第二十五話 神より賜った少女
(........ティーザ、何故こんな所にいる。)
(...............)
? 何だこれ?
今まで、夢見心地気分だったのに....ここまではっきり意識があるのは初めてだ。
それに.....何だ?この記憶?
......こんな記憶はない筈だけど。
(何か言え。)
(.....................)
男が、女の子に詰め寄る。
.....本当いやになるなぁ。
...男は相手が女ってだけで強気に出る。
それがどう意味でかは知らないけど.....気分の良いものではない。
特に、こんな可愛い女の子に詰め寄るなんて.....コイツ、物凄く情けない奴だなぁ。
.....ん?......ちょっと待って?
......華奢な割には身体がしっかりしてるような?
....まさかこの子.....男か?!
間違いない!居る訳無いと思ってた、"男の娘"って奴だ!
凄いなぁ。
本当に男とは思えないぐらい可愛いなぁ。
綺麗な金髪だし、顔も可愛いし、背もちっこい。
..........ちょっと襲ってみたくなる....
(........私が聞いている。答えろ。)
(..........................)
父親らしき者はどんどん苛立っていく。
それに比べてティーザと呼ばれた男の子は、不思議そうにしている。
......これは一体、どういう状況?
何で怒ってる方が、子供を怖がってるんだ?
(...........答えないか。)
ガッ!!!
父親が子供の胸ぐらを掴み上げる。
それが答えないから掴んだのか、防衛反応でやったのかは分からない。
ただ.....親がやっていい事じゃない。
(もう一度聞くぞ。何故こんな所にいる!)
(.....................................)
....何で抵抗しないのだろう?
その気になれば、こんな奴すぐに殺せるだろうに。
何で何も言わずに、されるがままなんだ?
(っ!そうか.....そこまで喋らないか!!)
男が拳を振り上げる。
子供は、怖がるも逃げるもせず。
ただ、『あぁ、またか』と言うふうに目をつむった。
(何やってんの!!!)
(っ!?)
大声。
出そうと思って出た大声じゃなく、びっくりして出てしまった大声だった。
(.............ティーサ...)
振り返って見ると、女の人がいた。
.....病弱そうで、だけど強そうな人だった。
(........その子に何やろうとしてる!)
(..................っ。)
男はバツが悪そうにその場を立ち去ろうとしている。
.....何も悪びれずに。
(ちょっと!!何で無視してるの!!!)
(...無視などしておらん)
いや、アンタのしてる事は無視だよ。
.......その人に対しても、あの子に対しても。
(じゃあ、ティーザに対するアレはなに!!!)
(調子づかせてはいかんだろ...あのような化け物)
.........はっ?
今なんて言った?
.......化け物と言ったのか?自分の子供を?
.....だから、あんな風に当たってたのか...?
.....身体中が凍えてくる。信じられない。
....私にとっての親は、子供の事を何よりも大事に思う人の事だ。
男とは言え.....親がそんな事を言うのか....?
(っっっ!!!息子でしょう!!!!)
(あの様なもの産ませる気などなかった!!!!!)
―――――――――――――――
........勝手だ。
勝手な奴だ。
....周りより強いだけの子供なのに。
.......自分の思ってた子供じゃないから。
..........自分なんかより強いから化け物扱いして。
...............産んだ人にそんな子供を産ませた事を本気で謝っている。
......子供の事を、眼中にも入れずに。
(―――――――――それ本気で言ってるの.....?)
(あっ........すまん。)
そう言って、男は立ち去った。
(―――――――――――――――)
女の人は立ち尽くしていた。
信じられないという風に。.....聞きたくなかったと言う風に。
.......今にも泣きそうな顔だった。
(.........すみません。)
初めて、ティーザと言う男の子の声を聞いた。
.....とても、申し訳なさそうな声だった。
(.......何で、言い返さなかったの......?)
