第三十五話 決闘開始
デュエル開始ィィィ!!!ではありません。
「.......終わりっと。」
流石にこれ食らって意識が残ってるわけない。アライと言う男は、ずっとのびたままだ。
「試験終了ぉ!!!!」
終了の合図が聞こえる。
すぐに闘技場の人達がやってきた。多分この男を、介護する為だろう。
「......すぐに医務室に。......まぁ、多分大丈夫だと思うけど。」
「ぁ、ああ...!」
骨や内臓にダメージが行かない様にはしておいた。数日もすれば、また魔獣狩りにも行ける。
「.....よし。」
これで憂さ晴らしは出来た。後は本命だ。
(お、おい.....もう終わりか?)
(いやだって、試験が終わったんだぞ?)
(つまんないの〜。)
ざわめきが聞こえてくる。
.......安心しろよ。まだ終わってないから。
「すぅ.....!」
息を肺に取り込む。
背中についているのだから、それに話しかければすぐに済む。.......でもそれじゃつまらない。
こう言うのは大声で、胸張って言うことに意味がある。
「.......ディアドラァ!!!」
彼女の方を向いて、大声を出す。
「これが決闘試験だ!!!やるかい?!!」
ディアドラが拒めば、それで終わり。やると言ったら、このまま続行だ。
(えっ?.....まさかあの子か?!)
(いやいやアライより若いぞ!?)
(あんな子が特級と戦いになるわけないわよ!?)
周りは、ディアドラの容姿に騙されてそんな事を言っている。
.......でも僕は知ってる。
ディアドラはきっと.......母さんと同じタイプだと。
性格は絶対に戦いに向いてない、なのにとんでもなく強い。そういう子だ、間違いなく。
「.......どうする?!!」
どの選択をしてもいい。失望なんかしない。
.......君がしたい方を選びなさい。
「.........えらそ〜な事思ってくれちゃってんなぁティーザ!!!」
ディアドラも大声で応じてきた。
.......どうやら、心もついでに観たようだ。
「言ったでしょ!!!ボコボコにしてやんよってさぁ!!!」
「――――――――――ふっ。」
.....全く。
ディアドラは、満面の笑顔を咲かせていた。
アレを見て、少しは立ち直ってくれたかなと思ってたらなんだよ。.......無茶苦茶元気じゃんか。
.......どこからそんな元気が出てくるのだか!
「.......ここに集った傭兵諸君!!!君らに見せるつもりは全くないがこれより!!!.......そこにいる少女、ディアドラと決闘試験を行う!!!」
その言葉、肯定と受け取らせてもらうよ。
(なっ.....はぁっ!?)
(エリンさん、正気か?!)
(こんなの特別扱いでもなんでもないわよ!?)
傭兵は、乗り気ではない様だ。
.....そりゃそうだ。この試験では、僕は一切の手加減ができない。つまり、ディアドラをわざと勝たせることができないという事だ。
.....ズルをしてないと言う証明にはなるが、側から見たら、特級が傭兵ですらない女神の様な少女に暴行を働こうとしている様にしか見えてないだろう。
.....勘違い甚だしいが、甘んじて受けるとしよう。
ディアドラが勝とうが負けようが.....ただの少女ではなかった事を、傭兵達は目にするだろう。
「ここで待っているから、きちんと準備を済ませて来なさい!!!」
「ティーザは私の母ちゃんか?!!へへっ!」
不適な笑顔を浮かべて、ディアドラは隣にいたネイさんに連れて行かれた。
「それで?勝算はあるんですか?」
ネイが聞いてきた。.....さっきまでと違って、敬語で。
「.......さっきみたいな話し方でもいいよ?」
「アレはプライベートの時だけですっ!.....今は仕事中なので!」
......分からんなぁ。なんでそうやって言葉遣いを変えるのか。.....喋り方は人それぞれだと思うのに。
「まぁいいや!.....ないよ、勝算!ひょっとしたら負けちゃうかもね!」
なんなら全く浮かばなかったしね!
