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第三十三話 守る

酸っぱい林檎は好きじゃあ無い。



 シャク.......




 「....あっま!?」



 少し小腹が空いたので、ディアドラから林檎を受け取ったが.....とんでもなく美味しい。




 「......砂糖かけたわけでもないのに。」



 野生の林檎は酸っぱいものがほとんどだ。


 鳥とか虫に食べられない様にするためにするとか何とか、何かの本で読んだ。





 鳥どころか、肉食の猛獣ですら貪るであろう甘さ。


 この林檎は、そのぐらい甘い。酸味は少し感じるが、甘さに打ち消されている。




 「.....何でこんなに....」


 「ふっふ〜!...それはね?私がめっちゃ生命力を入れたからですよ!」



 胸を張って、ディアドラはそう言った。


 .....確かにそれもあるかもしれない。....ただこれはそれだけじゃない様な気がする。



 酸味はあるが、この酸味が『身を守る為』の酸味とは思えない。


 何だか、元からある酸味だけの様に感じる。




 「.....警戒する必要がないから?」


 「ん?.....あぁ、それはあるかもね!私達が居るなら身を守る必要もないし!」



 ディアドラの言う事も一理ある。



 野生の林檎のあの酸味は、身を守る為のもの。

 でもこの林檎は、家の中に生えてた物。



 あの家の中には僕らがいた。僕らが居るのなら、鳥に食べられる事がないと思ったから酸味をつけなかったのかもしれない。



 .....だから酸味が薄く、甘味が強いのか。




 「そりゃ凄いなぁ。」



 林檎を頬張りながら喋る。



 ....三時間は歩きっぱなしだが、人と出会う事も無くスイスイと進んでいる。



 ....誰とも会わないってのも、少し新鮮だな。




 「ひひぇ...!.....ん?ティーザ!あれって街?」


 「ん?......おお!」



 ディアドラに促されて、左の丘下を見た。





 ......剣と獅子の顔の紋章の側を掲げた、大きな城と街が見えた。




 「あれがティーザの言ってた、カイル?」



 首を小鳥の様に傾げて、ディアドラは聞いてくる。




 「うん。あれが目的地!」



 ノトスドニェの命綱とも言える

            騎士の国『カイル』だ。


























 「さてと」



 取り敢えず、城壁の所まで来た。




 「ティーザ?なんか人が並んでるけど、これ何?」



 そうか、ディアドラは知らないか。


 まぁ、フルシュは街を城壁の中に入れてない珍しい国だからな。




 「あぁ、検問だよ。」


 「けんもん?」



 さて、どう説明するか.....


 ディアドラでも分かりやすく言うには......こんな感じかな?




 「簡単に説明すると...............変な事しようとしてないか調べる事かな?」


 「なるへそワカタ!」



 .....分かってるのかな?


 なんか.....子供の落書きみたいな顔して返事したんだけど。



 .....まぁ、理解できてなくても良いけど。




 「ホントは少しめんどくさいけど、まぁ大丈夫だよ。」


 「そうなの?」




 お金払ったり、武器の所持理由とか聞かれたりするが、僕には関係ない。



 ディアドラも、僕の付き添いといえば何とかなるだろう。





 そうこうしてたら、僕らの番になった。









 「はい次。.....おぉ!子供だけで来たのかい?凄いねぇ!」


 「ははは.....どうも。」



 まぁ、子供だけで来る人達は、なかなかいないだろう。



 「えっと、それで何で来たのかな?」


 「あぁ、ちょっとその前に。」





 コトッ....




 此処を何事もなく通過するのに必要なものを出した。






 「ん?なんだいこ..........れって!?」



 検問してる騎士の顔が固まる。








 僕が出したのは、『魔獣対策傭兵の証』だ。



 普通の傭兵にはないが、魔獣対策本部に所属してる傭兵には必ず配られるものだ。


 そして証によって、その傭兵の階級が分かる様になっている。



 階級には、四から特までの階級がある。



 四級には木の名彫。三級には石。準二級は鉄。二級は銅。準一級は銀。一級は金と、階級が上がるごとに、名彫に使われる素材の価値が上がる。


 価値が高いものが使われているものが、階級が高いものだと分かりやすくする為だと言う。





 .....別に価値が低いからと言って、貰えるお金が少ない訳では無い。



 二級の傭兵でも、仕事をすれば街で仕事してる人達よりもお金が貰える。


 準一級と一級のお給料には、相当の差があるらしいが、それでも相当お金は貰える。





 しかし階級を上げる為には、その階級に上がっても問題の無い実績と、試験を受けなくてはいけない。


 更に、一級になれたからと言って特別扱いされるわけでも無い。ただお金がみんなより貰えるだけで、それ以外はみんなと変わらない。



 検問を越えるのにもお金がいるし、自分の素性を説明しなければいけない。











 「.......白金(プラチナ)の証!?」





 .....そんな中、特級だけは扱いが違う。


 証に金よりも価値の高い、白金を使ってるのがいい証拠だ。



 特級になるのには、()()()()()()()()()()()