ティーナと言う人は、子供に向き合ってとても優しい声色で話しかけた。
(............口を開くな。...お前の声なんぞ聞きたくない。......と、不快そうにしていたので...)
あぁ。
優しすぎる。
.......そして、不器用だ。
多分、怖がってる事が分かってたからやらなかったんだろうな。
........どっちに転んでも、不快にするよ。あの男は。
(.....そっか.....)
(....すみません、母上。)
........この子が何をしたって言うんだ。
何で悪い事が出来なさそうなこの子が、こんな目に遭っている。
この子はこんなにもいい子なのに....とても優しい子なのに。
......強い事が、そんなに罪な事なのか?
(......ティーザ、こっちにきて?)
女の人が手招きをしている。
ひょいひょいと。
(...お身体に触りますよ。)
(いいから。)
優しく、でも強かに誘っている。
こっちに来なさいと。
あの子が近づいてった。
......頭を優しく、ゆっくり撫でられていた。
(...頭くすぐったいです。)
ティーザと呼ばれた少年は少し恥ずかしそうにしていた。
でも、ちょっと嬉しそうだった。
....どんなに我慢していても、やっぱり子供だった。
ポスッ....
(あっ.......)
少年は不意に抱き寄せられた。
その顔には、驚きと嬉しさが混じっていた。
(ふふ...可愛いねぇ...)
女の人は息子を抱き寄せて、頭を撫でながら言った。
大事な物を見る様に、愛おしそうに、優しい眼差しで、その子を見ていた。
その眼差しだけで分かった。
........この人も母ちゃんとおんなじだ。
あんな奴よりも、子供が大切なんだ。
(んっ.....うぅ....)
ティーザを見てみると......泣いていた。
本人は気づいていない様だったけど、安心して泣いてしまっている。
いや、泣いていると言うより、涙が流れてしまっていると言う方が正しいだろう。
....やっぱり、つらかったんだな。
(......まだ...撫でてもいい?)
(.............................ん....)
きっとこうでも言わないと、断ってしまうのだろう。....お母さんの事を気にかけて。
(...................すぅ........くぅ......)
(..........あれっ?......ティーザ?)
寝てしまった。
.......本当に安心してしまったんだろう。
涙を流しながら寝ている。
(....仕方ないなぁ...よっと!)
ティーザが持ち上げられて、連れて行かれる。
.......きっと、ベットに寝かしに行くのだろう。
.......この記憶を、なんで見ているのかは分からない。ひょっとしたら意味は無いのかもしれない。
............でも、わかった事がある。
この子を一人にしちゃいけない。
「なぁ聞いたか!、シルワにティーザ・エリンがいるらしいぞ!」
「それって白蛇を殺したっていう?」
「あぁ、なんか追いかけ回されてたんだとよ!」
ソウデスヨ。ヘンタイタチニオイカケラレテタヨ。
気づいてないとは言え...本人がいる所で言ってくれるな....
「......眩しいなぁ。」
空を見上げて言う。
太陽は真上にある。時刻で言うところの正午だ。
「...........お腹減ったなぁ。」
朝ご飯食べてなかったからなぁ。
今すぐにでも昼ご飯を食べたいところだけど、エリーテ達がシルワにいる以上そんな事はしたくない。
なんだかすぐに見つかる様な気がする。
「早く別の街に行くか....!」
北門から出ると少し遠回りになるが、東に行けばフォスターがある。
遠回りといってもそこまで距離がある訳じゃないから、昼過ぎぐらいには着く。
確か、フォスターはジビエが有名だったな。
最高級の剣は手に入れたし。
(元々自分のだったみたいだけど。)
白蛇を倒すと言う大仕事もしたし。
(自業自得な上に無辜の人々を巻き込みかけたけど。)
お腹も空いたから、奮発して高いのを食べようかな?
..............熊鍋......いいなぁ。
グゥ〜〜.....
「おっと。」
つい腹の虫が。
これは早く何かを食べなければ!
