合わせの場所に全員揃ったことだし、ここに居る理由はもう無い。さっさと依頼を終わらせてご飯食べよ。
「.....ここかな?」
森にある洞窟の前にいるとは聞いてたが......百人ぐらいの男達が居る。
その全てが、鎧を着た騎士達だった。
「..........アレ..............だろうな。」
「やっぱりそっか。」
こんな人数よりも盗賊団は多いそうだ。.....考えるだけで嫌気がさす。
「ん?エリン君か!.......フィーリウス!?」
イェデンさんがこっちに気付いた。.....流石にフィーリウスが居るとは思ってなかった様だけど。
「お前っ.......何故ここに?」
「..........................頼まれた......」
「頼みました!」
「..........名前を聞いてないのに、なんで彼を?」
イェデンさんが、こっちに質問を投げかけてきた。.....当然のことではあるけど、まぁ簡単なことでもある。
「噂通りの人なら、見れば分かるぐらい強いからと思ったから。.......実際強かったけど。」
「見ただけでか.........」
さて、こっちの説明は終わった。.....だったら、後は仕事だけだな。
「で、イェデンさん。.....この人数でやるんですか?」
「あぁ.......正直、もっと人数が欲しいが.......漏らさない確信がある者が、このぐらいしかいなかった。」
......やっぱり、カイルも一枚岩じゃ居られないんだな。.....人の命がかかっていると言うのに。
「作戦.....と言うのもあれだが、初めに我々が盗賊どものアジトに斬り込む。.....まぁ、時間稼ぎだな。その隙に、エリン君達がアジトに潜入。混乱に乗じてフェトカ様を救出し、我々と共に戦ってる回収班に引き渡し撤退させる。」
「その場でですか?少々危険ですよ。」
.......普通、回収班は戦闘には参加させない。その班が居なくなれば回収ができないし、何より目立つ。
人質の救出で、それはあまりに致命的過ぎる。
「本当なら回収班は別にしたいのだが.......それに気付かない程、奴等は間抜けじゃない。.......ザナルカンドの盗賊程強くは無いが、奴等は傭兵崩れが盗賊になった者達だ。」
「.....下手に分けた方が、かえって姫様を危険に晒す。.....そう言う事ですね。」
そうだ。と返事が返ってくる。
傭兵達は、隠れながらの戦闘.......裏の世界のでは、"ゲリラ"と呼ばれる戦法が得意だ。
当然隠れたり、逃げながら戦う奴の思考なんか分かってる。敵を倒す事だけを重要視している奴等に、敵を皆の前で討ち倒し武勇を立てる事を重要視する騎士達は相性が悪過ぎる。.....何なら人質を連れてる分、余計に危ない。
「............一応.............回収には俺もだ.........」
「そうか、助かる!こちら側にも傭兵が居てくれた方が良いと思っていたんだ!」
.....これは、フィーリウスを連れてきて正解だったな。撤退の時に、敵側の思考が分かってる人が居るだけで戦況がだいぶ良くなる。
「.......囮がこの百人部隊で、救出は私達だけでやるんだよね。」
「あぁ、出来る限りの時間は稼ぐ。......稼げればの話だがな。」
.......確かに、そっちの方が良くはある。仮に奴らが人質の様にフェトカさんを見せびらかせば、そいつを倒して戦ってる部隊の方に引き渡せば良い。
.......だが、それはあくまでその時まで部隊が残ってた場合。撤退......最悪全滅して仕舞えば、ただ状況を悪化させるだけで終わってしまう。
「.....危険過ぎるよ。」
「..........君の言う通りだ。ディアドラ君。」
......だが、最善策はこれしかないだろう。
変に潜入して敵に気付かれる方が、姫の命が危うい。
「.......それで行きましょう。と言うかそれしかどうしようもない。」
僕の能力なら、透明になったり足音を消したりは出来る。.....ただ、自分にしか適応されないから他人も透明にすると言うのが出来ない。
.....だから、フェトカさんを救出するとなると絶対にバレる。.........と言うか、バレる自信しかない。
「..............私はどっちでも良いけど?」
ディアドラには負担を掛けることになる。僕でもこんな初仕事じゃ無かったんだから。
「あぁ.......じゃあそれで」
『おぉい。ちょっと待ってくれぇ。』
ん?