 いるのは力。


 一国の全勢力と同等の力を持っている者が、強制的に特級となる。

 









 ....特級は、お金も一級より沢山貰えるがそれ以上の権限が与えられる。




 一つは、検問のスルーだ。


 これに関しては武器があろうがなかろうが、街に入った時点で街中の人々が人質に取られる様なものだから意味が無い.....と言う事で無いそうだ。


 お金を取られる事も無いからこれに関しては助かっている。





 二つ目が、移動の自由。



 本部に所属する傭兵は勝手に移動をしてはいけない。何処かに旅をする場合は、事前に知らせておかなければいけない。


 だが特級は、『止めたところで無駄』だと過去居た特級傭兵達で分かったそうで、特級のみは事前に知らせる必要がない。






 そして三つ目が........これはどうでもいいや。







 主な権限がこの三つだ。


 その他本部内で色々とできる様だが、僕は興味がない。




 そして、特級になる条件が特殊すぎる理由もあって、特級傭兵は今、()()()()()()()()



 昔は二人いたそうだが、その二人は傭兵を辞めてしまったそうだ。



 つまり、今いる特級傭兵は....




 「....まさか!白蛇殺しのティーザさんですか!?」



 ()()()()()()()()()()







 「.......そんなに知れ渡ってるんですか?」



 白蛇殺しと言う言葉で分かった。


 ......多分アヴァロン全体に、僕のやった事が知れ渡ってると。




 一応、特級のやらかした問題は揉み消されるそうなんだけど.....




 「そ、それはもう!本部の方々が号外を配るほどのことですから!」




 ....なるほど。


 取り敢えず、シルワに情報が知れ渡ってた理由が分かった。.......絶対問いただしてやる。




 「....そうですか。それで入国したいのですが。」


 「あぁ、はい!特級の方でしたらどうぞ!」



 ビシッと言いそうな速度で騎士は敬礼した。


 .......そこまで偉くないんだけどなぁ。




 「ところで.......そちらの女の子は?」



 あぁ、そうだ。


 ディアドラの事を言っておかないと。




 「この子は付き添いです。一応僕が見ておきますので。」



 こう言っておけば、大体何とかなる。




 「そうですか。.....迷惑かけちゃダメだよ?」


 「かけるわけないでしょ、バカ。」


 「!?ディアドラ!?」




 突然ディアドラが、暴言を吐いた。



 何があったのかと思って、ディアドラの方を見たら......




 「......わたしに話し掛けないで。」



 教団の連中に襲われた時の様な、冷たい目をしていた。



 「.......ディアドラ?」



 いったい何があったのだろう?


 さっきまでご機嫌だったのに.......急に怒っている?




 「あ.....お嬢さん?」


 「っ!.....話し掛けないで。」




 .............いや違う。


 これは防衛本能だ。



 男が嫌いだから、そのせいで素っ気ない態度を取ってしまってるだけだ。






 心を感じて分かった。




 ......今、少し怖がってる。




 「あ、じゃあ通っていいですかね!?」



 これ以上、此処にディアドラを居させる訳にはいかないと思った。





 「えっ?!.....まぁ、大丈夫だと思い」


 「それではまたっ!!」



 そう言って、ディアドラの手を握って検問所を通り過ぎた。

 


























 「....ふう。.......大丈夫?」



 検問所から離れて、ディアドラの手を握ったまま話しかけた。




 「..........ごめん。あんな事するつもり無かった....」



 ディアドラは、本当に申し訳なさそうな声で謝ってきた。




 「気にしなくていいよ。.....慣れってのがあるから。」



 ディアドラはかなりの男嫌い。


 話に聞いただけの様だけど、それでも偏見というものはある。



 そしてそう言うのは.....いけない事と理解してても、どうしようもない時があるものだ。




 「焦らず、のんびり.....ね?」



 そんな風にしないと、一向に慣れない。


 こういうのは、ゆっくりゆとりを持って直す事が重要だと思う。


 焦ったら負けだ。




 「......うん。頑張る。」



 ディアドラが微笑んでくれた。


 ......良かった。やっぱりディアドラは、笑ってた方が良い。




 「そうだね。.....じゃあ本部に行きますか!」




 カイルに用事は、本来なら無かったが、今ちょうど出来た所だしな。




 「.....分かった!ついてってもいい?」



 相変わらず立ち直りの早いディアドラが、僕の目を見て聞いてきた。



 .....ホントなら部外者を連れてくのは、あまり良い事ではないけど。



 .......まぁ大丈夫でしょ!




