第十三話 "気に食わない"
(ティーザ。)
(......どうしましたか?)
聴いてくる。いつもの遊戯が終わった後に。
(........ティーザは元々強いでしょう?)
(いえ、弱いです。)
断言した。
...肉体だったら誰にも負けないぐらいには強いと思うけど。
(........心の話じゃ無いよ?)
見抜かれていた様だ。
しかし、心が弱い事は事実だ。昔から、納得できない事に関しては我慢出来ずにいた。
......少し苛つくと物を破壊する事もある。
......心はあの子が一番強い。どんな人にも平等に接し、才能に怠けずに努力をし続けている。...尊敬できる程だ。
(ん〜、ティーナもティーナで弱い所があるんだけどね〜。)
(......妹がですか?)
うん、とこの人は認めた。
あの子にも弱い所が...?想像できない。
そんな事は本題じゃないというかの様に、あの人は話を続ける。
(いやねぇ、さっきやってた事が何なのか分かるでしょ?)
(......まぁ。)
僕とこの人だから遊戯と言えるが...心の中でやっていたことは、単純な殺し合いだ。
しかし、奇妙な事の起こっている殺し合いだ。
肉体での戦いだったら、僕はこの人に何の問題も無く勝てる。
......でも何故か、心の中で戦うこの人はとてつもなく強い。
猫と思ってたら、猛獣だった...に似た様な感じの。
......そんな人に今ようやく勝てた所だ。
(.........一応言うと、私元々は結構強い方だからね?)
(...いや、知ってますよ。)
心の中であの強さだ。もし身体が病に侵されてなかったら。
...僕を殺す事も可能だろう。
("負け惜しみ"ってやつですか?)
(うわぁ、物凄く酷いこと言うな〜。違うよ!!!)
怒られた。/いつもの事か。
(......ティーザがしたいって言ったからやってるけど、本当に良かったのかなって思って。)
(......)
(ティーザだったら、あの剣技真似れるでしょ?)
(真似れると言うか......)
......あなたが教えたんだからできますよ。
(......ティーザ。)
(何です?)
(..........乱暴な子にならないでね。)
...母さんは"乱暴な子になるな"と言った。
...僕も、暴力を振るうのが好きな訳ではない。
必要となれば、力を行使する覚悟はあるが、他人を傷つける覚悟がある訳ではない。
......あの時も本当なら、盗賊達を斬るつもりは無かった。
しかし彼等は、人の人生を食い物にしていた。
そうして、人生を奪ってはその金で楽しく暮らすつもりだったのだろう。
...そんな事、許される筈がない。誰も許さない。絶対に許されない。
...エリーテの人生はエリーテの物だ。
それは、誰も奪っちゃいけないし、汚したらいけない。
例え神が赦しても、僕が赦さない。
だから、斬った。
約束を破ってまで。
......もう破らないと、エリーテちゃんを見た時に誓った。...この子と友達になりたいと思ったから。
.......でも彼女は人だ。
/.......でも僕は化け物だ。
......友達にはなれない。...なっちゃいけない。
彼女の人生に僕はいらない
......それはお前もだろう?
「なぁ化け物...」
「―――――――――」
..........お前みたいな奴なんかにも、あの子は心配するんだよ。
...本気で心配してたんだよ...!
「エリーテの心配をどう思った。」
「......今答える事か?そ」
「質問を変える。」
「何で優しさにつけ込んだ?」
「......嘘を言ってもいい。死期を早めたかったらな。」
「っ!!!」
男の身体が震えている。
「怖いのか?」
全くふざけた話だ...
「エリーテはお前の何倍も怖がってたぞ!!!」
...殺す責任感はあったようだが、殺される覚悟はなかった様だ
「.........ペラッペラな偽善だと思ったからだ。」
「それで?...まだ続きがあるんだろう。」
適当な言い訳で逃げられると思うなよ...!
「っ!」
男の顔が歪む。
どうやら意地でも話したくない様だ。
話せば僕が襲いかかる事が分かっているからだろう。
...仕方ないな...
「...『ティーザ・ザナルカンドは目の前にいる男が"答えを話す"まで男を逃がさないし、殺さない。』...こんなんでいいかな。」
「!?貴様!!!」
等価交換。
何らかの条件を課す事で、それに見合った物を得る魔術。...元々は、"縛り"と言う。
...私は貴方を殺さないから、貴方も私を殺さないでください。
縛りを簡単に説明するとこの様な感じになる。
...人の作る秩序に似ているが、一つだけ違う所があるとするなら...
