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第三十七話 極秘依頼

遊戯の終わり.....そして。


 「お疲れ様でした!」


 「あ、ネイさん!」



 外で待ってくれてたのか、ディアドラと闘技場を出た所で、ネイさんに声をかけられた。




 「お〜っつかれ!!ネイっち〜!」

 「....ん!?はい?!」



 ディアドラが、また変な呼び方をしている。そんな事をいきなりする物だから、ネイさんも反応に困ってる。



 「......何ですかその変な呼び方?あだ名?」

 「あり?友好の証にと思ったんだけど....駄目だった?」

 「駄目ではありませんが......どんな友好の証...?」



 「........仲良いね?」



 君と仲良くなれる人、そうそう居るもんじゃ無いだろうに。



 「なっ.....何故これで仲が良いと!?」


 「.........えっとね。」



 ネイさんの耳元で、ディアドラに聞こえないようにこそっと言った。



 「意外だろうけど、ディアドラって警戒心の塊だよ。」


 「........本当ですか?」



 僕も、初対面があの状態だったから面食らったけど、僕以外....特に男にはびっくりするぐらい警戒してる。

 明らかに『母親から聞いていたから』とか、そんな話じゃ無いぐらいには。


 そんな子にここまで好かれるなんて......まぁ、ネイさんだしな。



 「......全く感じられませんよ?警戒心なんて。」

 「ネイさんだからでしょ?」

 「.....どういう事です???」



 妙な事を言うなぁ.......僕が言うのもおかしいかもだけど、この人も自分の事を分かってないように思える。


 .....お互い、人の事は言えない....と言う事だな。



 「お〜い。仲間外れにしないどくれ〜」


 「おっと。」



 ディアドラが嫌がり始めた。.....放置されるのが嫌なのかな?


 ネイさんから離れて、話を再開する。



 「取り敢えずネイさん。これでディアドラもついていけますよね?」


 「ん?.....おぉ、そんな話だった!」


 「ディアドラ.....」



 忘れてたのか.....まぁ、そんな感じはしたよ。


 君、途中から楽しんでたもんね。....何ならずっと戦おうとしてたよね?一応、時間も決まってたのに。


 ......まぁ、僕が言えた事じゃないか。



 「..............」


 「ネイさん?」



 何だ?急に黙ってしまった。


 何か都合が悪いのだろうか?



 「あの...」


 「.........ディアドラさん、能力って使えますか?」



 能力?何でそんなことを....



 「うぇ?何、突然?」


 「ちょっとした疑問ですよ。」



 .....急にどうしたんだろう?今、そこまで重要な話じゃないと思うんだけど....



 「使えるけど....何かまずい?」


 「いえ.....どの様な能力か、簡単な物でも良いので教えてくれませんか?」



 ......待てよ?


 そう言えば、同じ様な事が僕にもあったような....



 「簡単にか.........生命を生み出す的な?」


 「制限などは?」


 「ないよ?生.....魔力を使えば幾らでも生み出せるし、種類によっては形を変えて生み出す事も出来る。」



 .....こう聞いてるだけでも、敵に回したくない能力だな。


 拘束する様に木を生み出されたり、木を針山の様にして勢いよく生やしたら、それだけで脅威になる。

 味方に居たら扱いに困る能力だけど、敵に居たらと考えると....それだけでもゾッとする。


 .....と言うかなんで今、生命力の事をぼかしたんだ?....知られたくないのか?