「........今、誰か呼んだ?」
何も感じなかったのに声が聞こえてきたんだけど?
「......気のせいじゃない?私、何も感じてないし。」
「......だよね?」
人が来たのなら、何かしら聴こえてくる筈だ。それも無かったし、魔力も感じなかった。.......幻聴かな。
『聞こえてねぇのか?待ってくれってぇ。』
「.......いや違う幻聴じゃないな!?」
何も感じないがハッキリ気付いた!何処かに人がいる!!
「っ!周囲を探れ!潜んでるぞ!!!」
「うぇ!?マジで!?」
ディアドラも気付かなかった。.....何者かは分からんが、少なくとも只者では無いぞ!?
『だぁ待て待て!今出てくっから警戒しなさんな!』
「っ!何処から......!」
その声が聞こえた瞬間。
バサッ.....
「近くにいんのに、何で気付かんもんかな〜?」
「............え?」
急に真後ろから紙が落ちた様な音と、男の声が聞こえてきた。
「―――――――ティーザ後ろ!!!」
「っ!!!」
ディアドラに言われた刹那、僕は世剣を出していた。
ビュン!!!
僕の身体は、思考の過程を放って行動していた。.....後ろに居る者に剣を突き刺す為に。
ガギィ!!!
「ちょおいィ!刺すかふつーいきなり!??」
「ッ!??」
背後を見た瞬間、驚愕した。
後ろに居た者は、僕と同じ金髪の、天狗の仮面を付けた男だった。.....だが、そのおかしな容姿に度肝を抜かれた訳ではない。
.....突きを受け止められていた。........剣で受け止められたのではない。素手で受け止められていた。
「なっ........なんで!!?」
とにかく混乱した。僕の一撃を受け止められるだけなら、ちょっと驚くがここまで驚かない。だが、流石にこれはおかしい。
確かに素手で剣を受け止める技はある。白刃取りがそうだ。だがあれは、振り下ろされた剣を受け止める為の技法だ。
僕が放ったのは突き。両手で挟むには、あまりにも速い一撃だ。......それを、あろう事か片手で掴んで止めた。
「っ!ルアァ!!!」
ブオッ!!!
剣を掴まれたままではどうしようもない。だから、剣を振るって離そうとした。.......そしたら。
「えちょ重っ!!?」
ドバァ!!!
.....男が吹っ飛んでった。
「.........あれ?」
なんで?あんな吹っ飛ぶまで力入れてないよ?
スタッ!
「あっぶねぇ!??何だその剣!?急に重くなったんだけど?!!」
華麗に地面に着いた男がそんな事を言い出した。
「.....重い?」
いや、確かにそう聞いた。ディアドラが言うには、大岩並みに重いと。.....そんなに重かったんだろうか?
「俺のでもそこまでいかねぇぞ!!」
「.....知るか!君は誰だ!!!」
どうあれ、会話を聞かれたのならタダで返すわけにはいかない。.....それに、この人は何かが違う。
周りの竜人達と、明らかに何かが。
「え、知らねぇのか!?ネイから聞いてるもんだと思ったんだけど.....」
「.....何でネイさんの名前が出てくる?!関係ないだろ!!」
ネイさんを知ってるって事は.....コイツ、対策本部の傭兵か?.....いやでも、傭兵にしては少し騎士っぽいぞ?
礼儀作法を傭兵は知らない。教えてもらう事も、学ぶ必要も無いからだ。ただ戦う存在に礼儀など不要と考えるのが傭兵の礼儀だと、彼等は考えている。
.....だがこの男は、言葉遣いこそ荒いが傭兵によくある『話をしない』事.....好戦的で、やられたらやり返す傭兵達の様な事をしない。どちらかと言うと.....無駄な戦いを避けようとする騎士の様に見えるのは気のせいだろうか?
