表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/33

辟易

山梨県の、これまた山間部にあるテント群に辿り着いたのは、日の暮れかかった午後五時を過ぎた頃だった。辺りには人気はなく、人を埋めていても見つかることはなさそうなくらい辺鄙な場所。隠れ潜むように、山の中腹に構えられたテント群はなんとも物寂しかった。

まずはテセアラを探そうということになり、テントの間をうろちょろしたが見当たらない。

「ウンコかな?」

さすがに女の子に対して無粋が過ぎる兄をたしなめようと、水筒を振りかざした時、

「おお、君が仁君かい?」

少女の声がした。振り返るとそこには茶髪の女の子が立っていた。

色白の肌にそばかすが見えるものの、やはり外国人然とした鼻の高い整った顔立ち。

ややあどけなさが残るその風貌から、奈々華と同じくらいの年恰好だと判断できる。

「そうです。テセアラさんのお友達ですか?」

友達という呑気な表現が兄らしいと言えるが、少し場違いに響いた。

「そうだよ。テシーはお手洗い。あたしのテントで待つといいよ」

兄が親指をつき立てて見せる。まだウンコかはわからないだろうに。


「あたしの名前はリジット・エヴァンス」

そばかすの少女が親指をつき立てながら自己紹介をする。どうやら兄がするのを見て、気に入ってしまったようだ。リジーと呼ぶのさ、と息巻いている。

リジットことリジーは、千人会の中ではそれほど重要なポジションにはなく、専ら日本での活動はこの山梨ベースでの雑用なのだそうだ。仁のことも仕事で知っていたわけではなく、友人のテセアラから聞いていたという話だった。


「テシーのヤツ、仁のことそれはもう嬉しそうに話すからさ…あたしも興味深々なわけよ」

「はあ」

「あいつアンタに気があるのかもね。今度かまかけてみるといいよ」

「考えておきます」

「でもさあ、蓋開けてみたら全然普通の男じゃん?」

「そう言われましても…」

兄はほとほと困ったという様子だった。敬語も崩さないところを見ると、このしゃべり続ける少女を苦手と判断したらしい。奈々華としては、ひとまずは安心ということになる。


しばらくして、テセアラがテントにひょっこり顔を見せたのは、兄の少女に対する相槌もかなり適当になってしまった頃だった。奈々華自身も優しく接してやった自信はない。

「随分と盛り上がってますね」

苦笑交じりのところを見ると、テセアラも本気で言っているわけではないようだ。

「ああ、有難いお話を頂戴していたところだよ」

兄の皮肉に、テントの入り口から差す夕日を背負ったテセアラが苦笑を濃くする。

「テシーが仁にホの字だって話してたんだ」

途端にテセアラが夕日に負けず劣らず、顔を朱色に染める。なにを、そんな、などと呟いているが、図星を突かれているのは火を見るより明らかだった。


恐る恐る兄を見遣ると、微笑ましいものを見るように穏やかに笑っていた。

何を考えているのか分からない。照れるでも、嫌がるでもなく、ただ笑っている。

奈々華は、混乱と焦りが胸を締め付けるのを一人感じていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