「よし。そうと決まれば行くか!」
早いとこフォスターに着いて、ご飯を沢山食べないとね!
お腹空いて堪らん!
そう思って、脚を踏み出した瞬間。
(ルォォァァァァ!!!!)
.........背後から、白蛇の魔力を感じた。
「―――――――――――――はっ?」
その瞬間、様々な思考がよぎった。
(今の魔力って?!/いやいやあり得ない!!/あの時殺した!!/仕留め損なった?!/じゃあ僕の持ってる剣は何だよ!?/ご飯まだ食べてないのに!?/勘違いじゃない!!)
この一瞬で、僕はパニクった。
頭が本当に沸騰しそうだった。
何なら今でも、混乱している。
........だって、あり得ない筈だから。
あの時、確かにトドメを刺した。.....それは、手元...と言うか、魂にある世剣が証明している。
剣の力が元に戻った以上、奴は顕現できないはずなのだ。だから、いる筈がない。
.....だが。
今感じた魔力は、確かに白蛇の魔力だった。
「..........っ!!!」
混乱を抑え、背後を見る。
「まさか女の子が手柄を上げるなんてな!」
「本当、驚きだよ!」
.....しかし、背後には居なかった。何処にもだ。
魔力は感じてるのに、その大元がどこにも居ない。明らかに隠してもないのに。
「....................逃げるのはダメだよね......」
もしも白蛇が蘇ったのなら、僕以外にはどうしようもない。
....だけど、もう一つあり得ないのは。
街中で感じた事だ。
あの巨体を隠すことなんて魔術を使っても難しい。
特にここは街中だ。隠れる事なんて不可能に近い。
.....でも、もしここにいるのなら。
........シルワの人々は全員死ぬ。何も出来ずに。
「...........仕方がないか.....」
どちらにしろ、このまま放置する訳にはいけない。
とにかく探すしか無い。
そうして、魔力を感じた方へ歩いて行った。
「.....................」
どのぐらい歩いたのだろうか。
もうずっと歩いてるかも知れないし、全然歩いてないかも知れない。.....でも、そのぐらい歩き回ってるのに見つからない。それどころか.....
「...........つけてきてるのか?」
背後から、魔力をずっと感じる。奴の魔力だ。
.....だが。
「......幾ら何でも.....無理だろ........?」
魔力か何かで姿を隠していたとしても、こんなに人がいたら隠れるのも無理だろう。
.....だが、何処を探しても見つからない上に、ずっと背後から魔力を感じる事を考えると.....やはり、姿を隠しているのだろう。
「........................」
人が多い。...商人や傭兵で溢れかえっている。
きっとみんな、これから昼ご飯を食べに行くのだろう。
...仲間と一緒に、世間話をしながら楽しく。
「..................ここはマズい。」
多分、姿を暴く自体は出来る。.....だがそれをやると、ここでパニックが起こってしまう。
「...........場所を変えよう。」
ザクッザクッザクッ.....
枯葉の上を歩く。.....背後にいるナニカも、枯れ葉の上を歩いてるのだろう。
足音は一切してないのに、僕の踏んでない部分の枯れ葉が砕けてる。
(.............誰も居ないな。)
ここだったら、誰かを巻き込む心配は無い。思う存分戦える筈だ。
「........よし。」
もう良いだろう。.....追いかけっこは。
ここらで終わらせよう。
「『視えろ』」
眼に能力を使う。たとえ能力で隠れていようと、能力を使った僕の眼から逃れることはできない。
そう思って、ゆっくりと後ろを向いた。
「ほ〜?何気に器用な事をする!」
「―――――――――――――は?」
それを見て、理解できなかった。いや.....したくなかった。
背後に居たのは白蛇でも何でも無い。
あの時、僕と一緒に落ちてた少女だった。
「――――――――――――――――」
会えた。とか、嬉しい。と言う感情はなかった。
...彼女を見て思ったのは、困惑だ。
.......何故なら、彼女の魔力が白蛇と同じだったからだ。
「――――――――――――――――」
何が起こっているのか、全く分からない。
そもそも、何でここにあの子が居るのかがわからない。
彼女は存在しない筈だ。
だってあの時、リュウズがそう言..........