 「......ディアドラさんの魔力はどのぐらいあるんですか?」


 「.....ん〜と.....(どうしよう......)」



 .....この声を聴くに、本当に言いたくなさそうだな....仕方ない。



 「......魔力生成量が他の人よりも圧倒的に多いんですよ。ねぇディアドラ?」



 ディアドラが言葉に詰まってたから、言葉を足しといた。



 「んぇ?....えっと......」


 「あれ?違ったかな?そんな感じの話を聞いたんだけど...(言いたく無いんでしょ?話を合わせて。)」


 「.....あぁうん!そうそう!」



 何で生命力の事を言わないのか不思議だけど、ディアドラが言いたく無いのなら、無理に言わせると可哀想だ。


 それに......何だか、言わせると厄介事に巻き込まれる予感がする。



 「....そうですか.......分かりました!」



 どうやら、ネイさんも納得してくれた様だ。



 「えっと....それで、昇級の件は....」


 「あぁ...本来なら、本部から名彫が来るまで受注は駄目ですが.....今回は依頼人も直に見て、信用して頂いてるという事で宜しいですよ!」



 よし。これでディアドラも一緒に行動できるな。



 「やったね、ディアドラ!」


 「ふっふ〜!まぁ私ですから?当然の結果ですなぁ!」


 「.....そう言うところが怖いなぁ。」



 妙に自信過剰な所が。



 「.....じゃあ、依頼人の所に案内してもらっても?」


 「はい!では行きましょう。」




 タッタッタッ.....



 ネイさんの後ろを、ディアドラと一緒に歩く。




 「....ん〜.....」



 背伸びをする。疲れた訳じゃないけど、何故だかしたくなった。



 (.....初めてだったなぁ。)



 戦いを楽しいの感じたのは。.....正確には、対人でだが。


 白蛇の時のディアドラと戦った時も、何故だか楽しかった。....少しでも誤った行動をしたら死んでいたであろう戦いだったのにだ。


 あの時は、初めて死ぬかもしれないと思って『あぁ、だったら最後ぐらい大暴れしてやるぞ』と考えてたからだと思ってたけど.....もしかして、僕って戦闘狂だったりするのか?


 .....だったら少し嫌だなぁ。



 「そういやティーザ?」


 「ん?」


 「ティーザ、国からの依頼は断ってるんでしょ?...何で?」



 ディアドラがそんな事を聞いてきた。....まぁ、当然の質問ではあるか。



 「別に好き嫌いで依頼を選んでる訳じゃ無いよ。...ただ、一回国に関わると厄介な事になるんだ。」


 「.....戦争に連れてかれたりとか?」


 「勿論それもあるんだけど.....国が傭兵によこす仕事って、汚れ仕事が多いんだよ。...もちろん、全部がそうとは限らないんだけどね?」


 「あぁ......暗殺とか、潜入とか?」


 「潜入はカッコいいなぁ.....でも、概ねそんな所だよ。」



 と言うか、潜入って汚れ仕事なのか?.....物によっちゃそうかもな。



 「そう言う仕事をやってると、その傭兵の評判が悪くなっていくんだよ。」


 「.....待っとくれ?傭兵は雇われ兵。ただ仕事をしてお金を貰ってるだけ.......だったら悪いのは雇い主じゃない?だってその仕事を傭兵にさせてるのは雇い主でしょ?」


 「ディアドラの言う通りさ。......でもね、世の中には君の様に物事を深く捉えない人もいるんだよ。」


 「....そうなの?」


 「そう。.....しかも、そう言う人はびっくりするぐらい沢山いるんだ。」



 だから、世の中は情報に踊らされやすい。そうなってくれた方が都合の良い連中によって。



 「うっわ.....信じたくないなぁ。」


 「本当にね。....そう言う人達は、実行犯だけを見て命令した奴は見ない。そうなると、命令した人.....この場合、国だね。国には一切被害が来ないんだ。その代わりに」


 「やった傭兵は言われ放題。.....スケープゴートの出来上がりって訳か。」


 「.....まぁ、その通りだよ。」


 この子.....知らないだけで、頭は良い方なのかな?スケープゴートなんて言葉、十歳の子から出る言葉じゃないだろうに。



 「じゃあ、ティーザはそう言うのが嫌だから受けてないの?」

  

 「うん.....まぁ、人を斬るのがただ単純に嫌だからってのもあるけどね。」


 「あんな"剣"が出来たんだから察するよ。」

 「『それは言わないお約束』って奴だよ?」



 まさか、僕の世剣があんな性質だったなんて....僕も全くの予想外なんだから。そこまで人を斬りたくないのかって自分で思ったぐらいだし。



 「私が言うのもアレですが.....仲良しですね?お二人。」


 「「え?」」



 ネイさんが、不意にそんな事を聞いてきた。



 「ひょっとして、幼馴染だったりするんですか?....何だか、そのぐらい仲良く見えるので...」


 「いや....別に普通に話してるだけですよ?」


 「うん。ただ、()()()の様に話してるだけだし...?」



 .....いつもの様に?


