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第三十六話 決闘享楽

ここからは、躊躇いなしの戦い


 (おいおいおい!?)

 (さっきと逆じゃねぇか!?)

 (お腹にモロ喰らったわよ?!)



 傭兵達は騒ぐ。まるで大将がやられてしまった子分達の様に。



 .....そりゃそうだな。あの男にやった事が、因果応報の様に自分に返ってきてるからな。そりゃ困惑もする。




 「ほら、立ちなよ。」



 ディアドラはまるで、寝ている子供を起こす様に呼びかけた。......絶対に立てない()()()()()()()()()()()()()




 「絵本の中の話なんだけど。御殿手を使ってた奴、見破られてカウンターを喰らったのに全くダメージが無かったんだよ。......手応えが無かったとか言ってたけど....私もティーザを殴った時、手応えが無かったんだよね。」


 「―――――――――――――――」



 .....絵本というのは、夜眠れない子供の為に読み聞かせる.......絵の付いた御伽噺だ。


 ......御伽噺ってのは夢のある話だ。少なくとも、今ディアドラが言ってる様な事は絶対無い。.......多分、絵が付いてたから絵本って言ってるだけだなこれ。







 「......それにティーザ。痛がってる演技をしてるかもだけど..........顔、物凄く笑ってるよ!」







 「―――――――――――――ふふっ。」



 バレるか。



 .......そう言えば、リュウズにも言われたっけな。『お前は嘘がつけねぇなぁ!顔に正直にでてんぞ!』って。


 確かに、嘘をつこうとすると顔には出てしまうかも知れない。実際、演技も言っちゃえば嘘だし。




 「.......よっと。」



 バレてるんだったら、演技の意味も無い。.....なんなら演技(うそ)なんて、僕が一番苦手な物だし。




 (えっ.....はぁっ!?)

 (待って!?今の喰らって平気なの?!)



 傭兵達が何故か動揺している。


 僕が立つと、喜ぶかなと思ったんだが.......なんか困惑してる?




 「皆だったら死んでる様な一撃喰らっといて何事も無く立ち上がったら、そりゃ動揺すると思うよ?」


 「.............それもそっか。」



 ディアドラの一撃は、とんでもなく重かった。本当に容姿を裏切る程の威力だった。



 その証拠に、殴られた瞬間物凄い音が鳴った。


 とんでもない速度で人体を殴ると、衝撃音が発生する。それは物でも一緒ではあるが、柔らかい上に反発する分人体の方が衝撃音が強い。


 あの一撃は重たい上に速かった。それ故に、凄い音がなった。.....少なくとも、人体からなっちゃいけないぐらいの音が。だから周りの傭兵は、僕がもう立てないと思ったのだろう。



 ......実際、今でも痛い。物凄く。




 「にしても......ティーザ、タフだねぇ?結構本気で殴ったんだけどなぁ〜!」


 「まぁ...そこは鍛えてるから!」



 二年前のあの男との戦いで、僕は一度腹を撃ち抜かれている。あの時は入り込んで暴れ狂ってた魔力よりも、拳の方が痛かった。思わず動けなくなるぐらいに。



 あの時の僕は、戦闘経験は豊富にある状態だった。想像上の事とは言え、母さんと何回も死合ってきたのだから。だから戦闘技術と駆け引きは、あの男に引けを取ってたとは思ってない。


 ......だが肝心の実戦経験が、あの時の僕には無かった。身体が頑丈ではあっても、痛みを与えられる戦いをしてこなかったからな。


 だから腹を撃ち抜かれて、動けなくなってしまった。直に殴られた事なんて..............戦いでは無かったから。



 ........そんな事があったから、痛みに慣れる鍛え方をしてきた。






 「あれかい?めちゃくちゃ高い絶壁から転げ落ちる特訓で身に付けたんか!」


 「........なにそのイかれた鍛え方!?」



 何を言い出してんのこの子は!?




 「あれっ?違うの?」


 「そんな自殺行為スレスレの特訓、誰がするもんか!!!」



 ディアドラの言ってる事って......要は、絶壁スレスレの所で落ちて、身体を壁のデコボコに叩きつけるって事でしょ?



 ......それ、一回やるだけで瀕死になる奴だよね?

