プロローグ
城山奈々華はいつごろからだろうと記憶をたどっていた。
奈々華には四つ年上の兄がいる。
奈々華は自分が兄に対して兄弟以上の情愛を感じているのを自覚していた。
いつごろからだろう。どうしてだろう。
兄は絵に描いたようなダメ人間だ。
高校生にして、パチンコ、麻雀、競馬といったギャンブルに手を染め、
停学処分は彼の通う高校の退学上限の四回に迫る三回。
タバコと酒は彼が中学生に上がる頃には既に必需品となっていた。
ここまで考えると将来を憂うカスっぷりだが、いいところもある。
奈々華は兄の顔を思い浮かべて思考を続けた。
兄は優しい。いつも優しく笑ってくれる。
理不尽なことで怒られたことはないし、自分のお願いもほとんど聞いてくれる。
おつかいにも行ってくれるし、ギャンブルで金を稼いだときなどは
服や鞄を買ってくれたりもする。
兄は強い。いつも自分を守ってくれる。
奈々華が中学に上がって間もない頃、少々タチの悪い集団に
ナンパされそうになった時、兄が颯爽と駆けつけ、
その集団をのしてしまったことがあった。
あのときはかっこよかった。嬉しかった。
いつからかは結局わからない。
初めて会ったときからかもしれない。
奈々華は黒板の字を機械的にノートに書き写しながら、
兄の優しい笑顔を思い浮かべていた。