第二十六話 "友達"で.....
「...........ナーガ....だって...?」
その名前を聞いて、呆然とした。
その名前は.....救世神の名前だ。
.......まだ、バルドが神と言われる前の時の頃。
人間と竜神達が戦争をした。
目覚めた竜神達の力を恐れて、人間が戦争をしたのがきっかけだ。
....竜神達が"対話"をしようとして、人々を恐れさせてしまった事が火種だったらしい。
人間は、対話をしようとしていた竜神の"子供"に手を出してしまった。
その場では何も無かったそうだが、帰った子供がバルド達にその事を言ってしまった。
バルド達は、『そんな野蛮な方法で、人間達は対話をするのか。』と勘違いしてしまった。
....昔の人間達は戦争をしてばかりで、飢饉で苦しんでる国も、助けて貰えないから略奪するしか無い様な状態だったそうだ。
そんな状態もあったせいで竜神達は『戦って勝つ事が対話』と勘違いしてしまったそうだ。
そうなったら、待っているのは地獄だ。
人間と竜神の力には、大の男の人間と子供の竜神で、竹槍と戦車ぐらいの差がある。
竜神側には成長していた者が、バルドを含めて"七竜"しか居なかったらしい。
.....それでも人間達は、竜神達に勝つ事が出来なかった。
そのぐらいの力量差。
この戦いで負ければ、人間達は滅ぼされると言う段階まで、人間達は追い込まれた。
.....その時に人間達が頼ったのが、ナーガだ。
救世神と言われているが、ナーガも"龍神"だ。
.......ただ、遥か昔に生まれた竜神とは違って、ナーガはその時代に生まれた龍神だった。
その時代に生まれた竜神達を連れて、アヴァロンの原型で、人間と暮らしていたそうだ。
外の人間達に頼まれて、ナーガは成長した"六竜"を連れて竜神達と戦った。
更には、人間達によって作られた"神霊"と言う者も戦いに参加したそうだ。
......戦力は一時的に拮抗したらしいが....バルドが完全に参戦してから、戦力が変わった。
バルドは生まれながらの、竜神の王。
他の竜神と違って、生物としての格、強度、存在が違った。
バルドの思う事が、そのまま世界に反映される。
バルドが戦場に出るだけで、人間の半数は眠る様に死んだ。
神霊の半数も除霊された。
.....そんなのと戦える奴は、
バルド側の竜神達にもう殺されている。
.....そんなのとまともに戦えたのが、
ナーガだけだった。
ナーガも生まれながらの、龍神の王。
生物としての格も、強度も、存在もバルドと同じだった。
.....だが、時代が時代だった。
恐竜と言う生物が地上を支配していた頃に生まれたバルドと違って、ナーガは人間達が地上を支配している時代に生まれている。
....化け物が大量にいる世界で王となったバルドとは違って、あまりにも平和な世界で育っている。
そこで差が生まれてしまった。
単独でも化け物である生物と戦った者と、数での暴力しか扱わない化け物と戦った者.....二神の戦い方、戦術は違った。
そして、ナーガの戦い方が、バルドの戦い方と相性が悪かった。
最初はナーガも、ギリギリ戦えてたらしいが、バルドに段々と傷を増やされてった。
あと少しで、ナーガが負けてしまう。
.....その時に竜神達が、滅ぼしたくて戦ってる訳ではない事にナーガは気づいた。
ただ、"人を理解したい"が為に戦っていることに気づいたのだ。
ナーガは"対話をする為だけ"の魔術を使って、バルドと対話をした。
『人間達が君達にした事は間違いだ。対話はそんな物じゃ無い』...と。
バルドも、このやり方で合っているのかと迷っていた事もあって、戦争は呆気なく終わった。
....それが、人間と竜神の戦争の結末。
ナーガが介入しなかったら、人間達は滅んでいた。
....世界が滅ぼされる所だった。
だからナーガは"龍神"ではなく、人間の世界を救った"救世神"と呼ばれることになった。
そんなナーガの転生体が、今目の前にいる。
「――――――――――――――――」
そんな訳無い。
目の前にいる少女が、白蛇だった事はまだ分かる。
でも、だからってナーガと決まった訳ではない筈だ。
「ん〜.....疑ってる?」
ディアドラという少女は、こちらの目をジッと見つめてくる。
.....いやそりゃ...
