第96話 権田権八を追い詰めていく
「タカシ! 手伝いにきたぜっ!」
後醍醐先輩が率いる『迷宮ぶっつぶし隊』がポータルルームから入って来た。
「おほほ、わたくしの出番のようですわねっ、『みんなげんきでがんばりなさい~~♪ ほら目的地の青い丘はもうすぐよ~~♪』」
【元気の歌】を歌いながらチヨリ先輩も現れた。
あたりを固めるのは護衛の冒険者さんたちだろうか。
『寺生まれの不良キターっ!!』
『チョリもキターっ! パーティはいつもの護衛さんだーっ!!』
「なんでしゅか、なんでしゅかっ!! 関係の無いしとは出て行ってくだしゃいっ!!」
権田権八は怒り狂って触手をブンブンと振り回した。
大部分はカメラピクシーさんたちが跳ね返したが、彼女らのバリア部分は体に合わせて意外に小さい、何本かの触手がすり抜けて配信冒険者を吹き飛ばした。
藍田さんが触手に巻き付かれてひっこぬかれそうになったが、霧積が大剣で触手を斬り飛ばし難を逃れた。
「あ、ありがとう霧積くん」
「油断すんなっ!」
治癒の奇跡を権田権八が食ったらやばい。
半グレには僧侶も魔法使いもいなかったが、冒険配信者パーティには多い。
「僧侶、魔法使いは下がれ!! 食われたらやばいっ!!」
僧侶、魔法使いが距離を開けた。
戦士系が前線に出て盾になる。
俺は踏み込んで権田権八の触手を斬り飛ばす。
とにかく触手を減らそう。
「無駄でしゅ、触手はいくらでも生えてきましゅよーっ!!」
踏み込み退きマタギナガサを振って触手を斬り飛ばしていく。
ひゅっと鋭い振りの一本が来たのでバックラーで打ち落とす。
ジュッと嫌な音と匂いがしてバックラーの表面が溶けた。
「溶解液が跳ね返されるのなら、まとわせて攻撃すれば、いいのでーしゅっ!!」
溶解液付きの触手がびゅんびゅんと振り回される。
「ぎゃああっ!」
「と、溶ける!」
バリアをすり抜けた触手が配信冒険者を襲い、溶かした。
「『さあ目を開けて傷を癒やそうよ~~♪ 頑張った君の勇気を力に変える~~♪ 治れ治れ治るんだ~~♪』」
みのりの【回復の歌】があたりの配信冒険者の傷を癒やす。
上手に立ち位置を離して権田権八には掛からないようにしている。
しかし、まったく攻撃が効いている気配が無い。
なんてヒットポイントの多さだ。
山のような質量だ。
軟体のナメクジのような本体がぶるりと震え触手が打ち出されて、冒険配信者に襲いかかる。
本体に張り付いて鏡子ねえさんは【狂化】を解かずにがむしゃらに殴っているが、軟体とレア装備で効果が薄い。
ワーウルフはツメで切り裂くが、ほぼ一瞬で傷が塞がる。
なんとかしないと。
現在、続々と冒険者が増えて一見押しているが、死者、負傷者が増えてくると押し返されそうだ。
「おおおおっ! 『ホワイトファング』参戦するぞっ!! 場所を空けろっ!!」
大剣を振り回しながらBクラス配信冒険者パーティがポータルから現れた。
勢い良く距離を詰めて行く。
「くらえっ!! 【雷光斬】!!」
戦技スキル!
雷鳴を纏った大剣が権田権八の本体を襲った。
バリバリと辺りに放電が着雷する。
「ぎゃああっ!! ビリビリするでしゅうっ!! こいつめーっ!!」
権田権八は溶解液付きの触手を振り回す。
「『そは氷雪の絶叫、凍てつく波動にこごえる嵐よ、我が怨敵を打ち抜きたまえ』」
ホワイトファングの女魔術師がレア魔法【氷結嵐】を打ち込んだ。
溶解液ごと触手が凍り付いていく。
「さ、寒いでしゅっ、ひどいでしゅ!!」
さすがBクラス配信冒険者パーティーだ、圧倒的に強い!!