(女の子なんて居なかったぞ?!大体そんな奴、目立つだろうし.....本当に居たのか?)
...............ってない。
いないなんて言っていない。居なかったと言ったんだ。
『あの場に居なかった』と言っただけで、『この世に存在していない』とは、リュウズは一言も言ってない。
幻覚なんかでは無い事は分かっている。
僕の眼は、本当の事しか写さない。
......つまり、目の前で観えてる事は現実だ。
だとしたら余計おかしい。
何であの少女に白蛇の魔力を感じる?
あの時は感じなかったのに、何で.....
......同じだったから勘違いした?
あの時、白蛇の身体は魔力になって消えていった。
あの少女の魔力と同じだったから、少女から感じた魔力を、大気に散った魔力と勘違いしてしまった。
だって普通、同じ魔力を持つ者はいない筈だ。
限りなく近い魔力波はあっても、全く同じなのは絶対にない。
だからあの時.....何を考えてたのかを覚えてないが、白蛇と同じ魔力な訳がないと考えてしまったのだろう。
でもなんで同じ魔力なんだ?
魔力だけはかぶることがない筈だ。
魔力は、生命活動におけるエネルギーの余剰だ。だから、そいつ本人の魔力というのがある。
かぶるとしても、全く瓜二つな双子でもない限り魔力がかぶることは一切ない筈.....
「.................まさか.....」
........白蛇が、あの少女だった?
それだったら辻褄が合う。
あの少女に力があるのだったら、世剣を使って力を増幅させる事ができる。
その影響であの状態になっていたのだろう。
.....でも何でそんな事をする?
「................と言うか.....」
そもそも何故彼女はここに居る?
何か用でもあるのか?
「..................まさか。」
........いや、用ならある。
絶対にある。
そんな事あり得ないし有り得ちゃいけないけど、もしあり得たとしたら....
きっと誰だって同じ事をしてしまうだろう。
もし本当に、白蛇が彼女だとしたら.....
僕は一回彼女を殺している
「............そんな訳ない。」
.......あり得ないと思いたい。
でもあり得ない事はないと、分かってしまってる。
だって、そうじゃないと彼女がここにいる理由がないんだ。
外れて欲しいと思っても、そんな都合のいい事ある訳ないと思ってしまう。
そんな僕を気にしないかの様に、彼女は笑った。
........やっと見つけてくれたと言わんとばかりに。
彼女はこちらに歩み寄ってきた。
...こっちを見て、絶対逃さない気配を漂わせながら。
........美しい笑顔を浮かべながら。
(―――――――――――――)
頭が凍ったのか、全く考えが纏まらない。
脚が地面と同化したのか、全く動かない。
心臓が止まったのか、胸がとても苦しい。
「はぁっ.....はぁっ........!」
息切れを起こした事なんて一度もないのに、息が荒くなっていく。
身体が逃げようとしている。
初めて、恐怖から逃げようとしている。
.....早く逃げたい。今すぐにも走り出して、誰も追いつけない様な場所に行きたい。
「........っ!!」
でもだめだ。
これは僕の罪だ。
今は生きてるとは言え、彼女を殺してしまっている。.....しかも、剣が欲しかったからと言う理由で。
.......そんな事をやっておいて逃げるなんて、そんな事をやってしまったら.....僕は自分を許せない。
サクッサクッサクッ.....