「.....やっぱり、貴女もそう言うんですね。」
「ん?......何がぁ?」
ネイは、昔を懐かしむ様な目をして言った。まるで、もう戻ってこない大事な記憶を思い返す様に。
「.......エリン様より前の、特級の方に挑んだ方がいたのです。....その特級の方はとても強くて、誰も勝てないから決闘を受ける人が全くいなかったんです。」
「......へぇ〜?!」
みんなの反応から見て、特級はティーザ以外には居ないと思ってたけど......昔には居たんだなぁ。
「ですが一人.....決闘を受けた方がいたんです。」
「そんな物好きがいたんだ!」
そんな強い奴の決闘を受けるなんて......よっぽどの自信家か、ヤバい奴だな!
「その人に聞いたんです。『勝算はあるんですか?』って。.......そしたら言ったんです。『いや?全然!なんなら初めて負けるかもしれねぇなぁ!!』って!」
「....あっはははっ!!」
驚きだ。まさか私と同じ事を、昔のそいつも思っていたとは!
「その発言を聞いて、何言ってるんだこの子は?って思いました。」
「そいつも若かったの?」
「えぇ......確か、あの時は十五歳だったはずです。」
十五がそんな無謀な事をするのか。
........怖いな、十五。
「.......でもあの子、笑顔だったんです。....まるで、初めて全力を出せるかの様な、少年の顔をしてて。」
「.......そっか。」
きっとそいつも、私やティーザの様に最初から強かったのだろう。だから、全力を出せなかった。
.......でも、出しても大丈夫な奴が現れたから戦おうと思ってしまったんだろうな。
「そのまま試合に行っちゃって.....負けちゃうんじゃないかなって思ったんです。......そしたら!三分耐えたどころか、その特級と引き分けたんですよその子!」
「........えっ引き分けたの!?」
ギリギリで負けたのかなって思ってたら、それ以上の結果だった。
.....話に聞いた感じじゃあ、特級は国とおんなじ強さを持ってると言うらしい。........だったら、そいつも特級と同じ、国を相手にできる強さを持ってることになる。
「耐えるどころか、引き分けになってしまったから、異例の昇級をして........その子、傭兵じゃなかったんですけど、特級になっちゃったんですよ!」
「おぉ!そりゃまた凄い!」
どう見ても強そうに見えない奴が、特級になる。.....子供なら誰しも思う、ヒーローの在り方だろう。
「......今のディアドラさんの顔は、その子と同じですよ。」
「...................そうかもね!」
きっとそうなんだろう。
だって、今私はとてもワクワクしてる。
ティーザと戦えると言うのもある。.....白龍の時は別だ。あの時の私には意識がなかったんだから。
でも同時に........自分の強さを初めて知れる好奇心もある。自分と同じぐらい強い奴に、それをぶつけられる喜び。.......初めて、戦いを楽しみに思えてしまう。
「........無茶苦茶に暴れまくってやるさ!」
特級どうこうは知った事じゃないが、ティーザをビックリさせれるならそれだけでいい。
.....今はただ、それだけでいい。
......タンッ、タンッ、タンッ、タンッ
「......来たか。」
口の端が、上がってしまう。
楽しみで仕方がない。.......本当は戦いたくなんてないはずなのに。
「.........おかしな話だなぁ...」
ディアドラに手を出そうとした男を、怒ってぶちのめしたと言うのに、今度はそのディアドラをぶちのめそうとしている。
.....矛盾って奴なんだろうな、これが。
「........まぁ、どうでもいいけど。」
矛盾とか、そう言うのは今はどうでもいい。
今はただ.........ディアドラと戦えるのが楽しみで仕方ない。
グッ......