 下手したら一回だけで死んじゃう奴だよね?



 ....そんな常軌を逸してる事、特訓とは言わない。 ただの自殺行為と言う。




 「えっ....でも元からじゃ無いでしょ?身体は壊れないとしても、痛みに耐えられるかとは話が違うし。」


 「.......まぁね?」


 「じゃあどんな鍛え方したのさ?」



 .....まぁ、少なくとも今言った物ほどおかしな物では無いな。




 「.......魔猪の突進をわざと受けたりして。」


 「まちょ?.......猪の事?」


 「うん。」



 だって、そっちの方が手っ取り早い。



 滝行もありではあるが.....あれは嫌だ、風邪ひく。

 だったら、攻撃を喰らって痛みに慣れてった方が、実戦の痛みにも慣れれるし、衝撃の流し方とか、応用の練習もできる。


 少なくとも、飛び降り自殺未遂修行よりもマシだと僕は思う。




 「ふ〜ん?......ちなみに、どのぐらいの大きさなの?」


 「えっと..........大体、十メートルぐらいかな?」



 相手にするのがそのぐらいしか無いからな。




 (はっ?.......十メートルって!?)

 (そんな奴の突進喰らったら、内臓破裂するぞ!?)

 (さ.....流石に冗談よね.......?)



 あれっ?なんか傭兵達も半信半疑な様子。


 ........嘘は言ってないんだけどなぁ。




 「........ティーザ。一、二メートルならまだ分かるけど......流石にその大きさだったら、危険度はほぼ同じぐらいだよ?」


 「えっ?........飛び降りの方がダメでしょ?」



 魔猪の方がまだマシだと思うんだけど。




 「........まぁいいや。この事は後にしよっ!」


 「???.......うん?」



 なんだったんだろう?妙な事を言って、こっちの集中力を削るわけでも無かったみたいだし。........いや、ディアドラのこの様子を見ると........変な事言ったの....僕か?


 別におかしなことでも無いと思うんだけど?




 「さて......ではティーザ。ここからどう戦おうか?」



 さっきまでの雰囲気をバッサリと斬り捨てて、ディアドラは聞いてきた。




 「どうしてそれを僕に聞くのかな?」



 弱点とか作戦を使うのが戦いなのに、相手にどう戦いたい?....なんて聞くやつがあるものか。




 「ん〜。.......こう言おう!......安全で退屈な戦いと、危険で楽しい戦い、どっちが良い?」



 .....そういう事か。



 つまりディアドラは、安全牌が一切無い格闘戦をやりたい訳だ。


 しかも、その方が勝算があるとかじゃ無く、そっちの方が楽しいからと言う......危険な事を敢えてやって、皆の人気者になっている子供の様な純粋な提案だ。




 「........それ、決めて良いの?僕が。」


 「どうぞ?なんせティーザは、この戦いの"座長"なんですから!.....どう仕切るのかは、ティーザ次第だよ!」


 「......面白い言い回しをする!」



 この決闘を、舞台と同じ様なものと言い切るか。....流石にここまで期待されちゃあな。





 .......舞台と言うのは色んな種類があるが、その中で僕が一番好きなのは『喜劇』だな。


 展開も、やってる事も、一切まともじゃない。.....だがその舞台の登場人物は、大真面目にその一生を生きている。その様が面白くて笑ってしまう。それが喜劇だ。



 言うなれば、戦いは悲劇だ。理解する事ができずに発生してしまう.....悲しみしか生まない物。



 ....だが、僕とディアドラは違う。あって数日しか経ってないが、お互いの事は理解できてるつもりだ。....理解し合ってるくせに戦う。これのどこが喜劇で無いと?


 もうこの戦いは、喜劇のそれだ。脈絡も何も無く始まった物。そして、展開の読めないはちゃめちゃな戦いだ。.....ならば、ここでつまらない物にしてしまうには勿体なさすぎる。




 「.......では、"危険"を選ぼうか!」



 始まってしまったものは、最後まで続けなければいけない。


 それに..........少し楽しくなってしまった。




 「そうそう!そうこなきゃ....」




 ダンッ!!!




 「ねっ!!!」

 「全くなっ!!!」




 二人同時だった。相手の強さに惹かれて、我慢出来ずに襲いかかってしまったのは。





 ガンッ!!!