......彼女が僕の前に立った。
.....改めて見ても、やっぱりどう表現すればいいのか分からない美しさだ。
僕より全然歳上に見える。背だって僕より高い。
.....本当に綺麗だ。
「....単刀直入に聞かせてもらおうか?.......私を殺したのは、君?」
「―――――――――――――――」
......やっぱり、殺していた。殺してしまっていた。
....仕方がなかったとは言え、彼女を殺してしまった。
気を失いそうになる。
自分の罪が目の前にいる事を、認めたく無い。
.....でも、逃げちゃダメだ。
「.............あぁ、僕が殺した。」
逃げようとする身体を必死で抑える。
恐怖を必死に抑えつける。
ここで逃げてはいけない。
逃げてしまったら、僕はきっと...自分を殺したくなるほど後悔してしまう。
「.....へぇ?.....逃げないんだ、男なのに。」
「........男嫌い...なんだっけ...?」
あの時、見てしまっているからな。
.....何で、あの夢を観たのか。理由は今分かった。
.......心には殻がある。
あの時の彼女には、その殻が無かったのだろう。
だから観てしまった。.....観ていい資格など無いのに。
「.....見たんだ....?」
「........謝ってもどうしようも無いと思うけど.......勝手に観てごめん。」
何やってんだよ。
先に謝らなきゃいけないのは、そっちじゃ無いだろ。
「気にしなくていいよ。私も観ちゃったから。」
「.....そうかい........」
そりゃそうだ。
僕だけが観て、彼女が観れてない訳がない。
.......どの記憶を観られたのだろう?
「ここで話してもいいけど.....人の群れが近い。ちょっと嫌だから、場所を変えて良い?」
......何で聞いて来るんだよ。
主導権は君にあるのに。
「.....逃げるかもなんて思わないの?」
「そりゃないね。.....だって君、逃げたいのを必死に我慢してるじゃんか。」
.........筒抜けか。
何故か、バレてたみたいだ。
....そうだ、本当なら背中を見せて無様に逃げたい。
でも.....わざわざ来てもらって、逃げるのはダメだ。.....結局これは、自業自得なのだから。
「.......北の方なら、もっと深い。」
「じゃあ、そこで話そう。案内は任せる!」
.....どうやらついて来る様だ。
........自分で言うのもあれだが、自分を殺した相手をこうも信用していいのか?
枯葉の上を踏み歩く。/彼女は素直について来る。
僕は何をしているのだろう。
こんな事あり得る訳ない。
自分の殺した化け物が、実は人だったなんて。
....でもそれと同時に、信憑性も増してきてしまう。
「〜♪」
鼻歌交じりに歩く少女から感じる魔力は.....やっぱり白蛇のものだ。
あの時剣を刺して力を奪い返して殺した、白蛇だった。
「.......................」
脚を止める。
.......ひょっとしたら、殺し合いになるかもしれない。
彼女が復讐に来たのなら、間違いなく殺し合いが起こる。
.......その時僕は.....どうするのだろう。
.......今度も殺すのだろうか?
.............化け物じゃない、ただの女の子を?
「..........っ.......」
考えるだけで吐き気がした。
.....私利私欲で襲ってくる者なら、何も思わず斬れる。
同じ人の生命を食い物にする様な奴らなんて、この世に居ない方がいいと本気で思ってるから。
だから殺せる。.....例えそいつに家族が居たとしても。
そんな事をする時点で、殺される覚悟が有るだろうから。
.....無いのなら、絶対に殺すが。
じゃあ、この少女は?
こっちの欲のせいで殺されたこの少女の復讐は、決して間違った物じゃない。
むしろ正しい物だろう。
.......そんな子の覚悟は、間違っているこっちが否定できる物じゃない。
.........それを否定して、もう一度殺すのだろうか。
...........罪を認めない為に?
「.........はっ.....」
乾いた笑いが、口から溢れる。
全く......そんな事が許されるとでも思ってるのだろうか、僕よ?
.......許される訳無いだろう?
