第67話 Dアイドル業界激震の仕様変更
『長らく『吟遊詩人』が現れなかったので、Dアイドルの迷宮内での活動を黙認しておりましたが、本来迷宮とは冒険をする所で安全に楽をしてお金儲けをする場所ではございません。明日零時よりアイドル殺しの発生猶予を取り消します。先に払い込まれていた猶予依頼金は返却いたしますので領収書を持って一階のインフォメーションまでおいで下さい』
高橋社長は急いで電話を掛けていた。
「アイドル殺し発生猶予が無くなった、明日のチヨリのプロモーション撮影は中止だ」
勇者ケインも呆然としてテレビ画面を見つめていた。
『これからは基本に立ち返り、どうぞ冒険をなさってください。もちろん六人以下のパーティでしたら、アイドル活動であろうと、AV撮影だろうとご自由になさってください』
「め、迷宮でAV……」
峰屋みのりが絶句した。
まあ、割と人気があるらしいぞ。
「ああ、ああ、六人単位のパーティでシフトを作る。とりあえず、『吟遊詩人』になったアイドルを護衛パーティと組ませて十一階以下で撮影する計画で、え、カメラも照明も、カメラピクシーで良いだろう、もう、これまでの常識は通用しないぞ」
『それでは、冒険配信者の皆様が地の底まで到達できるよう、お祈りしております』
記者会見は質疑応答に入った。
新聞記者さんたちが、サッチャンに色々な質問をしている。
高橋社長は精力的にあちこちに電話を掛けまくっていた。
「なんだか大変だね、タカシくん」
「これで、これまでのDアイドルビジネスはひっくり返るね」
「六人パーティまでなのよね、攻略系と、浅い階での配信系に別れるかしら」
「浅い階は人気が無いんだ、三階から五階は普通の野外にしか見えないからね」
勇者ケインが口を挟んできた。
それで洞窟風の六階から十階を使ってプロモを取ったりライブをしたりしていたのか。
「ケインさんは、これからどうするんですか?」
峰屋みのりが聞くと、彼はなんとも情けない表情を浮かべた。
「もう、僕は勇者は廃業だ、『吟遊詩人』に転職するしか無いね」
まあ、あの鍛え方では『吟遊詩人』の方が役に立つだろう。
ふと、殺気がした。
顔を上げるとテレビ画面からだった。
なんだ?
『では、そちらの畑違いの方、ご質問をどうぞ』
『ウイングチートプロダクションの者ですが』
手を上げて前に出て来た人はとても芸能関係には見えなかった。
やくざだな。
「あら、ウイングチートって業界一位のプロダクションだよ、タカシくん」
「え、なんで、ケツモチの司馬組の若頭が?」
高橋社長が画面を見て疑問を投げかけた。
『悪いんですがあ、サッチャンさん、その決定は取りやめて欲しいんですが』
『あら、なんでですか?』
『俺らのおまんまの食い上げになるからだよっ! このクソ悪魔っ!!』
そう言うとやくざは懐から片手剣を抜いてサッチャンに切りつけた。
『ころっぞっ!! 淫売めっ!! ああっ!!』
『あらあらあらあら』
核兵器にも傷つかなかったサッチャンの手から血が流れていた。
「タ、タカシくん、あれっ!」
「あっ!!」
やくざが持っている刃物に見覚えがあった、マタギナガサと同形の剣だった。
『死にさらせっ!!』
やくざはマタギナガサを腰だめにしてサッチャンに飛びかかった。
サッチャンはにっこり笑ってそれを受けた。
腹からどぼどぼと赤い血が流れる。
『素敵、私たちを傷つけられる刃物だなんて、これだから日本は楽しいのよねえ』
『し、死ねっ、死ねっ、死ねっ!!』
やくざは無茶苦茶にマタギナガサを振り回す。
『ああ、教えて、これ、誰が作ったの、ねええ』
『ひ、ひいいいっ!』
サッチャンは滅茶苦茶に斬られているが弱った様子も無い。
それどころかうっとりとした表情までを浮かべていた。
やくざは逃げようとした。
だが、逃げられない。
売店の女悪魔のお姉さんがやくざの肩を押さえている。
彼女も笑っていた。
『教えて、教えて』
『教えて、教えて』
『教えて、教えて』
いつの間にか記者会見の間に一階ロビーで見た事のある女悪魔さんが沢山集まって、目をぎらぎら光らせて笑っていた。
『教えてくれれば、ウイングチートプロダクションの社員と司馬組関係者だけを殺す事で納めてあげるわぁ』
『や、やめろ、やめろおおおっ!!』
『教えてくれなければ、社員、組員の家族郎党、知り合いぐらいまでも全員殺すわよ、根絶やしにするわ、どっちが良いかしら』
『ひ、ひいいっ、京都の、京都の乃木家だっ!! 陰陽鍛冶だっ!!』
『そう、ありがとう、くふふ、やはり、陰陽師ね、楽しくなってきたわ』
そう言うとサッチャンは手を軽く振った。
女悪魔さんたちがやくざに取り付き、そのまま彼を八つ裂きにした。
悲鳴が高く長く響いた。
「ウイングチートが……、消える?」
「しゃ、社長っ!!」
社長は電話に怒鳴った。
「今すぐ、移籍の契約書をプリントアウトしろっ!! 数? できるかぎりだっ!! 皆殺しの時間をサッチャンは指定していないっ、今すぐ移籍させれば、ウイングチートのアイドルたちは助かるかもしれんっ!! 電話を掛けまくれっ!!」
「しゃ、社長、お、俺の友達も、友達も」
「ああ、ケインも電話を掛けろっ!! 急げ、悪魔は有言実行だ、ウイングチートに関わっていたら死ぬぞっ!!」
高橋社長は俺たちを見た。
まだ居たのかという顔だった。
「す、すまないが、忙しくなった、契約の話はまた後で詰めよう、ではっ」
「社長、まってっ」
社長はケインを連れて足早に去って行った。
これから、ウイングチートのタレントを救うべく忙しく動くのだろう。
「なんか……、すごい事になっちゃったね」
「京都の乃木家か……。そこに行けばマタギナガサの事が解るのかな」
「どうだろう、その鍛冶屋さん殺されちゃうんじゃないかな」
「それはあるかもしれないな」
サッチャンを傷つけられる山刀。
だとしたら、魔王にも届くのでは無いだろうか。
「ああでも、怖いサッチャンさまも素敵だった~」
やっぱり峰屋の趣味は変だよな。
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