「いきなりそんな事を言われて.....信じれるとでも...?」
無理だよ。
........話がぶっ飛すぎて、理解できないよ。
「....君に...ナーガの転生体であると言う....証明はあるの?」
自分で言ってて、何を言っているんだと思った。
そんな物、僕だって持ってないのに。
「証明かい?....強いて言えば、君が証人さ!!」
「.........ふへぇ?」
いや、本当にどういう事?
僕が証人?
「.........はぁ............」
.......空を仰ぐ。
ディアドラが何を言っているのか、全く理解できない。
.....思い当たる記憶もない。
「今は忘れているだけだよ。大丈夫!私が思い出させてあげますから!」
「へぇ〜?どうやってぇ?」
段々と投げやりになってしまっている。
そりゃそうだ。だって全く理解できてないんだもん。
「どうやって思い出させようと......」
ディアドラの方を向き直してみると.......何故か手に魔力を溜めていた。
「えっ....あのっ.....ディアドラちゃん?」
「呼び捨てでいいさ.....大丈夫、この一撃を喰らえば、自称IQ53万の某頭脳派イカレゴリラの様に、脳内に記憶が溢れ出るからさ!」
いやそれ絶対、存在しないやつでしょ!?
この子、人を攻撃してありもしない記憶を見せて洗脳する気!?
「いや!そんな事しなくても、絶対"ない"から!!」
「いや、ある!そっちが忘れちゃってるだけさ!大丈夫、痛い様にはしないから!」
「いや、そういう問題じゃ無くてね!?」
そもそも人を攻撃する必要性が"ない"って言ってるんですけど!!
「よし、行くよ!」
彼女の手には、はち切れんばかりの魔力が溜まっていた。
.....間違いない。.......この子、僕をぶつ気だ。
しかも全力で...!
「いや、だからちょっと待っ」
「歯ぁ食いしばれ!修正してやる!!オラァ!!!」
「色々混じりすぎだ」
ドゴォォ!!!!
「よグベェェ!!!?」
意外な事に、ぶたれなかった。
ぶたれたのではなく、殴り飛ばされた。
.....鉄塊の様なグーで。
白蛇の時の彼女が喰らった大砲の様に、僕の顔面に彼女の拳がめり込んだ。
「ぅぉぁぁ.........」
遠のいていく意識。地面に着くのが何倍も遅く感じる。
だが....衝撃はあったが、痛みは無かった。
....精神的にはあるけど。
....そんな時に、走馬灯の様に溢れ出てきた。
......白蛇を倒した直後の記憶。
「....はっ!....あれっ?何処だここ?」
....声がする。......意識が薄れているのか、遠く聞こえる。
......そうだ。確か空で"アイツ"に....
「ん〜?.....あぁ、そうだ!確か母ちゃんに呪いを掛けてもらって........なんで解呪されてんの?」
困惑している。
何が起こっているのか分からないのだろう。
「ん〜?.....誰がやったんじゃい?」
それはな?
今、お前の近くに倒れている少年の仕業なんだ。
「.........ありっ?」
自分の身体を見て、裸である事に気づいた様だ。
「おぉっと!?すっぽんぽんじゃあ無いですか?!このままじゃ私の魅惑のぼでーが、そこら辺のヤバい男達の目に入ってしまう!」
顔を赤らめる事もなく、『いや〜ん、どうしよう〜!』と言っている。
......あれ?お前そんな感じだったか...?
もっと....堅物じゃ無かったっけ...?
「....ん?.......この子、どっかで....」
アイツがこっちを向いてくれた。
.....そうだ。
魂が違っても、肉体は覚えてると思った。
「.......あぁ!私に記憶を見せてきた男の娘!やっぱり可愛いなぁ........ん〜、私好み!意識が朦朧としてるみたいだし、これだったら襲ってもバレない.........あれ?世剣だ?.......じゃあこの子が解呪したのか....!」
趣向は変わってない様だな。
.........お前絶対こいつの事食うだろ。
俺がそうだったからな。
「じゃあこの子がバルドの転生体って事に?いやいや!あの剣はバルド以外じゃ引き抜けないし!........白龍になった私にはアレ以外は通じないし......てなると、モノホンか。.......マジか。」
お陰でこうやって出会えたがな。
「.....ん〜、どうするか.......本当ならこのまま、一緒に行動したいんだけど........流石に裸だと締まりが悪い!......私は別にいいんだけどね!」
.....お前のもったいないと思う所は、裸である事を恥ずかしいと思わない所だ。
せっかくいい物持ってんだから、ちょっとは恥じらいを持てよ......