『やったか』
『それはやめろっ』
「ゆるちません、ゆるちませんよぉっ!!」
権田権八はブルブルと震えて形を変えていく。
第二段階かっ!!
巨体に手足が生えた。
そして腹に大きな口。
「くらいなしゃいっ!! 【溶解酸ブレス】」
赤黒いブレスが『ホワイトファング』を襲った。
カメラピクシーたちがバリアで半減させたが、ブレスは冒険配信者を襲う。
みるみるうちに溶けていく者、なんとか避けたが足首が溶け落ちた者、阿鼻叫喚の光景が広がった。
『ホワイトファング』のリーダーは女魔法使いを庇って片手を溶かし、レア魔剣をとり落とした。
くそっ! 権田権八め、この後に及んでなんて大技を!!
「もうゆるちませんっ!! みんなみんな溶かしてやるでしゅ、捕獲とかしらないでしゅ、みんな溶けてしまうのでしゅっ!!」
大きな手足をバンバンとフロアにぶつけて権田権八だった物は怒り狂う。
このままだと全滅だ。
「うるぃいいいらああああああっ!!」
鏡子ねえさんが権田権八の巨足に向かって蹴りを入れる。
そのまま旋回するようにローキックを関節に入れて奴を跪かせる。
そうか、手足は軟体じゃない!
触手が飛んで来て鏡子ねえさんとワーウルフに絡みついた。
「溶けろでしゅ!!」
権田権八は息を吸い込んだ。
【溶解酸ブレス】を撃つつもりかっ!!
そうはさせるか。
俺はかいくぐるように跪いた巨足の膝頭に切りつけた。
「うざいでしゅよ!! タカシくんっ!!」
触手が降ってくる。
半分溶けたバックラーで【パリィ】した。
バックラーは溶け落ちた。
「もらったでしゅ!!」
権田権八は盾の無くなった俺に触手の雨を降らせた。
バキュンバキュッ!!
リボンちゃんが俺の左手に取り付いた。
そうか、バックラー代わりに。
俺はリボンちゃんを握って、触手の嵐を彼女のバリアで打ち落とす。
よし、だいたいバリアの大きさはバックラーと同じだ。
スキルが乗るぞ。
『ぐわー、リボンちゃんバックラー、萌える!!』
『タカシの盾術レベルたけええっ!』
「タカシきゅんから溶かしてあげましゅでしゅっ!!」
権田権八がぐわっと口を開けた。
一瞬で、おかっぱちゃんが、おだんごちゃんが、三つ編みちゃんが、マリリンが、沢山のカメラピクシーがファランクスを組むように俺の前に出た。
ゴバアアアアッ!!
シュインシュインシュイン!!
【溶解酸ブレス】は全て反射されて権田権八へと戻った。
危うく鏡子ねえさんに掛かりそうになったが、ワーウルフが抱え上げて避けさせてくれた。
「くっしょおおおおおおっ!!」
権田権八は地団駄を踏んで悔しがった。
「みんなありがとうっ」
《タカシさんだから》
《死んじゃだめだぞっ》
《みのりが悲しがるし》
《泥舟も悲しがる》
ありがとう、嬉しいよ。
「タカシさん、受け取りなせえっ」
キリキリと何かが宙を飛んできた。
とっさにリボンちゃんを手放して受け止めると黒い柄のマタギナガサだ。
「越谷さんっ!」
「あっしらも参加しやすぜっ」
「燃えるでゴザルよ!」
越谷さんの後ろには、人斬りチャンネルの蝉丸さんが居た。
「ありがたく」
俺は『宵闇』の鞘を口でくわえて抜いた。
キイイイイイイイイイン!
二振りのマタギナガサから高周波が鳴り響いた。
[複数のフツノミタマの存在を確認]
なんだ、何かの声が。
[神オロシ術式展開]
何が起こるんだっ!
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