 .........ディアドラ、多分お母さんと話す時の同じ感覚で話してるな。.....だから僕はお母さんじゃないってば!



 「そうですか?.....まぁ、それならそれで良いですけど。」



 .....側から見たら、そんなに仲が良さそうに見えるのか?



 「あ、エリンさん!着きました!」



 ネイさんが、扉の前で立ち止まった。....応接室だ。


 勿論、ただ小さな部屋ではない。...お偉いさんが来ても恥ずかしくない様な、豪華な部屋だ。



 「.....ただ会う為の部屋なのに...でかいなぁ。」


 「一応、体裁ってのがあるからね。」


 「ていさい....ほうですか!」

 「ほうですよ?ディアドラ。」



 ガチャ....



 扉が開いた。


 中から、軍服をきっちり着込んでる..."騎士"が現れた。



 「.....ネイさん、この子らが?」


 「はい、先ほど戦っていたお二人です!」



 騎士は、まじまじとこっちを見てくる。.....まるで品定めをしている鑑定士の様に。


 「......この子が()()()()......」


 「.....見ていらしたのなら、本物だと言うのはご理解して頂いてるの思うのですが?」



 あまりジロジロと見られるのは.....気に入らない。



 「いや、そこでは無くて.....小柄だと言うのは、噂で聞いていたが.....間近で見るとここまで小さいんだな.....」


 「....チビで悪ぅございましたね。」



 悪気がないとは言っても....気にしてる事を言われると、どうしてもダメだな。



 「ん?....気に障ったのならすまない。私も騎士の中では小柄でな。傭兵の中で小柄だと聞いて、親近感を感じていたのだが.....申し訳ない。」


 「.....いや、こっちもすみません。」



 そう言えば、この人....普通の人だったら、中くらいの身長だけど、騎士で考えたら小さいな....


 .....だったら、仕方ないか。



 「君が、ティーザ・エリン...で良いのか?」


 「えぇ、エリンです。」


 「あぁ.....君と戦っていたその子は?」



 ディアドラの事を聞いてきた。ちらりとディアドラの方を見ると。



 「..............」



 ものすんごい形相で、騎士を睨みつけていた。


 .....警戒しすぎでしょ......いくら何でも。



 (ディアドラ、一応名前を言わなきゃ!)


 「......ディアドラ・ナーギニー。」



 駄目だこりゃ。名前言っただけで終わっちゃった。



 「....あまり人馴れしていない様だな...まぁ、仕方ない事だろう。」


 「............」


 「紹介が遅れましたね。この方は」


 「あぁいや、自分でします。でないと失礼だ。」


 「そうですか。すみません。」



 謝りながらも笑顔を崩さないネイさんを見て、こう思った。



 (.....やっぱり、この人()()()()()。)



 普通の人なら、善良な騎士であっても力を持つ者には多少の距離を置く。何かがその騎士の逆鱗に触れれば、最悪斬られたりするのだから。


 だから距離を置く.........恐怖という形で。



 この人にはそれがない。距離がある様に見えるだけで実はない。そして相手に距離を詰めさせてくる。.....相手が警戒しない様に、相手の事を気遣って。


 そうされると、相手もネイさんを斬れなくなる。だって、ネイさんはただ、自分を気遣っているだけだから。そんな人を斬ってしまったら、戦士どころか人では無くなってしまうから。


 .....まぁネイさんが好かれる所は、どう考えても恐ろしい化け物みたいな奴に恐れる事なく気遣う.....ある意味()()()()一面だと思うけど。



 「私はカイル王国近衛部隊隊長、イェデン。.....伝説扱いされてた特級に会えて光栄だ。」


 「.....心からの感想、感謝させていただきます。」



 この人...ホントに王国の人か?


 心と言葉が完全に一致してる.....つまり、心の声が表に出てしまう人と言う事だ。......ノトスドニェでやっていける様な性格とは思えないんだけどなぁ。



 「しかし、訂正させていただきます。僕は貴方が思っている様な、立派な戦士ではありません。周りの人より強かっただけで特級になっただけの....たかが二年しか戦ってない小僧です。」



 一応、勘違いのない様に事実を伝えておく。過度な期待をされるとしんどいからな。



 「しかし君は"白蛇"と言う...恐ろしい怪物と戦って勝っている。それは戦士よりも立派な...それこそ英雄の様な行いではないのか?」


 「...........ティーザ。」

 「駄目だよディアドラ?」



 怪物呼ばわりが嫌なのは分かるけど、事情を知らないからねこの人は?



