第二十二話 一目惚れ
......マジかよ。
「.......冗談だろ!?」
剣は突き刺せた。でも、白蛇自体には刺さっていない。
.....額にある鱗に刺さっただけだ。
「分厚すぎでしょ......!!」
理不尽にも程がある。
致死の攻撃を掻い潜ったら、今度は鉄壁の防御があってるなんて...!
.....でも。
「この剣だったら!」
無理矢理押し込めば行ける。
白蛇自体に突き刺されば、こっちの勝ちだ!
「ルァァァァァァァァ!!!!!」
「うわぁっっ!!!?」
もうまともに動けない筈なのに、暴れ始めた。
コイツ、もう瀕死だろ!?
まだ暴れられる体力があるのか!?
ボヒュウッ!!!
最後の抵抗という事なのか。白蛇が急上昇した。
「ぐっ!!!」
衝撃で意識が持っていかれそうになる。
気を失わない様、刺さった剣を死ぬ気で掴む。
「ティーザ!!!」
そう呼んでくれたリュウズの声が一気に遠ざかる。
「ルァァァァァァァァ!!!!」
気づいた時には、街全体が見下ろせるほど翔び上がっていた。
「こ...んのぉ!!!」
剣を掴み直す。
「いい加減.......落ち着け!!!!」
そうやって、無理矢理押し込んだ。
「ルゥゥゥゥァァァァ!!!!」
白蛇が大暴れする。こっちを振り落とそうとする。
「〜〜!!」
剣に掴まって、振り落とされない様にする。
ここまで来たのだ.....振り落とされるものかよ!
「っ!!」
腕に魔力を込める。
絶対に刺さる様に、止めを刺すように。
「このぉぉ!!!!!」
ジャギィィン!!!!
剣を押し込んだ。
「ル!....ルゥゥゥゥァァ.........」
白蛇の声が小さくなってくる。
キンッ!キンッ!!キンッ!!!
その代わり、刺さった剣が光り輝いてくる。
火の消えた松明に火を付け直した様に。
水の無くなった湖に、再び水が湧き出た様に。
剣に力が戻っていく。
「ルゥゥゥゥ..........」
そして、白蛇の身体はどんどん薄くなっていく。
やはり読みは当たっていた。剣の力を使って、この白蛇は顕現していた。
今その剣の力は、剣の元に帰っていく。.....もうこの白蛇は顕現している事が出来ない。
......そして。
........カラァァァン!!!!!
.........白蛇は、光の粒になって消えた。
それに伴って、僕も落ちていく。そんな僕は.....
「――――――――――――」
手に持った剣を見つめていた。
もうその剣は、竜の爪の様な形をしていなかった。
......少し反っていて、とても綺麗で大きな.....美しい剣だった。
「.....お前.....本当はそんなんだったんだな。」
何だよ.....結構なべっぴんさんじゃないか。
あの変な形は何だったんだよ。
.....そんな事を思ってたら。
ヒュゥゥゥゥ......
「...............えっ?」
自分と一緒に落ちてる女の子を見つけた
「――――――――――――――」
.......一目で見て、なんて表現すれば良いのか分からなかった。
ただその少女の事を言い表すなら.....
この世の者とは思えないぐらい美しかった。
光を反射するぐらい綺麗な白髪。すらっとして、だけど肉付きもいい手足。幼なげなのに、見る者全てが魅了される美しい顔立ち。.......裸なのに一切の淫猥さを感じさせない、豊かになるであろう膨らみを持った清廉な肉体。
過大評価でも、過小評価でもない。
その評価全てが、少女を表すものになるだろう。
そのぐらい、その少女は美しかった。
「―――――――――――――」
見ていて目眩がした。
空で落ちている最中である事を忘れて、見惚れていた。
「............................」
でも何故だか、初めてとは思えなかった。
既視感があった。.....やっと会えたと思った。
こんな経験した事ないのに.....懐かしいと思った。
「.........あぁ....!」
いつの間にか手を伸ばしていた。
こっちに引き寄せて、抱き寄せたいと思った。
何故?全く分かっていない。
そんな事を何故考えているのか。
そもそも何で、裸の女の子がここにいるのか。
......何故こんなに冷静なのに、身体が勝手に動いているのか。
でも別に良いと思えた。
そんな事はどうでも良いと。
やっと会えた事の方が重要だと、本気で思った。
「.........はぁ...!」
もう少しで手が届く。
細くて、強く握ったら怪我をさせてしまいそうな程綺麗な手に触れられる。
.....会いたかったんだ。
.......ようやく会えたんだ。
..........君に会いたかったんだ。
嬉しくて笑みが溢れる。
喜びで涙が出てくる。
だって、やっと会えたんだ。
ずっと、寂しかったんだ。
........本当に、嬉しいんだ。
そして、彼女の手に触れた。
(母ちゃん!)
