表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/33

唐突

奈々華は兄と父の三人家族だが、父は家に寄り付かない。

実質奈々華と兄の二人暮らしと言ってもいい。

高校三年生の兄と中学二年生の妹の二人。

父は保護者として、毎月決まった額を口座に振り込んでくれる。

だから生きているということだけはわかる。そんな程度。

でも奈々華は現状の暮らしに満足していた。


「平行世界って信じる?」

夕食後のまったりとした時間に、兄がそんなことを言い出すまでは。

「平行世界?」

奈々華は皿を洗いながら、ダイニングキッチンの向こう、

ソファに座ってテレビを観ている兄にオウム返しに尋ねた。

家事は奈々華の仕事。兄も手伝うとは言ってくれるが、意外に不器用なため

かえって足手まといになってしまうのだ。

「そう。パラレルワールド」

「何?突然」

あとで構ってあげるから大人しくテレビでも観ていなさい。

テレビには仁が贔屓にする球団の野球中継が映っていた。

「俺も詳しくは知らないんだけど、量子力学っていう学問がある」

「もしもーし?」

「サイコロを振って仮に一が出たとしよう」

「……」

「でもサイコロで一から六が出る確率は同じだ」

「ならば二が出た世界も、三が、四が、五が、六が出た世界があってもおかしくはない」

兄は何かにとり憑かれたように、抑揚のない声で喋り続ける。

奈々華はひどく不安になった。

「サイコロは単純な例だけど、世界にはいくらでも起こりえたこと、

 選びえたことがある。だったらその選択がなされた、

 その出来事が代わりに起こった世界もあっていいはずだ」

大好きな球団のチャンスにも兄の目は虚ろだった。

そしてゆっくりとソファから立ち上がる。

「奈々ちゃんに今からその一つを見せてあげるよ」

歩み寄って奈々華の手を掴むと…


地面が揺らぎ、飛行機が離陸したような浮遊感を感じる。

視界が暗転する。兄の姿も消え、手をつかまれている感覚だけ。


奈々華は自分の意識が遠のいていくのを感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