「仕方がない。服を取りに行きますか!....急いで戻ってくれば大丈夫でしょ!」
......離れるのか?
「..........て.........れ.....」
「ん?...おぉ!起きてたんか、ティーザ君!ちょっと待っとれよ〜?今服を取りに」
「ひ.....に........いで....れ..........ナーガ.......」
「――――――――――――――――――」
「.......私はナーガじゃないよ、バルド。」
優しく、穏やかに微笑んで、彼女は否定した。
.......あぁ、そうだ。
この子はやっぱり"ナーガ"だ。
......泣きたくなる程の慈愛。
..........独り占めしたくなる程の暖かさ。
..............甘えたくなってしまう程の優しさ。
その全てを.....多くを殺した者にも与える。
.......そんな危うさを持った.....
この世で一番綺麗な魂。
「........ごめんね。」
だからお前は....アイツと同じなんだ。
「....ティーザ!!何処にいるんだぁ!!!」
「いたら返事をして下さ〜い!!!」
....声がする。
この少年を探している声が。
「.......なんだよ。一人じゃないじゃんか。」
....そうだ。この子には、友達が居る。
.......一人だけだけど。
「ティーザァ!!ででこぉい!!!」
「...うん。じゃあ、私が居なくても少しなら大丈夫だな!」
「............ナー.........ガ........」
彼女が立ち上がる。
沈んでいく太陽を背に。
「ほんのちょびっとのお別れさ!....またすぐに会える。」
「...........................」
「じゃあね!」
そう言って彼女は、太陽のある方向へ翔んでいった。
空を飛ぶ彼女の姿は....アイツとそっくりだった。
「....綺麗に.......翔ぶ......なぁ..........」
その姿を見て、俺は意識を手放した。
「......はっ!?」
な、何だ!?今、何を見た!?
「....................待て待て待て...!?」
意識を取り戻して、混乱する。
冷静になれ...!整理するんだ....!
記憶の視点は僕だ。それは間違いない。
じゃあ何であんな事を考えてた?!
「.......おかしな事を考えるか?....僕が?」
...ない。少なくとも僕じゃない。
第一、"俺"なんて一人称使わない。
というか、何でナーガって名前がスッと出てきた?
「どうやら無事に見れた様だな....貴様の黒歴史を!!」
そして、ディアドラは何故かテンションが高い。
一体全体どういう...........まさか。
「これが"存在しない記憶"....!?」
「いや、ガッツリ存在してるから。何なら証人ここに居ますから!」
ディアドラにツッコマれた。
.....えっ?ほんとにあれ、僕の記憶なの?
「.......全然実感が無いんだけど...」
他人の記憶を覗き見している様な感じで気持ちが悪かった。
.....あれは本当に僕か?
「実感が無いのは当たり前だよ!だってあの時話しかけてた君は君じゃ無かったし!」
........何それ怖い。
いや......僕じゃ無いってなによ!?
何かに取り憑かれてたって事?!
......あり得ない筈だ。バルドの肉体に取り憑けれる怨霊は居ない筈。取り憑いたとしても、肉体に負けて追い出されるのがオチだ。
「.......そんな事あるの...?」
だとしたらとんでもない化け物だよそいつ....!?
「取り憑かれてたんじゃあない。.....肉体が勝手に反応していたんだ。」
「.......肉体の反応?」
.....どゆこと?