(なぁに?)
(え〜と...ちゃんと食べてる?)
(食べてるでしょ?貴女の前で。)
(そっか!)
何だこれ...?
この記憶はなんだ?
....こんな記憶、存在しないはず......
(ねぇ?)
(なんだ!母ちゃん!!)
(声でかいよ!.....好きな人が出来たらどうする?)
(....好きな人?.......私に?)
あの女の子が困惑している。
........何だろう。凄く嫌そうな顔してる。
(もしもの話だよ。)
女の子のお母さんは、綺麗な人だった。
少し小柄な、胸の大きい美人だった。
(ん〜、分からん!)
(分からんって.....)
(いやだって私、男なんて嫌いだし。)
(.....会った事無いのに?)
.....男嫌いなんだな。ちょっとがっかりするなぁ。
....でも何でだろう?
女の子の顔が、誰かの為に怒ってる様に見えるのは。
(うん......だって男のせいで母ちゃんは....)
(男みんながあんなのじゃ無いよ.....私の惚れた人はそんな人じゃなかったし。)
(でも!.....男はみんな勝手だよ。........母ちゃんの事なんて、一つも考えてない。)
あぁ.......この子は優しいんだな。
自分の為じゃなく、人の為に怒ってる。
......お母さんが、好きなんだろうな....
(....あの人がああなるのも無理無いよ.........だって本当に、私に惚れてくれてたから。)
(そんな二人の仲を引き裂いたのも男だよ。)
(.........そうね...)
............これは、見ていいものなのか?
本当は、駄目じゃ無いのか?
(....母ちゃん.....こんな事言っちゃいけないけど......)
(......言ってごらん?)
何を言い出すのか、察した。
....ダメだ、その言葉は言っちゃいけない。
その言葉は、お母さんを傷つける。
(...........産まれてきて......良かった...?)
(――――――――――――)
彼女が何なのかは僕にはわからない。
....分からないけど、気持ちだけは理解できた。
その気持ちは.....僕があの家にいた頃、ずっと自分に問いかけていた物だから。
(ごめん.......)
(...........もう。)
彼女のお母さんは近づいてって、自分の娘を抱きしめてた。
(あっ.........)
(いい?......貴女は私の娘。それだけはどんな事があっても変わらない。)
(........うん。)
(私は貴女を産んで.....とても嬉しいから。.......この世に産まれてくれて、本当に嬉しい。)
―――――――――――――
『.......生まれて............くれて..........ありがとう』
あぁ。母さんと同じ事を言ってる。
.........この人も母さんと同じなんだ。
自分の子供が、自分よりも大切なんだ。
(......そっか....!)
(そうだよ。)
(........分かった!)
女の子はもう元気になってた。
(母ちゃん!好きな人の事なんだけど。)
(ええ...何?)
(私が好きなのは母ちゃん。....それ以外の人のことは知らない。だから、惚れるとしたら母ちゃんに似た様な人だと思う。)
(.........それ口説いてる?)
(どうでしょ?)
(....貴女の場合、ちょっと怖いんだよね。だって、本気の人見つけたら間違いなく"食べちゃう"でしょ?)
.....食べる?人を?!
....まさか...食人衝動持ちなのか?!
..........良い。それはいい。
自分の肉体を、好きな人に捧げる行為。
......絶対痛いけど悪くない....
.........って、何考えてんの僕は!?
(うえっ!?食べないよ流石に人は!!!)
(そう意味じゃなくて......いや、子供に言うのもおかしい事か。)
(?)
(何でもない!......忘れて?)
.......結局、何だ?
人は食べないのか?
.......ひょっとして、別の意味で食べるって事か?
.....だとしたら、どう言う意味?
(....まぁいいや。それで好きな人なんだけど。)
(うん。)
(もしそんな奴と出会ったら、私はそいつの為に一緒にいると思う。)
(.....初対面でも?)
(うん!)
(........どうして?)
(だって母ちゃん、一人にしたら勝手に思い詰めるでしょ?)
(――――――――――――――)
......何だろう。
今、物凄くドキッとした。
図星を突かれた時の様に。
(そいつが母ちゃんに似てたら、私は一緒にいるよ?)
(.......その人が嫌がっても?)
(うん!嫌われてでも一緒にいる!!)
(.............そっか。)
―――――――――――
何でこの記憶を観ているのか.....分からない。
だけど、この少女が優しい事だけは分かった。
.....理解して、悲しくなった。
.......この子はきっと.......
