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病気

少女の名前は天野あまのユキというらしい。歳は奈々華と同じ十四だそうだ。

「兄とはどういったご関係で?」

少し口調もぶっきらぼうになる。自棄を起こしているのかもしれない。なんなんだ。どうして兄の周りにこうも女の子が集まる。樹液でも出しているのか。

「ほう、この娘が…」

奈々華を見るなり、天野は目を細めた。値踏みするような視線だ。テセアラのときと同じだ。

「兄との関係は?」

「童が呼んだのじゃ」

「わらわ?」

時代劇がかった口調だ。変なヤツなのかとも思ったが、よく考えればこちらの現地人と話す機会はそう多くはなかった。ひょっとするとそうおかしな口調でもないのかもしれない。

「この子は特殊な環境で育ったんだ…まあ病気みたいなもんだ」

「病気とな?失礼極まりないぞ」

兄の言葉に憤慨する様子は、十四歳にはとても見えず、せいぜい十歳前後に見える。兄は苦笑を浮かべて、天野のおかっぱ頭を撫でる。

「兄から離れてください」

「理不尽な!撫でているのは仁であろう?」

「仁?呼び捨てですか」

怒りが沸々と湧いてくる。頭を撫でられるのは自分の特権だ。名前を呼び捨てするのは相手を敬っていない証拠だ。兄は奈々華の不機嫌を悟ったのか、頭から手をどけてポケットをまさぐって…タバコを取り出しかけてやめた。

「わらわは教祖として目下の者にへりくだることは出来んのじゃ」

「教祖?」

「奈々華ちゃん、奈々華ちゃん」

「何?てか教祖って?」

また病気が発症したのか?苛立ちと急展開に思考がついていかない。

「その子はテングル教会第四十三代教祖様だ。あと切符なくした」


ギャイギャイ騒ぐ一行をよそに、電車は時刻どおり運行し、天鬼京駅に十三時きっかりに着いた。天鬼京駅はかなり大きいが、東京ほど複雑に多数の電鉄会社の電車が入り組んでいて、おのぼりさんは必ずピヨピヨするなんてことはなさそうで、数本の線が案内表示に示されているだけだった。その中の天鬼京線という公営線らしき電車を乗り継いで数駅で、

目的地の天鬼殿駅に到着するらしい。

「でもどうして教祖が?第一敵の本陣に乗り込むような真似して大丈夫なの?」

「オールオッケーだ!それよりどうする?やっぱキセルか?」

「やっぱって何、やっぱって」

冗談だよ、と笑って兄が駅員に近づいていく。心配だからついて行こうとすると、天野に袖を引っ張られた。天野は奈々華より十センチ近く小さいので見下ろす格好になる。

「そちは何も聞いておらんのか?」

「何を?」

「聞いておらんならそれでよい」

兄が何も語らなくてもさほど気に留めないのに、この少女に秘密にされると何か釈然としない。清々しいほどのえこ贔屓だな、と思う。


「いずれわかる」

いずれっていつだ?そもそも兄を呼んだのは何のためだ。二人の様子から、今日初めて会うわけではないようだが。聞きたいことが山ほどある。詰問してやろうと口を開きかけたが、兄が小走りに戻ってくるのを見て、口を噤んだ。

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