第十四話 子供
...翔ぶのように走る。
狼の様にでは無い。
自分の背中に翅でもついているのかと思うほどの速度で走る。
.......何か仕掛けてくるだろうと思ってはいた。
警戒もしていた。
..........だからあの二人を残して来た。
でもまさか......悪神の転生体が来るなんて思っても見なかった。
ダンッダンッダンッダンッ!!!
「.............くそっ!」
流石にないと思ってた。/薄々気づいていた。
何でアヴァロンの創世神達が降りてくるのか、分からなかったが辻褄が合った。
悪神が降りて来たのなら、創世神達にしか倒せない。
だから、降りて来た。
.....急がなければ...!
幾らあの二人でも、闇に強い訳では無い。
辿り着くのが遅れれば、あの二人は死ぬ。
......そしてエリーテも殺される。
「させるものかよ...!!」
俺の様なろくでなしの元に、生まれて来てくれた女の子。
姉貴を見つける事が出来なかった...祝う事が出来なかった様な奴に微笑みかけてくれる女の子。
......せめてあの子だけは...俺の家族だけは護らなくては...!
「ちょっとちょっと!!?今思ったんですけど私要ります?!!絶対足手纏いになりますよ!!?」
背中におぶっている妻が何かを言う。
.....足手纏いになる程弱くねぇだろ?
「うるへぇエリクト!!お前がいて欲しいんだよ!!!」
「ふへっ!?なっ何この状況で口説いてるんですか!??」
「いや、口説いてねぇよ!!!」
エリーテは今絶対怯えてる...!
そんな時に母親がいないでどうすんだよ!
「それに相手は悪神だぞ!戦力が分からん以上、能力を持つお前が居ないと対応出来ない可能性だってある!!」
「いやっそれはそうですけど!!!」
全くコイツは...!
「だって私、相手の邪魔できませんよ!?できるのは貴方を強化させる事だけで」
「だからオメェがいるんでしょうが!!!このバカちんが!!!」
エリクトの能力は、『愛する者を愛で護る』能力。
愛する者に、最大限の魔力援護を行う。
この能力は、ほぼ無力と言ってもいいぐらい力がない。
それは、この能力がエリクトの願いだからだ
竜人の中には、能力を持った者がいる。
その能力は大抵、自分の成したい事が可能になる程度の力だ。
......エリクトは人を苦しめるどころか、自分のせいで苦しんでいる所を見るだけで吐いてしまうほど、人を傷つけるのに向いていない。
だから、能力も弱いものになっている。
しかし、この能力の恐ろしい所は、本来多くの者に行なえる強化術を、特定の者にしか行えないという点。
その特定の者が、『愛する者』。
つまり、皆に向ける筈の愛情を、その一人に向けて護る事になる。
......エリーテが産まれてから、多少はマシになったが...
「オメェのめっちゃ重たい愛があれば何とかなる!!!」
「それしれっとばかにしてんのかコラァァ!!!」
「いや事実だし....ん?」
......何だ?人が倒れてる?
「オイコラァ!!!こちらをみろティー」
「エリクト、あれ...」
思わず脚を止めてしまうほどの惨劇の後だった。
.......誰がやったんだ?
「えっ...?あれって......」
「.................」
エリクトを下ろして死体の側に向かう。
「......惨いな...」
片方は袈裟斬りで真っ二つになっている。
綺麗な断面だが...使った剣が悪かったのか、引っかかって出来た裂傷が見えた。
もう片方は、真っ二つには別れてないが、臓物がはみ出ていた。
「.....一撃か...」
どうやら今日殺されたみたいだが...
「格好から見て......盗賊ですか...?」
「あぁ、多分な。」
死に顔を観るに...何が起こったか分からないまま殺されたのだろう。
「......馬車か......」
恐らく、積荷を運んでいる最中に殺されたのだろうが......
「......誰がやった?」
片方の剣が奪われている。
油断しきっている時に盗ったのだろうが、何故そんな事をしたんだ?
......剣を持っていなかったのか?
「あの......これ子供の足跡ですよね?」
「えっ......?」
惨劇の跡には、子供の足跡が残っていた。
よく見ると、死体の切り口にもそういうのが見える。
剣を奪われた方は、袈裟斬りで真っ二つになっているが...
