表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/33

気侭

「奈々華、テントはどうしよう?俺と共用になるか、さっきの勅使河原さんとになるか」

テセアラのテントを出ると、奈々華を待っていた兄が聞いてくる。

一考の価値もない。

「お兄ちゃんと一緒がいい」

仁はふっと笑うと、奈々華に背を向けて歩き出した。

この鋭い兄は妹がテセアラに良い感情を持っていないことに気付いているように見えた。

後姿の兄が右手でぽりぽりと頭を掻いている。困ったときの癖だ。


兄の話によると自分たちが今いる場所は、広島県の山間部に当たるらしい。

ちなみにここから見た外国、つまり千人会隆盛の場所ではかなり科学技術が発展しており、

時空転移装置なるものも発明されていて、自分たちをここに連れてきたのも

それの仕業らしい。都市部から随分と離れているのは、それだけテングル教の影響力が

強いからとのこと。左翼のレジスタンスみたいだな、と兄は揶揄した。

左翼というのは、兄の言った革命とやらに関係があるのだろうか。

「革命って何をするの?私はどうして呼ばれたの?」

言って今更だなと思った。実際のところ興味はなかった。

兄が信じろと言った以上、自分に損になるようなことはしないはずだ。

久しぶりに兄とひとところで寝る高揚を抑えるために聞いてみただけだった。

「革命…テングルをひっくり返して、異教の神を民衆に勧めようってんだから革命だろ?

 君を連れてきた理由は…おいおい分かるさ」

含みのある言葉だったが、無理に聞こうという気にはならなかった。

兄が一緒なんだから大丈夫。ある意味自分は兄を信奉していると言っても過言ではない。


「ところで…」

仁が珍しく言いよどむ。

「?」

「ところで奈々華は処女か?」

「は?」

兄の言葉を脳内で反芻する。処女?何故そんなことを聞く?

「えと…そうだけど」

「そうか。それは良かった」

兄が少し照れくさそうに、嬉しそうに笑う。

奈々華は鼓動が高鳴るのを聞いた。

「今日はもう遅い…寝るか」

一つしかない毛布を見つめ、奈々華は顔が赤くなるのを感じながら頷いた。

もしかして兄も自分と同じ気持ちなんだろうか。両想いだったのか。

「その…まだそういうのって早いっていうか…」

兄は自分をそういう対象と見ているのか。そういう行為に及ぼうと思って聞いたのか。

高揚と動揺で眩暈がしてくる。

兄が動く気配がするが、顔を上げるふんぎりがなかなかつかない。

何を躊躇う必要があるのだろうか。ずっと願ってきたことだろう。


決心して顔を上げると、兄は既に毛布も使わずにテントの隅でいびきをかいていた。

「なんなの、一体?」

テントに吹き込んできた山の夜風が、兄の前髪を優しく揺らした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