自分の幸せを度外視しているだろうから。
「.........ルン................ドゥルン.....」
.....何だろう?
凄く変な歌が聞こえる。
寝起きに聞くもんじゃない恐ろしい音程の。
「トゥトゥトゥドゥドゥン、トゥトゥトゥドゥドゥン、トゥドゥルン、チッチッ」
目を開けると、そこには......
変な真っ黒い眼鏡をつけたリュウズがいた。
「トゥトゥトゥドゥドゥン、トゥトゥトゥドゥドゥン、トゥドゥルン、チッチッ」
.....いや、何この状況?
生贄にでもされるの、僕?
........と言うか変な夢見たの、これのせいじゃね?
「トゥトゥ」
ガッシィ!!!
「どぅ!??」
「な に し て く れ て ん の ?」
変な歌を歌ってるリュウズの顔面を鷲掴んでやった。
パシッ!
......すぐに払われたけど。
「いやぁ、"裏"から流れてきた本に似た様な状況だったもんで!ついやってみたくなってな!」
「それを何で僕にやったの!!」
お陰で最悪の寝起きだよ!!
「あぁちょっと待ってくれ!続きがあるんだ。」
「まだやるの!?」
「大丈夫!すぐ終わるから!!」
そう言う問題じゃなくてね!?
なんかこれ以上は駄目な気が......
「『おはようございます、髪切った?』」
「はいアウトォォォ!!!!」
なんかよく分かんないけどこれ絶対駄目な奴ゥ!!
「まぁ、冗談はここまで!.....元気そうだな。」
「寝起きは最悪だけどね。」
どっかの誰かさんが、何かを丸パクった様な気もするし.......
「....ひょっとして、気失ってた?」
「ああ、平原でぶっ倒れてたぜ。...剣を片手に持ってな。」
そうか.....なんかあの後記憶が曖昧なんだよなぁ。
何か、凄いのとは出会った様な気がするんだけど...
「.....まぁいいや!それより剣は?」
「あるぜ......お前の中に。」
―――――――――――――――
「.....リュウズ、厨二病ってのは後で恥ずか死ぬ目にあうらしいからやめときな?」
「ちげぇよ!何で突然厨二病起こすんだよ!?」
いやだって....突然『お前の中に剣がある!』なんて言い出したら正気を疑うよ?
.....実際、遂に狂ったかと思ったし。
「まぁ、やってみた方が分かりやすいか。」
「いや、何が?」
「とりあえずティーザ、剣を持ってみろ。」
....いやだからその剣がないんだけど。
「イメージでいい、持ってみろ。」
「......まぁ、いいけど....」
記憶は曖昧だが、あの剣は忘れない。
.....今まで見たどの剣よりも、綺麗だったから。
「.....でたな?あっさり。」
「えっ?」
出たなって.....何が?
「手を見てみろ?そこにあるぜ。」
「....手ぇ???」
見てみると...........あの剣があった。
「........はあっ!?何で?!」
「だから言ってんだろ?お前の中にあるって。」
そう言って、リュウズは妙な眼鏡をはずした。
「まぶっ!....いいかティーザ?そいつは本来、お前の中にあった物だ。」
「.......どう言う事?」
話が唐突で訳わかんないんだけど.....
「世剣の話は聞いた事ないか?魂と結びついてるって言う奴。」
「.....少しだけなら。確か、バルドの血を引いてる人にしかないんでしょ?」
「そうだ。そして、それがお前の世剣だ!」
.....えっ?
いやいやおかしい。唐突過ぎる。だって僕には
「世剣がない.....か?」
「――――――――――何で分かったの?」
口に出していないのに、当てられた。
「顔に出てたぜ?何でって。」
......そうか。
.......ひょっとして、バルドの転生体って気づかれたのも、顔に出てたからか?
「何で世剣があそこにあったのかは知らねぇ。.....バルドの転生体であるお前に世剣がなかった理由も分からない。......だが、今ここで起こっている事実が、その世剣が誰の物なのかを示している。」
「―――――――――――――」
「そいつは間違いなく、お前の世剣だ。」
......理解できない。
.......森に行って、変な剣を引き抜いたと思ったら、白い蛇に襲われて、そいつを倒したと思ったら、その引き抜いた剣が、僕の世剣だった.....?
情報量が多すぎて混乱してくる。
百歩譲って剣が僕の物だった事は認めよう。
.......でも、これは本当に世剣なのか?
