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第37話 みのりの新しい呪歌二つ

 峰屋みのりの呪歌は役に立つな。


「新しい楽譜(スコア)は何を覚えてきたの?」

「ええとね、【お止まりなさいの歌】と【回復の歌】」


 STOPの呪歌とリジューム呪歌か、定番だね。


「『ストップストップお止まりなさい~♪ 一度足を止めて当たりを見回そう~~♪ ほら足下に赤い花~~♪』」


 峰屋みのりが【お止まりなさいの歌】を歌うと、俺と泥舟、木々のざわめき、木の上の鳥までがピタリと停止した。


「時間操作系?」

「さあ? なんか止まっちゃう系。これで動きを止めて【スロウバラード】に繋ごうと思って」

「なんという凶悪なコンボだ」

「いいでしょ~~、うふふっ」

「しかし、なんで歌詞がみんな童謡系なの?」

「え?」

「呪歌はメロディとテンポ、内包するイメージの集合体であって、『吟遊詩人』(バード)によって歌詞はちがうんだ」

「ああ、峰屋さんのキャラから来てるのか」

「そ、そうなの? 勝手に出てくるから昔からこういう歌詞で決まってると思ってたのに」

「昔から歌詞が決まってるなら、日本語では無いだろう、異世界語になる。歌詞自体も呪歌効果を増幅するから解る言葉じゃないと駄目なんだろう」


 ああ、東海林がいれば、呪歌の事を解りやすく説明してくれたものを。

 奴は惜しいな。


『みのりんの歌詞はほのぼのしていて好きだな』

『童謡風味ではあるが、みのりんらしくはあるね』


「威力アップの歌とかは取らなかったんだね、峰屋さん」

「それは明日。今日は回復と停止よ。『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪ 治れ治れ治るんだ~~♪』」


 回復の歌か。

 俺は片手剣を抜いて片手に傷を付ける。

 ビッと茂みに俺の血が飛んだ。


「ぎゃーっ!! 治療治療っ!」

「峰屋が回復の歌を歌うんだ」

「あ、ああそうだった『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪ 』」


 傷から煙がシュワシュワ出て消えて行く。

 結構治りが早いな。

 ポーション並……、ガマの塗り薬ぐらいか。


「タカシく~ん、無茶せんでください~~」

「え、なんで? 戦闘前に効果を見ておかないと使えないじゃないか」

「タカシは効率厨だからなあ」


 しかし、回復役がいると安心感が違うな。

 『吟遊詩人』(バード)は有能だ。


 ゴブリンを二匹狩って、二人は二レベルに上がった。


「今の所、レベルアップが一緒ですねえ」

「そうだね」

「そろそろ泥舟の方が先に上がるようになるかな」

「え、なんでよ、ズルいっ」

職業(ジョブ)持ちである『吟遊詩人』(バード)より、職業(ジョブ)無しの『参入者』(ビギナー)の方がレベルアップの必要経験値が低いんだ」

「あ、う、もしかして焦っての『吟遊詩人』(バード)に転職のは失敗ですか?」

「なんとも言えないなあ、あの時点でレベル待ちしてたら、配信が盛りあがらなかったし。でも、俺が峰屋だったら、5レベルぐらいまでは『参入者』(ビギナー)で上げて、HPと頑丈値を上げてたかもしれない」

「がーんっ、HP貧乏で紙装甲になりますか、私」

「うーん、その分、魅力値と敏捷値は上がりやすいからね、何とも言えない」

「何かあったら僕らが守るから安心してよ、峰屋さん」

「泥舟くんっ!! 大好きっ!!」


 峰屋みのりが泥舟に抱きついた。

 泥舟はやっぱり良い奴だな。

 うんうん。


 狩りをしながら移動して、五階への下り階段まできた。


「五階、どんな所ですか」

「一面の森林フロアだよ。出てくるのはゴブリン、オークが単体、あとはジャイアントトード、アタックドック、センチネル」

「センチネル?」

「大ムカデだよ」

「ええ~~」


 峰屋みのりは顔をしかめた。

 女の子は虫系が嫌いだよな。

 ただ、センチネルはあまり出ないし、経験値が良い。

 狙い目だ。

 ムカデ飴も出るしな。


「五階に下りて、ちょっと安全地帯で休憩しよう」

「わあーい……、安全地帯にセンチネルはでませんよね」

「魔物が出ないから安全地帯だ」

「よかった」


 階段を下りると広場になっていて、ベンチなんかも置いてある。

 湧き水の出る石があって俺は水筒に水を詰め直した。


「わたしもわたしも詰める」


 峰屋みのりが慣れていない手つきで水筒の栓を外し、水を詰め直した。


「わ、冷たい、美味しい水だね」

「迷宮の水はだいたい美味い」

「タカシが言うと説得力があるね」


 奧の小道から五人の配信冒険者パーティが現れて前を通って行った。


「こんにちわー、とか挨拶しないの?」

「山じゃないからな、殺し合う可能性もあるから声は掛け合わないのがマナーだよ」

「殺伐としてますなあ」


 そう言って峰屋みのりはナッツバーをカリカリと食べた。

 俺もスニッカーズを出して食べる。


「東海林君がいなくて寂しい」

「ああ、本当にそうだな」

「あのパーティ、どれくらい持つかな」

「どうだろうな、リーダーが正気になれば、東海林も居るし持ち直すだろうが」

「どうしてパーティで得たレア武器であんなにイキれるのかな?」

「レア武器を貰ったから、霧積は狩りの分け前が貰えない、それもあるんだろう」

「「あっ」」

「買い取りカウンターの買い取り価格分のお金を先に貰ったという形で分配しているんだろうが、霧積は自分の魔剣があるから稼げていると思う」

「サブ戦士さんが居たんだから、貸して、狩の分け前を貰えばいいのに」

「返ってこないかも、と思って怖いんだろう。もっと同接数があれば、もっとスパチャがあれば、こんな酷い目にあわなくて済むのにと思ってさらにやりきれない」

「うはー、レア物が出ても辛いねえ」

「うちはPVでかいから儲かると思ってたけど、個人的に貯金しとかないと駄目だね」


 泥舟が都こんぶを食べながらそう言った。

 ……泥舟、それはカロリーが無いと思うぞ。


 なかなかパーティ内でレア物を分配するのは難しいな。

 時に殺し合いがあるのもうなずける。

 これも悪魔の罠なのかもしれないな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 七つの大罪ではないが、「悪魔の罠」として物欲・権力欲・名誉欲などをイメージしやすくしていて良い。では対立概念は。東海林氏の知識であったり、泥舟の良識とバランス感覚、主人公の近未来への予測であ…
[一言] グワーッ悪魔の卑劣な罠!グワーッ あのパーティも先は長くはあるまいて。東海林君とシーフ子ちゃん僧侶子ちゃん はいきのこってほしいなあ。
[一言] ゲームだったら全体効率だけ考えて装備配分できるけど現実の金銭問題はなあ…。 レアものは飽くまでパーティー資産扱いで、持って脱退する時に精算するのが一番平和かも(持ち逃げされるリスクは変わらな…
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