「あ〜.....その様子を見るに、アイツ言ってないっぽいな?.......な〜んで一番伝えなきゃいけない奴に伝える事を忘れてるんだか。」
男の言葉を聞いて、ふと思った。ひょっとしてバッティング.....かちあってしまったのかと。
「.......イェデンさん、この人にも?」
.....ネイさんが何かを言い忘れると言うのは割とある事だ。別に驚く事じゃ無い。だが.....流石にこの事態だけは避けて欲しかった。
正直、この状況が一番めんどくさい。同じ所に同じ仕事を別々に受けた傭兵達が仕事を取られない様にする為に、我先にと手柄の取り合いをする事はよくある。酷い時は、依頼中に喧嘩とかも起こったりもする。
.....今回の場合、その取り合いが発生するとフェトカさんの命に危険が及ぶ。だから『同じ依頼を受けて貰う』方法じゃなくて、『依頼を受けた傭兵に雇って貰う』方法を取ったのに。
「いや、違う........筈だ.........多分。」
「曖昧な事を......」
.....取り敢えずお帰り願おう。いつもなら歓迎するが、今回に限っては予想外の戦力程怖い物はない。
「.....申し訳ないんだけど、このまま帰って依頼を断ってくれない?お金が欲しいんだったら、終わった後に絶対あげるから。..........何なら証明書も書こうか?」
「ハイエナか俺はっ!?そんな狡いマネするかよ!」
ハイエナ?何の言葉だ?
「言っちまった方がはぇ〜かなこの場合.....!えっと、俺はシュランゲ!アンタと同じ特級傭兵だ!!」
痺れを切らした男が、そんなおかしな事を言い出した。
「.................へ???」
「いやっだから、ネイに言われてアンタを見に来たんだよ!...ほらっ、俺と同じ特級になったのが十歳のアンタって聞いてね!!本当は、俺が出張る訳にはいかねぇよなぁって思って行く気はなかったんだけど、特級になったって聞いて腰抜かすぐらい驚いちまって、『あぁ、これは流石に看過出来ないよなぁ。行くっきゃねぇよなぁ。』って思って大急ぎでここまで来たってわけなんだよ!!!」
何を言ってるのか理解するのに時間がかかるぐらいの早口で、この男は何かを言った。......だがそれ以上に。
突然の出来事で自分の耳が壊れたのかなと思うぐらい、おかしな発言をこの男はした。
「.......ごめん。もう一回、階級を言って?」
「え?...だから特級だって!」
.....特級が僕以外にも居る?
「.....虚言甚だしいぞ!?特級が僕以外に居るものか!!!」
確かに、特級になった傭兵は僕一人では無い。何人も居た事があるぐらいだから。.....でもそれは過去の話だ。過去に居た特級達は、既に引退している。.....そうでなければ、活動していない理由にならない。
「盗賊の仲間ならそう言え!!投降したら斬りはしない!!」
いつもなら心を聴けば分かるのだが........何故だ?この男から、心の声が一切聴こえない。だからコイツが、敵か敵ではないかの判断が全く出来ない。
だから、ひとまず捕縛する。その後に判断する。.....でないと恐ろしい。
「ちょ待てって!疑う気持ちは分かるけど嘘じゃねぇ!!.....まぁ、俺がアンタの立場だったら絶対疑うけど...敵では無い事は信じてくれ!」
「.........それをどう信じろと?」
反応だけを見れば、嘘ではないんだろう。.....だが、やっぱり心が聴こえないと言うのと、軽薄な雰囲気が不信感を煽る。
.....本当にどっちなんだ?
「分かった....ちょっと待ってろ?今、証拠出してやっから!」
男が懐を弄る。.....何を取り出す気だ。
「....................」
駄目だ全く聴こえない。集中しているのに全然聴こえてこない。.....一体何者なんだ?
「え〜と.....ど〜こやったかな〜.........あぁここだ!」
ザッ.....
「.....ん?」
「懐から手を出してみろ。.....その手諸共心臓を穿つ。」
いつ動いていたのか、ディアドラが男の背後を取っていた。.....手に木槍を持って。
「!?ディアドラ待って!!」
ディアドラの判断は間違ってはないし、否定するつもりもない。至って正しい行動だと思ってる。
.......だが何故だか僕は、コイツとディアドラを合わせちゃいけない様な気がしていた。
..........大きくなろうとしている灯火が、豪雨に踏み潰されて消されてしまいそうな.....そんな恐ろしい予感が。
「だ〜から待てって.........................................」
「...........何?」
男の動きが急に止まった。まるで、目の前に現れる筈の無い者が現れた様に。
「..................マジか.........」
「だから何!ちゃんと喋ってよ!!」
.....何だか、ディアドラも妙にカリカリしてる。それに怖がってる様に見える。......ディアドラも、アイツの異質さに気づいてるのか?