それは、縛りを破れば罰が必ず来ると言う所。
縛り自体に強制力はない。しかし縛りは、対象者を呪う事で発動できる物。
呪いなんてろくでもない物を扱う以上、その罰も恐ろしいものになる。
だが、自分に課す縛りは別で、縛りを破っても必ず罰を受ける訳では無い。
何故なら、相手に呪いをかけられたわけではないからだ。
相手とする縛りよりは、罰が少ない。
「良かったな?話すまで死ぬことは無いぞ。」
今行ったのは、話すまで殺さない代わりに、絶対に逃さない縛りだ。
コイツの場合、それがいい。
行った理由は三つ。
一つは、本当に逃さない為。
縛りは自分を追い詰める、諸刃の剣。
絶対に成功させるために、強制的に魔力出力と魔力生成速度が上がる。
呪術である縛りが、"等価交換"として魔術扱いされるのはこれが理由だ。
どんな実力不足でも、厳しい縛りを課せば課す程、縛りの恩恵が増す。
強力な魔術を扱える様にもなるから魔術師はこぞって使うらしい。
僕の縛りの内容を噛み砕くと、
『相手は逃げれるが自分は逃げれない。』
『相手が殺しにかかって来ても自分は相手を殺せない。』
『そして瀕死になろうと、相手を逃してはいけない。』
と言う、相手が有利な理不尽な縛り。
ここまで自分に不利だと、相手から生き延びるのも容易じゃない。
絶対に生き延びる為に、縛りに見合った恩恵は...
基礎能力の倍化。
この縛りをした事で、僕の基礎能力は倍化されている。万一の事があっても、大丈夫と言う事だ。
もう一つは、縛りを遂行した場合の恩恵。
縛りの内容を遂行できた場合、縛りをしている時程では無いが、その報酬としてまた強制的に魔力出力と魔力生成速度が上がる
こんな縛りをしたのは、実はこっちの方が目的だからである。
殺せないとは言ったが、瀕死に出来ない訳では無い
つまり、奴がダンマリを決め込んで戦う事を選べば、力が倍化されてる僕と戦う事になる。
そんな事をすれば半殺しにされるのは向こうも目に見えている。
「っ.....性格悪いぞ!!!」
「言ってろよ。」
...理不尽を押し付けられているのは向こうの方なのである。
答えを言えば、僕の基礎能力は強化される。
かと言って言わなければ、殺されはしないが、基礎能力が倍化されてる僕を相手にする事になる。
......どっちに転んでも、相手が不利になる理不尽な状況。
最後の一つは、理由を聞く為。
盗賊達がエリーテを攫った理由は、絶対にコイツだ。それは間違いがない。
...しかしどうしても解せないのが...
(......アインさん...聴こえます?)
「!?」
まだかろうじて、意識があるアインさんに聴いてみよう。
(......バルドの力はこんな事もできんのか?!)
いきなり心の声が聴こえて来て驚いてる様だが...
(そんな事はどうでもいい!奴は一人ですか!それとも複数人ですか!!)
僕が気になっているのはそこだ。
......恨みを晴らそうとしている訳では、どうしても見えないのだ。
(......分からんが一つだけ.....教団の人間じゃない様だ...!)
.....教団が何なのかは知らないが、そうだとしたら命令されたからでは無く、自分の意思で襲撃して来たって訳か...?
だとしたら尚更変だ。
恨みもない筈なのに、何故こんな無駄な行為をする?
こんな事をしても、前に進めれる訳でもないと言うのに。
...まぁ、本人から聞き出せばいいか...
「...まだか?早くしないと無理矢理聞き出すぞ?」
奴を急かす。
「......っ」
「早く言え!最後の警告だぞ!!」
...流石にここまで脅されれば言うしかないだろう?
「................................気に食わなかった。」
「―――――――――はっ?」
.......耳でもおかしくなったのだろうか?
気に食わなかった?
「.........あの子がか....?」
「違う。」
じゃあ何だ...?
「竜神の血を引いてるだけの奴等が上に立ってるのが気に食わなかった。」
――――――――――――――
「俺は神だ...!その俺が何故...竜神の血を引いてるというだけで王になってる奴らの言いなりにならなければならない.....!!」
―――――――――――冗談でしょ?
「そんな理由で.....エリーテを攫わせたのか...?」
「あぁそうだ!何が悪い!!」
―――――――――――――――
「大体気持ち悪いのだよ!あのガキの態度は!!竜神の血を引く化け物の癖に、人の様な振りをする!!!」
「――――――――――――」
「あのティーバ・ザナルカンドもそうだ!!奴はこのアヴァロンの中で最も恐ろしい化け物の癖に、皆に愛されている!!!」
あぁ......そうか......
「俺は神だ!神の生まれ変わりだ!!悪神とはいえ、あんな偽物共とは違う!!!」
......コイツは人の生み出した"呪い"だ。
「何故俺がゴミの様な扱いを受けて、奴等が優遇される!?おかしいだろ!!!」
.............気に入らないから全て壊そうとする......
"呪い"そのものだ....
「それは貴様も同じだろう!!バルドの転生体よ!!!」
―――――――――――同じにするなよ。
「貴様も思った筈だ!あの小娘に馴れ馴れしく話しかけられた時!!
殺したい程苛立ったろう?!!上から目線はやめろと思ったろう?!!
.....それなんだよ!!!俺が奴等に」
「話は終わったろ?」
「っ!!?!」
もういい......これ以上聞く必要はない。
神だか生まれ変わりだか知らないが、僕はお前が気に食わない
「ぁ.........その.........!」
「......言葉がないのなら、終わりでいいな。」
「じゃあ、死ね。」
......そして、初陣の時が来た。