剣を握り込む。
下手な剣より硬い物だ。まともに当たれば骨が折れるほどの代物。
なにしろ、神秘を吸い込んでいる木から作った剣らしいからな。こんなんを使って、相手をぶっ叩くのだ。
「..................イカれてるな。」
こんな事を、ただの友になりたい少女にする時点で、僕はきっとイカれてるんだろう。
.......構うものか。イカれてようがなんだろうが、僕はディアドラと戦いたい。それで嫌われたらどうしようもないが、それでも好奇心を抑えられない。
だったら、この場で好奇心を吐き出しといた方が良い。好奇心ってのは早めに吐き出しとかないと、後々面倒なことになる。
「「「........うぉぉぉぉ!!!!」」」
傭兵達が騒ぎ始める。
ディアドラが、闘技場に姿を現したのだろう。
「.....よしっ!」
覚悟は決めた。後は、全力で戦うだけだ。
そう思って、ディアドラの方を向いた。
「...................槍か。」
「素手で戦うと思ってたんだったら、残念ながらハズレだ!」
入り口から出てきたディアドラは、手に木槍を持っていた。
「............それが元々の獲物かい?」
「まぁ、そだね!素手でも一応行けるけど!」
......なるほど。どうやら、僕との相性を考えて槍を持ってきたわけではなさそうだ。
普通、剣は槍に対して不利だ。
間合いの問題もあるが、ただ単純に、必要技量が全く違うのだ。
剣は、ただ振り回すだけでは意味がない。それでは刃の付いた棒をただ振り回しているだけ。叩いたり、突くだけでは無く、引いて斬る技量、剣先をズラす小手先も必要であれば、相手の剣を見切る洞察力もいる。
一方、槍は振り回すだけでいい。
剣の様に接近して斬る必要がない。ただ叩けば、容易に人体を壊せる。斬撃を見切る必要もない。
そして、槍は突くことに特化している。剣では届かない位置でも、槍なら前に突き出すだけで届く。
そして意外に、突きは見切りにくい。
剣の様に、上から叩こうとしたり、下から穂先で斬り上げようとするなら剣の方に分がある。
両手で扱わなければいけないほど槍は長い。そうなると当然、片手で扱える剣よりも行動が大きくなる。見切る事は、剣よりも簡単だ。
しかし突きに関しては、槍に敵うものはない。
剣も槍も、振り上げたりしようとすると、どうしても予備動作が生まれてしまう。....だが突きにはそれがない。それは剣と槍、どちらにもだ。
そうなると有利なのは、間合いの長い槍だ。
ただ単純に見切りにくい攻撃を、連続で槍は放てる。そうなってしまったら剣士が槍兵に勝つ事は無理だ。ただ滅多刺しにされて終わりだ。
だから剣は、槍に対して不利なのだ。
「お望みならば、今から素手でもいいよ?」
.....ディアドラめぇ...おちょくってるなぁ?
全く.......今からやる事を、キチンと理解できてるのかな?
「いや、構わないよ。.....負ける事だけはないからね。」
こっちも少し言い返してやった。
「.......へへっ!じゃあこのままで!」
「結構!」
そうして、僕らは闘技場の中心に向かった。.....始まる前に、ルールの確認をする為に集まる決まりがあるのだ。
「えぇこれより、ルール説明を行います。能力を使用する事のみを禁じる。以上です。正々堂々、戦士らしく戦ってください。」
地面にある印から音声が流れる。
「........あ、能力ダメなんだ!」
「試験者を守る為でもあるからね。」
能力の使用を許可してしまうと、試験者が危険な目にあってしまう。特級は身体能力もあるが、それ以上に能力が危険視されている。
特に僕の能力なんかがそうだ。ただ願っただけで、雷を起こせたり、森を燃やせたりできるのだ。そんな能力を試験者に対して使えば、再起不能で済むはずがない。.....最悪死ぬ。
だったら縛りで、特級だけ能力の使用を許可しなければいいと思うが、どうやらそれをしてしまうとかえって特級側が強くなってしまうそうだ。
.....まぁ、相手だけしか能力を使えない理不尽な状況に陥る訳だしな。そりゃいやでも恩恵を受けてしまうだろう。
「......これって、魔術はいい感じ?」
「能力を使用しない魔術だったら良いよ。」
傭兵の中には魔術師も居る。
魔術師にとって、魔術は武器そのものだ。それを取り上げる事はできない。
つまりこの決闘は......
「.....フィジカルと魔力だけの決闘って事?」
「正確には、"能力を使う事以外はなんでもあり"な決闘だね。」
つまるところ、喧嘩に近い。
だからこそ、試験者の実力がはっきりと分かる。
「なるほど.......やりやすいな!」
「....そう思うのは君だけだと思うよ?」
能力持ちは普通、能力を使えない事を嫌がる。能力の使用が当たり前な戦い方をするからだろう。
まぁ、それがいけない事ではない。実戦では、使える物は使っていかないと死んでしまうからな。........ただそれでやっていけるかと言われると、話が変わってくる。
魔獣の中には、単純に強い奴もいる。そんな奴に対して、能力だけで戦うのはあまりに危険だ。
だから能力無しでもやれるかを見るために、お互いに能力を使用できない縛りを課すのだ。
.......そんなだから、能力を持ってる準一級の傭兵達は挑んでこないと言うのに。
やりやすいのか、このルールが?
