第27話 峰屋みのりは楽譜《スコア》を覚える
どどどと凄い勢いで北村チヨリさんが売店に走り込んできた。
「『吟遊詩人』用のレアスキルオーブ! レア楽譜、コモン楽譜を全部下さいませっ!」
「ああ、たった今、バード用レアスキルとレア楽譜は売り切れてしまいまして、コモン楽譜も、【オバケ嫌いの歌】【毒毒飛んでけ】は欠品でございます」
「あ~~~っ、アンデット攻撃呪歌と毒効果軽減呪歌が欠品なのっ!! あ、あるだけ頂戴っ!」
「ひゃあ、良かった~~」
「峰屋みのりさんっ!! 今回は遅れを取ったけど、『吟遊詩人』史上三番目の席はゆずらないわっ!! あとDアイドルに君臨するのはわたくしなんですからねっ!」
「はっ、はひっ!」
北村チヨリは峰屋みのりが胸に抱えているレアスキルオーブとレア楽譜に気が付いたようだ、目がぎらぎら光って怖い。
「そ、それをよこしなさいっ!」
「い、いやれふ、これは私が買いましたっ」
「レアスキル~~~~!!」
峰屋みのりにつかみ掛かろうとした北村チヨリを、売店のお姉さんが割って入って止めた。
「あの、お客様、申し訳ありませんが売店内での強奪行為はちょっと」
「あ、はいはいっ、ちっ!」
「レ、レアスキル怖い……」
「お客様、レアスキルとレア楽譜は、この場で覚えていらっしゃるのをお勧めいたします。強奪されますよ」
「は、はい、覚えまーす。ええとええと」
「珠を持ち上げて『スキルゲット』でございます」
「ぐぬぬぬぬ~~」
北村チヨリが般若のような顔で峰屋みのりを睨みつけた。
『スキルゲェーーット!』
スキルオーブが黄金の粒子になって峰屋みのりの胸に吸い込まれた。
「これでできたかな」
「うおっ」
「すごい澄んだ声に」
「おねえちゃんの声、綺麗だー」
「がるるるるうっ!!」
「そ、そうかなあ」
なんだか『吟遊詩人』になった事で綺麗になった上に、声まで綺麗になって、とんでもない事になっているな。
鈴が鳴る声というか、すごく心に食い込む声の周波数だ。
『みのりんっ!! なんて綺麗なんだ~~』
『僕はみのりんのファンを始めます』
『燃2弾4鋼11』
『いや、解体すんな』
峰屋みのりはレア楽譜を手に取った。
きつね色のコモン楽譜とは違って、白くてピカピカしてるな。
「ええと、これは」
「開いて読みますと、脳に呪歌が書き込まれます。負荷が掛かるので、一日二曲ぐらいにしておいた方がよろしいかと」
「んじゃ、【スロウバラード】と、ええと、【元気の歌】を読もうかな」
そう言って峰屋みのりは楽譜を開いた。
ふわりと楽譜が輝いた。
『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪」
峰屋みのりの澄んだ声が響く。
「わわっ、なんだか動きが遅くなるよっ!」
「歌声だけで効くのかっ!」
「すごいよ、峰屋さんっ!」
これは凄い、頭はちゃんと動いているのに動作だけがスローモーになる。
峰屋みのり以外の全員がゆっくり動いている。
これは十階のフロアボス『ワーウルフ』戦で効果がありそうだ。
峰屋みのりは楽譜を閉じて、むっふーと笑った。
手元から楽譜が粒子になって消えていく。
峰屋みのりは【元気の歌】の楽譜を開いた。
こちらはコモン楽譜なので、レアより少々暗く輝く。
『きょうはいいてんき~~♪ おひさまわらってぴっかりこ~~♪ さあげんきをだしておかのむこうまであるこうよ~~♪』
ほがらかな歌声が峰屋みのりから流れ、俺は体の芯から活力が湧いてくるような気がした。
『おお、画面越しで効果がっ」
『いろんな所が元気にっ』
『えーと、行軍とかに使われる疲労軽減の歌らしい。夜の元気の歌は別にあるらしい』
『それは聞きたい!!』
「チエミさん、【夜の行軍】要りますか」
「いらないわっ、もう買ったわよっ!!」
『『『『『それを覚えないとはとんでもないっ』』』』』
「覚えないわよっ!」
「じゃあ、残りの楽譜は家に送っていただけますか」
「かしこまりました。大量にお買い上げ頂いたので送料はサービスいたしますね」
「わあい、ありがとうっ」
峰屋みのりは箱からリュートを出して背負った。
なんだか、『吟遊詩人』って感じになったなあ。
「それじゃ、俺たちはもう行くよ、タカシにいちゃん、ミノリン、デイシューにいちゃん、メガネにいちゃん、いろいろありがとうねっ」
「ぜったい凄いS級配信者になってみるからさ」
「おう、がんばれよ」
小学生ズは手を振って走って門を抜けていった。
「さあ、俺たちも帰ろうか」
「下で『吟遊詩人』の試運転したい……」
「夜の迷宮はいろいろと危ないですぞ、峰屋さん」
「そうだよ、僕は疲れてしまったし」
「そっかー」
峰屋みのりは残念そうだ。
「あ、じゃあさじゃあさ、ファミレスで打ち上げをしようよっ!! タカシ君もご飯を食べなきゃだめでしょ」
「え? ファミレス?」
「嫌いなの?」
「いや、高いだろ、ファミレス」
「「「ぶふっ!!」」
三人が一斉に吹き出した。
俺の後ろにいた北村チヨリも吹き出した。
「タ、タカシくんっ! さっきは四千万の買い物をどかっとしてたじゃないっ!!」
「新宮、お前は本当に貧乏性だなあっ」
「いいんだよ、タカシ、お金はあるんだ、いっぱい使って社会を回そうよ」
「そ、そうなのか、うむ」
みんなに笑われて、なんだか俺は恥ずかしくなった。
だけど、ファミレスは高いよな。
「いこいこっ!」
「サイゼリアが良いのでは」
「駅前にあったっけ?」
「とりあえず、東口に出よう」
俺たちが門に向かうと、見た事のあるDアイドルたちが手に手に弓やボウガンを持って走り込んできた。
これは四階五階はしばらく混むだろうなあ。
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