第79話 樹里さんとすれ違い五階で狩りをする
樹の上からザザザと音を立てて誰かが降ってくる。
「タカシさん!」
『オーバーザレインボー』の【盗賊】樹里さんだった。
彼女は途中の枝を掴んで、器用に落下を止めた。
「やあ、やってるね」
「はい、鏡子さんの木々の飛び移りの真似をして動いてるっす」
「おお、樹里は、なかなか筋がいいな」
「あーし、まだまだ上手く跳べないんすよー」
「タカシよりは上手い、さすがは【盗賊】だ」
鏡子ねえさんは樹里さんに手取足取り飛び移りを伝授している。
というか、『戦士』なのに【飛び移り】を生やした鏡子ねえさんが凄いだろう。
【盗賊】の方がずっと習得が早いと思うね。
木々の間を跳ぶ魔物は少ないので、四階五階だと安全に狩りができそうだ。
もっとも六階からは洞窟ゾーンになるので修練も意味がなくなるけど、器用に体捌きが出来るようになると便利だから、このスキルは取っておいて損は無いね。
「格好いいなあ樹里さん」
「えへへ、ありがとっす、みのりん」
「木々の中を跳べると偵察にも良いね」
「そうなんすよっ、泥舟くんっ、それに格好いいっす」
どんどん樹里さんは【盗賊】らしくなってきて良いね。
樹里さんと別れを告げて、俺たちは狩りをしながら四階を進んだ。
「わ、犬来たっ!! 初見! 『真っ赤な犬なんてホットドッグになっちゃえっ!』」
それは【罵声】になるのか?
と、思ったらアタックドッグは目に涙を溜めてぶるぶると身を震わせてバウバウと吠えた。
効いているようだ。
「『おおきくおおきくするどくつよく~~♪ あなたのちからはこんなものじゃないわ~~♪ がんばれがんばれちからをいれろ~~♪』」
「よしっ! 峰屋さんサンキュー」
【罵声】で動きが鈍ったアタックドッグを、【威力倍増の歌】でパワーアップした泥舟が手槍で突き刺した。
「くーん……」
アタックドッグは悲しそうに鳴いて倒れた。
【罵声】は意外に使えるな、精神的なショックで魔物の動きが鈍る感じか。
攻撃力も下がるのかな。
バード攻略サイトでお勧めされるわけだな。
迷宮の職業別にネットでは攻略サイトが開かれていて有志のDチューバーがノウハウを共有している。
バードも人気職になったので、沢山の攻略サイトが出た。
世界中のDチューバーが情報を共有するので、コモン楽譜は大体解析が終わった感じだ。
魔力を吸って泥舟がレベルアップした。
これでレベル3、あと少しでジョブチェンジが出来るかな。
峰屋みのりはレベルアップお預けのようだ。
「んもー、泥舟くんに先をこされたようっ」
「僕は『参入者』だからね」
「あんまりキリキリするな、すぐレベルアップするから」
「はーい、タカシ教官っ」
「お、犬から何か出た」
アタックドッグが粒子に変わり、魔石とドロップアイテムが出た。
『まー、毎回毎回よくドロップするねえ』
『豪運みのりんだなあ』
「ホットドッグになったっ! 私がののしったから?」
「いや、アタックドックからはホットドッグが出るんだ」
さっそく鏡子ねえさんは袋を開いてアタックドッグホットドッグにかぶりついた。
「どんな味なの」
「ちょっとピリ辛ホットドッグ、ちょっと食え」
鏡子ねえさんはホットドッグの後ろをむしって峰屋みのりに突き出した。
怖そうに峰屋みのりはホットドッグを口に入れた。
「あら、ピリ辛」
「な」
他の迷宮ドロップ食品と同じで、凄くは美味くはないんだが、まあまあの味という代物だ。
俺も良く食べた。
「あ、なんか辛さが後引く、ひー」
そう言って峰屋みのりは水筒から水を飲んだ。
鏡子ねえさんが袋をポイ捨てしたので、拾って鞄に入れた。
次にゴブリンに行き会い、また【罵声】で涙目にさせて泥舟が槍で狩った。
峰屋みのりがレベルアップである。
「お、陣笠出た、これお爺ちゃんにあげていい?」
「いいよ、問題ない」
泥舟は嬉しそうに自分のリュックの後ろに新しい陣笠を引っかけた。
「三レベルになったのにあんまり自覚がないなあ」
「まあ、零から一に比べるとステータスが上がるだけだからな」
まあ、見ている分には峰屋みのりがレベルアップでちょと綺麗になったのが解るが、自分では自覚がしにくいだろう。
そんなこんなで五階についた。
迷宮の浅階はだいたい二キロメートルぐらいのフロアだから、結構広い。
どこかに『オーバーザレインボー』も居るのだが安易に合流はできない。
パーティ同士が連携して動くと大きなパーティと見なされて『多人数殺し』が出るからだ。
一応、三パーティまでをまとめるレイド機能もあるのだが、浅層ではフロアボス攻略の時ぐらいにしか使われない。
最前線では六人パーティが三つ、十八人レイドが基本単位で動いている。
それでも巡回するモンスターをさばきかねるらしい。
深くなれば深くなるほど迷宮はキツくなるんだな。
「ぎゃー、センチネル!!」
なんか、毎回下りてきた時にセンチネルがでるな。
「『足がそんなにあって良いと思ってんのかよおーっ』」
【罵声】を聞いて、センチネルは体を丸ませブルブルと震えて苦悩した。
すかさず泥舟が奴の頭を槍で一突きした。
「はーはっはっは、【罵声】強いっ!! あ、経験値はいらないよ」
峰屋みのりはセンチネルの経験値の霧から逃げた。
あいかわらずワガママだな。
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