第23話 人斬り蝉丸対オカン
「かーちゃんを呼ばなかったらどうするつもりだ?」
「その時は可哀想だが、全員刀の錆にするでござるっ」
そう言って蝉丸は刀を上段に構え直した。
蝉丸というDチューバーはいわゆるプレイヤーキラーと呼ばれる異常者だ。
魔物と戦うよりも、強いDチューバーと戦いたいというコンセプトで配信をしている。
これまで何人も人を斬り殺しているが、弱い者はあまり斬らない。
決闘をして、勝負が付いたらポーションで致命傷だけは治してくれる。
本当に殺してしまったのは即死の場合だけだ。
正々堂々と戦うので、意外に人気が高いのだが、とても迷惑な人ではある。
「わっ、タカシくんのお母さん呼ぶの?」
「うーんどうしようかなあ」
「蝉丸はしつこいから一度呼んで倒して貰った方が面倒が少ないと思う」
「結構、剣、使うね、有段者かな?」
「早くするでござるよっ!」
『蝉丸先生、タカシに迷惑掛けないで下さいよー』
『俺は【鑑定眼】持ちなんだが、蝉丸のレベルは48、なかなかだがオカンよりは一回り弱いな」
『決闘厨か、変な奴がおるのう』
『困った人なんだけど、意外に根はいい人なんで人気がありますな』
『タカシ、オカンを呼んで鎧袖一触させろやー』
どうするかなあ、変な所でかーちゃんを呼んで一回消費するのもなあ。
でも、俺たち全員で掛かっても倒せる相手ではないしなあ。
よし、呼ぼうか。
「わかった、【オカン乱入】」
俺がスキルを宣言すると天から光る柱が下りてきて、中からかーちゃんが現れた。
「タカシ、どうした?」
「いや、それが……」
「お母様、タカシくんのお母様ですかっ! わたし峰屋みのりといって、タカシ君のパーティに入れてもらった仲間なんですっ、今後ともよろしくお願いいたします」
峰屋みのりが前に出てかーちゃんに挨拶をした。
「あらやだっ、パーティ組んだの? まあ、可愛らしいねえ。タカシも隅におけへんわっ。で、なんやの、つきあっとんの?」
「いや、かーちゃん、そう言うのじゃ無いから」
「もう、てれへんでええで、かわいらしい子やないの、ジョブはなんやろ、『狩人』? 『射手』?」
「いえ、まだ今日から始めたばかりで、『参入者』なんですよー、最終的には『吟遊詩人』になりたいんですけど、成り方がわからなくってー」
「『吟遊詩人』は基本のサブジョブの一つやから、なるの簡単やろ?」
「それが、転職条件が解ってなくてー、今まで一人しか出て無いんですよー、おかあさま」
「まあ、いややわあ、おかあさまだなんて、うち照れてしまうわ。そうかー、タカシもこんな可愛い子を彼女にする年頃なんやなあ」
「彼女だなんて、そんな、おかあさまったらっ♡」
え、これ、ほっとくと三分間、かーちゃんと峰屋みのりが雑談を交わしてしまう流れ?
ちょっとやめろおまえら。
『いかん、オカンもみのりんもコミュ力たけえっ!』
『これは終わらないパティーンだ』
『黙って待ってる蝉丸先生、マジ良い奴』
「『吟遊詩人』は、たしか、なんかの鳥の羽もってけばええとか聞いたなあ、こんどうちの知り合いの『吟遊詩人』さんに聞いとくわ」
「ほんとうですかっ! おかあさまっ」
「まかせてやっ、未来のタカシのお嫁さんの為ならお安い御用やでっ」
「やったーっ、ありがとうございますっ、おかあさまっ!」
峰屋みのりは身をよじって喜んだ。
しかし、『吟遊詩人』の転職条件ってそんなに簡単なのか?
「あっ、違う、かーちゃん、今日呼んだのは、あそこの人がかーちゃんと真剣勝負したいって言って」
「そ、そうでござる。お初にお目に掛かる蝉丸と申す者でござる。こたびはタカシ殿の動画を拝見して、是非ともオカン殿と戦いたく思い、推参つかまっつったしだいにござるっ」
かーちゃんは蝉丸をじろっと見た。
「あんた、うちには勝てへんで、レベルがたらんわ」
「承知の事! サムライとは死ぬ事と見つけたり、でござるよっ」
「さよか」
と言った瞬間、かーちゃんは瞬間移動のように蝉丸の前に移動し、メイスを振り抜いた。
どぎゃっ!
「ぐはっ!!」
蝉丸はキリキリ舞いをして樹にぶつかって転がった。
『我が女神に願いて、ここに請願す、わが友の傷を癒やしたまえ』
かーちゃんは蝉丸の前まで歩いて行き、治癒魔法を掛けた。
「まだやるか?」
「ぐっ!」
蝉丸は飛び起きて抜き打ちのようにかーちゃんに刀を……。
バキャン!!
「ごふっ!!」
『我が女神に願いて、ここに請願す、わが友の傷を癒やしたまえ』
「まだやるか?」
「ぐっぐっ!」
蝉丸は唸りながら立ち上がった。
ドゴン!!
「ぎゃふっ!!」
『我が女神に願いて、ここに請願す、わが友の傷を癒やしたまえ』
「レベルがたらんと言う事は勝負になんかならんという事や、もうすこし修行して出なおしといで」
蝉丸は黙って正座をして、土下座をした。
「オカン師匠、ありがとうございました」
終わったようだ。
「かーちゃん……」
「おばさん手加減しないね」
「人斬り蝉丸が……」
「おかあさまっ、素敵っ!!」
「ほな、時間やで、うちは帰るな。みのりちゃん、次はもっと詳しい話を聞かせてなあ」
「はいっ、よろこんでおかあさまっ!」
かーちゃんは光の粒子になって消えた。
「蝉丸さん、大丈夫?」
彼は土下座の姿勢でぷるぷると震えていた。
「拙者は間違っておりましたっ、タカシ殿!! オカンどのの腕前に比べて我が剣の腕のなんと貧弱な事か!! もっともっと修行して、またオカンどのに挑みとうござるっ!! お騒がせいたしもうしたっ!! ではごめんっ!!」
蝉丸さんは納刀すると全速力で走っていった。
「へんな人だなあ」
「変わった人がいるね」
「危険人物なのに、根は真面目、世界は広いな」
「ねーねー、タカシくんっ、ここの階、鳥とかいる?」
「え、知らない、鳥とか興味無いし」
『ぐぐったぞ、鳥は四階に二種類いるぞ、青い鳥と赤い鳥』
『ドロップアイテム不明だってさ』
『なんで? 倒した奴いないの?』
『いや、魔石売却額は三百円って書いてあるから、ドロップ品は価値のないゴミドロップじゃね?」
「わあっ、みんなありがとうっ」
「四階か」
「行ってみようか、タカシ」
「次の階からゴブリンがでるぞ、泥舟くん」
「ゴブリンなにするものぞ、ですよーっ!」
ううむ、峰屋みのりの意気込みが凄いが、不安だな。
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