奪われてない方は、間合いが足りなかったのか皮一枚繋がっていた。
痕跡からして、真っ二つに出来たであろう間合いでだ。
「じゃあ......子供がやったのか....!?」
信じられない。
子供が殺した事もそうだが、剣を奪って盗賊二人を瞬殺した事が信じられない。
ここの盗賊共は、他の国の奴等とは違って腕っぷしがいい。
騎士相手にまともな戦いが出来るほどだ。
そんな奴らに抵抗もさせずに問答無用で叩っ斬る。
「......まさか...」
いや、だとしても有り得ない。
あの剣技は姉貴の完璧な我流。
それを真似れたとしたら、子供でも出来るかもしれない。
でも...あの剣技は自分の病弱さを理解した姉貴が、自分の為だけに編み出した剣技。
最短最速の一撃で相手を葬る剣技だ
それを真似れる奴がいるのなら、そいつは俺と同じ、強者側の竜人になる
つまり、わざわざ剣を使う必要がない。
剣を使わなくても、相手を殺す事ができるのだから。
何故姉貴の剣技を使っている?
何故知っている?
.......子供が何故?
「......嘘だろ...?」
そういう事か?
「ティーバ!こっちに来て!!」
「!?」
何だ?エリクトが慌てふためいてる?
「どうした!?」
「ば、馬車の中に.....髪の毛が........」
......髪の毛?
「.....その髪の毛は?」
「..............これ..........!」
―――――――――――――それは、薄桃色の...
エリーテと同じ髪色だった。
「――――――――」
つまりコイツらは......エリーテを攫ってた?
それを、子供に見られてその子供に殺されたって事か?
「ちょっと待てよ.......?」
だとしてもそこまでする理由になるか?
普通なら騎士に伝える筈だ。自ら助けに行くなんて正気じゃない。ましては、武器を持ってない状態で。
「だとしたら.........?」
ここでエリーテを攫ってるって事が分かったのか?
......それでも理由にはならない。...命を賭けるほどの理由には。
「じゃあ、なんだ.........?」
何故この子供は、自分で助ける事を選んだ?
イカれてたのか?...それとも、自分だったらやれると、本気で思ってた?
「あっ....あと!.......あの.....」
エリクトが何かを言おうとしている。
まだ何かあるというのか...?
「......鍵や縄は、魔術ではないようだけど、能力で解けたみたい。」
能力持ち...?
わざわざ能力を使って解いたのか?
......いや。
使った自覚が無いのか?
当たり前の様に使えるとしたら、そうするだろうが、少なくとも能力は、使おうとする意思を明確に持って初めて使える
無意識に使ってるとしたら、多分そいつの能力は、とんでもないものだ。
今ザナルカンドを襲っている奴よりも遥かに強い...!
「.........それに残ってた魔力の残滓が......」
「.......エリーテの物だったのか?」
「それもあるけど......その......」
...何を言い及んでるんだ?
まるで......あり得ないと言わんばかりじゃないか。
「.........現存するバルド様の竜鱗と......同じ魔力反応でした......」
―――――――――――――
「......それはつまり?」
「.........バルド様の転生体がここに居た...!」
......頭の中がすっからかんになった。
..........でもそれだったら、助ける理由に充分だ。
自分の子孫が危ない目に遭っているのだ。助けないおじいちゃんはきっといない。
......しかし。
それは恐らく、肉体の反応だ。
バルド・ザナルカンドは死んだのでは無く、ただ眠りについただけ。
魂までが転生した訳では無い。
......つまり、ここでエリーテを助けた者は...
神でもなんでもない、バルドの肉体を持っただけの子供だ。
「――――――――――」
エリーテを助けて貰った事は理解出来たし、助けた理由も分かった。
......分かってなお、こう思った。
誰から産まれたんだ?
......もし、俺の勘が当たっていれば...当たってしまってたら、俺はその子に会わなければならない。
「......急いでザナルカンドに戻るぞ。」
「.....ティーバ?」
.....ひょっとしたら今、襲撃した奴と戦っているかもしれない。
「..........転生体でも、子供は子供だ...!」
.........どちらにせよ、子供を戦わせる訳には行かない!
「........ふふ.....そういう人だったね貴方は。」
「うるへぇ...!行くぞ!!」
はいはい、と言ってエリクトは俺の背中におぶってくる。
「飛ばすぞ?」
「ええ、良いですよ?」
........もうすぐ夜明けか。
今からだったら、明けるぐらいにはつくな。
「フルスロットルで突っ走る!!!」
こういう時にいいな......"裏"の世界の言葉は!
そう思って、魔力も何も考えずに全力で走った。




