命懸けの娯楽
こんな未来が有ったら、面白いんだか闇深いんだか。
………………どうも、お早うございます。
いきなりこんな事を言うのもなんですが、過去の人達が今の俺の状況を聞いたら爆笑するだろうね。
ありえなさ過ぎて。
何がありえないって?
今の地球って、地球外の超高度な文明を持つ知的生物と接触して、ワープだのジャンプだのと言われる空間跳躍技術で数万光年の距離を、1日位で移動できるまでに発展したんだよ。
スゲーでしょ?
あのレールガンが現実で実戦配備? すげえ!
とか興奮していた時代だった前世じゃありえないわ、こんな未来。
それでですね?
そんな技術を持っていて、やることが馬鹿の極みなんですよ。
何をしているか?
今の俺を見てくれれば本当に一目で分かりますって。
今の俺、プールで着る水着なんっすわ。
しかも女性用のワンピース水着。
宇宙空間で生活する人が、宇宙コロニーから出て真空の空間で作業をする際に着る、宇宙服の下に下着として着るようなのだよ。
ほぼ下着だよ? 恥ずかしいに決まってるじゃん。
今の俺は、観客の受けを狙って性別を変えられている訳ですよ?
おっぱいはブルンブルンしてて、くびれがあって、ケツも安産型でもっちりしてんの。
こんな体型で、顔も調整されて可愛いとなったら、野郎から弩エロい目で見られるに決まってるじゃん。
見られたのが分かると、恥ずかしいやら嫌な視線で気分が悪くなるやら。 本当に最悪なんだわ。
それにこれ見よがしに金属パーツを、このエロいスタイルを強調させるように貼り付けられていて、本気で泣けてくる。
あ、一応それは体調を外部から管理するための装置とか、今の俺が必要な機能とかだって説明された。
普段からその水着みたいな格好で過ごせと言われていて、寒かったりしないかと良く訊かれるけど、体調管理の機械が調整してくれているから快適なのがムカつく。
……だからこそ、剥がせないのが本当に嫌なんだけど。
そうそう。
なんで俺が女性の体にさせられているかって言うと、借金返済の為なんだよね。
俺自身は借金してないんだけど、親友の連帯保証人になってね。
……うん、そう。 その親友に逃げられたんだよ。
人間1人2人じゃどうやっても返済しきれない、恐ろしく莫大な借金を作るだけ作ってな。
怒りはとっくに通りすぎた。
その親友は捕まって、今の俺みたいになって、さっさと死んじまったからな。
それでチャラにはならなかった。
連帯保証人だからって理由で、結局俺もその親友と同じ道ってな。
…………そうそう。 怒りをぶつける相手がいなくなったから、怒るだけ無駄だと悟っただけさ。
じゃねーや。
その借金返済の方法だな。 これが本当にイカレてる。
地球の人類が宇宙へ進出して、人口がー密度がー、と気にしなくなった結果だな。
方法とは、
返済不可能な者達を集めて、命懸けの見世物になる事。
な? イカレてるだろ?
なんでも、大昔にあった漫画って娯楽にあったのを参考にしたんだと。
それには返済不可能な連中を、地下の強制労働施設へ放り込んで働かせたり、特殊な場所で命懸けの度胸試しや賭け事をさせられたりすると有ったらしい。
だから、現代でそれを再現してしまおうってな。
な? マジでイカレてるだろ?
なんで借金チャラを餌にしたデスゲームなんて見世物にようと思ったのか。
なんで全力で……ざわ……ざわ……する環境を整えようと思ったのか。
でもこれ、金持ち連中には良い娯楽になるんだとさ。
普段は平和なこの世界。
何かがあっても争い事は仮想空間で済ませるから、死者が出ない安全な世界。
そこで人間が実際に死ぬ、その滅多にない現場に居合わせられる。
リアルで得られる刺激こそ贅沢!
