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急転

奈々華は不謹慎ながら、随分と心が軽くなるのを感じて舌も滑らかになってきた。天野も意外にもリラックスした様子で、とても余命一日の薄幸の少女には見えなかった。どちらも口にはしないが、多分彼を信じているのだ。きっと何とかしてくれる、と。

「でもさあ、どうして次期教祖を選ぶことにしたの?」

暗殺を助長することになるんじゃないか。さっき感じた疑問を何の気なしに聞いた。

聞いて後悔した。途端に天野の表情がみるみる曇っていったからだ。

「脅されたのじゃ」

蚊の鳴くような声でそれだけを言って、天野は俯いてしまった。どうしてそこらへんの事情を詳しく話してくれなかったのかな、と奈々華は兄に内心で毒づいた。

「だ、大丈夫だよ。お兄ちゃんが何とかしてくれるって!」

天野が顔を上げたその時



ドーンという爆発音が聞こえた。


ビリビリと庵全体が振動するのを感じながら、奈々華は最悪の事態を脳裏に描いた。

天野が奈々華の横を走って、扉に向かう。その姿を見て、我に帰った奈々華も弾かれたように後を追って扉を出た。


大きな本殿の向こうに黒い煙が上がっているのを確認するとともに、うおー!という男声が乱暴に鼓膜を揺らす。鬨の声にひるんだ天野が隣で息を呑むのが妙にはっきり聞こえた。

どうしよう。どうすればいい。天野を守らなきゃいけない。でもどうやって。


「てーへんなことになっとるのう」

聞きなれた呑気な声に振り返った。天野も振り返るのが目の端に映った。

天鬼衣を脱ぎ捨てて、無地の白いTシャツに、黒いジャージ姿の冴えない男が立っていた。

右手には昏倒しているのか、力の抜けた様子で縄に縛られた木原を抱えている。

「お兄ちゃん!」

「テセアラはどこ行ったか分かんないけど、とりあえず殴っといた」

兄は右手の木原に視線だけを送って、にやりと口の端を歪めた。

「どうしよう、お兄ちゃん。やっぱりこれって…」

「うん、バレちゃったみたいだね。参った参った」

「参ったではない。どうするのじゃ!?」

兄の雰囲気にやっと緊張が解けたのか、天野が少し大きな声を上げた。とりあえずの危機は兄の右手に収まっているのだが、テングルと千人会の前面衝突が起こっているのは明白だ。

「決まってんだろう?一番目立つところに行くんだよ」

「なんで?」

兄の考えがまるで掴めない。一番目立つところに行ってこの騒ぎは収まるのか。

「行けばわかるよ」

「仁さん!」

突然若い女性の声が聞こえた。びくっと全員が体を強張らせる。

「心臓が止まるだろうが!…証拠は手に入ったんかい?」

「はい、仁が部屋に来る前に木原とその腹心が話しているところをばっちり」

まだ薬の効果が消えていないのか、テセアラの声は聞こえるが、姿はどこにもない。

天野がきょろきょろと狐につままれたような顔で、辺りを見回している。

「上出来だ」

「でもどうします?今は別動の部隊が食い止めてくれていますけど…」

「ああ、めんどくせえ!とにかく俺について来い!」

そう叫ぶと兄は走り出した。大丈夫だ。兄を信じるのは妹の役目だ。戸惑ったように固まっている天野の手を掴むと、奈々華も兄の、いつもよりも力強い背中を追いかけた。

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