 「もちろんさぁ!」


 「よっしじゃあ行こ〜!!」



 ....本当に元気な子だなぁ。


 そういうところが良い。























 「おぉ!おっきいね!」



 ディアドラは、本部の建物を見上げて言っている。




 「これでも一応支部だよ。」


 「.....本部って言ってるのに?」



 まぁ、それは僕も思う。


 地味な謎の一つだ。






 ガチャ!




 ドアを開けて中に入る。


 中には傭兵がわんさか居た。




 「.......大丈夫?」



 思わずディアドラを見てしまった。


 僕一人なら特に何も思わないけど、ディアドラが居るとなると話が変わる。




 「.......手、握ってて。」



 ディアドラにお願いされてしまった。



 ......本当ならこっちがお願いしたいぐらいだよ。




 「りょーかーい。」



 少しおちゃらけてみる。


 .....緊張してる人の隣には、ふざけた奴を置くのが一番だと、リュウズで学んだ。




 そうして、受付場に行ってると。



 「あれ?.....エリン様!?」



 何故か、()()()()()()()()




 「.....ネイさん!?何でここに!?」



 フルシュからカイルまでは、早くて一週間は掛かるはずだ。


 そりゃ僕やディアドラはぶっ飛んできたから早く着いているが、普通なら僕らより早く着くなんて出来ないはずだ。




 「どうやってここにきたんです?!」


 「あぁ、エリ........えっと....他の所に情報を伝えたいと言ったら、転移させてくれた少.....人がいまして。」




 .....なるほど。


 取り敢えず、エリーテの仕業だと言うことは分かった。




 「....どうせ、僕の居場所を条件に出されたんでしょ?」


 「っ!?....分かります?」



 そりゃもう。


 あの時からエリーテはちゃっかりしてたからな。


 人は助けるが、僕の関係者だったら無償で助けるわけにはいかないだろうしな。




 「.......なんかやりますから、エリーテには秘密に出来ませんか?」


 「えぇ!?......................まぁ良いですけど.....乗り気じゃ無かったし。」



 よし!


 これでエリーテに知られることはない!






 「..............ところでエリン様。ナンパはいけませんよ?」


 「.....?」



 何だ突然?


 ジト目で僕の事を見て。


 僕が何をやったと...............あぁ、そう言う事か。




 「違いますよ。この子は........えっと....何と言うか......」


 「ティーザのナカーマです!」



 ディアドラがフォローを入れてくれた。


 .........いや、フォローって言うのかこれ?




 「なかーま?」


 「違う!ナカーマ!」



 そこに一体何の違いがあると言うのか。




 「あるのです!!」


 「だから急に観ないで!!」



 心には悪くないけど心臓に悪い!




 「........じゃなくて!ネイさん、白蛇の事を広めたのって」


 「あぁはい!私ですよ?」



 コノヤロウ。


 笑顔で言うんじゃないよ!



 「特級のやった事は揉み消されるんじゃないですか?!」


 「逆に聞きますが、あんなの(白蛇事変)をどうやって揉み消せと!?」


 「確かに!!!」



 あそこまでみんなに見られたら、まぁ隠し通せないな。




 「それに、英雄並みの大偉業を揉み消す理由もありませんし。」


 「そこは揉み消して欲しかった!」



 おかげで、変態どもに追いかけまわされる羽目になったしね。




 「はぁ.......ひょっとしてもう、アヴァロンに?」


 「知れ渡っちゃってますね。」



 しれっと、ネイさんは言った。


 まぁ、いずれそうなるだろうと思ってましたよ?....と言う目を向けながら。




 「........有名になりたくないんだけどなぁ。」


 「特級である以上、時間の問題ですよ。」



 まぁ、そうかもだけど。


 .......出来れば知られたく無かったなぁ。




 「あ、そうだ!秘密にすると言う事で、依頼を受けて頂きたいのですが!」


 「.......え、依頼?」



 僕に向けての?