いや、言ってる事はわからなくも無い。
人は戦いに慣れすぎると、身体が何をすべきかを理解してる様に動く事がある。
一流の武人は寝込みを襲われても、寝たまま戦う事が出来る。
.....ディアドラの言いたい事はこんな物だろう。
でもそれはあくまで、反射反応だ。
「.......肉体が意思を保つ事はない筈だ。」
そんな事になったら、同じ身体を持つ別々の脳みそが頭と身体にある様な状態だ。
頭の脳みそが『あっち行こう。』と思っても、身体の脳みそが『行くかば〜か。』と思って動けない様な、そんな感じ。
.....考えるだけで悍ましいな、その光景。
「いや意思じゃない。あれは"反射"だ。」
「.......はっ?」
反射?あれが??
ちょっと待ってよ?
明らかに受け応えしていたろ。
何なら自分の願いも言ってたよ。
.........あれで反射?
「私もちょびっとだけだけど驚いたよ!.....でも、バルドの肉体である事を考えると、あり得ない事じゃない。」
「......どういう事?」
「バルドの肉体は他のと全く違う。本能で思わず反応する事もあり得ない事じゃない。.....前になかった?気づいたら自分が何かをしてたっていう事。」
そんな事...........あった。
アインさんと話していた時に、気づいたらアインさんが苦しんでた事が。
.....その時に、『どっちだ』とも言われた。
「..............................」
あの時の会話は少しだけ覚えてる。
......十三の竜神を従えてたって所で記憶が途切れてる。
十三の竜神は、別に全員がバルドに従ってた訳じゃない。そのうち六人はナーガについて居た者達だ。
だが、残りは......正確にはバルドを除いた残りの竜神は、バルドの友と言ってもいい者達だったそうだ。
バルドが人間と対話をしようとしたのも、彼女らの意見を聞いたからだ。そのぐらい大切な者達だったのだろう。
.....アインさんがあの後、何を言ったのかは知らないけど、あの口振りじゃあ多分とんでもない事を言ったのだろう。
.........それに肉体が過剰に反応して、あんな事をした?
「...その様子だと、あまりいい事じゃなかった様だね。」
「...........少しね。」
あの時はホントに怖かった。
.....自分が何をやらかそうとしたのかが、分からなかったから。
「......まぁ、こんな風に!私を見ただけで身体が反応したんだ!充分な証明だろぉ?」
こっちを気遣ったのか、話を変えようとしている。
........流石に観られてないよね?
「............そりゃ.....そうだけど。」
あの時と同じ事が起こったのなら、頷ける。
落ちていくディアドラを見た辺りから、記憶がない。...つまり、あの時に肉体が反応して勝手に動いたのだろう。
.....主導権を持っている"僕"の意識を奪って。
........それでも。
「百歩譲って、君がナーガの転生体である事は認める。」
「ほう?....じゃあ後は何が認められんと?」
決まってる。
「.....僕についてこようとしてる理由だよ。」
これだけは全く分からない。
いくら同じ転生体だからって、一緒に行動する理由にはならない。
.......ぶっちゃけ、一人の方が楽だ..........きっと。
「ん〜......ついでの方言った方がいいかな?」
「............ついで?」
ぼそっと何かを呟いている。
ついでって何だ?何かあるのか?
.......そのついでと僕について行く事が関係してるのか?
「あぁ、君を助...おっと!げぶんげふん!.....さっき言ったでしょ?母ちゃんに呪いをかけられたって。」
あぁ、言ってたな。.......嘘じゃなかったみたいだけど。
「あの時の君は、掛けてもらったって言ってたけど?」
どういう事なんだ?
何で呪いを掛けて貰わなくちゃいけなかったんだ?