 (ボコボコ駄目。絶対。)

 (.....ティーザに免じてあげるか。)



 ...ほんとに怖いなこの子.....



 「それは紛れもない事実です。...ですがあの事態は、僕が半ば起こした様なものです。自分の不始末を解決したぐらいで英雄扱いされては、たまったものではありません。」


 「そうだとしてもだ。....あの白蛇は、我々が総力を持って戦ったとしても勝てる様なものでは無い。それを君は、どの様な方法を用いたのかは知らないが倒した。そうだろ?」


 「その通りですが、僕だけの成果ではありません。.....実際、あの場に友達が居なかったり、砲弾が飛んでくるなんて摩訶不思議な事態が起きなかったら、フルシュは再建不可能になるぐらい破壊され尽くされていたでしょう。」


 「ここまで言われても、自分の成果ではないと?」


 「全くです。」



 実際、勝てたかもしれない。...あの二人が居なくても。


 でも、フルシュの人々が生きているのは、あの二人が居たからだ。.....僕では出来ない事を、あの二人が代わりにしてくれたんだ。だから、アレを僕がやったとは言えない。



 「そもそも僕が街の人を救けようとしたのは、自分の不始末で人が死ぬ事が嫌だったからです。.....決して、善意からなんかではないんです。」


 「...つまり君は、自分は薄情者だと言いたいのか?」


 「.....それが、貴方が憧れてたであろう『伝説の特級』の正体ですよ。」


 「.......」


 「だから.......ここにいるのは、一人では人を救う事が出来ない傭兵と考えてください。」



 あぁ、自分で言ってて気分が落ち込んでいく。


 心が吹雪に煽られる様な.....とても寂しい気分だ。自分はそう言う奴(薄情者)なんだと自覚していってしまう。











 .....いつになったら治るんだろうな、この悪癖は。









 「.......あの人と同じ事を言うんだな、君は。」


 「え?」



 イェデンさんが何かを呟く。


 昔を懐かしむ様な.....()()()()()()()()()()()()()()



 「.....あぁすまない。つい、昔を思い出してな。」


 「.....そうですか?」



 .....ひょっとしてこの人、昔同じ事を誰かにしたのか?....だったら何で、同じ事をしたのだろう?答えは分かってるはずなのに。



 「ねぇ。.......中に入っちゃ駄目?立ち疲れちゃったよ。」


 「あ。」



 そうだった。依頼の話をするんだった。



 「...彼女の言う通りだな。取り敢えず、中に入って話をしようか。」


 「え、えぇ。そうしましょう!」



 イェデンさんに促されて、応接室に入る。


 .....カイルの本部には来たことは無かったが、どの本部でも応接室の内装だけは何故か変わらない。豪華な様に見えて実は質素な内装をしているのが、この応接室だ。



 (.....ティーザ、大丈夫?)

 (ん?)



 ディアドラが、脈絡なく聴いてきた。



 (落ち込んでた様だったから。)



 あぁなんだ、そんな事か。



 (大丈夫。.....僕の問題だから。)

 (.....あんまり、思い詰めちゃ駄目だよ?)



 .....心配しなくても大丈夫だって、分かってるだろうに。



 (.....うん。)



 .......懐かしい。


 声を交わさず、心のみを通わせた....あの日々を思い出す。

 .....戻れないものだと思ってたが.......そうでも無いのかもな。






 「さて、では話を始めようか。」



 イェデンさんが、座る様に促してくる。

 ディアドラを先に座らせて、その後に座った。



 「....では、単刀直入に聞きます。」



 気になってた事だ。これを聞かなければ始まらない。



 「.....暗殺と救出....どちらですか。」


 「いきなり核心を突くんだな。」



 「それが僕なので。」と言い返す。.....国が、依頼料の多い特級に頼むのだ。絶対に、国の要人が絡む様な依頼だろう。


 .....もし暗殺だったら断ろう。恨まれるのも嫌だが...