「リュウズ、それはないよ。」
「.....何でそう思う?」
「.........世剣は、直剣のはずだ。.....これは少し曲がってる。それに片刃だ。......世剣は両刃だったはずでしょ?」
伝承と違う。
世剣の形が、僕の持つ剣と明らかに違う。
「ん〜、確かにこれは世剣の形をしてねぇな。.....どちらかって言うと、アトルワで作ってる"刀"に近いな。」
「......そんなのあるんだ?」
「ああ。まぁ、コイツ程綺麗じゃないが。」
.....そんなのとこれが同じ理由は分からないけど。
「でもティーザ。.....実はそれデマって知ってるか?」
「.......えっ!?」
デマって......世剣の形の事か!?
「デマっつうより捻じ曲がった、かな?その剣をの形ってな、バルドの子孫だけの話なんだよ。」
「......子孫だけ?」
そう...とリュウズは答えるけど.....どう言う事?
時間が経って、事実が変な方向になっていく事は理解できる。そんなのはよくある事だ。
でも.....じゃあバルドの世剣は?
「バルド・ザナルカンドの剣には、固定された形がないんだよ。」
「.....でも、世剣は作ったんでしょ?」
剣の形を、そう毎回変えられるわけがない。
「いや、作ってない。......世剣って呼ばれてんのは、バルドの力の事だ。」
「?????」
「力の結晶体が、世剣って呼ばれてんだよ。......だから形がないんだ。」
あぁ、それなら何となくだけど、納得できる。
「.....じゃあ、どんな形でもおかしくないって事?」
「あぁ。例え剣の見た目をしていなくても、バルドが扱っていたら世剣なんだ。」
....じゃあ、他の世剣と形が違うのも.....そんな物がバルドの転生体である僕のものであるのも.......
「......この剣が....バルドの使ってた物と同じって事?」
「......確証はないが.......多分な!」
「――――――――――――」
「世剣がなんで刀の見た目をしてんのかは分からんが、まぁお前が求めてた剣の形になったって事だろ!」
........信じられないな.....
リュウズを信用してないと言う訳じゃない。
ただ、今起こってる現実を受け止めきれてないだけだ。
「あ......寝起きにする話じゃ無かったか?」
......全く、今更過ぎるよ。
「ちょっとね.....混乱してる。」
でも、それだったらあの白蛇を顕現させれる。
バルドの世剣となれば、他の世剣とは訳が違うだろう。そりゃ、あんなに強くなる訳だ。
止めを刺すのに苦労した。
お陰でこっちは、女の子と一緒に落ちる羽目に......
..........................女の子?
「.....リュウズ!!!」
「おわっ!?」
「僕が倒れてる近くに女の子いなかった?!!!」
何故だか、怒ってるわけじゃないのに大きな声が出た。
「おっ、女の子???」
「髪が真っ白で!可愛らしい顔で!!裸の女の子だよ!!!」
「ちょ、ちょっと待て!?一回落ち着け!!勘違いされる様なこと口走ってるぞ!!!」
落ち着け...?落ち着けないからこうなってるんだ!
「女の子なんて居なかったぞ?!大体そんな奴、目立つだろうし.....本当に居たのか?」
「居た!!間違いない!!!」
あの容姿、そう簡単に間違えるわけない。
それにあそこまで綺麗な子、絶対居ない。
あの子以外に居るわけない!
「わっ、分かったから落ち着け!!なっ?!」
「......................................本当に知らない?」
「だから知らないって!!」
本当の様だな.......
でも、幻覚な訳ない。.....あの時、何を思ってたのかは覚えてない。.....けど確かに、あの手を握った。
「.......幻覚じゃないはず....じゃあどこかに行った?.....誰にも見つからずに?.....いや、無理だろ。.....でも一体どこに行ったんだ.....?」
「何かあれだな、お前が取り乱す所なんて初めて見るな?」
えっ.....?そんなに取り乱してる?
「いや、僕は冷静だよ?」
「俺から見ると全く冷静じゃねぇぞぉ?」
なんと。
........いや確かに、冷静じゃないかも。いつもだったら人の事で声を荒げたりしない筈なんだけど。
「あれかい?その女の子に一目惚れでもしちゃったか〜?」
「......ヒトメボレ???」
一目惚れって......あれか?異性を一目見て、惚れちゃってその人のこと以外考えられないってやつか?
いやいや!僕に限ってそれは............
「..........あるかも。」
「マジかよ。.....冗談でいったのに。」
ニヤニヤしてたリュウズが、びっくりしたのか真顔になった。
どうもさっきから、自分の様子がおかしい。
何もない筈なのに、心臓がバクバク言ってる。それに顔も熱い。
.....本当にどうしちゃったんだ?僕......