..............いや待て。ディアドラだぞ?絶対普通の意味じゃない。
「だって、合法的に人をボコせれるって事でしょ!」
やっぱり普通の理由じゃなかった。
「.......まぁ、言っちゃえばそうだけど!」
昨日やった様な、木を生やして相手を拘束するなんて芸当が出来ないと言う事だからな。そうなったら、相手を倒して行動不能にするしか無い。
ただ.............物騒すぎない?
いくらなんでも.......女の子がいう台詞ではなくない?
「.......お二方。宜しいですか?」
印から声が出てきた。雑談しすぎて、待ちくたびれたのだろう。
「あぁすみません。......じゃあディアドラ、始めようか?」
これ以上の問答は不要だろう。ここからは、戦う者同士だ。
「分かった!.....えっと、距離取るんだよね?」
「入り口まで下がってね。」
ディアドラが入り口に向かっていく。
お互いが充分な距離を取った数秒後に、決闘が開始する。そこから僕らは、敵同士になるわけだ。
(おい....始まっちまうぞ....!)
(俺、幾ら何でも見れねぇよ!)
(エリンさん!その子に酷い事しないでくださいよ!?)
周りの傭兵は、さっきの様な熱狂さがなかった。どちらかと言うと、心配の方が強く感じる。
.......君ら、いつまで同じことやるんだよ。
その反応........僕が特級に認定された時とおんなじ反応じゃないか。
「.........ふぅ。」
深呼吸をする。身体の奥からドッドッと、激しい音が聞こえる。
どうやら僕は、緊張してしまってる様だ。......普段なら、戦う前に緊張なんてしない筈なのに。
まるで、初めてディアドラの顔を間近で見た時の様に、心臓が......身体が興奮している。
...........少し落ち着こう。
「〜♪」
ディアドラは、今か今かと、待っているかの様だ。
.......そういえば、噴水の所でディアドラを見た時、あんな感じだったっけなぁ。あの時のディアドラ、とても綺麗で.......まるで女神が本当に降りてきたかの様な.........
「......やれやれ。」
本当にどうしてしまったのだろう。いつもならこんな、集中出来ないなんて事ないのに。
「.................ふぅ。」
そろそろ始まる頃合いだろう。
冷静にならなくては。/興奮が収まってきた。
ディアドラを見据える。
/ディアドラもこちらを見据えてくる。
音が何も聞こえなくなるほど集中する。
/自分の鼓動しか聞こえないほど集中する。
.......ドォォォ!!!!
そんな中、開始の音だけは耳に入ってきた。
「.........っ!」
ダンッ!!!
その瞬間、飛び出す。
槍の弱点は、剣と違って超接近戦が出来ないことだ。
槍は本来、間合いを使って戦う道具。逆に言えば、間合いを詰めて戦う事を想定してないと言う事でもある。
その点、剣は間合いを詰めることが前提だ。だから、間合いさえ詰めれば槍は剣に敵わない。
だから飛び出した。身構えてないこの瞬間を狙って。
........だがディアドラは、こっちの予想外の事をして来た。
「どりゃあ!!!」
ボヒュウッ!!!
なんと投げてきたのだ。持ってた槍を。
「........なっ!?」
咄嗟のことで反応が遅れてしまった。
槍を投げる事を想定してなかったのではなく、この段階で投げてくるとは思ってなかった。
勿論、槍を投げてくる事がおかしいと言う事じゃない。.........でもこの決闘は、能力の使用ができない。つまりディアドラは、能力で木を生やして槍を創る事が出来ないのだ。
だから、投げるなんて事はしないだろうと踏んでいた。.......慎重になるかと思ったが、ディアドラにはそれがなかったか!
「くっ!」
ガンッ!!!
投擲された槍を、剣で弾く。
「重っ!?」
とんでもない重さだ。手が少し痺れてしまった。そのぐらいの力で投げたと言う事だろう。槍を弾いた剣も弾かれてしまった。
(だがこれなら!)
今ディアドラの手元には何も無い。魔術を唱えようにも、僕は目の前にいる。
つまり、詰みだ。
「.....そうじゃ無いんだなぁこれがぁ!!!」
「なっ!?」
なんと、ディアドラが突っ込んで来た。
剣を槍に弾かれて、隙を晒してしまっている僕に向かって。
ガバッ!!