 「......?なぁに?」



 この子(ディアドラ)の前で、人を眠らせたくない(殺したくない)


 ただのエゴだが.....出来る事なら本当に嫌だ。



 「安心して欲しい。...無理に誰かを殺してくれとは言わないさ。」


 「.....救出ですね。」



 だったら受けてもいい。.....だが、それでも一級に頼めばいいものだろうに。


 一級には、潜入を得意とする者も居る。僕に頼むよりも、そっちの方が安上がりに済むだろう。



 「君に頼む理由は二つ。.....一つ、私はネイさんと親しい仲だ。」


 「なるほど...ねぇ.....」



 新入試験の時からの、僕の活躍を聞いてきてたんだろう。.....新入試験の時から僕を見ていたネイさんから。



 「.....ネイさん!」


 「逃げてったよ。」



 後ろを振り向くと、そこにネイさんの姿は無かった。.....本当に逃げ足の速い人だ...!



 「...彼女に悪気はないと思うぞ...?.....で、二つ目なのだが....」


 「.....?」



 何だ?ディアドラの方を見て。.....都合が悪いのか?



 「彼女も今回行動します。.....ディアドラを仲間外れは出来ません。」


 「.....まぁ、その通りだよな。」



 .....本当にきな臭くなってきたぞ。



 「で、二つ目は」

 「救出対象がお姫様.....だったりして?」


 「.....なっ!??」



 ディアドラが口を開いたと思ったら、とんでもない事を放った。



 「君...それ何処で?!」

 「いや〜何となく〜?」



 十中八九、心を観たんだろうに。.....まぁ、分からない人に言っても意味ないか。



 「.....それ、本当ですか?」


 「....あぁ.....まだ、上層部にしか出回ってない情報だがな。」



 .....こうなったら確かに、特級にしか頼めない。


 一級の傭兵には荷が重すぎる。もししくじってしまったら、最悪死刑になる様な.....そのぐらい責任重大な依頼だ。



 「"お姫様"と言うと.....フェトカ様の事で?」


 「あぁ。」



 やっぱりか.......そうなってしまったら、絶対にしくじる訳にはいかない。.....だが、()()()()()().......



 「.....フェトカって誰?」


 「.....ディアドラ.........」



 この空気でそれを言うか.......まぁ、知らないだろうとは思ってたけど。



 「.....フェトカ・ノトスドニェ・カイル.....この国唯一の跡取りだよ。」


 「....唯一?.....それは変じゃない?」



 やっぱり気付くか。....そりゃ、()()()()()()()()()()()()()()()()



 「女王になるのが確定してるのはまだ分かるとして、他の跡取りとか.....お兄さんとか、妹さんとか居ないのは変じゃない?」


 「直系がその子だけなんだよ。」


 「あ〜.....恵まれなかった?」


 「いや違うのだ。.....カイルの直系は、先代国王と十三年前に行方不明となった王子。.....そして、フェトカ様だけなのだ。」



 そう、その三人だけ。.....それ以外の人達は、流行り病で亡くなってしまってる。



 「行方不明って.....でも、王族は」


 「子を多く授からなければならない。.....だが先代国王は、フェトカ様が産まれて二年後に亡くなられた。」


 「.....じゃあ、その子は。」


 「先立たれた父親.....行方不明の兄君の代わりを務める事になってしまった.....と言う訳だ。」



 .....今は、母親が代わりをしてくれているから何とかなっている。だが、その子が王になる事は決まってしまっている。


 .......誰が決めた訳でもないと言うのに。



 「そのフェトカ様が盗賊に捕えられてしまった。.....相手はこの辺りにいる大規模な盗賊団....総勢約千人は居る。」


 「千人か.....」



 .....無茶な人数ではない。その気になれば全滅させる事は出来るだろう。だが、救出となると話が変わってくる。.....その人数を相手取りながら守るのは、とんでもなく難しい。



 「.....潜入して、相手に気付かれない様に救出しろ...と言う事ですね。」


 「簡潔に言うとそうだ。」



 『言うは易く行うは難い』と言う事だな。.....出来るだろうか?