 「そりゃまた物好きな.....」



 .......特級に依頼するとなると、相当なお金が掛かる。


 最低でも十万ゴーネだ。


 ......そんなお金を払える程のお金持ちが僕に?




 「.......お相手さんは?」


 「それが......カイル王国からなんです。」




 .......王国が?




 「まさか戦争じゃないよね?」


 「それは聞きましたよ!.......違うみたいですが、秘密だそうで。」




 ........どうもきな臭いな。


 ......だが、本当に困ってたら見捨てるわけにもいかない。


 わざわざ大金を払おうとしているのだから。




 「........今来てますか?」


 「はい。......本人が来てるとは知りませんが。」



 ならばちょうど良い。


 こう言うのは本人に直接聞くのが良い。




 「ねぇティーザ?」


 「ん?なぁにディアドラ?」



 ほったらかしにされてて嫌がったのか、ディアドラが袖を引っ張ってきた。




 「何かするの?」


 「うん。少し依頼をね。」



 まぁ、今回は話を聞くだけで済みそうだが。




 「ふ〜ん?.....じゃあ私も手伝っちゃおっかな!」





 「..........へっ?」



 ディアドラがまた、トンチンカンな事を言い出した。


 手伝う?.........いやいや。





 「えっと.....ディアドラさんでしたか?あの....これは危険な仕事なので、傭兵じゃない方には」


 「危険なら何で子供のティーザに頼むの?」



 うっ.....と、ネイさんが言葉を詰まらす。



 「子供に危険な仕事をやらせるなら、傭兵じゃなくても手伝って良いでしょ?だって、子供にやらせるべきじゃない事やらせてるんだから。」



 ......怒ってるわけではないのは分かる。


 ただ、言葉が強い。ネイさんにこの言葉はかなりキツイ。




 「ディアドラ。.....事情があるんだよ、ネイさんにも。」


 「.............でも。」



 ディアドラがこっちに目を合わせる。



 ......心から感じれるのは"心配"だ。


 僕が強い事を理解してても、それでも心配なのだろう。



 .........仕方ないなぁ。




 「.........分かったディアドラ!こうしよう!」


 「ん?」


 「部外者は手伝う事ができないから、ディアドラも傭兵になっちゃおう!」


 「なっ!?エリン様?!」



 そうだよ。


 きっとこの時のために、あの権限があるんだよ。



 「いくら何でも突然過ぎ」


 「ネイさん!()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「いや....エリン様!!?」







 特級に与えられた、主な権限の三つ目。



 ......傭兵の昇級。


 特級には、目をつけた者を例えどの様な階級だろうと、傭兵でなかろうと、一級に昇級させる権限がある。


 これには本部も口を出す事ができない。





 ......だが、条件がある。



 それは、()()()()()()()()()()()


 その決闘で、特級相手に三分間耐え凌ぐ事ができれば、昇級できる。



 それが決闘試験。





 「ディアドラ.....傭兵になるのは簡単なんだけど.....四級だと特級についてっちゃダメなんだよ。」



 四級はいわば見習い。



 特級についてって良いのは、二級の傭兵で最低ラインになる。




 「えっと.....つまり今からティーザと戦って.....ティーザを負かせばいいってこと?」



 随分、強気な発言をするなこの子。




 「いや、三分耐えるだけで良い。.....まぁ、僕は一切手を抜けないけど」



 八百長がない様に、特級は『絶対に手を抜かない』縛りを、始まる前にしなきゃいけないし。




 「そっか!」


 「.......それで.....やる?」



 殺し合いでは無いとはいえ、闘いだ。


 本人が嫌なら.....悪いが諦めてもらうしか無い。




 「もちろん、やるとも!」



 ......なんか、思ったよりもやる気に満ちてる。



 ........これ、僕ボコボコにされないよね?




 「分かった!...ネイさん。お願いします。」


 「うっ.........分かりましたよ...でも今からだと観客がいる状態になりますよ?」


 「別に良いですよ?」



 観客が居ようが居なかろうが、やる事は変わらない。



 「あ、ついでに依頼人にも、見る様に言っといてください。ディアドラの実力を見せておいた方が良い。」


 「分かりました。........はぁ。」



 あれ?なんか疲れてるなぁ。


 ......そこまでおかしな事をしてない筈なんだけど。




 「へっへ〜!ボコボコにしてやんよ!」



 パンチを出しながら、ディアドラは僕に宣言してきた。



 「怖い事言うなぁ。」



 この子の場合、嘘じゃないかもしれないし。









 「おぅ、ちょっと待てよ!!!」


 「ん?」



 後ろから怒号が聞こえた。


 振り向くと、傷だらけの男が僕を見ていた。



 「特級さんよぉ.......なんでそこのガキは良くて俺はダメなんだよ!ずっと決闘を頼んでるっつうのによ!!」


 「.....はい?」



 ........何の事だ?


