第93話 権田権八は自らの幸運を主張する
「脱獄してきたのか」
日本の警察はどうなっているんだ。
両手両足もあり、レア装備の黄金の甲冑も身につけている。
ただ、装備は大型モーニングスターに変わっていて、レアでは無かった。
「とあるお人が出してくれたんでしゅよ、ぐふふふふ」
半グレの数は二十人ばかり。
振り返るとポータル部屋兼下り階段室からも半グレが六人出て来た。
上からポータルで飛んで封鎖したか。
挟み撃ちだな。
「そのお方が言うのでしゅよ、タカシのレアスキルを研究したいから生け捕りにちてくれないかってね、そこのビッチくさい『吟遊詩人』もほちいそうでしゅ。なので、僕は泥舟きゅんを貰う事で契約ちまちたんでしゅ」
「げえ、ふざけんなよ」
泥舟が吐き捨てるように言った。
しかし人数が多い、多人数殺しを呼ぶ……。
そうか、峰屋みのりがいるからアイドル殺しを呼べるかもと言う事か。
アイドル殺しは真っ先にアイドルを狙う、くそっ、考えたな。
はたして峰屋みのりはアイドルの条件をクリアしているのか?
アイドル殺しは自動的なのか、運営が手動で送っているのか。
『これはやばい、フロアボスよりもピンチだ、どうする『Dリンクス』』
『ぬう? あやつは……。余は少し離席するぞ、タカシ』
『余さんって普通に運営だよな』
『しかも結構上、動画部じゃね?』
「ガチャガチャうるせえぞホモ野郎っ!!」
「ねえさんっ! 人数を減らす、半グレをどんどん殺してくれっ」
「お、おうっ! ホモは最後かっ!」
俺が殺してくれと言ったことで、半グレたちがぶるりと震えた。
『そうか、アイドル殺しが来るかも』
『あれの発生条件はなんだろうな』
『ここにミノタウロスが現れたら詰むぞ』
「泥舟は峰屋の護衛、権田は俺がやるっ!」
「了解っ!!」
「タカシくん、飴をなめてっ!!」
そうか、俺はポケットからハイパーミント飴をだして口に含んだ。
鏡子ねえさんも、泥舟も飴を口に含む。
「な、なにをやっているのでしゅか?」
バラララララとリュートの綺麗な旋律が流れる。
「『ねーむれ~~よいこよ~~♪ おかあさんのむねのなかで~~♪』」
歌うは当然、【お休みの歌】だ。
権田権八が抵抗出来ずにぐらりとよろめく。
鏡子ねえさんがポータル部屋を塞いでいる半グレに襲いかかった。
『よし、がんばれ『Dリンクス』』
『十分すぎるまでに人数を減らすんだっ』
『権田だけにしちまえっ』
よし、権田の後ろにかーちゃんを……。
チリチリッ。
そう考えた瞬間、【危険察知】が発動した。
なんだ?
かーちゃんを召喚するとまずい?
眠そうな権田権八がモーニングスターを俺に向けて振り下ろした。
【パリィ】
ガキャーン!!
すり足で間合いを詰めて『暁』を振るう。
通るか? 弾かれるか?
ギョリッ!
「痛いでしゅ!」
半々だ。
物理攻撃無効にはなってない。
が、板金鎧を切り落とすほどの切れ味は出ない。
金の籠手に浅く傷をつけ、中の手にかすり傷を与えたぐらいか。
これは、急所に突きで刃をぶち込まないと駄目だな。
上からモーニングスターが降って来たので後ろに飛び退いてかわす。
床を叩いたヘッドが石畳を砕きあたりに飛び散った。
「にげちゃいやでしゅよ」
図体がでかいが敏捷性も高いな。
そして、腕もかなり良い。
【鈍器術】が入っているか。
峰屋みのりはエンドレスで【お休みの歌】を歌う。
俺たちは飴と気合いで抵抗しているが、そろそろ敵の半グレたちも慣れてきたようだ。
動きが普通になる奴が増える。
鏡子ねえさんは俊敏に飛び交い、半グレの首を折って殺しまくっている。
やつらは恐怖に震えているが、逃げない。
何故だ?
何故士気が崩壊しない?
「タカシー!! 逃げろ~~!! 今の権八さんはヤバイんだ~~!!」
涙目の半グレが声を掛けてきた。
ヤバイ?
かーちゃんを呼ぼうとすると【危険察知】が発動するのはそのせいか?
峰屋みのりが歌を切り替える。
「『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」
辺り中の半グレの速度が落ちる。
かなり広範囲、多目標に掛けている。
そして、権田権八はニヤリと笑う。
「【スロウバラード】は効かないでしゅよ、僕は前の存在ではごじゃいましぇん」
奴は後ろの半グレに合図をする。
袋からゴロゴロとイケメンの生首が転がり落ちる。
「僕の愛を裏切ったやつらの首でしゅよ、うほほほほっ」
「いかれてやがる」
「タカシくんと泥舟くんは生かしておいてあげましゅ、でもあの全裸猿女は殺しましゅっ!! 【絶対命中】!!」
権田権八が手を振ると、触手のような物が伸びて鏡子ねえさんの足に絡みついた。
「わ、なんだこれ?」
「しになちゃいっ!!」
ジュッと触手から何かの液が出て、鏡子ねえさんの足を焼いた。
『なんだこれ、なんだこれっ』
『そうはならんやろう』
『悪魔化?』
「『ストップストップお止まりなさい~♪』」
峰屋みのりの【お止まりなさいの歌】が全ての存在の時を止め静止させた。
一人だけ動ける峰屋が短剣を抜いて歌いながら触手を切り落とす。
時間が動きだす。
『うまいっ、ナイスみのりんっ!』
『緊急避難的に【お止まりなさいの歌】は凄い、よくやったっ』
「たすかたっ!」
泥舟が懐からポーションを出して鏡子ねえさんの足に掛けた。
「ちっ、全裸猿女は殺しておきたかったでしゅね」
「権田、お前」
「そうでしゅよ、そうでしゅ、タカシくん、僕は人間をやめましたでしゅ!!」
そう言うと権田権八の体中からあふれるように触手が出て来た。
こいつは……。
権田権八の体はぐねぐねと変形して、タコのような、ウミウシのような、軟体動物状の形になる。
頂点には赤ん坊のような無垢な表情を浮かべた顔。
『ぎゃーーーーっ』
『ギャーーーーっ』
『権田タコ造になったっ!! 触手系モンスだな、クラーケンに似ているが違うな、なんだ、これはっ!!』
「あのお方の注射で僕は生まれ変わったのでしゅっ、こんなすばらしい体になったのでしゅ、それでねえ、タカシく~ん」
そう言うと権田権八はイケメンの首を触手で持ち上げ、腹に生えた牙のある大きな口でかみ砕いた。
「僕はねえ、人の脳を食うとでしゅね、【スキル】と【パラメーター】が奪えるのでしゅ。最強にチートでしょ? ぎゅふふふふっ」
『ちょ、まて、チート過ぎるっ!!』
『おれは【鑑定】持ちなんだが、ええっ、レベルが、70、71。72、どんどん上がって行くぞっ!!』
『【スキル強奪】? 【パラメータ強奪】? そんなんぶっ壊れチートやんっ!!』
くそっ、それでか、それで【危険察知】は召喚が不味いと教えてくれたのか。
危うくかーちゃんを食われる所だった。
かーちゃんの【スキル】と【パラメーター】を奪われたら、こいつは手がつけられなくなる所だった。
しかし、どうする!!
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