「あぁじゃあ..................ちびっと質問、よろし?」
「............................命乞いは意味無いから。」
.....軽薄だった男の雰囲気が、重たい物に変わった。........それ程までに、その質問の内容が大事な物だからだろう。
「............アンタの知り合いに、ヘルタナって女居る?」
......突然何を言い出すかと思えば、何を言ってるんだ?ヘルタナって誰だ?......と言うか、ディアドラに知り合いなんている訳が無いだろう。森から出た事が無いそうなんだから。
「――――――――――――――――」
「?.....ディアドラ?」
ディアドラが黙ってしまった。.....見てみると、そこには驚愕の表情を張り付けたディアドラが居た。
「........何でその名前を知ってる!!!」
ディアドラの口から出たとは思えない程の、切羽詰まった怒号。そんなのが、突然出た。
「あ、やっぱ知り合い?」
「質問に答えろ!!!何で知ってる!!!!」
でも、それは怒りから出た怒号では無かった。.....驚愕と警戒と、怯えから出た声だった。
「答える前にもう一つ。.........アンタにとって、ヘルタナはどんな存在だ?」
「ぁ................................ぅ..............。」
「...........黙ってるって事は、そう言う事で良いな?」
直感が訴える。.....コイツの話をこれ以上続けさせたらいけないと。続けさせたら、取り返しがつかなくなると。
「...それ以上ディアドラと話すな!!斬るぞ!!!」
そう思った途端、僕は話をやめさせようとした。.....脅してでも止めなければいけないと思ったから。
「................ジェラシーかい?!斬れもしない剣でよく脅す!!!」
「なっ!?」
この男.....さっきの一撃でそこまで見抜いてたのか?!.....いや、なまくらだと思われる事自体はおかしな事では無い。剣を素手で止められていて、その素手が斬れていなかったら、斬れる物では無いと言うのは分かる。
.....だがこの男は、なまくらと言う意味で言ってない。明らかに、『お前の剣は斬ることが出来ないだろ?』と言う意味で言った。........つまり、この男はさっきの一撃で、この剣の本質を見抜いたってことだ。
.......知ってなきゃ見抜けないだろうに。
「.......まぁ、安心しなさいな!俺はアイツの友達みたいなもんだ。友達の.....大事な人に手は出さんよ。」
.......相変わらず、心の声は聴こえない。......だけど、その男のした目が、嘘偽りの無い物だと証明していた。
.....その目が何故だか、母さんと同じ目だった。
「..............その言葉」
「信用できないって?.....その顔は、本性が見えてこないからって感じだな?」
......まさか、ディアドラにも見えてないのか!?
「.....アンタからすれば、大人なんぞ信用ならんかもしれんが........俺は、絶対にアンタには手を出さん。」
「........................」
「信じなくても良い。.....ただ、俺はそのつもりだ。」
そう言うと、男は懐から手を出してこちらを向いた。
「すまんなぁ!アンタの相棒と話しちまって!」
「っ!」
重たい空気はもう無く、そこに居るのは軽薄な雰囲気を纏った青年だった。
「いやぁ、決してべっぴんさんだったから話そうと思ったわけじゃないぜ?俺、既婚者だし!」
「.....いや別にそんな事聞いてな」
チャラ.....
.....そして、彼の手に握られていたのは。
「ほれ!ちゃんと本物だぞぅ!」
......白金の傭兵名彫だった。
「―――――――――――――――」
偽物かと、一瞬思った。.....だがそう思うには、僕の眼は正直に物を見過ぎた。
(.................本物だ....!?)
あり得ない筈の事が目の前で起きている。
今は僕以外に特級は存在しない筈。だから、この男はきっと過去居た特級なのだろう。.......それでも。
「.............なんで.....」
「ん?.....あぁ!引退した筈なのになんで持ってるんだって?」
そうだ。何で持ってる?
