同衾
ちょうど自分達がいた世界の仙台にあたる場所に千人会東北ベースキャンプはあるらしい。
ちなみにそこに着くのは予定では、本日から明日にかけてのことらしい。今が午後六時を過ぎた頃だから、四時間くらいで仙台に到着し、レンタカーを借りてそこから二時間。
「けどあと三日しかないのに、戦力調査なんて悠長なことやってていいの?」
タイムリミットは三日。とても往復で半日以上かかる行程に割く時間はないのでは?
「ああ、あそこには秘密兵器があるんだ」
「秘密兵器?」
「姿が見えなくなる装置だそうだ」
「へえ、すごい」
それがあればとても有利にことを進められそうだ。本当に科学技術に関しては自分達のいた世界より数段進んでいるようだ。兄がソファーの上でまだ赤い目をこする。
「まあ二重スパイの件を知っているのは勅使河原さんだけだから、ポーズもかねてそっちも
やるにはやるけどね」
「へえ、テセアラさんは知ってるんだ…私は今まで知らなかったのに」
仕方ないこととはいえ、少し嫉妬してしまう。兄が苦笑しながら奈々華の頬を指の腹で撫でた。そんなに膨れるな、と悪戯っぽく笑う兄を見ると簡単に毒気を抜かれてしまう。
「ねえ、もし私も命を狙われるようなことがあったらお兄ちゃんは助けてくれる?」
隣で少し距離を開けて横たわる兄の後頭部を見ながら、何となく尋ねた。
「まあ、そんなことになれば相手は半殺しじゃ済まないよね」
くぐもった声が返ってくる。返事は予想済みだ。ただ確認したかっただけなんだから。
「俺のかわいい、かわいい妹に茶々入れるようなバカは死刑以外ありえんよ」
こちらに体ごと向き直った兄が優しく言った。胸がぽかぽかと暖かくなる。
尺取虫よろしく兄の胸まで体を動かし、抱きついた。
「でもどうしてお兄ちゃんが呼ばれたの?」
この際だから疑問に思っていることを尋ねてみよう、と思った。硬い胸板に頬ずりする妹の頭を、仁が子猫にするように優しく撫でる。それだけでとろけてしまいそうになる。
「言ったろう?お兄ちゃんの若さとパワーだよ」
最初に冗談を入れなければこの人は本音を話せない。黙って二の句を待った。
「…今回は必要なさそうだが、いざと言うときその戦闘力を期待されてのことってのは本当だ」
「じゃあ天野さんがお兄ちゃんと仲良くなったのは?」
興味半分、嫉妬半分。もぞりと兄が仰向けになってしまった。
「それは君を呼んだ理由とも関連する…聞きたいか?」
言いにくいことなのだとは分かった。自分への配慮か、天野への配慮かは無表情な横顔からは読み取ることは出来ない。
「ううん、まあいいや」
無理に聞き出すことは奈々華としても本意ではない。それは自分の兄への信頼に対する冒涜だとさえ思っている。兄が再び自分の頬に手を伸ばした。
「もう寝るよ」
と笑いながら言う兄の言葉はついに実現されることなく、じゃれつく妹の相手を二時間以上することになるのだった。