反骨
村と町の違いは何であろうか。ひょっとして店があるのとないのではないだろうか。
海延町とかいう町は、先ほどの村より少し多く家が建ち、家も瓦屋根にはなっているが、
さびれた雰囲気と町の中央に安置された天鬼様は相変わらずだった。
その中に田舎の工場といった表現がしっくりくるような、赤茶色に錆びた金属板に囲まれた
建物があった。開け放たれた金属の扉からは倉庫のような殺風景なつくりの中と、申し訳程度に置かれた機材や加工機器のようなものが見えた。建物横の駐車場のようなスペースには、
それなりに形にはなっている自動車が数台置かれている。
「それではこちらのお車で…」
「はい、お願いします」
仁が店主らしき壮年の男と商談をまとめたようだ。
店主が汚らしいつなぎで手を拭くと、仁と握手をしている。
仁が買い求めたのは、奈々華の知識の中ではグレーのセダンと形容出来るものだ。
だが一体どうやって、仁は車を買えるほどのお金を持っているのか?
先ほど店主に見せた、免許証らしきものはどうやって手に入れたのか?
仁は働いてもいないし、満十八にもなっていない。
まだ隠し事をされているようで、気に入らず奈々華は二人から少し離れた場所で
様子を見ているのだった。
「いんや〜、やっぱ快適でござるな」
仁が慣れた動作でアクセルを踏み、車は問題なく走っている。
「ござるな、じゃないよ。お兄ちゃん免許持ってないでしょ?」
「免許なんて飾りみたいなもんだよ」
違う。断じて違う。助手席から兄の横顔を睨んで黙らせる。
しばらく車の動作音と、開けた窓から車が空気を切る音だけが聞こえていたが、
仁が耐え切れなくなったように、財布から免許証らしきものを取り出した。
見ると、自分の知るものと記入事項や大きさなどが異なるようだが、それらしい。
「偽造だけどね」
やはり。兄が法律を軽んじているところがあるのは前々から知っていたが、
実際に犯罪行為を平気でやってのけるとは。開いた口が塞がらないとはこのことか。
「免許証や金はある組織に用意してもらったんだ」
「ある組織?」
仁が珍しく真面目な顔になる。
「千人会」
それだけを言って、仁はタバコを胸のポケットから取り出した。