「捕まえた!!」
「しまっ!?」
やらかした。倒れる事だけは耐えれたが、正面から組み付かれた!
このままでは、まともに攻撃を喰らってしまう。
「っ...おぉ!!」
こうなれば、力尽くで引き剥がすしか無い。そう思って、力を込めようとしたら。
キュゥゥ....!
「!?」
「『水よ、炎の元で爆ぜよ!』」
ディアドラが魔術を唱えていた。
右手に大きな水の玉を、口元に炎の玉を。
口元にあった炎は、水に吸い込まれていって......そして。
バビュゥ!!!
蒸気になって爆発した。
ビュゴォォ!!!
「熱っ!?〜〜!!」
どうやらディアドラは、爆発する方向に指向性をつけてた様で。膨張された蒸気が、全部僕の方に飛んで来た。
ザザザッ!!!
「っ....はぁっ!!」
まさか爆弾を使ってくるとは思っても見なかった。小さい物でも、すべての蒸気がこっちに飛んで来たのだ。モロにくらった僕の身体は、後ろに押し返された。
「『力よ、矢になれ!』」
「!?」
蒸気が晴れた所には、魔力を矢に変えたディアドラが立っていた。
バヒュン!!!
矢が放たれる。さっきの槍よりも速い。
直感で分かる。.......これは直撃したら危ないと。
「かかるか!!」
だが、防げばまたディアドラに組み付かれる。ならば。
ダンッ!!!
(逆に突っ込んでやる!)
ビュン、と矢がそばを通り過ぎていく。
こう言うのは経験でわかる。留まるのも、引くのもダメな時は、とにかく弾幕の内側に入るしか無い。
もし外側に出てしまったら、狙い撃ちにされてしまう。だが内側だったら、その攻撃を避けるだけで済む。
ダダダ!!!
よし!矢は全部避けれた!
「倒した!」
そうだと信じて、ディアドラに向かって逆袈裟を放とうとした。
(グリュッ!!!)
「っ!?くっ!」
その途端、脳裏によぎった.......腹を撃ち抜かれている自分の姿。
その予感が余りにも不気味すぎて、攻撃から防御に移った。
ガンッ!!!
「へへっ!直感ってやつ?!」
「やっぱりか!」
..................いつの間にか、ディアドラの手元に槍が戻っていた。
危なかった。もし防御に移れてなければ、腹に突きをモロに喰らってたところだ。それも、ディアドラの力だけでなく、僕の速度も入ったカウンターが。
そんなのを喰らってたら、いくら僕でも耐えきれずダウンしてしまうだろう。
ギリッ........ダンッ!!
飛んで、ディアドラから距離を取る。
「...........ここまでとはな!」
「へへっ、そうでしょ!強いでしょ!」
戦いの最中だと言うのに、ディアドラは胸を張って、喜びで満ちた目で見てくる。
.......正直驚いている。まさか、白蛇の時よりも強いとは思ってもなかった物だから。
破壊規模だけで言えば白蛇の時の方が圧倒的に強い。だけど対人での戦いだったら、人の状態のディアドラの方が遥かに強い。.......こりゃ、小手先も使わなきゃな。
「......全く、良くやるよ。ディアドラ!」
「でしょ〜!むふ〜!!」
.....戦いの最中なのに、お構い無しだなぁ。.....まぁ、可愛いから良いけど。
(おい!?あの子とんでもなく強いぞ!?)
(あんな見た目で.....嘘だろ?!)
傭兵達も分かってきた様だな。ディアドラがただの女の子じゃ無いって事。
「.......じゃあそろそろ、こっちから仕掛けようかな?」
そう言って僕は、あの歩行を始めた。
ザクッ...ザクッ......
「ティーザ、思ったんだけどさぁ......それ、ひょっとして御殿手?」
ピタッと脚が止まってしまった。
「..........物知りだね?」
そうだ。僕がやっているのは御殿手だ。
裏の世界の戦闘技術な様で、正中線を一切乱さず、重心のズレも無く歩く技法だ。
この技の恐ろしい所は、ズレがない故に体勢を崩す事が出来ないと言う事だ。それどころか、攻撃を仕掛けたら安全圏に逃げられて反撃される。
敵に接近していく上で、剣と相性がいい歩行だ。
「まぁ、絵本で読んだから!」
「へぇ?.....どんな絵本なんだろ。」
母さんが言うには、御殿手は秘伝の技法らしい。そんな重要な物が書かれている書物........一体どんなのなんだ?.......と言うか、どんな絵本なんだよそれ!?