「.....散歩は終わり?」
彼女の声が、頭の中で響き渡る。
ハープの様な綺麗な声が、人を安心させる声が......今の僕にはとても恐ろしい声だった。
「.....あぁ、ここなら誰もいない。」
君の復讐を邪魔する人も居ない。
この森は今、罪人を裁く為の......処刑場だ。
「......ふぅぅ..........単刀直入に聞こう。」
振り向いて、彼女と顔を合わせる。
.......やっぱり、綺麗な顔だ。だがそれ以上に、青空の様な瞳に見惚れてしまいそうだった。
「...................殺しに来たの?」
いや、それ以外あり得ない。.....と、頭の中では完結している。
そして何故か、『君にならいい』とも思っている。
.......恐怖で頭のネジが飛んでしまったのだろうか?
「....んぇ?」
何故か、少女は頭を傾げた。
『な〜にを言っとるんじゃコイツ?』.....みたいな反応だった。
......殺しに来たんじゃ無いのか?
「それどう言う.........あぁ、そう言う意味ね!」
うんうん、と頷く少女。.......何に納得したんだ?
「勘違いさせちゃった様だから、謝らせてもらおう!ごめん!」
「..........................えっ?」
少女が頭を下げた。.........何で?
謝らないといけないのは、どう考えてもこっちだ。
怒る側の人が何で謝る?
「私を殺した....て言う言葉がいけなかった。失敗失敗!」
「....でも.......本当の事でしょ。」
僕は君を殺した。
........白蛇だった君を。
「ちょびっとだけ違うんだよ。こっちの言葉扱いがダメだった。.....あの場合、殺したんじゃ無くて"解呪"が正しい意味なんだよね。」
.........解呪?
じゃあ、誰かに呪いをかけられていてそれを僕が解いたって事か?
........そんな都合の良い話がある訳ない。
「........じゃあなに?僕は、目覚めのキスでお姫様を起こした王子様って事かい?それで童話らしく、結婚を申し出ようってかい?」
何ともメルヘンな言い回しだが、あの状況を言い換えるとこうなってしまう。
.....こう考えると、絶対ない。
「......ぷっあははっ!面白い言い回しをする!」
「―――――――――――――――」
笑った少女の顔は、とても可愛らしく、美しかった。
.....思わず見惚れてしまうぐらい。
「知らなかったと思うけど、あの時の私には意識がなかったんだよ。もちろん知性もね。.....だから、殺されたなんて感覚も無いし経験もしていないんだ。」
「.......知性が....」
確かにそれは感じた。
意思を持って攻撃していると言うより、反射的に攻撃している様に感じたから。
術師の持つ、式神のように。
「....だから、君が私にした事なんて私は全く知らないし、それを責める気もない。」
「......じゃあ何をしに?」
慰めならいらない。
.....そんな物受け取った所で、僕自身が許せないだろう。
「本題はそれだよ!.......実はね、呪いを私にかけたのは......私の母ちゃんだ。」
「.....................それで?」
突然なんだと言うのだ?
何で君のお母さんの話を聞かなきゃいけない?
「う〜ん、冷たいなぁ!もっとちゃんと聞きたまえ!.....えっとね、手っ取り早く言うと母ちゃんをぶっ飛ばしたいので、手伝って欲しいのです!」
「................???」
..............試されているのだろうか?
いや、試しているんだろうな。
「あの母ちゃんのせいで、私は二年間も白龍になってなきゃいけなかったのです!」
「...白龍?」
「皆の言ってる"白蛇"のことだよ。んでんで!そんな事、娘にした親なんて許されると思う?いや!思わない!」
.....試すにしても下手だなぁ。
「なのでぶちのめしたいのです!と言うわけでぇ、手伝ってくれない?ほら、剣をもらったお礼って事でさ?」
「....................いいけど....君お母さん嫌いなの?」
見え見えな嘘をつくぐらい。
「君....相当なお母さんっ子でしょ。」
そんな子が、お母さんを憎む訳ない。
.....と言うか、一つも憎んでないのが聴こえてるし。
「........へぇ.....やっぱ観えてんだ。」
「.....観えてる??」
突然何を言い出してるんだこの子。
急に訳知りみたいな雰囲気になって。
「ん?いやだから...................あぁ、そうか!君は聴こえてるだけか!」
「―――――――――――――――――」
....どこで見抜かれた.....!?