これが娯楽なんだと。
あ、この娯楽は公認。 合法だってさ。
統治機関もイカレてると言っても良いかもな。
それでその娯楽は、一定期間毎にテーマを変えて催されるんだとよ。
第○シーズン! 今回のテーマは□□□!!
○期生達の誰が生き残れるのか!?
とかってさ。
命懸けなのは変わらないが。
以前に出されたテーマは超古代の死ぬまでルールの格闘技トーナメントとか、ウイルス注入機能付きゾンビロボに噛まれて、ゾンビ感染しないよう生き延びるサバイバルとか。
アニメや漫画やゲームの作品再現なんかも有ったらしい。
どれもこれも命懸け。
ただ、生き残れたら借金がチャラ&しばらく生きていけるだけの賞金がもらえたりして、人生大逆転の目が極わずかながらあるってのがまた、嫌らしい。
お陰で周りの連中の目がギラギラしてて、みんな女性の体だとしても怖ーのなんの。
それで必死になる女性の姿が絵になるって事で、女性にされた訳だ。
もし生き残れても女性の体のままシャバに出される。 男性に戻りたかったら、自力で戻れってな。
この時代なら高価ではあるが、それが可能な技術力がある。 生き残って得られる賞金では微妙に届かない額なのだが。
つまり返せないほどの借金なんか作らないで、真面目に働けとなるオチだ。
ちなみに、ズブの素人がそんな娯楽にいきなり投入されても、まともに動けないだろ?
だからキチンと動けるように専用の教育・訓練施設とその時間が設けられてて、どんな力の入れ方をしてんだって思うわ。
もちろん男性から女性に変えられた、俺含めた奴ら用に女性として知っておくべき知識の教育は別枠で教わる。
変な意味で至れり尽くせり。
どこまでイカレてんだろうな、本当に。
~~~~~~
それで借金塗れの俺達はひとつの大部屋に集められ、今回のテーマが発表された。
《日本区の昭和・平成時代の人型ロボット最強決定戦! ~宇宙空間編~》
……ざわ。
…………ざわ。
日本区。 今は宇宙の時代だからな。 統治機関は惑星単位で統合されたから、地域の名前になっちゃったんだよ。
それで、当時は空想でしかなかったロボット達を実際に建造して、俺達をパイロットにして戦わせる。
つまりそう言うことらしい。
補足事項として、今回はバトルロイヤル。
数日に分けて開催。 まずは幾つかに分けたグループ内で、規定数が生き残るまで戦わせる予選から始まり。 最終日に最後のひとりになるまで戦わされるそうだ。
漫画・アニメ・ゲーム。 出展問わず、とにかく人が乗り込める宇宙空間で活動できるロボットから選出。
性能は作品に準拠。 つまり弱いロボットを割り当てられたら、死亡がほぼ確定。
どんな機体を割り当てられても操縦できる様に、コックピットは全機種で統一。
……この辺は特殊な操作を必要とするロボットが不利だな。
それとサイズは原作通り。 10㍍も無いロボットから1㎞を越えるロボット、果ては全長50㎞を越える宇宙コロニーを改造したのまで存在し、乗せられるロボットはなんでもあり。
資源の無駄遣いだと言われるだろうが、資源は宇宙のどこからか流れてきた小惑星から採っていて、かなり豊富だからそんな遊びができるらしい。
ヤベー所の説明だと、ロボットの脱出装置は排除。
その日の戦いが終わるまでコックピットから出られない。
撃破されても運良く死なずに済んだって、救出されない。
負けたら死ぬ。 それが大前提の娯楽だからと言う、非人道ぶり。
な? どこまでもイカレてるだろ?