 決闘?......直接申し込まれたことなんて無いはずだけど.....



 「あの......アライさんですよ。ほら、決闘の申し込みを送ってきてる方。」


 「..........あぁ!」



 あの人か!


 いや、手紙が鬱陶しくて処分する様にネイさんに言ってたから、存在を忘れてた!




 「あぁっと........理由言った方がいい?」



 正直に言うと喧嘩になる事が目に見えてるから、言いたく無いんだけど。



 「言ってみやがれこのメスガキ!髪長くしやがって男の癖に!!可愛いと思ってんのか!!!」



 「........................................あ゛?」






 今コイツなんてった?




 「.......今なんて言った?」


 「あぁ!?じゃあ分かりやすく言ってやるよ!....気持ち悪いんだよ!!男の癖に髪伸ばしてよ!!!」














 (ティーザの髪好きだなぁ。)













 ............前言撤回。言ってやる。


 人の事(母さん)をコケにしやがって。


 絶対に許さない。





 「......本部で君を見たけど、剣技も雑だし、読み合いも下手だし、何なら人との会話とまともに出来てないし何より"弱い"から興味も無かった。」



 正直........うるさいだけの人形だよ。君は。




 「なっ....テメェ!!!」




 ガッ!




 胸ぐらを掴まれる。


 ......何故男は、苛ついたらそいつの胸ぐらを掴むのだろう。


 そんな事やれば、喧嘩に発展するだけなのに。



 ......相手がそんな事しないと思ってるからか?




 「もういっぺん言ってみろゴラァ!!!」


 「何度でも言ってやるよ。()()()()()()()()



 弱い癖によく吠える一番要らない奴だよ。



 「.....これでもか!!!」



 男が拳を振り上げる。



 「っ!やめて下さい!!?」



 ネイさんが悲鳴じみた声を上げる。



 ....これぐらいどうって事はない。


 魔力でほっぺを守っとけば、傷付くのはコイツの拳だけだ。


 ()()()()()()()()()()
















 ......ガシッ!!!















 「..........あ?」



 男の拳が止まった。






 ......小さくて白い手が、男の腕を掴んでる。















 ........見てみると、ディアドラが男の拳を止めていた。











 「.....おいガキ。.......邪魔すんなよ。」


 「....................」



 ディアドラは何も声を出さない。


 だが、怒ってるのは感じ取れる。ただ......




 .........その雰囲気がまるで......()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 「.....聞こえねぇのか離せっつってんだよ!!」


 「..........................」



 男に怒鳴られても、ディアドラは手を離さない。


 それどころか、力が強まっている。



 「........いい加減にしろぶち犯すぞテメェ!!!」






 ―――――――――――――――――







 その発言を聞いて、僕の頭に湧いたのは.......




 ........不思議なことに、殺意だった。















 (.......殺す。)



 コイツが本当にそうする前に殺す。




 僕なら別にいいが、ディアドラに手を出すなら容赦なく殺す。




 ディアドラの純潔を奪うなら、お前の命を奪ってやる。











 貴様なんぞ........ディアドラに触れる権利すらないのだから。










 「....................」



 俯いてたディアドラは、男に顔を向けた。












 その目は、これ以上ない程までに...........充血してて真っ黒だった。





 「――――――――――――――」



 本来白いはずの部分が、血のように赤黒く変色してしまってて、青空のような綺麗な瞳が、闇のように暗い黒に染まってた。


 ........そんな恐ろしい目をしてたと言うのに、僕は見惚れてしまってた。......()()()()()()()()()()()()




 「ひっ!?」



 そんな尋常ではないディアドラを見て怯えてしまったのか、男は僕の胸ぐらから手を離した。





 「..............お前なんかがティーザに触れるな。」



 口を開いたディアドラから出た声は........本当にディアドラなのかと疑うぐらい冷酷だった。




 スッ........ギュッ




 ディアドラが空で何かを掴む。



 「ぐっ!?.....がぁ!??」


 「えっ!?」



 すると()()()()()()()()()()()



 「が.......ぁぁ....!!」



 男の息が細くなっていく。


 それと同時に、命の灯火が小さくなっていくのも分かってしまった。




 「..........ティーザはお前なんかより苦しんできたんだ。」



 ディアドラが何かを言っている。




 「.............これ以上苦しめるな。」


 「あ.......がぁ..........」



 そう言いながら、ディアドラは男を苦しめている。




 「................お前のような男は要らない。」



 そう言って、ディアドラは手に力を込めようとした。



 .......その行動で分かった。


 ..........止めなきゃ、この子はコイツを殺すと。















 「........ディアドラ、ダメ!!!」




 パァン!