「これが面倒でね?なんか...."てんせいきょうだん"?...て奴らに、母ちゃん狙われててね。」
「...............それほんと?」
傭兵である以上、そいつらの話は嫌でも耳に入ってくる。
何なら剣を交えた事もある。
....一年前、仕事から帰ってた時に、襲撃されてる村を見つけた。
山賊か何かかなとその時は思ってた。
見た手前、流石に見過ごす事はできないと思って助けに行った。
.........その時見たのは、嬉々として村人を殺し、子供を攫ってる、教団の連中だった。
エリーテを盗賊に攫わせたアイツと、同じ魔術を使っていたからすぐ分かった。
こっちを見つけてすぐに襲いかかってきた。
.......妙な事を口走っていたが、正直覚えてない。
...........聞きたくも無かったから。
あの時いた教団の連中は、全員眠らせたが........結局、村人全員を救う事はできなかった。
村人から感謝されても....気分の良いものでは無かった。
「そいつらに狙われてる上に、なんか厄介な奴にも嗅ぎつけられたみたいでね?.....それで」
「このままじゃ君を護れないかもしれないから、君に白蛇になる呪いを掛けていたと?」
「おぉう?!凄いね!予測するとは!そゆこと!」
.....それだったら、そうせざるを得ない。
ディアドラの記憶にあるお母さんは、とても優しい人だった。.....少なくとも、人に呪いを掛ける様な人では無い。
そんな人が、最愛の娘に呪いを掛ける理由。
あんな状態になって仕舞えば、ディアドラを殺せる者は相当限られてくる。
と言うか、バルドの転生体以外には白蛇を殺せる手段が無い。
.....力を受け取ってる世剣を抜けないから。
つまりディアドラのお母さんは、『解かれても絶対にディアドラを殺さない.....殺せない者』が呪いを解く前提で、ディアドラを呪ったのだろう。
「.......そう言う事ね...」
.....それだったら納得できる。
解かれても安心できる。
「でも、母ちゃんって一人にしてると勝手に思い詰めちゃう様な人でね。.....そんな母ちゃんに、娘が目覚めた姿を見せてやりたいのです!」
...なるほど。
詰まる所、さっさと自分の安否を見せて安心させてあげたいと。...そういう事か。
......この子、人の本質をよく見抜けるな。
記憶を見てた時から思ってたが、本人ですら気づいて居ない様な悪癖にも気づく。
..........心が見えてるからか?
「.....それで僕についてくると?」
「うん!...君、いろんな所に行くだろうし!だったらついてった方が良いかなと!」
あ、これ絶対面白そうだからついてこようとしてるな。
「それにぃ?君の様な"おもしれ〜少年"って奴はそうそうといないだろうしね!そんな奴と一緒に旅をするのは絶対に楽しいだろうし!」
美しい笑顔を咲かせて、期待の目を向けてくる。
.......『連れてってくれるよね?』と言う目で。
「.....................」
彼女がついてくるのは、何ら間違った事じゃないと思う。
自らを護る為の呪いを、僕が解いてしまったのだ。
だったら解いてしまった僕が、責任を持って護らなかければならない。
.........そう、頭では理解しているけど....
(........自信がない。)
..................ハッキリ断った方がいいかな。
この手のタイプは、気を遣った発言じゃ聞きもしない。
「悪いけど、僕は誰とも組む気はないよ。」
「組む組まないって話じゃない。私はついて行くだけという話さ!」
「同じ意味だよ。いい?.....どんなに強い人でも、僕の隣じゃ足手纏いだ。」
僕に守る事が出来るのは、自分から危険に突っ込まない人だけだ。
......僕と同じ所に立とうとする人の命は守れない。
この子は間違いなく、危険に突っ込む。
何なら、"危険"と呼ばれる食べ物を喜んで食べる様なタイプだ。
そんな子を守れる自信がない。
.........僕に、命の責任を持つ覚悟はない。
「むぅ〜。.....こう見えても、腕っぷしには自信があるんだけどなぁ?自分程度なら護れるけどなぁ?」
「そうじゃない。.....命を護る。その責任を背負いたく無いんだよ。.........だから、一人の方が楽だと思う訳だし。」
いかにこの子が強かろうと、僕は一人の方がいい。
........興味がない訳じゃないが、一緒の方が良い理由も無い。
転生教団に彼女が狙われてる訳じゃ無いから大丈夫だとは思うが.....二人も転生体がいたら目立つだろうし。
それに...........それに?
