第46話 かーちゃんは鏡子の脳を治療する
「お、ええねえ。というか、声も綺麗になってるやないかっ、みのりちゃんレアスキルももっとるん?」
「はいっ!! タカシくんががんばって買ってくれました!」
「そりゃすごいなあ、向こうでもレアスキルなんか滅多に売っとらんで」
「こっちは昨日まで『吟遊詩人』が居なかったから、売店に在庫があふれてたんだ」
「あー、それでか、【威力増幅の歌】みたいな人気楽譜も手に入ったんやな」
「コモン楽譜は全部あったので全部買いました。レア楽譜も一曲ありました」
「そりゃすごい! 向こうでもそんだけの『吟遊詩人』さんは滅多におらへんで!」
「おかあさまが転職条件を教えてくださったお陰です」
峰屋みのりはぴょこんと頭を下げた。
「なにいうてんの、うちはちょっと教えただけやないの、ぜんぶ、みのりちゃんの実力やで」
というか、峰屋みのりとかーちゃんの会話は長いな。
「かーちゃん、できそう?」
「みのりちゃんの歌しだいやけど、やってみる価値はあるなあ」
「じゃあ、今から覚えます」
「今日、三曲目だろ、大丈夫か」
「な、なんとかなるから大丈夫!」
心配だなあ。
峰屋みのりは羊皮紙の楽譜を開いた。
「『おおきくおおきくするどくつよく~~♪ あなたのちからはこんなものじゃないわ~~♪ がんばれがんばれちからをいれろ~~♪』」
峰屋みのりの綺麗な歌声が聞こえてくると、レベルアップの時のように体が膨らみ力が湧いてくる感じがした。
これは凄いぞっ。
「『我が女神に願いて、ここに請願す、わが友の傷を癒やしたまえ』」
かーちゃんが詠唱を始めるとその手が輝き光った。
その手を鏡子さんの頭に乗せる。
鏡子さんが一瞬表情をゆがめると、ぴっと一筋鼻血が出た。
ガチャン。
鏡子さんの座っている隣の床に音を立てて金属片が落ちた。
「成功や! やったで、みのりちゃん!」
「は、はい、おかあさまっ!」
鏡子さんは物珍しそうな顔で金属片をいじっていた。
「どや? ええと」
「鏡子だよ、かーちゃん」
「うん、鏡子ちゃん、どないだ?」
「すっきりした、ありがとう」
「記憶は、鏡子さん」
「記憶は……、戻らないかな」
あー、それは残念だな。
「あんたはなあ、頭に剣を受けてなあ、【狂化】の効果の治癒促進で命を繋いでおったんや。それを何年も続けていたからなあ、記憶も無いんやろうな」
「ずっと、【狂化】し続けていたの……」
「せや、なんだか【狂化】のスキルレベル、偉い事になっとるで」
スキルにはレベルがあるものと無い物がある。
たとえば【剣術】や【呪歌】なんかは熟練によって伸びるレベルがある。
レベルがカンストすると、スキルがコモンからレアに変化する事もあるらしい。
鏡子さんの【狂化】はレア化しているのか?
「あんた、自分で一瞬【狂化】して、解除でけるやろ」
「あ、ああ、一瞬だけね」
「たぶん相当知能が落ちるけど、敵味方の区別つけて戦う事もできると思うで」
「そうか、それは便利だ」
「大変な思いをしてきたんやなあ、鏡子、ようがんばったなあ」
かーちゃんはそういって鏡子を抱きしめた。
「獣だったから覚えて無いよ、でもありがとう、かーちゃん」
狂子さんはネコみたいな顔で幸せそうに笑った。
「鏡子はタカシのパーティに入るんか?」
「うん、そのつもり、魔王を一発殴る」
「そりゃ剛毅やなあ」
そうか、鏡子さん、うちのパーティに入ってくれるのか。
前衛三枚、後衛一枚だけど、凄い人だから心強いな。
「こちらからもよろしく、鏡子さん」
「うん、よろしく、がんばる」
鏡子さんは俺が伸ばした手を掴んだ。
握手を交わす。
女性なのに力強くて大きな手だった。
「ほなうちは帰るでタカシ、鏡子もまたな」
「うん、またね、かーちゃん」
「ありがとう、助かったよ、かーちゃん」
かーちゃんは笑って光の粒子になって消えていった。
「かーちゃん好きだな、私、かーちゃんの娘になりたい」
「まあ、鏡子さんは俺のねえちゃんみたいなものだから、いいんじゃない」
ネコがおもちゃを見つけたような顔で鏡子さんはぴょんと体を起こした。
「わたし、タカシのねーちゃん? ねーちゃん?」
「鏡子ねえちゃん」
「うっふふふふふっ」
「ぎゃあ、私も鏡子おねえちゃんって呼びたいっ!」
峰屋みのりが鏡子さんに抱きついた。
「みのりは元より私の妹の感じだ」
「うれしーっ!」
鏡子ねえちゃんは峰屋みのりの頭をなでなでと撫でた。
「鏡子さんは今日はどこに泊まるつもり?」
「ここ、弟の部屋ならなんら問題がない」
「でてけ、それとこれとは話が別だ」
「タカシがねえちゃんに冷たい~~」
このネコみたいなねえちゃんはほっとくと、この部屋に定住しかねないからな。
「あとで大家さんに部屋が開いてないか聞いてみるよ」
「ここかあ、いいなあ」
「今日は家にこない?」
「みのりの家か? いいのか?」
「平気だと思うよ、鏡子おねえちゃんならお父さんもお母さんも大歓迎だよ」
「うん、峰屋さんちのボディガードにもなるし、良いかもしれないね」
兄弟姉妹ごっこが始まった時に、俺の影に隠れていた泥舟が声をだした。
「それだわっ! 私の学校の送り迎えとか、平日の昼間のお母さんの買い物の護衛とか、そういうのしてくれると助かるわ!」
「いいよー、みのりは大事だから、守る」
「わああい、鏡子おねえちゃん大好きっ」
峰屋みのりは鏡子ねえちゃんに抱きついて頬ずりをした。
鏡子姉ちゃんはネコみたいな顔で幸せそうに笑った。
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