 「っ!流石に重い!!」

 「君にだけは言われたか無いね!!」



 剣と槍がぶつかる。


 ディアドラは、槍のメリットを捨てて接近戦を選んだ。そうなると残ってるのは、『剣よりも行動が遅れる』と言うデメリットだけ。


 だと言うのに、一切迷う事なく槍を振り下ろした。そして、僕の一撃に遅れる事なく合わせてきた。




 ギリッ......ガガッ...!




今、僕らは鍔迫り合いの様な状況になっている。.....槍には鍔が無いけど。


 


 「こりゃ無理だな....!」

 「そりゃどうかな?!」



 押し崩せないから、距離を取るつもりだろう。.....だがそれをさせる程、お人よしじゃ無い。


 身体をディアドラの左側に移動させ、拮抗状態の剣を槍が沿う様に翻す。




 カシュッ!!




 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 「うぇっ!?」

 「残念っ!!!」



 柱状である槍には出来ない、剣だけの特権。


 鍔迫り合いになった時に、身体を安全な所に逃がしながらわざと攻撃を解放させる。そうすると、隙を簡単に作る事ができる。


 これも、剣士には必要な技量の一つだ。少なくとも槍を相手にするのだったら、これが出来なかったら話にならない。



 そしてディアドラは今、致命的な隙を晒してしまってる。




 「そこだっ!!」




 ブンッ!!!




 木剣を振るう。流石に頭には放てないから、肩....鎖骨あたりを狙った。言うなら袈裟斬りだ。


 この位置ならば.....当たる!








 リンッ........




 「...?」





 .......なんだ?ディアドラの首筋に印がある。さっきまではなかった筈なのに。








 「............『目前を照らせ』」







 魔力の籠った言霊。......照らす?目前の何を??


 .............っ!?










 「まずっ!?」



 ディアドラの狙いに気づいた。だから、腕で目を覆った。








 キャァン!!!



 (うわっ!?眩しっ!?)

 (目眩しか?!)

 (ちょっ?!何も見えないんだけど!!?)




 .......腕で覆っといてよかったと思った。腕で光を遮ってる筈なのに.....()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 強い光を指先で隠したりすると、光が指を貫通するかの様に、爪も裏側から照らされる。......透けて見えるとは違う感じで。それと同じ現象が、腕で起きた。指先よりも分厚いのに。


 つまり、ただ目を瞑ってても視界を潰されてたと言う事だろう。だから、この咄嗟の選択は間違ってはなかった。



 .........こうするしかなかったと言うのもある。と言うか、こうさせられたと思う。だって.....




 「もらいっ!!!」



 ブワッ!!!




 腕を上げた先には、下から槍を振り上げるディアドラの姿が目に映ったから。




 「.......何掛ってる?!」


 自分に悪態をつく。もう掛かるものかと思ってたのに、なんでまた掛かってしまっているのかと。



 槍だと言うのに、あまりに速い一撃。顎を狙ったこの一撃は避けれない。剣では間に合わない.......だったら。




 ゴリュッ!!!




 剣じゃない方で受ける!


 「痛っ!!!」

 「なっ!?そう来たか?!」



 目を覆っていた左腕の肘を、槍にぶつける。


 肘の一撃は、下手したら拳よりも恐ろしい物だ。五本の骨を固めて放つ物よりも、一つの骨の塊の方が強いからだ。


 .....その一撃ですらディアドラの槍を防ぐには、不十分だった様だ。防げはしたが、左肘が痺れた。




 「くぅ!!」



 だが、構うものか。


 ディアドラがこんなに近くにいるのだ。今なら肘の一撃を入れられる!




 シュッ!



 ディアドラの顎を狙う。


 原理とかはよく知らないが、人は顎を強く叩かれると動けなくなる。最悪、気絶する。


 だからそれを狙った。




 「おわっ!?」




 ビュン!!!




 「...なっ!?」


 .....ディアドラに放った肘打ちは、空を切った。




 「マジで?!」



 肘の一撃は、突きほどじゃ無いが見切りにくい。間合いが無い分、攻撃の発生もとても地味なものなのだ。その癖、拳を横に振るうよりも速い。だから見切りにくい。

 


 .....だと言うのに、避けた。攻撃に反応して。




 「っ!!」



 ブンッ!!!