引退した傭兵は名彫を返さなければならない。それは特級であろうとそうだ。.....その筈なのに。
......まさか。
「......周りが勝手にそう思ってた.....?」
本当に活動してなかっただけなのか?
「.....まぁ、多分アンタの思ってる通りだと思うぞ!」
「........じゃあ。」
「あぁ。俺だけは例外で、引退したんじゃなくて傭兵としての活動をしてなかっただけなんだよ。.....だから、引退はしてない!まだまだ現役バリバリってやつさ!」
「..........そう。.............だとしても何で」
こんな所でコソコソとこっちの話を聞いていた?.....と聞く前に。
ペラッ.....
「ここに居る理由については、コイツをご参照くださいなっ!」
何か、手紙の様なものを差し出された。
「............................」
「あ、毒針とかは仕掛けてねぇから!.....まぁ、俺ら毒効かないから意味ないんだけど。」
「じゃあ言わなくて良いと思う。」
受け取って読んでみた。.....その手紙は、ビックリするぐらい綺麗な字で書かれた文章で埋め尽くされていた
『拝啓、シュランゲ・フェストケルパー様
貴方達が傭兵活動を辞めてから、十九年も経ちました。いかがお過ごしでしょうか。こちらは変わりなく魔獣の相手をしております。
貴方達が居なくなってからの本部には、あまり礼儀のなっていない方が増えました。今思うと、問題児だった貴方達が歯止めになっていたのだなと、しみじみ思います。
さて、話は変わりますが最近.....と言うか二年前の話になりますか。実は特級が居なかった我が魔獣対策本部に、新たに特級認定された方が出たのです。
その特級の方は、ティーザ・エリン。たった十歳で特級になった.....歴代最速の特級認定者です。
貴方も十四歳で特級に認定されていましたが、彼は最初の新入試験で既に実力が一級を遥かに凌駕していると判断され、能力なども鑑みて特級になりました。.....ハッキリ言って、彼は貴方達を越えれるかもしれない神童です。そのぐらいの期待を、私は彼に寄せています。
ですが、やはり彼はまだ子供。しっかりした一面も見受けられますが精神的にもまだ幼い一面があり、他の傭兵と衝突する事も少なくありません。私も貴方達にした様にしたいのですが.....出世をするのも辛い話と言うものでしょう。時間が作れず彼を一人にしてしまう事が多いのです。彼が言うには、友達が居るので大丈夫だと言う話ですが....やはり心配です。
ですので、もしお時間がお有りでしたら一度、彼を見にきてはいただけませんでしょうか。彼は、自分が強い事を自覚してるからか他の傭兵との行動を取りたがりません。.....きっと、他の傭兵が死んでしまうのを恐れているからでしょう。
貴方でしたら、彼も安心して同行を許すかもしれません。.....仕事とは言え、自分よりも遥かに強いとは言え、やはり子供を一人にしたくはありません。どうか時間があればで宜しいので、彼の事を見てあげてください。お願い致します。
魔獣対策本部 初期幹部
ネイ・マミンカー』
と言う、内容の手紙だった。
「......???」
いや.....だから?
「な?分かったろ?俺がここに来た理由!」
「..............いや、まっっったく分かんないけど!?」
この手紙が僕宛てで、手紙の内容が『ディアドラさんを連れて行く代わりに、この方も同行させていただく事になりました。』とかならまだ分かる。.....でもこの手紙は僕宛てじゃないし、要約すれば『ティーザ君が心配だから、暇だったら見てあげて♡』だ。この場所に居る理由でも、ここに来る理由でも無い!
「あれっ?!理由にならねぇの!?」
「なるかぁ!僕が聞きたいのは何でこんな所に居て、どんな目的でここに居るのかであって僕の元に来た理由じゃ無い!!」
「................あ、そっち?」
そっちじゃなかったらどっちの質問なんだよ!とツッコミかけたが.......何だかツッコんでも意味がない様な気がする。
「えっとぉ......まず、ネイからアンタがカイルに居るって聞いたろ〜?んで、カイルに入ってネイに会って.....誰かさんを救出するって話を聞いてぇ.......丸一日掛けて、いろんな話を聞いてここに来たって所かな!」
.....色々端折られてて詳しく分からないが、取り敢えずネイさんが元凶って事だけは分かった。.....余罪、増やしまくってるなあの人.......