 気づいた時には、ディアドラの頬をぶっていた。


 そうでもしないと、殺してしまいそうだったから。




 ギュッ....




 すかさず、ディアドラを抱きしめた。


 ディアドラの身体はとんでもなく熱くなっている。熱でも出してしまったんじゃないかと思うぐらい。




 「ディアドラ!落ち着いて....ね?」



 きっと、僕が危ないと思ってこうなってしまったのだろう。


 ここまで怒ってしまったのだろう。



 だから、僕が安心させてあげないと。




 「僕は大丈夫だから........ほら。」



 しっかり身体を近づけて、安心させようとする。



 どうすればいいのか分からなかった。


 分からなかったけど、きっと母さんならこうするだろうと思って、やっている。





 僕の事で怒ってくれてるのは伝わる。


 でも、それでディアドラに人を殺させたくない。











 「......................けが、ない?」



 ディアドラの拙い言葉が、口から漏れた。


 怒り過ぎて、それでも冷静になろうとして出た言葉だ。



 「うん。........本当に大丈夫。」



 刺激しないよう、安心させるように話す。




 「大丈夫だから.........落ち着こ?」



 背中を撫でながら話す。




 「....................ん。」



 怒りで火照った身体は、少しずつではあるが収まってきた。


 ....冷静になってくれたのだろう。









 「........もう大丈夫?」



 念の為に聞いておく。









 「........うん。」



 ......この様子だったら大丈夫そうだな。









 「ゲホッ!!....でめぇ!!!」



 解放された男は、ディアドラに掴み掛かろうとする。




 「『待て』」


 「っ!!?」



 そんな事させるものか。


 言霊を放って、動きを止めた。





 「..........ネイさん、予定変更だ。」


 「えっ.....?」



 コイツは、ここでぶちのめしても気に入らない。


 もっと恥ずかしい目に合わせてやらないと気が済まない。




 「......先にコイツを試す。」


 「なっ!?エリン様!?」



 本人が望んでいるのだ。


 じゃあお望み通り、試してやろうじゃないか。




 「受けるかどうかは貴様次第だ。........その様子じゃ無理そうだがな。」


 「.......テメェ.....!!」




 男が怒る。


 この様子だったらきっと.....




 「やるに決まってんだろうが!

            このクソガキ!!!」





 .......そう言ってくれると思ってたよ。



 これで何のお咎めもなく、貴様をぶちのめせる。




 「こう言ってるんだ、先にコイツの手続きを。」



 ディアドラも落ち着く時間がいるだろうし、僕も準備運動が出来るからな。



 「.........分かりましたよ。」




 (おいおいマジかよ!?)


 (まさか特級のエリンが戦うのか!?)


 (噂の剣技を見れるのか!!)


 (おい!みんな呼んで来い!!!)




 .....周りの傭兵達が、騒ぎ立てる。


 この様子だったら、多くの傭兵がコイツの痴態を見ることになるだろうな。




 「じゃあアライさん?.....こちらに。」


 「........覚悟しとけよ。」



 捨て台詞を吐いて、男はネイさんに連れてかれた。







 「..........ディアドラごめんね?待たせることになっちゃった。」



 本当なら、ディアドラと戦って、それで終わりだったのに。


 僕が意地を張ってしまって、こんなことになってしまった。




 「..................ごめん。」



 ディアドラが謝る。


 ........危うく殺しかけた事を謝って。




 「......................」



 僕が言える事は何も無い。



 だって.....ディアドラの行動に感謝してしまってるから。


 そんな奴が、ディアドラを責めることなんて出来ない。




 .........でも、ディアドラを落ち込ませたままにしたくない。











 「ディアドラ........落ち着いたら、僕の試合見に来て。」



 この子があんな事をしないよう。


 .......しなくて良いと思える様にしてあげないといけない。






 「見たら、きっと大丈夫だと思える筈だから。」



 そう言って、僕は闘技場の方に向かった。



 闘う為じゃない。.....完全な私刑を行う為に。




ちなみに、ディアドラはイかれてないよ。

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