 外した事はしょうがない。次に活かそう。


 そう思って、肘打ちの勢いを使って身体を回転させた。そして、ディアドラに向かって後ろ蹴りを放った。




 「とおっ!!」



 タンッ!!



 飛んで避けられる。......だが予想済みの行動だ。




 ダバッ!!!



 「ぉお!!」



 着地したばかりのディアドラに斬りかかる。


 一撃が入らないなら、連続で攻撃するしか無いと思ったからだ。




 「っ、容赦の無いっ!!」




 ガンッ、ゴッ、バンッ!!!




 そう言いながら、ディアドラは僕の攻撃を捌いている。



 .....確かに、攻撃を誘い出すためにわざと速度を遅めている。だがそれでも.....すべて捌かれると、少し落ち込む。これでも、準一級の傭兵が全く見えない速度で振ってるんだけどなぁ。




 「よっ!!」



 ディアドラが、お返しと言わんばかりに反撃してきた。




 ドワッ!!





 「...........はっ?」



 .......槍が飛んできてる筈だ。ただの木の槍......その筈だ。



 でも、僕の眼に見えたのは........()()()()()()()()()()()()()




 「危なっ!?」



 大きく後ろに飛んで避けた。



 ブワッ!!!



 「っ!?」




 多分、僕の眼が警告したのだろう。.....この一撃はそのぐらいの威力だぞと。


 結果的に、避けておいて正解だった。空を切ったディアドラの突きは、飛び退いた僕をよろめかせる程の突風を放ったから。




 「ととっ!?」

 「そこだっ!!」




 タンッ!!!




 ディアドラが飛び出す。体勢の崩れた今がチャンスだと思ったんだろう。.......まぁそうなるよな。




 ダンッ!!!



 「ふんっ!!」

 「おぉっと!?」



 体勢が崩れた状態でも、飛び出す事ならできる。片脚だけで、ディアドラに向かって飛んだ。




 ガンッ!!!


 「〜〜!流石に予想外なんだけどなぁ?!」

 「君にだけは言われたかないね!!」



 逃げるだけじゃ、攻撃はディアドラに届かない。だったら、何合でも打ち合う!





 ジュバッ!!!



 囮でもなんでもない、本気の一撃。この一撃を避けた後に連撃に持ち込む。どう考えても、防げる代物じゃない筈だからな。




 「....そう来るなら!!!」



 ゴンッ!!!




 ディアドラも打ってきた。....恐ろしいな。






 「.....マジか?!」


 この子.....僕の本気の一撃を相殺したぞ...!?並の剣士だったら、掠るだけで骨が砕けるぐらいの一撃を!




 「ぉお!!!」

 「たぁ!!!」



 完全に理解した。この子は、一撃だけじゃ決定打にならない。連続で攻撃しなければ、隙をつけない。


 この子は、そうしなきゃいけないぐらい強い!





 ゴンッガンッバンッガギッ!!!




 この一瞬だけで、十合ぐらいは打ち合った。だと言うのに、隙が全く出てこない。それどころか、段々と僕の速度に追い付いてくる。




 「くっ!!」



 強いとは思ってたが.......僕と打ち合えるぐらい強いとは思ってもみなかった!









 「......ふふっ!あはははは!!」

 「――――――――――――――――」




 笑顔。


 ディアドラの時折見せる....とても無邪気で可愛らしい、女神の様な笑顔。


 そんな笑顔を、この状況で咲かしている。まるで、友達と遊んでる子供の様な雰囲気で。









 「..........ははっ!!」



 その笑顔を見てると、なんだかこっちも楽しくなってしまった。


 おかしな話だ。やってる事は、子供の遊び(チャンバラ)なんか目にならない程、危険な事だと言うのに.....楽しくて仕方なくなってしまう。





 ダキッバンッゴギン!!!




 打ち合えば打ち合うほど、互いの速度は速まっていく。息をする暇も無いぐらいに速くなっていく。





 「あははは!!楽しいっ!!!」

 「イカれてんねぇディアドラァ!!!」



 それを言ったら自分もイカれてると言うのに、何を言ってんだろ僕は。......でも、どうでも良いな。




 今は........ただただ楽しい。




 (お――――――――――!?)