「..........一人だったら傷つかないから?」
「...........................」
何だ?今、物凄くドキッとした。
まるで母さんに、自分のやって、隠したいたずらを言い当てられた様な.....見知らぬ人から、自分の嫌いな人を言い当てられた様な。
...........そんな、図星を突かれた様な驚愕。
「......何を言ってるのか、僕には理解できないけどそうじゃ無い。..........僕にとって人は、考えがコロコロ変わる様な物なんだ。.....僕は君の様に、人の心を観ることが出来ないしね。」
「........................」
「人の心なんて全く分からないし、そんなのに時間を掛けるつもりも無い。」
僕にとっての人は、母さんの様な"人"だ。
.......何が起ころうと諦めず、立ち上がる。
........何をされても壊れず、立ち上がる。
..........何者であろうと受け入れ、立ち上がる。
.....でも周りの人達は....とても脆い。
.....簡単に諦めてしまう。
........簡単に壊れてしまう。
..........簡単に突き放してしまう。
そんなのを僕は、人とは見れない。
......大事にしなきゃいけないお人形にしか見えない。
.....それに気を使うのは凄く疲れるんだ。
「誰かと話すのは、たまにで良い。.....ずっと誰かと一緒にいるって言うのは.......正直しんどいんだ。」
人と話すのは本当に苦手なんだ。
......僕が何かをすると、人はいい事を思わないから。
........だから、人とはあまり話したくない。
......一緒に居たくない。
「だから、諦めなさい。」
.............これで諦めてくれるかな?
一人の方が楽だよ僕は......きっと。
「......ティーザ。それじゃ寂しいよ?」
「―――――――――――――――」
胸を刺す様な......僕も知らなかった....いや、知りたく無かった図星を、突いてきた。
「.....................................」
何も言い返せなかった。
.......だって、正しかったから。
誰でもいいから、誰かといたい。
それは、あの家を出て行ってからずっと思ってた事だ。
.........リュウズの事は、友達と思ってはいるんだ。
でも、彼の様な自由人が.....僕の様な.....化け物の様な奴と一緒に居ては行けない。
そんな事をしたら、彼を苦しませる事になるから。
....それでも......割り切れなかった。
.........母さんが死んでから.....エリーテと別れてから.......ずっと寂しいと思っていた。
.............なんで一緒にいなかった?と、後悔するぐらいに。
「ティーザ。君は母ちゃんとおんなじ。.....優しすぎるんだよ。自分のせいじゃ無い事を自分のせいだと捉えちゃう。.....不器用だから一人で抱え込んでって、苦しんでいっちゃうんだ。」
.....自分でも分からなかった図星を、どんどん突かれる。
....あぁそうか。あの時、記憶でディアドラが同じ事を言った時にドキッとしたのは.....お母さんの悪癖が、僕と同じだったからか。
「....もしティーザが、『分かりあうことなんて出来っこない』と思ってるなら、それはティーザが悪いんじゃなくて周りの問題だ。.....絶対に君のせいじゃない。」
ディアドラの顔を見れない。
......見てしまったら、泣いてしまいそうで。
.....そうだねディアドラ。
君の言う通りかも知れない。
.....でも。
「............僕の問題だ。」
「違う、周りの問題だ。君と言う奇跡を受け入れられなかった周りが悪いんだ。その奇跡を受け入れた人がいじめられたのも、自分の矮小さを自覚する事を恐れた周りが悪いんだ。.....君の問題じゃない。」
......そうだね。
..........それには、気づいてるよ。
母さんも.....僕を息子と呼び続けて、周りから嫌がらせされてたから。
......父上も、嫌がらせこそしなかったけど、助ける事だけはしなかった。
........このまま続ければ、息子呼びを辞めてくれるだろうと思っていたから。
そうやって.....身体の弱い母さんを追い詰めて......
........皆、そんなんだから。
「.......僕の隣に人なんか居なくていい。」
普通以外を受け入れる事が出来ない。
.......そんな人達の世界なんだから。ここは。
「それはそう強がってるだけ。
......ティーザ、こっち見て?」
促される。
....正直見たく無い。
.......本当に泣いてしまいそうだから。
..........でも。
この子のしようとしてる事だけは、否定しちゃいけない。
この子が今からしようとしているのは.....母さんと同じだから。
.......ディアドラの顔を見上げる。
その顔は、とても優しく微笑んでいて。
..........その眼は、青空の様に澄んでいた。
「.....さっき言った母ちゃんの事はね、ほんとについでで良いんだ。本人も気づいてると思うし。
ほんとはね.........私、君と友達になりたいんだよ。」
.......今まで、誰も言ったことの無い.......エリーテとリュウズ以外は言わなかった言葉を....彼女は言った。
「......なんで?.........だって.....」
関係がない。
君がそこまでする理由がない。
第一、僕は....