 「......まさか、やるのは私達だけじゃないでしょ?」


 「流石に丸投げは出来んよ。」



 ディアドラの棘のある発言に動揺する事なく、イェデンさんは返答をする。



 「陽動として、私の率いる近衛部隊二百人がアジトに攻め入る。.....連中が我々に気を取られている隙に、フェトカ様を救出。即座に撤退。......それが君達に頼みたい仕事だ。」


 「..........なるほど。」



 つまり、潜入の皮を被った....電撃作戦の要をしてくれと言う事か。



 「.......この作戦は、正直な話無茶苦茶な物だと思っている。」


 「思ってるなら何でどうにかしようとしないの。.....もし失敗したら、ティーザどころかそのフェトカ様も死んじゃうんだよ。」


 「ディアドラ。」



 この子はこの子で正直すぎる。心で思ってる事を隠そうともしない。.....まぁ、気になってる事をそのままにしたくないんだろうけど。



 「君のその通りだよ。....でも、これを公にする訳にはいけない。」


 「何で?」


 「.....ノトスドニェは、その中で国力が平均よりも高い国による統制を前提にした諸国連合国家。すると、国力が弱い国は国じゃなくなっていく。」


 「国の形をした街みたいになるって事?」


 「そう。良い言い方をすれば、いつでも護ってもらえる。....悪い言い方をすると、強い国の言う事を聞くしかない」


 「傀儡国家になるって事か.....」



 .....この子やっぱり頭がいいな.....詳しくは理解できなくても、要点だけはしっかりと掴んでる。



 「カイルは、そんな危ういノトスドニェの力関係を保ってる.....命綱だ。」



 実際、カイルの国力だったら統制をすることも可能だ。国民も納得するだろう。.....そのカイルが、独裁の道ではなく共和制を取っているからこそ、ノトスドニェの国々は反乱を起こさない。



 「そんな所のお姫様が攫われたってなると、周りの国が囃し立てるのか。」


 「それこそ.....さっきの話の様になる。」


 「物事を考えない.....口だけの連中が言いたい放題をやって国の力を奪っていくと?」



 噂は、病の様に伝染する。.....それが間違っていると分かっている人でさえも揺らいでしまうぐらいに。



 「.....ディアドラ君が思っている程、国民は弱くない。彼等は力こそ無いが、発言力だけなら王族以上のものがある。.....それも、集まって仕舞えばどうすることもできないほどにな。」


 「.....だから、バレない様に少人数で?」


 「そうだ。......言ってて無理では無いかと思ってるがな。」



 だから、僕に頼んだんだろう。.....戦力の差を少しでも縮める為に。



 「........どうするか.....」




 多分、この依頼だったら終わっても公にはならないだろう。.....僕の関与が知られる事はないはずだ。だからやっても問題はない。


 .....それでも、王族と関わるのは避けたい。.....特に、カイルの王族とは。


 嫌いな訳じゃないが.....こっちの都合が悪い。.....だが、ここまで言われて断ると言うのは気分が良くない。


 .....どうしたら正解か........




 「......頼む。どうか、力を貸して欲しい。」



 目の前の騎士は、頭を下げようとしていた。



 「この通り」


 「待った。」


 「.....?」



 その前に止めた。



 「やりますから、頭下げないでください」


 .......騎士は人の上に立つ者。その騎士が誇りを捨ててまで傭兵に頼み込んだらいけないと思ったからだ。



 「ティーザ.....一応言うけど、それやって後悔しない?」



 心配そうに、ディアドラが聞いてくる。.....どこまでも心配性なんだか。



 「.....少なくとも、この人に頭を下げさせるよりかはマシだよ。」



 この人は、騎士としての誇りを捨ててでも救おうとするだろう。....フェトカ姫と関わるのは避けたいが、この人の覚悟を、無碍にはできない。



 「.......カッコつけめ!」


 「言ってなさい!」



 『そう言うと思った』みたいな顔しちゃってさぁ。



 「.......ありがとう...!」


 「礼は結構。.....せめて、全部終わった後でお願いします。」








 さて......二年前は偶然だったが、今度もお姫様を救う戦いだ。



 ..........腹を括れよ。ティーザ・ザナルカンド。




戦いが始まる。

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