心は、本人も何処にあるか分からない代物だ。
そんな物が干渉された事に気づくなんて、そんな事できる訳......
いや、出来る。
.......同じ様に、心に干渉出来る者なら。
「........どこで気付いたの?」
「気付いてなんかないよ!...ちょっと心を観ちゃっただけ。」
.....心を観た?
........ちょっと待て?それって心そのものをか?
......僕のはあくまで、心から漏れ出たものを感じ取るだけだ。
直接、心を観れるわけじゃない。
この子は心自体を感じ取れる.....?
「......だからか?」
妙に話が速いなと思っていたのは。
心が観れるのなら、言葉は要らない。
ただ観るだけで、そいつが何を話そうとしているのかが分かるから。
....話を吹っ飛ばした様な話し方をしていたのは....僕が逃げることはないと思っていたのは...
(.....心が観えていたからか...?)
「ご名答!そのとーり!!」
「っ!?」
口にも出していないのに、答え合わせをされた。
....やっぱり、彼女には観えている。
「あ、でも正しい事を言うとね?ずっと観えてる訳じゃ無くてね、観ようと思った時に観れるだけだから!」
「.......それでも充分恐ろしいよ。」
だって要はそれ、嘘ついても意味ないよって事だろ?
「そのと〜りです♪」
「......ここまで見抜くのか。」
「うん!....ちなみに、君が嘘を絶対につかないっていうのも観えてるから!」
美しい笑顔をこちらに向けて、小っ恥ずかしい事を言ってくる。
....容姿の割には、幼くて無邪気だなぁ。
疑う事はしないのか?
......心が観れるからしないのか。
「...じゃあ改めて聞くけど、本題は何?」
心がどうとかを聞きたい訳じゃない。
.....彼女が僕に何をして欲しいのか、早く聞きたい。
「う〜んとね。率直に言うと、これから君と行動を共にするからヨロシクね!...って事。」
「―――――――――――――は?」
何を言い出してるんだ、この少女?
えっ?今.....一緒に行動するって言った?
「.........いや待ってどう言う事?」
どうしてその結論に至ったのか分からないし、何で自分と殺し合った相手と行動を共にしようとしているのか。
「まっっったく分からないんだけど!?」
どう言うことよ!?
説明吹っ飛ばされてるから分からないんですけど!?
「まぁまぁ、まちたまへ!私の事情を知れば、私の考えも分かるから♪」
「いや、その前に説明が欲しいんだけど!!」
君の事情を知っても、分からないものは分からないんだよ!
「いやね?その気持ちは分からなくもないよ?.....でもね、事情を知ってもらわないと説明出来ないんだよ.....いい?」
「んぐっ!...........はぁっ.....」
ダメだ。この子マイペース過ぎる。
お淑やかな容姿に騙された。
.....こんな傍若無人だとは思わなかった。
多分自分の話が終わるまで、誰の話も聞かないタイプだな。
話し終えるまで、こっちの話は聞いちゃくれないだろう。
........母さんにもこう言う一面があったから分かる。
.....こう言う時は、素直に諦めた方がいい。
「....分かったよ。...それで何者なの、君は?」
まぁ、相手のことを知らずにどうやって贖罪をするって話だしな。
知れるなら、知っとくか。
「ありがとう!それじゃあ......んっ、んん!」
笑顔だった彼女の顔は、一気に引き締まった。
....とても真面目に、とても真摯に、綺麗な瞳でこちらの目を見てきた。
「私の名は、ディアドラ・ナーギニー。....君と同じ"予言"の....."救世神ナーガ"の転生体だよ。」