「..............ティーザ君、この人は本物の特級傭兵だ。信じて良い。」
イェデンさんが、急にそんなことを言い出した。
「......根拠はなんです。」
「子供の頃の話だが、私はこの人を見た事がある。.....あの頃と全く変わっていないから、間違いなく本物だ。」
.....そう言うのは、ハッキリ言って信用できないが.....この場合は信じておくか。この人.....シュランゲも何かする気配はなさそうだし。(確証ないけど。)
「.....んじゃあ、ここに来た理由は納得するとして........何が目的で居るんです?」
「それこそ手紙に書いてたろ?」
なぁ〜におかしなこと言ってんだコイツ?みたいな目しながら言ってきた。
「........まさか、付いてくるつもり?」
「当たり前でしょ?ここに集合するって情報を聞くまでとんでもなく苦労してんだから。.....帰れなんて殺生な事言うなよ?」
.......特級である以上、実力は凄い物なんだろうけど..........こんな得体の知れない人と行動するの怖いんだけどなぁ。
ディアドラを怖がらせてるし、この人だけ別行動って形にしておくか......この人がなんかやらかしても、こっちには被害が来ない様にして。勿論、その場合の責任も持ってもらう事にしておいて......
「.......流石に傷つくぜ?そんな事思われると。」
「...........................え?」
何だ?今、何かおかしな事が起きた様な.....最近ならあって当然だけど........本来あっちゃいけない様な........
「あ、やべっ......まぁとにかく!今回は一緒に仕事をするからよろしくな!」
「いやっ!...........はぁ。」
勝手に決めんなと言い掛けたのに........ものすごく綺麗な目をして言ってきた。
この目は何言っても聞かない目だ。何なら断れば断るほど面倒くさくなるぞこのタイプは.......てか何でさっきから母さんと同じ目をするんだよやめてくれよ。その目されると断れないんだから。
「........イェデンさん。この人、戦力に入れても?」
「あぁ問題ない。.....と言うか、入れて欲しい。」
猫の手じゃないけど、何でも良いから手が欲しいんだな。.....まぁ、そうしないといけないぐらいの戦力差だろうしな。仕方ない。
「.....分かった。一緒に行動しましょう。」
「おっし来た!そうこなきゃあな!!」
「ただし!!!..........あっち!」
「あっち?」
僕が指さしたのは、潜入部隊である僕らの方じゃなく......囮部隊の方だ。
「あ〜........やっぱ怒ってる?嫉妬?」
「違う!嫉妬はしてない!!」
「嫉妬"は"......か..............怖がらせるはなかったんだけどなぁ......」
なかったんだったら話そうとするんじゃないよ!!と言う言葉の爆弾を心の中に封じ込めて、説得しようとする。
「..........囮の方に戦力が欲しい。このまま突っ込んだら僕らが戻る頃には全滅してるだろうから。」
「戦力差を知らねぇんだけど....どんくらいあんの?」
「.........犬十匹と熊の群れぐらいの差だよ。」
絶望的かと言われるとそうとも言えないからな。攻城戦(って言って良いのかは置いといて)の場合、有利なのは大体攻める方だ。.......まぁ、それは戦力が大体、同等か上回ってる場合なんだけど。
「えっと........見に来ただけなのに死ねって言われてる?俺?」
「.................こっちに...........振られても..............」
「そうだな、悪かった。.....でもさ、流石にひどくね?そりゃ驚かせたり、怖がらせたりしたけど.....それだけで死刑にされんの、俺?」
「死ねって訳じゃない!.....救出作戦だから、回収してくれる人が居ないとどうしようもない。だから、そっちの援護をして欲しい。」
もし回収係が居なくなったらだいぶキツくなる。それぐらい重要な役回りだ。
「えぇ.......一緒に行動ってのは.....」
「やだ。これが最大限の譲歩。」
「あ......そですか。」
ディアドラを怖がらせる危険性のある奴と行動なんてしたくないし、ディアドラにもそんなストレスを掛けさせたくない。
.......何なら僕もちょっとやだ。
「てことで、良いですかイェデンさん?」
「あぁ!むしろこっちに欲しかった!!」
.....この人、戦力が来たと言うより、憧れの人と一緒に居れるのが嬉しい様だな。
..........貴方、お姫様助けるんだよね?