それから当日乗る機体は選出済みで、機体の顔部分をズームアップした写真と、装備の一部を参考資料として配られて解散。
――――写真。 そう、写真なんだよ。 それとデータは紙束。 この時代には廃れた媒体。 これも勝負の一貫として、情報戦をしろという意味だろう。
ついでに、外部へこの○し合いの情報が漏れないためでも有るんだろうが。
俺はその頃に生きていた者として、興味のまま大部屋で見た。
見てしまった。
そこに写っていたのは……。
「おっ、まさかの機動する戦士に出てくる連邦の量産機系? ヤラレメカじゃん、かわいそー」
ふと、背後から声がした。
振り向けば、そこに居たのが派手めの女性。
「こっちはラッキーな事に、同じ量産機でもゲットしちゃうスーパーロボット系だぜ。 パワーが違う」
場所が場所だけに装飾品も化粧も無いが、当てられたパーマがライオンの鬣を思い起こさせ、漂う威圧感が派手さを演出する。
そんな女性に圧倒された俺は硬直。
「装備は……エネルギーガンとエネルギーソード、あと内蔵ミサイルか。 あれは内蔵じゃなくて外付けだったはずだけど、こりゃ事務さんだな。 御愁傷様。 じゃあな」
硬直している内に去っていった彼女は、また別の人間へ絡む。
まるで通り魔だな……なんて酷い感想を持ちながら、資料を改めてにらむ。
事務さんを知っていた、その気付くべき情報に気付かないまま。
…………見れば見るほど、事務さんにしか見えない。
顔(?)写真は間違いなくその系統だ。
“凸”型に見えるカメラアイと四角いマスク。
装備もガンと剣とミサイル。
元々配る資料は装備の一部と言われていたから、頭部バルカンが無いのは省かれたからだろう。
俺の機体はヤラレメカ。
スーパーロボット系統だったなら、生き残れる率が上がっただろうに。
ロボットとしてはスーパーロボットよりリアルロボットの方が格好いいとは思っていたけど、実際に乗るならトンデモパワーを持つスーパーロボット以外無いだろうに。
こいつは本気でヤバい。
こんなピンチは許容できないって。
過ぎたはずの怒りだけど、再燃してきたぞ親友よ。
お前なんかを信用して保証人になって、やって来た未来は死ぬしかない未来?
マジで巫山戯んなよ。
~~~~~~
………………。
来てしまった死ぬ日。
「お前の乗るロボットはコイツだ」と、送り出された駐機場に居て、実物を見上げている。
こいつは…………。
顔は確かに事務の系統だった。
だが普通の事務とは思えない大きさと、兜飾り付き。
巨大だ。 本当に巨大だ。 それに機体は頭や一部を除き真っ赤に塗装されている。
事務さんの世代なら20㍍サイズが主流だが、それを縦に5機位積めるだろう大きさだ。
赤い怒り肩が特徴的で、どことなく禍々しいオーラが幻視できる。
辺りを見渡せば目に入る、この機体の整備員が総出で、内蔵するミサイルの推進翼を切り落とす光景なんて苦笑しか出て来ない。
事務さんじゃないぞ、コレ。
伝 説 の 巨 神 じ ゃ な い か。
これならまず生き残れるわ。
娯楽を理由に、こんなものを建造してしまう世界(苦笑)
伝説の巨神が放つガンは全てを壊し、振るうソードは惑星を一太刀で断つ。
最悪暴走させようものなら、宇宙の全生命を途絶えさせるヤベー兵器。
これに対抗できるのは、どんな困難もドリルで突き進むノリと勢いのスーパーロボットか、可能性の塊であるスーパー系に片足突っ込んでる一角獣か。
なお、一角獣なんかが使ってるあのフレーム。
どうやら原作? の御大が伝説の巨神の装甲素材と同質の物と認めているらしくて、場合によっては巨神を一角獣で止められるかも。
……つーかですよ。
番外編、それもトンデモ系の作品だと思ってた 機動する戦士VS伝説の巨神 で戦うやつ。
絶対に歴史として繋がらないだろうと思ってたソレが、繋がってる可能性を示された訳ですよ。
あの□リコンでバブみを求めていそうな奴が、どこから新人類用のフレームなんて技術を持ってきたか。
それが伝説の巨神と戦う与太話に繋がってしまうのですよ。
これに気付いた時、アゴが外れそうになりました。 マジで。