 (――おん―――――――だろ?!)

 (こ――――――――――まけ――――――?!)



 集中してしまう。戦うディアドラがあまりに強くて。.......戦うディアドラがあまりに美しく、可憐すぎて。


 傭兵達の野次が聞こえないぐらい、集中してしまう。




 ドバァン!!!




 また、鍔迫り合いになった。


 ここまで打ち合ったと言うのに、ディアドラはバテてなさそうだった。




 「本当に楽しいっ!!!」

 「それは何より!!!」



 力の押し付け合い。


 本当なら僕の方に分がある。小柄ではあるが、力持ちではあるからな。.......だが。




 ギリッ......ギリッ.....!




 「っ...!その身長、僕によこしてほしいな!!」

 「力だけで満足しなさいっ!へっへ〜ん!!」



 ディアドラの力は僕ほどじゃないが、大人の傭兵十人でも持ち上げられない様なものを持てるぐらいはあるだろう。


 その上、背が僕より高い。............歳下なのに。


 つまり力と体重を上から被せれる訳だ。鍔迫り合いだったらディアドラに分がある。......歳下なのに!




 「力では満足できんのさっ!!」



 もう一度、受け流そうとした。.....だが。




 「ていっ!!」



 ゴッ!!!



 「かふっ!!?」



 腹を蹴られた。


 予想外の事だったから腹筋を固まる暇もなく、腹に食い込んでしまった。





 「させるもんですか、あんな気持ち悪い事!!」



 しまった。完全にやらかした。


 心を観るのと、思考を読むのは訳が違う。心にあるものは、あくまで感情が乗ったものだ。


 殺気を含んだ攻撃なら予測出来るが.....この決闘は、殺人が許されない。だから、殺気を込めれない。そうなると、心を観たり聴いた所で意味がない。だからディアドラもしないだろうと、勝手に踏んでいた。



 .....甘かった。受け流しの時、『避けなければ』と言う恐れ(感情)が混じってた。それをディアドラは感じ取って、受け流すタイミングで妨害したのだろう。




 「ほぉいっと!!!」



 ドグォン!!!



 「がっ!!」



 体勢を崩された僕は、そのまま後方の壁に叩きつけられた。


 直前で受け身を取れたからまだ良かった。.......問題は。




 タンッ!!!



 「いやっふぅ!!!」



 勢い良くこっちに、矢の様に飛んでくるディアドラだ。




 「っ!!」



 槍を前に突き出して飛んできたディアドラを、咄嗟に避けた。



 ドグァン!!!



 


 .....壁に窪みが出来ていた。あんな突進受けてたら、いくら僕でもまずかった。




 「まだまだ行くよぉ!!!」



 追撃をしてくるつもりだ。......このまま避けても、ジリ貧だろう。だったら。




 「ふっ!!!」



 シュリィン........





 「えっ、消えたっ?!」


 こっちから仕掛けさせてもらう。




 ブンッ!!



 「......後ろか!!」




 気付かれたか、後ろに飛んだことに。ディアドラが勢い良くこちらを向いた。......だが、予想通りだ。




 キィィン!!!



 「!?(魔力を込めてる!?)」

 「決める!!!」



 ありったけの魔力を剣にぶち込む。それだけの一撃を放つつもりだと、ディアドラには見えているだろう。



 「だったら!!」



 キィィン!!!



 ディアドラも、槍に魔力をぶち込んでいる。力には力を、そう思ったのだろう。




 「そこっ!!!」



 槍を振るってくる。僕の剣に向かって。


 ......選択は間違ってはいない。だが.........やっぱりこの子は知らなかったか。


 いや、ある意味当然だろう。





 バギャァン!!!



 「えっ!!?」

 「っ!!」





 僕の剣とディアドラの槍は、()()()()()()()()()




 「な.....何で?!!」

 (魔力込めて壊れた事、今まで無かったのに?!!)



 .....ディアドラの住んでた森は、全ての物の強度が高かったのだと思う。

 あれだけの神秘だ。その神秘に耐えられてるだけで、その物の強度はこっちにある物の数倍はあるだろう。


 だから、物本来の強度を知らない筈だと踏んだ。




 「.................」


 もちろん、僕の剣も壊れている。.....だが、これで良い。





 ダンッ!!!