「じゃあそれで.....良いですね、シュランゲさん?」
「やるとも言ってねぇんだけど..........はぁ......分かったよ。.....これも、信頼への第一歩と思って頑張りますか...!」
やる気を無理矢理出そうとしてる所悪いけど、貴方への信頼はディアドラを怖がらせた時点でマイナス以下ですよ。
「..............へこむなぁ。こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ。」
「文句言わないで。」
落ち込んでるシュランゲを放っておいて、ディアドラの元に向かう。
「ディアドラ、大丈夫?」
「..........................」
見た感じ、落ち込んでる様には見えない。ただ........物凄く考え込んでる。
まるで、デカい壁にぶち当たってどう越えようかと考えている登山者の様に。
「..........よし。」
こう言う時は、母さんが僕にやっていた方法を取ろう。僕が思い込んだりしてた時に良くされてた方法だ。
「ディ〜アッドラ〜!」
バァァ!
背後から、覆い被さる様にディアドラにくっつく。.....ディアドラの方が背が高いせいで、抱きついてる様になったけど。
「うひゃあ!?やめてよ母ちゃん!?」
「カアチャン???」
「.........あ。」
え.....僕、お母さんって間違われた?........しかも、からかいとかじゃなく本気で?
「.....ごめん!わざとじゃない!!」
「わざとじゃない方が酷いんだよディアドラ。」
「.....しまった!?」
この様子を見ると、本当にからかった訳じゃないみたいだけど........そんなにお母さんに似てるの、僕?
「.....まぁいいや。大丈夫、ディアドラ?なんか物凄く考え込んでたけど。」
「え.......まぁ、ちょっとね。別に問題はないよ!」
見た感じ、傷付いてる様子でもないし.....心配のし過ぎだったかな。
「そっか!........ところで、観えなかったの?」
気になってた事を聞いてみた。.....あの警戒の仕方は、心が観えないからだと思ったんだけど。
「.....いや、なんだか........見ようとしても、森しか見えなかった。」
「.......森?」
「うん、森。」
.....なんで森だ?何か意味があるのか?
.........取り敢えず、心自体は見えてるけど、肝心の中身が見えなかったから警戒してたってところかな。
「うん。大体そう。」
「おぉう、調子が悪かったわけでもないと。」
にしても森か..........森と言えば、ディアドラの育った場所でもあるけど.......あ。
「...........ねぇ、何かあったの?その......ヘルタナって人と。........なんか、そんな感じだったから。」
「.......えっと........その...........」
.....なんだか言いたくなさそうだな........でも、どうしても気になってしまうんだよなぁ。あんな風にディアドラが怖がるだなんて信じられないからな。
「あ〜と........言いたくないならそれでも良いんだけど.....言いたくない理由とかあるの?」
「.....................言ってほしくはないって。」
「........そっか!」
だったら仕方がない。約束を破らせてまで言わせちゃ可哀想だし。
「分かった!じゃあこの話題は今後出来る限りしないって事で!............彼と行動するけど、そこは大丈夫?」
まぁ、ほとんど別行動なんだけど。一応聞いておかないとね。
「そこは大丈夫!.....ちょっと怖いけど。」
「良かった、僕もだ!寂しくないね!」
「........そこは『守ったげる!』とか言う所じゃない?」
いやまぁ.....男としてはそう言わないといけない所だろうけど..........
「カッコつけたくはあるけど、嘘吐いてまでするのはカッコ悪いでしょ?」
「..........確かに!ティーザ、正直だから嘘とか絶対吐けないタイプだし!」
うん。ディアドラが笑ってくれた。やっぱりディアドラが笑ってくれると嬉しい。
.....ただ、一つだけ間違ってる事がある。
「.............一応、嘘は吐けるよ。」
「うん!それだけは絶対ない!!」
元気よく否定された。