「.....それに描いてた奴ではあるけど、対策はあるのさ!」
「.........そうなんだ...!」
胸を張って言ってるが.......ある訳ない。御殿手は、歩法だけで使える技だ。対策なんて、そもそも歩かせないぐらいしか無いだろうに。
「じゃあその"対策"ってのを見せて貰おうかな?」
そう言って、僕はディアドラに向かって歩き出した。
「おっしゃ来い!」
そう言ってディアドラは、槍を構えた。
......だが、仕掛ける様子がない。槍を両手で、水平に構えてるだけだ。
ザクッ....ザクッ......ザクッ......
(.........何してるんだ?)
仕掛ける訳でもなく、ただ待ち構えるだけなんて....さっきまでのディアドラとは大違いだ。.......何かあると踏んだ方がいいな。
そうやって、ディアドラの元に辿り着いた。
........その時にようやく気づいた。
ディアドラの構えが、すぐに攻撃に移れるような物である事に。
(......やられた!?)
仕掛けられない。仕掛けたらこっちが反撃を喰らってしまうと、身体も頭も理解してしまった。
「これが対策さ.......さぁどうするね?」
.....なるほど。
御殿手はジャンケンで例えるなら、後出しジャンケンの様な物。相手の攻撃を先に見切って、その攻撃の安全圏に逃げる技。
だが、例え後出しでもどうにもならない奴がある。
.....ジャンケンにおける最強の手。グーとチョキとパーが合わさった様なあの手だ。
あの手は、厳密には勝つ事が出来ない欠陥品だ。どの手を出しても、必ずあいこになってしまうから。....だがそれ故に、後出しをする者に対してはとてつもなく強い。
どの手を出しても必ずあいこになってしまう。後から見たとしてもだ。
.....別にそれだったらまだ良かった。今回の場合、それどころの話じゃない。
例えるなら、後出ししようとしたら、後出しし返された様なものだ。
「.............ふっ。」
立場の逆転をされてしまっている。
このまま攻めたら、間違いなく反撃を喰らってしまう。攻撃に備えてるディアドラと、攻撃をしなければならない僕。........有利なのはどう考えてもディアドラだ。
であれば、魔力を剣で放つしか打開策はないだろう。遠距離で放てば、いくら速くても多少の時間は発生する。そうすれば手痛い反撃を喰らう事はない。
..........だが、それじゃあつまらない。
「決まってんでしょ....!!」
やる事はもう決まっている。
シュカッ!!!
突きを放つ。
逃げようとも考えたが、それはない。
言ってしまえば御殿手が効力を発揮するのは、一番最初の攻撃だけ。
接近戦において意味があるだけで、魔術戦になれば、御殿手は全く意味がない。
ディアドラは魔術を使えるのだから、魔術を使えばよかったのにそれをしなかった。.....世剣が防ぐのは魔術などの奇跡であって、魔術がもたらした残滓の様な現象を防ぐ事はできない。だから、あの蒸気をモロに喰らってしまった。
だと言うのに、あえて接近戦を選んだ。
........多分ディアドラも、退屈な戦いをしたく無いからそうしたのだろう。
だったら、それを裏切るわけにはいかない。
ディアドラもその気なら、喜んで乗ってやる。....それが、礼儀って物だ。
「たっ!!!」
ドギュオッ!!!
「〜〜ぐぇっ!!!」
予想通りと言うか、やっぱりディアドラの方に軍配が上がった。
ディアドラは突きを受け流して、左拳で僕の腹を撃ち抜いてた。
「―――――――――――――がっ。」
.......ドサッ!
地面に膝をついてしまう。鳩尾に喰らった。
(えっ?......嘘だろ!?)
(エリンさんがダウンした!?)
(そんな!?相手は特級よ?!)
「.........えへへっ!」
.......顔は見れてないが、ディアドラが微笑んでいるのを感じる。
「......どうした〜?倒れちゃってさ〜!」
挑発的な言葉とは裏腹に、その声には安堵が混じっていた。
.......『逃げなくてありがとう』なんて言う声も聴こえた。
ちなみにグラップラー時代が好きです。




