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雑木林には広葉樹が所狭しと立ち並んでいて、地面は柔らかい土で形成されている。

腐葉土というやつか、とぼんやりテセアラの後ろ姿を目に入れながら思った。

振り返るとテント群が、少し小さく見えるところまで山を登ってきたようだ。

「すいません、こんなところまで連れ出して」

テセアラが顔だけ振り返った。帰ってきて報告を終えた仁は眠ってしまい、退屈をしていたところに、テセアラから話があると言われ、テントから連れ出されたのだ。

「いえ」

濃い緑の匂いが鼻腔を満たし、その場で深呼吸をしたい衝動が湧いた。

テセアラが立ち止まったのに追いつくと、木が切られて切り株だけが残った空間が広がっていた。どうやら目的地らしい。本当に誰にも聞かれたくない話なのだろう、と推測できる。


「静かな場所でしょう?」

自分がこんな静かな場所まで連れてきたんじゃないか。

「そうですね」

人の気配はおろか、周囲には動物がいる様子すらない。遠くのほうで鳶だか鷹だかが甲高い声で鳴いているのが聞こえるばかりだった。二人して切り株に腰掛ける。はたから見れば仲のいい友達にでも見えるかな、と頭の中の呑気な部分で思った。


「私はあなたのお兄さんが好きです」

半ば予想していた言葉だったが、弾かれたように奈々華は地面から顔を上げた。もう先の一件でバレたと分かっているのか、恥らうようだがどこか堂々とした雰囲気も声からは感じられた。テセアラの白色人種らしい、真っ白な顔が今はほんの少し赤い。

「……」

「実は、仁さんを呼んだとき、迎えに行く最中あちらの過激派に見つかってしまって…」

「それで?」

「助けてもらったんです。瞬く間に全員昏倒させてしまって…すごかったです」

テセアラはその時のことを思い出しているのか、顔に恍惚の色を浮かべていた。

「それで好きになったと?」

そんな、ヒーローに憧れるような単純で稚拙な想いで…

「それに助けてもらった後、仁さん言ったんです…もう大丈夫だよって。心配ないよって。

優しい声で…まだあの時は味方なのかも分からないのに胸にストンって落ちるような…」

「もういいよ。わかった」

聞くに耐えない。見るに耐えない。奈々華は再び地面を見据えた。


「私にそんなこと聞かせてどうするの?」

自分でも驚くほど冷たい声音だった。

「えと、その…上手くいくように手伝って頂きたいんです」

「いやだよ」

「え?」

「いやだって言ってるの」

はっきりと拒絶の意思を瞳に込めて、奈々華はテセアラを真っ直ぐに睨みつけた。

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