「そうだね。ティーザは私を殺しちゃったね。.......でもねティーザ?私を助けてくれたのも、君なんだよ?」
彼女は変わらず、穏やかな笑顔で僕を見つめてくる。
......母さんと、おんなじ雰囲気で。
「.......それは違」
「違くなんかない。..........ティーザ。君は私を助けてくれた。私を白龍と言う檻から解き放ってくれた。.......だから私も、君の事を助けたい。」
「.........何から?」
.........僕を、何から助けるって?
「"ひとりぼっち"から。」
「―――――――――――――」
.....一番言われたく無かった図星を言われた。
.......一番自覚したく無かった事を。
「.......君はひとりぼっちだ。.......幸せになれる機会を、別の人にあげてしまって.....ずぅっと一人になっていっちゃう。」
「―――――――――――――――」
....それはそうだ。
......でもその人達は、化け物の僕よりも価値のある人達だ。......何ら間違ってない筈だ。
自分のせいで誰かが不幸のままになるのだったら....それは嫌だ。
だったら、自分の幸運をそいつに渡した方がマシだ。
.....そう思っても、寂しいものは寂しい。
「うん.....なので!私が友達になって側にいる事で、君をひとりぼっちから助け!恩返しをしようと思った訳なのです!!」
ディアドラは、胸を大きく張って言い張る。
.....その大雑把さと、言動の幼さに見合わない、少し大きめな膨らみが強調されて見える。
「これだったら私も、人生初の友達ができるし!
一石二鳥って奴だね!」
そう...笑顔で言うディアドラの顔を見て思った。
.......この子も優しすぎる。
....エリーテとおんなじぐらいだ。
.........例え化け物であろうと、泣いていたら思わず助けてしまう様な子だろう。
..........そんな子を辛い目に合わせたくない。
「――――――――――――――――」
.......僕と一緒に居たら、化け物扱いされてしまう。
例え同じ転生体でも.......この子だけは、人扱いされてほしい。
.......化け物は、僕だけで充分だ。
「......大丈夫だとも、ティーザ!」
「.......?」
僕の心を観たのか、彼女はそんな事を言った。
そして........
胸を張って、堂々と。
目を合わせて、優しく。
「私、強いよ?」
僕がエリーテに言った様に、同じ様な事を言った。
「........はっ!」
笑いが溢れる。
僕と同じ事を抜かす少女がいたとは思わなくて。
「あっははは!!....バカじゃないのか...君は!」
笑いが収まらない。
まさかここまでめちゃくちゃな少女だったとは...!
「.....ようやく笑ってくれたか!」
僕につられて、彼女も笑ってた。
.....いつぶりだろう。こんな風に笑うのは。
........大分懐かしいなぁ。
「んで!良いよね?!ついてっても!」
.......ここまで言うのだ。きっと曲げないだろう。
(私、お母さんですよ〜?)
.......こうなったら、女の子は止まらない。
「.....仕方ないかなぁ。...僕の脚は引っ張らないでおくれよぉ?」
どう言った所できっとついてくる。
この子はとんでもなく強情だ。
なら、もう腹を括るしかない。
........こうなったら、なる様になれだ。
「脚は引っ張らんよ!手は引っ張るけどね!!」
自信満々にディアドラは言ってくる。
全く、おふざけで返してくるとは...!
「本当に面白いなぁ...君は!」
「ティーザ程じゃあ無いやい!」
パシッ!
僕たちは握手をしていた。
しようとは、どちらも言っていない。
ただ、当たり前の様に手を出していた。
「改めて名前を。
私はディアドラ・ナーギニー。」
「遅れながらだが...
僕はティーザ・ザナルカンド。」
まるで一緒に育ってきた双子の様に。
鏡写しの自分に言っているかのように。
「「これから旅をする仲になるが、途中で死ぬんじゃないぞ?」」
同じ事をお互いに喋った。
「...同じ事を言うんじゃないよ!ディアドラ!」
「そりゃこっちのセリフじゃい!....あはは!」
そのまま二人で、しばらく笑ってた。
.....まるで、久しぶりに会った親友同士の様に。