 「.....あ。」

 「もらった。」



 この瞬間を誘い出す為に、敢えてそうしたのだから。


 ディアドラの隙を引き出すためにやったのだ。この状態ならば........拳が入る!




 「そこっ!!」



 ガラ空きになってるディアドラのお腹を狙った。

 いくらディアドラでも、鳩尾に喰らえば....!































 (女の子のお腹は大事にしなきゃいけないよ?赤ちゃんが安心して眠れる所だから.....ね?)











 そんな母さんの声が......拳を戸惑わせた。















 ブワッ!!!



 「うわぁあ!!?」



 ディアドラが拳を避ける。


 攻撃は、速くはあった。.....だが、戸惑ってしまった。それ故に見切られてしまった。




 ドグァン!!!!




 壁がへこむ。.....本気で殴ろうとしたからな。これぐらいの威力はあるだろう。




 「うへぇ!?こりゃ流石に............ティーザ?」

 「―――――――――――――――」



 だが、今はそんな事よりも......許せない事がある。








 「.........何やってんだ僕は!!!」



 勝ちを焦って、ディアドラの大事な所を殴ろうとしかけるなんて....最低にも程があるぞ!?


 母さんにも言われただろう?!と言うかそこでそうやって育ってきたくせに、なんでそんな大切な所を蔑ろにする様な事やってんだよ!!




 「下衆かお前()は!!!」



 とんだ最低野郎だよ。.......あの男と同じぐらいのロクデナシだよ!!!




 (お、おい......エリンさん、どうしたんだ...?)

 (避けられてキレてんのか?)

 (でも.......そうじゃ無い様に見えるけど.....)













 「........ティーザ、落ち着こ?」



 声。


 母さんの様な.......嗜める声。


 その声は.....自己嫌悪に陥ってしまってる僕の耳に、優しく入って来た。





 「はっ!!」



 そうだ。今は決闘中だ。自己嫌悪は後にしなければ。





 パシッパシッ!




 顔を叩く。意識をしっかりとしたものにする為に。



 「........今は今!!よし!!!」



 気は変わってないが、変わった気にはなれた。錯覚してる今のうちに、仕掛ける!




 ドォォォ!!!



 「っ!?」

 「うひゃあ?!!」



 戦いを妨害する、ドラの鳴り響く音が聞こえた。




 「決闘終了ぉぉぉ!!!!」



 それと同時に、終了の合図も聞こえた。







 「なっ......そんな!?」



 もう終わってしまったのか!?体感では、まだ二分しか経ってないぞ!?




 「........あ、ホントに終わりみたい。」



 ディアドラが、妙なものを取り出す。何か丸いものだ.....魔術具だろうか?


 それに出力されていたのは.....




 『三分経ったZOI!!』



 と言う......真面目なのかふざけてるのか分からない、三分経過を教えるものだった。




 「......................本当に終わり?」

 「うん!終わりっ!」



 .....この様子だと、本当に終わりの様だな。




 (え........なっ、はぁ!!?)

 (待て!?じゃあ、あの子....!!)

 (試験者で初めてエリンさんに耐え切ったって事?!!)



 傭兵達も騒ぎに騒ぐ。どうやら、良い所で終わるだろうと思ってた様で、ディアドラが残るとは思ってなかった様だ。




 「初めて?......ティーザ。これ、合格した人ってどんくらい?」


 「えっ?......居ないけど?」




 仕留めきれなかったのは、君が初めてなんだけど?





 「.......全く?」

 「うん。」



 何なら、あの男が比較的マシな部類だったし。




 「........ネイが昔を懐かしむ訳だよ....」


 「....?」



 何でネイさんが出て来た?関係ないだろうに。




 「いや....意外とそう言うわけでもないよ?」


 「.......ふ〜ん?」



 一体何を話してたんだろう?




 「....まぁ何はともあれだ!お疲れ、ディアドラ。」


 「あ、うん!」



 決闘は終わった。ならもう、敵である必要はない。




 「はい握手。」

 「?......ほい!」



 和解の握手を、僕らはした。



ここからは、ただの友達

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