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天野

「だから固くなることはないと言っておろう?ここには監視カメラも盗聴器もない」

破顔した天野を見て、やや心が軽くなるのを感じる。

「…テストって本当にやるの?」

「やりたいか?」

「……」

天野が一歩、二歩奈々華に歩み寄る。

「主は処女か?」

「は?」

あまりに場違いな質問に言葉を失い、機械的に頷く。頷いて、兄に同じ質問をされたことを思い出した。兄も天野も一体どういった了見でそんな質問をするのか。

「ふふ。教祖は純潔でなければ務まらない。異性と関係を持つことはその霊性を下げると考えるのじゃ。だから性経験がないことは第一条件じゃ」

「そんな…」

前時代的な、と言おうとしてやめた。

「その様子だと仁にも聞かれたようじゃな?」

「…うん」

兄は自分の次期教祖としての資格を問うためにあんな質問をしたのか。一人で浮かれていた自分の姿を思い出して顔が熱くなった。

「本当にあやつは食えんヤツじゃ。保険を打っていたか」

「保険?」

「ああ。わらわの救出に失敗したら、お主を教祖に立てて中からテングルを変革する気だったのじゃろう」

まったく、と天野は顔を顰める。そんな。救いたいと言った兄の気持ちは紛れもなく本物だ。

「でも…」

「わかっておる。あやつは失敗する気など毛頭ない。本気でわらわを救いたいからこそ、万が一のために、わらわの死を無駄にはしたくないのじゃろう」

「……」

「主もあやつに惚れているようじゃの?」

「え?」

心臓がどきりと跳ねる。どうしてわかったんだ。奈々華は少女を驚きの目で見つめた。今までこんなにはっきりと自分の気持ちを言い当てられたことはない。この子は自分が思っていたよりもはるかに鋭い。

「ふふ。心配せんでも誰にも言わんし、主の恋敵になることもない。わらわもあやつの性根の良さを気に入っているのは確かじゃが、脈もない上…にわかには信じがたいが別の世界から来たそうじゃないか」

「うん」

そこで両者話すことがなくなって、押し黙る。白い部屋で白装束の少女と黒いローブの少女が奇妙な沈黙を作り出す。ふと自分は何でこんなところでこんなことをやっているんだろう、と思った。自分のいた世界にいた頃には、こんなことになるとは思いもよらなかった。


「テストは終わりじゃが、何か聞きたいことはあるか?」

「え?これで終わり?」

自分の性経験がないことを確認して…あとは恋愛話をしていただけじゃないのか。

「そう。わらわが…前教祖が新教祖の霊性や人となりを確認できれば終わりじゃ」

「霊性なんて…」

言いかけて自分がよく不思議なことに巻き込まれるのを思い出した。今だって自分がいた世界とは異なる場所にいて、一国の指導者と話をしているのだから天野の言葉を否定できない。

「ちなみにテストは合格じゃ…これでわらわはいつ死んでもいいことになるな」

自嘲気味に笑う姿からは、今度は歳相応の印象を受ける。死にたくないと顔に書いてある。

「お兄ちゃんが全力になるわけだ」

ただでさえ子供に甘いのに、こんな顔を見せられては兄が動かないわけがない。

自覚がないのか、きょとんとした顔をした天野は嫉妬してしまいそうなくらい可愛らしかった。

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